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夜のアーサーは感傷に浸る

「ぼちぼち行きますか。」


 アーサーはテントの周囲に地雷型の魔道具を設置した。これらはレオンハルトの兵士たちが仕掛けていた物をくすねてきたのである。スープに睡眠薬を入れたので、ガリウスは明日の朝まで起きない。故に、ガリウスが夜中に起きて地雷に引っかかる心配はない。まあ、良く眠っていてくれ。

 今日の夜に槍の勇者らがテントを襲撃し、地雷を踏んでくれたらありがたいが、彼らは明日の最後まで残るつもりのはずだ。今頃は雪の中にでも潜って明日に備えているだろう。こちらが今日中にあいつらを倒せなかったのはガリウスがテントの道具を運んでいたからである。雪の中に空間を作れば野晒しにされるよりも暖かいし、一晩程度、耐えられないことはない。持ち物については来年の大会ではあらかじめ伝え、雪の中で一晩越せるように訓練をさせようと考えた。

 とりあえず、雑魚を狩りに行く時間だ。最終日はどうなるか分からない。優勝するために障害は早急に排除する。最低でも明日の朝までに槍の勇者を除いて全員退場してもらう。ただ、俺も鬼ではないので、今いる生徒は降参すれば命までは取らないつもりだ。場合によっては失神させるだけで終わらせる。俺だって無闇に人を殺すつもりはない。すべては相手次第だ。こちらを殺すつもりなら、相手は死ぬ。それだけである。


「それにしてもチョロいな。」


 森の中を駆け抜け、2時間おきに森に入場してくる生徒を発見、即撃破。その後、森の各所にある水晶の前まで引きずり、降参させるイージーなゲームだ。ただ、広い森にどこから入ってくるかは分からないので、森の中の至るところに鈴を取り付け、音を頼りに追跡、排除する。

 この程度の手間、大したことがない。俺はこんなぬるい戦いではなく、本物の戦いをしてきたのだ。俺は辺境の村の出身だ。周囲には蛮族や盗賊がいたが、国境付近の村でありながら騎士は駐在していなかった。

 俺の父は元騎士であり、現在は村の自警団の隊長をしている。父は今は亡き母親に一目惚れし、村に入村したのだ。俺の村は治安が悪かった。戦争毎に村の女は犯され、男は殺される。場合によっては奴隷として異国に売り飛ばされる。俺の村は国からも見捨てられ、誰も守ってくれない。自分の身は自分で守るしかない。俺は父と母から戦い方を教わった。そして、俺は5歳の時に初めて人を殺した。村を守りたい。俺は村にずっといたかった。しかし、両親の希望で俺は初等部に通わされた。弱いからだ。

 学校は遠かった。村から走って3時間の距離があった。辛かったが、それでも俺は強くなる必要があった。ちなみにマリア姉さんは学校に走って30分ほどでたどり着く。俺はかなり弱い。悔しかった。だから、彼女と手合わせするときは絶対に降参しなかった。

 ある日俺の近所の子どもが山中で盗賊に捕まり、帰って来なかった。俺は現場にいたが逃げた。俺に大人を10人以上倒すのは無理であった。逃げるが勝ちだ。村に戻り、大人を呼んだが、手遅れだった。その子は足が俺より遅いから死んだ。至極単純なことである。子どもの親が咽び泣いていたが、俺に泣く資格はない。俺は強くなりたかった。剣の訓練をひたすら続けた。そして、父を10歳の頃に超えた。

 しかし、そんな俺よりも母は強かった。だから、母から剣の型を盗んだ。母にどういった過去があるか詳しくは知らない。知っているのは、彼女の卓越した剣術とかつて冒険者をしていたということだけだ。ついでに言えば、家事がダメであったことくらいであろうか。

 母は時折、悲しそうな顔をする。なぜかは知らない。けれども、すぐに元の表情に戻る。俺は母が夜に泣いているのを見たこともある。父は母を溺愛しているし、父は母より弱いので、母を泣かせることができるとは思えない。なぜ泣くのか気になったが、俺は何もしなかった。

 俺は母のように泣くことはできない。一歩でも先に進まなければならない。俺は何が何でも最強の男になり、村に平和をもたらす必要があった。そのためには剣術だけでなく、学業と魔術が必須であった。母は剣術以外も教えてくれた。学業もさることながら、魔術も凄まじかった。天才のマリア姉さんも母の話はよく聞き、勉強についての質問をしていた。質問内容が高等部レベルであったということは最近になって知ったが、母は難なくそれらの質問に答えていた。そんなハイスペックな母に俺の妹のサリアは特に懐いた。将来は冒険者になると(サリア)は言い、実際に冒険者になった。妹は夢を実現したのだ。俺は妹と違い、夢などない。俺にとって強くなることは夢ではない、()()()()のことである。


 俺は初等部を卒業した。俺の魔力量と成績が優秀であったから、中等部に進学できた。中等部からは寮生活になり、家から離れて暮らすことになる。スキル持ちの貴族が寮にいたが、雑魚であった。とりあえず、将来設計通り高等部まで進学し、そこを卒業した後には王国騎士となり、村に防衛の拠点を設置することを俺は考えた。そうすれば、村は平和になる。まずは、高等部を目指す。そのためにも、俺は人一倍努力をする予定だった。

 そして、俺は入学式の日に高等部の進学要件の一つであるスキルの判定を受けた。当然、何も出なかった。分かっていたことだ。母にこのことを夏休みの休暇で家に戻ったときに報告をしたら、泣き出し、俺に謝り始めた。意味が分からない。

 泣いているせいで呂律が回らない母に代わり、父が教えてくれた。母は貧乏な家の貴族の生まれで、彼女は末っ子だった。彼女以外の兄弟は魔力量が乏しく、スキルもないので貴族失格であった。これは珍しいことではない。下級貴族ほどスキルを継承する確率は低いので、貴族の資格がなくなることはよくある。貴族でないということは民を守ることも家族を守ることもできないということだ。そして、母の家はとりつぶされたのだ。この国ではスキルがあれば誰でも貴族となるが、なければクズ同然というわけだ。借金のカタに兄弟達は売り飛ばされ、母も人身売買業者に捕まりそうになった。しかし、母は逃げた。自分の人生を生きることを選択したのだ。そして、冒険者となり母は生計を立て始めた。その後、紆余曲折あって母は国境付近の人がよく拐われるこの村の用心棒となった。父は冒険者時代の母に助けられて以降母に惚れていて、騎士をやめてまで母を追いかけたのだという。こうして今に至るという訳である。

 母にはスキルがなく、その子どもにもスキルがない。不思議なことではなく、必然である。母はスキルがない人間はスキルのある人間に劣ると考えているようだ。だから、俺を憐れんだのだ。

 ふざけてやがる。勝手に俺を負け犬にするな。俺は誰にも負けない。母は逃げただけだ。俺は母とは違う。母は中等部までしか進学できなかったが、俺は違う。高等部にスキルのない奴が行くには何らかの特筆すべき実績が必要であった。だから、俺は中等部に通いながらも盗賊のアジトや指名手配された凶悪犯罪者を相手に命懸けの狩りをした。俺は人の何倍も努力した。その結果、勇者の異名まで手に入れ、高等部へと俺は進学することができた。俺は母から怒りという感情を知った。そして、母が伝染病で死ぬまで互いの溝は埋まらなかった。


 午前1時10分、アーサーは自分たちの後に来た組を早急に全滅させ、時間をもて余した彼は理不尽に対して憎悪で身を焦がしていたのであった。

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