昼寝する暇はなかった
午前11時30分になったが、アーサーは寝ている。だから、もう少しだけテントの中にいよう。探知型の魔道具で周囲に目を向けてみるが、近くに熱源反応はない。ガリウスはアーサーが2日目の夜に一人で後発組を退場させたことを知らない。もっとも、知っていたとしても槍の勇者がどこにいるのか分からないので、漠然とした不安を拭えていないだろう。まあ、そんなことはどうでもいい。俺のするべきことはアーサーが起きるまで待機するだけである。俺はあいつを信頼している。下手に動くべきではない。王者たる者、座して待つのが賢明である。
前世では中途半端なかませであったが、この異世界では本物の噛ませ犬になれたと思う。そもそも、噛ませ犬は弱すぎると失格である。バトル漫画ではインフレについていけないと戦力外通告がなされ、戦う機会や登場回数も大きく減ってしまう。かつての俺は本当は噛ませ犬になりたかったのではなく、単純に弱くとも人から認められたかっただけであると思っている。
しかし今は少し違う。異世界でアーサーと友達になったことで、たとえ噛ませ犬であったとしても、彼と一緒に戦いたいと思うようになって来たのだ。この大会を通じて、俺はアーサーから認められたいと思うようになった。まあ、スキルに戦闘力を依存している俺では難しいかもしれないが。
あいつはすごい。叩き上げでスキルを超えたのだ。同時に、スキルのことを誰よりも憎んでいると感じる。俺のことも実は憎んでいる可能性は否定できない。アーサーは軽薄そうに見えるが、その実負けず嫌いでスキルコンプレックスの塊だ。精神的にも弱いところはあるのだが、自分の才能と努力でここまでの力をつけたのだ。アーサーのことを俺は尊敬している。だからこそ、アーサーに勝ってしまった俺に敗北は許されない。いつか俺はアーサーの噛ませ犬になる日が来るかもしれんが、俺は本気の噛ませ犬になる。そこらの有象無象の噛ませ犬にはなるつもりはない。
時刻が正午になったので、アーサーを起こした。そして、アーサーが昼食を作ったので一緒に食べ始めた。彼と今後についての相談と昼寝の打診をするためだ。
「昼寝は却下。俺は起きたばっかだから眠くない。今後の予定はまず最初に槍の勇者らを討伐しに動く。まあ、俺は寝起きだし少し休んでからだな。槍の勇者を倒した後で午後5時30分頃に体が重くならない程度に軽く食事を摂る。そして、午後7時から順に出てくる勇者と貴族どもを各個撃破していく。以上だ。」
「他の奴らはどうするんだ。放置ってことか。」
「向こうから来れば戦うが、放置でいいだろう。昨日感じたことだが思った以上に勇者と貴族どもが強い可能性が高いので、体力は温存することにした。」
「お前、あっさりと兵士たちを殺してたじゃないか。」
「ああ、お前には言ってなかったが昨日は後発組を狩っていた時にレオンハルトの親父に会ってな、あれだけボロ負けしたのにレオンハルトが勝つことを信じてたからな。俺も警戒することにした。」
「お前、昨日は俺を守っていたんじゃないのか。」
「俺の用意した魔道具が守っていたから問題ないだろ?」
俺は他人を信じないことにした。




