鬼ごっこ
「これはいい武器だ。」
2つの影が縦横無尽に雪の上を走り抜け、次々と仕掛けられた魔道具を破壊しつつ、奪ったドラゴンバスターで初日組を屠っていく。勿論、自分たち以外にこの武器が使われないように、敵の持つドラゴンバスターも粉砕した。
「それにしても、お前が事前に用意した長靴の魔道具もすげぇな。翔ぶように雪道を動ける。」
「どうした、俺に惚れたか?」
軽口が言えるほど彼らは落ち着いていた。ガリウスは実は魔道具以上にアーサーの戦闘技術を高く評価していた。いくら魔道具があるとはいえ、雪道では急に止まったり、曲がったりすることは難しく、アーサーがいかに実戦経験豊富であるかを知った。
持参した小型の探知型の魔道具で熱源を探知し、ドラゴンバスターをぶっぱするだけの簡単な作業であった。
彼らが今追いかけているのは自分たち同様、高速で移動している熱源であった。その熱源が槍の勇者たちであるのは明らかである。ガリウスたちは道中の雑魚を狩りつつ、鬼ごっこを楽しんでいた。事前の情報では槍の勇者と組んでいるデイヴにはスキル光学迷彩があるため、不意を突かれると厄介であるとアーサーから聞いている。しかし、サシでやったらまず間違いなくこちらが勝つ。
槍の勇者たちはその頃、逃げていた。想像以上にレオンハルトの兄弟と部下が使えず、雪道の上を逃走することになった。彼らとて、ドラゴンバスターの砲撃を迎撃できるだろう。しかし、正面からガリウスとアーサーの二人を相手取るのは不可能であり、自殺行為に等しい。ダッシュである。逃げるが勝ち。最後に勝てば良いのだ。
午後5時50分には初日組と二日目の最初の組の奴らは全滅し、レオンハルトの兵士たちはあの世へと旅に出たのであった。レオンハルト本人の出場はクレアの一個手前であり、すでに兄弟と部下たちを投じたメリットはなくなっていた。
レオンハルトは現状を的確に把握している。彼は兄弟と部下たちに無線で具体的な指示を出して指揮をしていたのだ。彼は作戦を大会直前まで打合せしたのだ。失敗などするはずがない。余裕を持って平民どもと金髪ドリルを包囲し抹殺する手はずであった。
ただ、レオンハルトは見誤っていた。すべて自分を基準に考えていたのだ。彼は部下たちと兄弟が最重要機密の作戦の一端を担うことを自らの彼女や友人に自慢するとは想定しておらず、ドラゴンバスターを使うことまで情報は漏れていたのだ。そのために、アーサーたちは難なく兵士たちを一掃できた。ガリウスたちの動きに迷いがないことから、情報が漏れていることを知った。
レオンハルトはようやく気づいた。兄弟と部下たちが自分の遥か下の下等生物、作戦などそもそも無意味、無駄であったことに。
「ハハハ、面白いね。笑えないわ。地獄に堕ちろ。」
レオンハルトはキレていた。