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元魔王襲来

 高等部の一年が終わり、アーサーら勇者たちは各々故郷へと帰った。そして、ガリウスにはジェシカのご両親への挨拶という最重要任務が控えていた。


 そんな折、王国に異変が起きたのだ。魔王を自称する魔族の襲来である。この魔族は異様に強く、城門の守りを突破して宮殿に入り込み、王国騎士団の精鋭を相手に大立回りし、ついには王国騎士団長が直に討伐することになった。


「我は千年の眠りから復活した魔王。これより魔族の宴が始まるのだ。人間よ、我にひれ伏すがいい。」

「貴様、魔族風情が人間の領内に来るとは正気か?まさか人間に勝てると思っているのか?」

「我に対して随分上から目線だな。けっ、調子に乗るなよ。我々が勝つもんね。てめぇなんか我にとってはハナクソだ、ボケえ」

「貴様は既に王族暗殺未遂の現行犯だ。生きてここを出られると思うなよ。」


 騎士団長と自称魔王の戦いが王宮で行われた。時刻は朝の5時である。迅速に排除しなければならない。万が一にも、アレクセイ王子以外の誰かの眠りを妨げた場合にはこの宮殿の()()()で国庫が傾いてしまう。アレクセイ王子がさっきからニヤニヤしながらこっちを見ている。面白がっているのだ。


 もっとも、俺は魔族ごときに遅れは取らない。


「スキル発動 暗黒卿の太刀(ディストピア)


 辺り一面を漆黒の狂気が包み込み、元魔王を警戒させる。千年前の勇者が可愛く見えてくる。奴の剣からにじみ出る呪いをもし受けてしまえば、黄泉の国に我でさえも引きずり込まれてしまうだろう。


 まあ、魔王様との()()は成功したのだ。この際、騎士団長とやらは無視して王子のことを攻撃しよう。


「スキル発動 魔導の王(マジカルキング)


 私はスキル発動により魔力量を10倍引き上げ、かつて要塞を一撃で吹き飛ばした魔力砲を王宮の空間内に数十丁展開した。砲撃対象は()()()()と言われるアレクセイ王子に決定だ。


「あれれ、僕と戦いたいのかな。」

「貴様、今は私と戦っているではないか、逃げるつもりか。」

「魔導砲、発射!!」


 一斉に魔導砲が火を吹き、辺り一面が膨大な魔力で覆い尽くされる。千年前の勇者は魔導砲を防ぐことは叶わず、数百人以上の魔術師の精鋭がその命を犠牲にしてようやく私に近づくことが()()()()のだ。


 当時はこの魔導砲を5丁展開するだけで魔力が尽きたが、今の我であればまだ魔力に余裕がある。魔王様との修行の成果である。さあ、王子よ、貴様はどうする?


「スキル発動 昇華」


 王子がスキルを発動した瞬間、数百丁の魔導砲が展開され、ジェルドのそれを遥かに超えた破壊力の砲撃が一斉に迎撃を開始した。砲撃が終わる頃にはジェルドの体は木っ端微塵に吹き飛ばされており、宮殿は台無しになっていた。


「アレクセイ王子、何てことをしたんですか」

「悪い。直しとくよ。スキル発動 創造」

「ちょっと待って、バカ野郎」


 アレクセイ王子は最強だが実はドジっ子でもある。彼を最強足らしめる2つのスキル 「昇華」と「創造」は勝手に使用することが禁止されている。


 昇華はスキル「模倣」の上位に当たり、あらゆる魔法や技を一瞬にして自分のものにし、オリジナルを超えたクオリティで再現するスキルである。このスキルは王子が自重ということを知らないので使用が禁止されている。


 スキル「創造」なんて絶対にダメだ。ろくなことが起きた試しがない。以前、スキル「瞬間移動」を開発したときは王都のパンがすべて消失するという現象が生じたのだ。スキル「創造」を王子が使おうとした時は王子のことを攻撃する許可まで国王から下りている。使わせてはいけないのだ。


 このスキル「創造」は王子の想像したことを創造するという神にも等しい力を持つ最強のスキルである。ただ、その代償として、この世界に歪みが生じ、()()()犠牲になるのだ。宮殿の復元何てしたら、何が犠牲になるのかわからない。


「バカは酷いな。大丈夫、大丈夫。今までの僕とは違うのですよ。」

「バカ野郎、宮殿を一瞬で復元しておいて歪みが生じない訳がないだろ」

「まあまあ、落ち着いて。僕はその歪みを()()()に飛ばしてこの世界に影響がでないようにしてるからね。まあ、歪みを飛ばした後に()()()()()戻ってこないとも限らないけど。」

「国王様に知られたらどうするのですか」

「騎士団長が単独で自称魔王を倒したと報告しなさい、以上。」


 王子によって瞬く間に宮殿は綺麗に復元されていた。国王に王子のスキル使用の件をご報告した場合は私のクビが飛ぶかもしれん。最低でも降格処分だろう。だから、王子の意向を尊重する。


 まあ、自称魔王は()()()倒すことはできたのだ。事実と少し異なる報告だが、結果は変わらない。ノープロブレム。過程よりも結果なのだ。




 数日後には魔王復活の噂は王国全土まで広がり、恐怖するもの、歓喜するもの、崇拝するものなど様々な反応があった。


 勇者たちもまた新たな時代の渦に巻き込まれようとしていた。

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