ふたりの勇者
「お前は俺から適当に離れてろ、いいな。」
強大な力を誇るレオンハルトにアーサーは一人で勝負を挑むことになった。ガリウスは午前0時を過ぎるまでは戻ってこない。私は当初は降参しようと思っていたのだが、アーサーの治療に時間を大分かけてしまい、気付いたらレオンハルトが襲撃してきてしまい、機を逃した。さすがに今逃げるほど私は薄情ではない。
レオンハルトは強靭な鎧に身を包んでいた。頑丈な装甲に加えて高い持久力、ドラゴンに限りなく近いパワーを得たレオンハルトはアーサーを圧倒していた。
「全く通用せんぞ、雑魚め。貴様に勝ち目がないではないか。どうした勇者、弱すぎるぞ。もっと踊れ」
鎧がレオンハルトの体を完全に取り込み、一体化している。アーサーの剣が全く通用せず、絶体絶命に見える。私が何か手伝うべきだ。せめて私に注意を向けて、アーサー君の負担を軽くするしかない。
「NLアロー」
魔力の矢は鎧を貫通し、レオンハルトに当たる。これで私を無視できないはずだ。
「待っていろ、そこの女。剣の勇者を殺したら次は貴様をたっぷり可愛がってから殺してやる。この程度の攻撃の貴様が最強候補だと?片腹痛いわ。」
野生の獣に私のNLアローは意味を為さない。獣は本能に忠実だからだ。矢で攻撃される前から私にひどいことをしたかったのだろう。やることやってから私を殺すのだろうか。
「どうした、勇者、攻撃が止まっているぞ。」
「神滅の太刀一閃」
神速の刃の一閃。それだけである。そして、それで十分だ。鎧は音を立てて崩れ落ち、中からレオンハルトが現れた。
「あり得ない。なぜだ?参考までに聞いておこう。」
「同じ箇所に何度も斬撃を叩き込んだ。油断していたのが仇になったな。俺の勝ちだ。」
「くくくくく、それで勝ったつもりか?」
レオンハルトは鎧の破片を飲み込んだ。すると、体が赤く発光し、魔力が爆発した。後ろからサイモンが悲痛な叫びを上げたが、私は即座に弓矢で攻撃し、サイモンを黙らせた。
「貴様らは絶対に殺す。はははへへはふふふふふ。」
「もう、諦めろ。お前は俺よりも弱い。」
アーサーが剣で攻撃を仕掛けた。首筋を狙った鋭い一撃である。しかし、剣が折れてしまう。レオンハルトが剣を歯で噛み砕いたのだ。
「コロスコロスコロスコロス」
「ファイアソード」
魔法の剣でレオンハルトを攻撃するが、まるで効かない。万事休すに思える。私が動けば別であるが。
それでもダメだとしても最悪、ガリウスを毛布から叩き出せばよいのだが、今の彼を邪魔をした場合に命の保障はない。
だから私たちだけで戦うしかない。そして、この私には切り札がある。伊達に勇者の名を名乗っているわけではない。
私のスキルと一緒に使われる魔矢は別にいかがわしい効果を付けなくとも扱える。魔力で形成された矢はどんなに固い壁も貫通する。そして、これに炎や風を付与した場合には内部から敵を抹殺するのだ。私のスキルの副次的効果として習得した魔矢は使い方によってはかなりの破壊力があるのだ。だからこそ、ガリウスとの戦いでは攻撃魔法は付与しなかった。
「魔矢プラス ファイアボール」
私は矢にファイアボールを付与して攻撃。対象は体内の鎧である。まだ、完全に体に同化しておらず、鎧をピンポイントで破壊。
「神滅の太刀」
アーサーは私が魔矢を作るのと同じ要領で魔剣を精製し、レオンハルトを攻撃する。しかし、この攻撃は真剣白羽取りの要領で受け止める。魔力による攻撃なので、魔力で防げば止められないことはない。
「覚えてろよ。最後に勝つのは俺だ。」
捨て台詞と一緒にその場から退避するレオンハルト。負け犬である。
アーサーを治療してから、レオンハルトを捜索するが見つけられず、午前0時が過ぎたのであった。




