嫉妬
その日、俺はガリウスがスキルを使わなくとも、効率良く戦えば槍の勇者を容易に倒せることを知った。まあ、今の俺なら槍の勇者程度は造作もなく倒せる。しかし、俺でも最初に戦ったときは少しばかり苦戦を強いられたのだ。
ガリウスと一緒に訓練をしている中で気づいたが、あいつは天才だ。魔力量こそスキルがないと低いが、あいつはスキルで俺の一歩先のレベルに到達したことで、魔力の使い方の効率性を高めている。例えば、俺が1の魔力で1の強化ができるとして、あいつは1の魔力で2の強化ができる。
あいつのスキルは仮初めの力を与えると同時に、努力次第でいくらでも使い手の成長を促す。実戦を重ねる度に実力を上げている。
あいつのようなスキルを俺は欲しかった。俺はスキルが欲しい。けれども、そこには俺では届かない。認めたくはないが、実戦を積むほど、スキル保持者とスキルの無い者との差が見えてくる。完成された戦闘術を自らの体に適応させ、高めた上で次世代に継承するのだ。だから、弱いスキルがあるはずがない。弱いのは使い手である。そして、使い手が強ければ、隙のない戦士になる。
これに対して俺は手探りの我流の剣術で、流派と言えるほど体系化されていない。この程度ではスキルとして子供に俺の技が発現するとは思えない。俺の生涯を掛けて高めた技は子孫に引き継がれることはない。それでも、俺は自分の技をスキルとして後世に継承させたいと思った。
だから、俺は相手を選ぶ。
「それにしても、お前の料理は上手いな。」
「俺は決めたよ。クレアは俺のものにする。」
「突然、何?というか、クレアがどうした?俺のもの?」
「ああ、悪い。こっちの話だ。聞き流してくれ。」
今は午後5時40分、夕食を食べている。ソーセージに香辛料を加えて焼いただけの簡単な料理である。
ガリウスはソーセージを味わって食べていた。毒もない。アーサーはやはり良い奴だ。料理も出来るし、剣の腕も抜群だ。一家に1台は欲しいくらいだ。今日はアーサーが午後3時の組と午後5時の組を相手に無双していた。
俺のことを助けに来れなかったのも音が一瞬で消され、光の魔法によって打ち上げたドラゴンバスターの魔力球が隠されていたからではないかとわかった。槍の勇者はまあまあ強かった。ただ、気になる点がある。あいつはなぜスキルを使わなかったのだろうか?
「なあ、アーサー。槍の勇者は何でスキルを使わなかったのだろうか。」
「簡単なことだ。あいつはスキル鑑定を受けていないから自分のスキルを把握していない。知らない力は行使できない。」
スキルの発動にはイメージが必要である。俺の場合はイケメンクソ野郎を噛ませ犬にしようと思い、気付いたらスキルが発動して圧勝していた。スキルの発動には最低でも自分のスキルを把握した上でそのイメージを持つ必要がある。貴族が幼少の頃から剣術を嗜むのはイメージをより具体化し、スキルの発動とそれを発現させる可能性を少しでも高めるためである。
「さらに言えば、おそらくあいつはデイヴの異母兄弟じゃないかと思う。それならスキル鑑定を受けないのも納得できる。」
「兄弟かどうかで何か変わる物なのか?」
「ああ、スキルの数は後継者を決める際に大きな要素になる。デイヴの家は正妻が既に亡くなっているため、もし仮にデイヴ以上にスキルを保有する兄弟が現れた場合には、そいつが伯爵の地位に就くことになる。スキルの数は婚姻にも影響するし、あいつの家は貧乏だからな。あいつがスキル鑑定を受けたら問答無用で後継者は変更になる。美しい兄弟愛が槍の勇者が強くなるのを妨げている。嘗めた野郎だ。」
アーサーは嫉妬していた。ガリウスのことや槍の勇者、さらには貴族どものことを。スキルを持つ者が羨ましい。雑魚の癖に。
俺は本当はそこまで強くないのだ。確かに、今日倒した二組を相手に傍目には無双しているかのように見えたかもしれない。
しかし、俺はスキル持ち相手に手を抜けたことは一度もない。全力を出して今回も倒したのだ。勝って当たり前だ。相手は俺ほど努力もせず、週末はパーティーだからな。ふざけるな。
悔しいからスキルを俺は子孫に残したい。だから、俺はこの大会でクレアを強引にでも手に入れることにした。王族に嫁ぐとも噂されるが、俺に嫁いでもらう。俺のスキルを継承してもらうのだ。俺はあの女を貴族社会から引きずり下ろしてでも手に入れる。絶対に逃さない。




