主従
―午後10時55分―
「いよいよ、俺の出番だな。行くぞ、サイモン」
「はい、行きましょう。レオンハルト様が出陣なされば必ずや勝利が掴みとれるでしょう。」
サイモンは幼少期からこの尊敬する主に仕えており、勝利を信じて疑わない。レオンハルト様はこの大会で一位に返り咲くのだ。
レオンハルト様はバルト一族の中でも最高峰の才能と実力を誇る天才です。彼は傲慢なところもありますが、私や異母兄弟を気遣う優しさも併せ持ちます。彼の唯一の不幸はクレア公爵令嬢と同じ時代に生まれたことであるといえるでしょう。
レオンハルト様はクレア様と常に比較され、永遠の2番手と評されていました。
そんなレオンハルト様は中等部の学校対抗戦の時に初めてクレアと戦いました。そして、その時にレオンハルト様は人生初の敗北を喫したのです。
学校対抗戦は生徒と教師の推薦で選手が決まるので、平民の勇者たちは出場していない。おかげで、平民たちの間では勇者たちが依然として最強候補に名を連ねている。しかし、レオンハルト様は候補には出てこない。誰に聞いてもだ。これは看過できない。
一度の敗北だけでその他の有象無象と同類に扱われることが何よりもレオンハルト様には許せなかった。この大会はレオンハルト様が雪辱を果たして学園最強の座を手に入れる場である。兄弟と部下たちはその光景を目にすることなくあの世へ行ったが、私たちが残りの奴らを全滅させて彼らの弔いとしよう。
「レオンハルト様、やはり竜殺鎧で出陣されるのですか。」
「死力を尽くさねば勝てぬ相手だ。貴様にはすまないが、死んでくれ」
私は歓喜した。レオンハルト様がついに私を切り捨てる覚悟をしてくださった。あの鎧は生きている。私の命を糧にして、鎧を使えるようにするのだ。
まずは私がレオンハルト様に先んじて鎧を装着する、鎧は私の魔力をすぐに食らい尽くし、私の肉体を外から消化する。私は今、鎧により食べられている。もう少しで、私は死ぬ―――
「冗談だ。お前は死ぬな。」
レオンハルト様は鎧を奪い取り、自らに装着した。鎧は良質な魔力と肉体を欲している。私が餌となることで3時間は鎧の腹を満たして暴走を止めるはずであった。しかし、鎧がまだ食い終わっていないのにレオンハルト様は私と代わられた。無念である。役に立てなかった。
「へ、大したことがない食欲だな。ところでサイモンよ、この程度の鎧を着れずにどうするつもりだ。お前はダメな奴だ。役立たずだ。だから、俺が命ずる。お前は俺の勇姿を見届けろ。そして、他のゴミクズをスクラップにするところを後世に語り継ぐのだ、いいな。」
耐え難い激痛が走っているはずであるが、主人様は私に励ましの言葉をかけてくださる。私は勇者たちと刺し違えてでもレオンハルト様に勝利をもたらすことを決意した。
午後11時、レオンハルトが出陣した――




