親
アーサーは深夜の森の中を一人で歩いていた。ふと顔を上げると、目の前に灯りが見え、何であるか見に行った。
アーサーが見たのは数人の屈強な騎士と肉片を前に生気のない顔をした男女の姿であった。きっとあの二人はマークかシャリアの親だろう。この大会では、部外者の立ち入りは禁止であるが、生徒が死亡した場合のみ、騎士数名の引率を条件に夜中に遺族が遺体の回収のために立ち入ることの許可が降りる。
他にも灯りが見えたのでアーサーはそちらの方へ向かった。そこには憤激した中年男性がいた。バルト伯爵である。彼は愛情とは無縁の男であるが、自分の子どもがゴミクズのように一掃されたことについて納得できなかった。現場を直接目にし、腸が煮えくり返っていた。平民風情が我が領地の兵士たちを殺したのだ。極刑に処すべき事案だ。ましてや、俺の血を引く子どもである。もはや、明日の戦いで息子が平民どもとクレアを皆殺しにすることを期待する他ない。万が一、平民らが生き残ることがあった場合には俺が直々に軍を率いて殺してやる。
「そこに隠れているうじ虫、よく聞け、お前の一族・友人・恋人のことごとく全員を根絶やしにしてやる。明日息子に殺されることを幸運に思うと良い。お前の大切な人が一人残らず生き地獄を味わうのをあの世からよく見ておけ。」
「そんなことより、レオンハルトを退学させた方がいいぜ。なんせ、明日あいつはうじ虫にビビって糞を漏らしながら死ぬからよ。今、言ったのは独り言な。」
大会の最中は保護者と生徒の接触は禁止される。もっとも、独り言までは禁止されない。上記の会話は内容からうじ虫と伯爵が話していたと見なされ、この会話を聞いたアーサーが独り言を呟いただけと考えられる。
「ぶち殺してやる。」
「お前程度、返り討ちにしてやる。とっとと帰れ。」
「レオンハルトは我が血族の中でも最高級の品質を誇る天才戦士だ。貴様に必ずや引導を渡すだろう。」
伯爵は森の外へと向かい、灯りがそれに伴って遠ざかって行った。
アーサーは実は伯爵と騎士達に感心した。騎士達は鈴を鳴らすことなく森に立ち入り、遺族を先導していた。そして、伯爵は隠れて様子を見ていた俺に気付いた。こうなると、あの伯爵が天才と呼ぶレオンハルトの評価を上方修正せねばならないだろう。
明日の楽しみが増え、アーサーは口元に笑みを浮かべた。




