あいつが憎い
私はあいつが憎い。平民の癖に私をこけにしたことを償わせてやる。奴は中等部で私と3年間同じクラスであったが、さぞ私は滑稽に見えたでしょうね。私が仮初めの1位、お情けまでかけられていたとは。嘗められたものね。絶対に許せない。
公には10個のスキルを継承し、ランティス家の歴史上で最高クラスの適正を誇る私は最強でなければならない。彼は私によって殺されるべきよ。今回の大会を制し、私は王子に見初められなければならない。
王族は他国の姫を正妻とし、他に妾を何人も抱えるのが通常である。貴族でも妾が関の山である。貴族と王族では歴然とした差がある。そして、王族から見れば貴族も雑草に過ぎない。
この国にはシンドロアという庶民が王族に見初められるサクセスストーリーのおとぎ話がある。しかし、史実ではやがてシンドロアは王に飽きられ、子どもと一緒に正妻の雇った刺客によって暗殺されたはずである。妾は肉便器でしかなく、人ではない。
そして、正妻以外の子どもには継承権はない。そして、スキルを継承できなかった子どもは王族にはいない。上位貴族も同様だ。
私には異母兄弟を含めると24人兄弟がいる。実の兄弟は存在しない。家系図から消された者は家族ではない。
私にはかつてお兄さまと慕う人がいた。彼は私と同じ母を持つ側室の子どもであった。優れた魔力に卓越した剣術、向上心が高く、出来の悪かった私に剣術と魔法を教えてくれた。また、彼は次期後継者と目されていた。社交界でも高く評価され、私の兄弟たちの追随を許さなかった。そして、私の兄弟の中で最高のスキルの保有数は6つであり、お兄さまは魔力量がトップであったので、7つ以上のスキルを発現することになると期待されていた。当時の私は今ほど魔力を有さず、誰の目にも留まらなかった。お兄さまだけは落ちこぼれの私を気にかけてくれた。
けれども、本当の落ちこぼれはお兄さまだった。彼は15歳になってもスキルが発現せず、父の面子を潰した挙げ句、幽閉され、ある日いなくなった。最初から存在しなかったのだ。そして、私の実の母は父から肉便器呼ばわりされ散々折檻され、義理の母たちから嫌がらせを受け、壊れてしまった。
当時の私は10歳で、徐々に魔力量が増えてきていた。既に10歳の頃の兄に並んでいたが、誰も気付かない。私はお兄さまの仇を取らなくてはならない。そのためにも、さらなる高みへと行く必要がある。だから、今日まで歩みを止めなかった。そして、11個のスキルを持つことが判明した後に私に対して手のひらを返してきた父と兄弟の反応は滑稽だと感じた。
私は今16歳であるが、婚約者はいない。父も王族に私を輿入れさせようと画策している。あえてレールに乗り、いずれは国母となり、お兄さまの仇を討たなくてはならない。私はどいつもこいつも憎い。全員許さない。