勇者を探せ
俺はこの春から宮廷魔術師団に正式に配属されることになった。俺はこれからは家族を養うという立場になったのだ。精一杯働かなければならない。そして、俺の最初の任務は異世界からの侵略者の抹殺である。いきなり、仕事で家を離れることになるのだ。俺は寂しい。
侵略者は国王を侮辱し、挙句の果てには異世界の魔物をこの世に解き放ったという。そのため、魔王の調査のために遠方の魔族領へと遠征していた宮廷魔術師団団長のジニアスが王都に戻されて作戦本部が作られ、王国騎士団と連携して討伐に当たるのだ。
今回のターゲットは4人である。そして、見目麗しい容姿をした水色の髪をした女性を除いて、残りの3人は殺してよいことになっている。人相書きは受け取ったが、女性以外は幼稚園児が書いたレベルなので、判別できるか不明だ。そして、その人相書きの女性があまりにも美人だったので、これは王様あたりが手籠めにするために生け捕りをするのではないかと思った。
今回の任務では俺とクレアは同じチームで行動することになった。彼女とは今後も同期であることから仕事で何度も一緒に組むことになりそうである。そして、王国騎士団の先輩たち3人と宮廷魔術師団の先輩1人の合わせて6人のチームで今回は任務を遂行することになった。
不安がないわけではないが、正直言って、戦力過多ではないかと思った。王国騎士団と宮廷魔術師団のエリートが派遣されるのは余程のことがない限りあり得ないため、今回の任務はおそらく王様のことをターゲットの4人が怒らせたからではないかと思った。
まあ、このチームにはクレアがいる。彼女の持つ「スキル 魔眼」があれば魔力の痕跡から勇者たちの追跡ができるはずである。簡単な任務になるはずである。
「あり得ないわね。この魔力はおかしいわ。」
「どうした、魔眼持ちはお前しかいない。詳しく話してくれ。」
「バートさん、この魔力の波長は王族に特有の波長が混ざっています。」
「そんなことはないはずだ。それとも、まさか今回の任務は王子たちの誰かの討伐ということなのか?そうしたらこのチームだけでは全滅してしまう。」
「おいおい、あり得ないだろ、お嬢ちゃん。王族の中に青色の髪をした女はいなかったぜ。」
「それくらいは公爵令嬢である私の方があなたの何倍も存じておりますよ、ビュート隊長。現時点でわかるのは敵の魔力が王族の魔力と質が似ているという点だけです。魔力の波長が似ているということはごく稀ですが存在する事象であり、これだけでは王族が関連しているとは言えません。あり得ないという以前に、私はただ事実を申し上げただけでございます。」
どうやら、何か上の連中は隠しているようだ。現に、敵が出現したにも関わらず、今回の任務は秘密裏に行うように指示されている。民衆のことを安心させたいのはわかるが、情報を共有した方がいいに決まっている。
疑問は残るが、一番の下っ端である俺は淡々とどこを捜索するのかを上に挙げる報告書にまとめるだけだ。
今回の任務は俺たちのチーム以外にも3チームほど動員されている。これしか動員できないのは他国とのパワーバランスを考慮すると厳しいからだ。そして、今回の任務の4チームは主に新人と老人を中心にまとめられており、一番この中で年上のビュート隊長は50歳であり、とっくに全盛期を過ぎている。
王国騎士団も宮廷魔術師団も全精力を注いでいるわけではないのだ。
もし敵が王族レベルで強かった場合には、今回の任務は俺たちが敵の噛ませ犬になることを前提に作戦を組んでいるとしか思えない。宮廷魔術師団団長を呼び戻したにもかかわらず、会議で拘束し、任務に投入することがないことから、絶対に何かがあるのだろう。
この作戦に加わった人々は皆、漠然とした不安を抱えていた。
「こちらから北西に45キロメートルいったところに敵はいます。」
「おい、待て。確か、前の班の報告では南東方向に30キロメートルだと聞いていたぞ。」
「前の班はおとりに引っかかったのでしょう。魔眼対策で魔力の痕跡をわざと残したりあるいは消したりするのはよくあることです。」
「ビュート隊長、私は今回の彼女の提案に賛成です。この令嬢の「スキル 魔眼」は名門であるランティス家の中でも最高峰であるといわれています。その彼女が言うのであれば正しいのでしょう。」
「それに、隊長、私のほうで付け加えるなら、南東の30キロメートルの方を捜索している方は無能です。すでに3班が捜索していますが、何も痕跡がありませんのよ。捜索する範囲をもっと広げるべきです。彼らは「スキル 魔眼」を過信すると逆に足元を掬われることを自覚するべきです。使い手が未熟であれば、いかにスキルが優れていても、宝の持ち腐れです。」
王国騎士団の騎士は宮廷魔術師団ほど魔法についての知識もないため、魔眼を持つ魔術師に盲目的に従うしかない。そして、思考停止をするということが時には戦争のときは致命傷にもなりうる。
今の王国騎士団も宮廷魔術師団も数十年前と比べたら弱くなっている。貴族たちが自らの軍隊を強化していったため、王都では長い間戦いが繰り広げられたことがこの三十年はないのだ。そして、王国騎士団や魔術師団に入った人々は皆、実戦から離れることが原因で弱くなってしまうのだ。まあ、団長たちは例外であるが、全体的に弱体化しているのだ。
才能と実力があっても戦う機会が来ない。死ぬこともない。それだからこそ安定した高給取りの仕事であるとして人気がある仕事でもあるのだ。
「分かった、それでは北西45キロメートル地点の付近の捜索をしよう。」
こうして、俺のチームは異世界からの侵略者を討伐しに行く。侵略者とされる人が世界の命運を握る勇者であることを何も知らずに……




