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流儀

 アーサーが一向に来ないが、俺は当初一人で参加することになると考えていたのだ。何も問題はない。当初の予定通り、俺は一人で戦おう。全員、俺が倒してやる。そう言い聞かせる。そして、上空に打ち上げた砲撃を見て、アーサーよりも先に槍の勇者らが現れたのだ。


「やあ、元気にしてる?」

「学園最強さん、ちわーす。」


 槍の勇者達が俺の前に現れたが、アーサーは来ない。しかし、俺のスキルがあればまず負けるはずがない。


「スキル発動」


 俺のスキル「勇者キラー」は半径50メートル以内に俺の魔力量の2倍以上の量を持つスキルの無い人間一人につき、3倍ずつ魔力が増大する。本来であれば、こいつらなど一笑に付す雑魚であるはずだ。しかし、俺の魔力が一切増えないのだ。


「ん?何かしたの?まるで変化がないけど。」

「まあ、待ってやれよ、デイヴ。こちらはいくら相手が学園最強とは言え、2対1だ。それくらいの配慮はするさ。」


 あり得ない。魔力量が全く増加しない。魔力量は全ての勇者が俺の2倍以上であるはずだ。そして、俺はあることに思い至った。それは、勇者が近くにいても魔力量が増加しないケースが存在するということだ。例えば消耗した勇者の魔力量が平常時の俺の2倍未満となった時には俺の魔力量は平常時に戻る。このスキルの欠点はアーサーと一緒に検証した。

 だが、今回は違う。肌で感じる槍の勇者の魔力量はアーサーに勝るとも劣らない。つまりは、答えは一つ。槍の勇者が()()()()()であると言うことだ。即座にこの事実を判断し、ドラゴンバスターの引き金を引いた。当たればいくら勇者でも即死である。


「あたりませーん。」

「遅過ぎるよ。もっとスピードアップしなきゃダメだよ。」


 この程度の攻撃は当たるはずもない、当然だ。なぜなら、魔力量の差は反応速度の差に直結する。魔力が各種身体機能を向上させ、戦闘力を引き上げる。

 ドラゴンバスターは勇者クラスの相手には不意討ちでもなければ全く通用しない。初見ならまだしも、彼らは昨日から森林地帯での俺たちの戦いの推移を見ていたのだ。ドラゴンバスターの破壊力・速度は知っている。使い手による武器の精度の上昇もないため、雑魚と雑魚の戦い以外には使い道がないのだ。


「それじゃあ、こっちからいくね。」

「まずは、小手調べからだね。よーく見ておけ、光の槍」


 突如、閃光が走り抜け、俺の視界を塞ぐ。雪が光を反射してとても眩しい。しかし、まだ俺は諦めていない。アーサーなら絶対に諦めない。俺は負けられない。視界がなくとも、気配でどこから攻撃するのか分かる。


「ほらよ、食らいやがれ。疾風の槍」


 風を纏った槍が俺を串刺しにするために襲いかかる。しかし反射的に動いて俺はうまく急所を外した。


「とっとと、くたばれ。炎王の槍」

「ファイアボール」


 炎が俺に襲いかかるが、今度はファイアボールで槍を迎撃することができた。ドラゴンバスターに対処する練習が役に立った。体は頭のイメージに付いてきている。希望が見えてきた。考えれば、当然だ。俺は槍の勇者とは別次元の世界を体感したことだってあるのだ。どうやら俺のスキルは副次的な効果で魔力の身体強化がなくともこの程度の攻撃には反射的に対処できるようにしてくれたらしい。体は覚えているのだ。次はこっちの番だ。


「ファイアボール」

「ぐぎゃぁぁ」


 俺のファイアボールも俺の魔力量が3倍以上の時の世界(レベル)を覚えている。だから魔力消費効率も威力もスキル使用時と遜色がない。今度は連続使用だ。


「10連ファイアボール」

「ぎゃぁぁぁぁ」


 槍の勇者は戦闘不能になった。呆気ないが、これがレベルの差であろう。

 ところで、さっきからデイヴは何故か槍を上空に掲げている。しかし、槍の勇者が負けたのを見て、槍を地面に下ろしたのであった。


「降参するよ。僕たちの負けだ。」

「ちょっと待て。なぜ2対1で来なかった。」

「いや、2対1だよ。僕は剣の勇者が来ないように音殺しの槍を起動して、こちらの音が聞こえないようにしていたんだ。」

「ふざけているのか?二人がかりで攻撃すれば勝てただろ。」

「いいや、戦いにタラレバはない。僕たちは自分の流儀を貫いただけだ。後悔はない。」

「そんな流儀はくそ食らえだ。勝ったが、俺も満足しない。」

「欲張りだね。でもそれが君の流儀なんじゃないかな。」


 デイヴはそう言い、スピアを抱えてその場から去った。俺は気が高ぶっていて、まだ納得していなかった。俺が彼らだったとしたら、2人がかりで殺るはずだ。彼らは最善を尽くさなかったから負けたのだ。しかし、これは俺が勝ったから言えることだ。深呼吸をし、ドラゴンバスターを上空に向けて、発砲した。今度はアーサーは来てくれた。これで俺も認めてもらえるかもしれない。

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