狩りの時間
初日と同様に、二日目の生徒が午前11時から投入された。通常、睡眠不足でポテンシャルの劣る1日目の生徒は2日目の午後6時までには全滅しているのが普通であった。といっても、当の参加者は1日目の生徒が何人残っているかといった情報は与えられず、今日の午後一番に出陣するマークとシャリアも森林地帯の様子は知らなかった。
マークは今回の大会を心待ちにしていた。マークには夢がある。男爵家の生まれである彼は嫡男として家を支えようと思っていた。此度の大会で自らの剣術と魔法を騎士団と魔術師団に披露すること。これは夢の実現への第一歩となるのだ。彼の魔力量はガリウスにも劣るが、ソードスキルと火属性魔法のスキルを有しており、努力家であった。
「おしっこは済ませたか、シャリア。」
「変態」
そんな彼には中等部を卒業するときに告白して付き合うことになったシャリアがいる。シャリアも男爵家の出身で家が裕福ではなく、社交界での経験はほとんどない。ちなみにマークがいてもいなくとも高等部には進学する予定であった。彼女は今回の大会でマークがいてくれて助かったと思っていた。なぜなら女の子の場合は、トイレをするときにパートナーが男だと覗き込まれるなど恥ずかしい目に会うことがある。女子同士が仲良くなかったり、数が奇数の年はこういったことが起こる。というか、水晶でかつて王国全土に中継していたのは鬼畜であったと言えるだろう。
「お前は俺と組んでよかったのか。お前は俺より成績が良いのに。」
「勇者たちとクレアさまほどではないわ。それに私はあなたと組みたかったの。」
「ほほう。まあ、俺もお前との野外プレイはやぶさかではないがな。」
「変態」
彼らは緊張していたが、二人なら困難に立ち向かえると思っていた。ここ最近は一生懸命放課後に鍛練していたので、落ち着いて戦いに臨もうと思っていた。さすがに彼らは勇者やバルト伯爵子息やクレア公爵令嬢に勝てると高望みはしていない。けれども、できる限りのことをやって、これからの糧にしていこうと考えていた。彼らは男爵でありながら学園最強と目されているガリウスのことを尊敬している。彼を目標に努力してきたのだ。彼らの次の次には学園最強のコンビが控えている。学園最強とぜひ戦いたい。それまで彼らは大会で生き残らなくてはならない。
ふと、気付いたことがあった。森の中がひどく静かであった。戦闘が森の中ではなされているはずであるのにだ。シャリアは違和感を感じた。けれども、確かな情報がないのに口にするべきではないと感じた。漠然とした不安が彼女を襲った。彼らはすぐに降参するべきであった。そして、彼らは引き際を間違えた。
目の前に嫌らしい顔をした二人組が現れた。確か、初日で一番最初に森に立ち入った二人である。ガリウスの通常時の半分以下の魔力量しかない雑魚である。何でこいつらが生き残っているのか彼らは不思議に思った。まあ、自分たちの前に森に入った奴等が全員バルト伯爵の息子か部下の子どもであったり息のかかった連中しかいないことについて彼らは知らないのだ。圧倒的なまでに情報が不足していた。彼らの命運は尽きた。
何かおかしいと感じたが、相手を発見した場合は戦うのが大会の決まりだ。逃げたら将来に響く。剣を抜き、足場に注意を向けつつ、近づいていく。彼らはもう手遅れであった。
敵は剣ではなく、筒を取り出した。敵が引き金を引いた直後に閃光が走り抜け、マークは肉片と化した。
シャリアは突然のことにフリーズした。そして、怖くなって逃げたのだ。しかし、彼女は逃げ道に足場の良いところを選んだため、仕掛けられた魔道具の罠に嵌まって足を挟まれ、動けなくなった。
男たちは彼女の体を楽しみたかったが、兵士が一般人に対する婦女暴行をすると軍律では死罪にあたる。今回はグレーだが、男たち2人だけで彼女を犯すと不公平感から要らぬ争いが兵士間で引き起こされることが予測できた。結局、他の兵士が持ち場を離れる訳にはいかないので、無線からの指示をボスから受けて引き金を引き、当初の予定通りとどめを刺した。
まさに、狩りの時間であった。