第八話 私にできない魔法は無いのよ
俺達はかなり緊張感を持って帰路に着いていた。
正直なところ今回活躍したのはティアナ様達であって俺達ではない。
「おい舞、今回俺達は報酬を受け取れるのだろうかと心配しているのだが」
「もし貰えなかったら私がギルドを潰してお金を頂くまでよ」
「お、そして指名手配になったお前を俺が捕まえて大金を独り占め
するという作戦だな!」
「ちょっとそこは仲間なんだから助けなさいよ!!」
仲間だがこんな奴と指名手配なんて本当にごめんだ。
「報酬の件なら大丈夫ですよ啓太さん、私共はクラウス達の拘束を
手伝ったという事にしておきましたので」
何という優しくも出来た人なんだ・・・
「ありがとうございます、危うくコイツがギルドを壊滅させるとこでしたよ」
「私を悪者扱いにする啓太から先に滅ぼしてあげようか?」
そんな妙な事を口走る舞は無視しよう。
しかし平和な世の中とはいえ悪い事を考える奴はいるもんだな。
よく考えればこの世界が平和というならドラゴンを育てる必要なんて
要らないんじゃないのか?もしそのドラゴンが成長してから悪用された方が
危険なんじゃないのか?ちょっと聞いてみるか。
「そもそも何で平和なのにドラゴンを育てようという話になったんですか?」
「何でですかね?」
「え、知らないんですか?」
「知らないんですよ、私は一応お姫様ですし、こう見えても宮廷魔導士ですけど」
宮廷魔導士!!どおりで魔法を使いこなしてる訳だ。
「いつまでも平和が続くとは限らないし、あと今回のような下っ端の
悪人にではなくもっと大きな悪人達に対しての抑止力なのかもしれません」
え?平和続かないの?俺の生活大丈夫なの?
「啓太さんそんな顔しないでくださいよ、今のとこは他の王国との交友関係も
良好ですし目立った犯罪組織もありませんし」
「それなら良いんですが・・・出来る限り今回の尾行のような仕事をして
犯罪を減らしたいと思います」
犯罪を減らすって俺は警察官か。
「そういえばここ最近魔法を教えれてなかったので迎えの馬車が来るまでに
啓太さんに魔法を教えましょうか?」
「唐突ですね、でも是非お願いします、出来る限り役に立つ魔法で」
俺はトイフレア以外何も魔法を習得していない、このままじゃ無駄に
強力な魔法が使える舞に馬鹿にされてしまう。
それはなんだかとても腹が立つ。
「役に立つ魔法ですか・・・じゃあアイスチェインなんてどうでしょう?
攻撃にも拘束にも使えるとても便利な魔法です」
なにその俺の中二病心をくすぐる名前わ!!
「その魔法教えてください!」
「じゃまずは手をパーの形にしてください、そしてアイスチェインと言いながら
手を軽く握ってください」
アイスチェインと叫ぶ時に若干恥ずかしさがあるのだがここは我慢だ。
「分かりました、いきますよ・・・アイスチェイン!!」
そう叫ぶと俺の手からは氷で出来た鎖が出現した。
ナニコレ超カッコいい!!!
アイスというだけあって持っていると冷たいのが難点だが、なんにせよ
それらを忘れさすカッコよさだ。
「やっぱり啓太さんは魔法の素質があるみたいですね、こんどお城の魔法図書館に
いらしてください、きっと啓太さんの為になるはずです」
「是非お邪魔します、でも・・・この鎖いつ消えるんですか?さすがに手が
冷えてきたんですけど」
「・・・その内消えますよ」
この魔法は今後の使い方次第でかなり使えそうだ、俺も立派に冒険者らしくなって
きたじゃないか。
「ちょっと待ちなさい、啓太に出来て私に出来ない魔法があって良いと思ってる
の?いいやダメよ」
こと魔法となると舞は黙っていない、俺が簡単に出来たのが許せないようだ。
「いやお前トイフレア出来なかったじゃないか」
「何それ知らないわ、見てなさい私の高貴な魔法を、アイスチェイン!!!!」
舞かなり大きく気持ちいほど良い声で叫んだ。
「おぉぉ勢いだけで何も出ないけど・・・」
「舞さん!手を広げて見せて下さい!!」
ゆっくり開くと舞の手の平から枝豆くらいの小さい氷が一粒だけ出来ていた。
「舞さんすごいですよ!やりましたね!!」
「お前やったな!これで魔法少女も夢じゃないぞ」
「二人とも・・・良いわ、私のとっておきの初めて覚えた魔法を今ここで
見してあげるわ」
「止めろ!!!あの馬鹿みたいに大きいアクアニードルだけは止めろ!!!
おい聞いてるのあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「アンネさん来ましたよ」
昨日は色々あって報酬の受け取りに来れなかった、色々とはまぁ色々だ。
「昨日は来れなくてすいませんでした、あと・・・ギルドって潰れちゃう
んですか?」
ギルドの小さい建物の外装には足場と工事用の布が覆っていた。
「まぁ色々ありまして、今日はどうされたんですか?」
「もちろん報酬を受け取りに来たんですけど」
「あ、報酬ですね、こちらが二十万レイズになります、確認してくださいね」
これが二十万レイズ!!!!
何買おう・・・いや待てよ・・・。
俺は舞も納得してくれるであろう使い道を思いついた。
「それじゃ今日のところは帰りますね」
「啓太さん、また明日来てもらえますか?お見せしたいものがありますので」
「分かりましたけど見せたいものって何ですか?」
「明日になれば分かりますよ」
そう言うとアンネさんは不敵な笑みを浮かべた。
何だかとても嫌な予感がするが今日のところは舞を誘った軽く一杯飲みに
行こう。
「いらっしゃいませ~」
「すいません、取り合えず麦酒二つください」
初めてこの世界に来てこの麦酒を飲んでから、疲れたり一日の終わりにはこの麦酒
で乾杯するのが恒例になっていた。
「ところで今回の報酬はもちろんの事折版よね?」
絶対こう言うと思った、だがそんな訳にはいかない。
こんな金遣いの荒い奴に十万レイズも渡したらすぐに無くなって俺の分まで
むしり取られるに決まってる。
「まぁ待て話を聞け、俺はこの金を二人の納得のいく使い方をもうすでに
考えているんだ」
「何よ?美味い物を食べようなんて考えなら全部私が貰うわよ」
舞は運ばれてきた麦酒を一気に飲み干し、二杯目を注文した。
「今回、俺達はこの金を使って旅行をします」
「えぇぇ、私もう当分は動きたくないんですけど」
そう言うと分かっていたが行先を聞けば舞は絶対行くという確信があった。
「最後まで聞け、尾行をするにあたってこの王都周辺の地図を見たんだが、実は
この王都から馬車で二日かかる距離の場所に魔法都市がある」
そう魔法都市、ティアナ様から聞いた話では読むだけで魔法力が上がる魔導書の
お店があったり、かなり大きい魔法学校があったり。
魔法を極めたい者は一度行くべき場所らしい。
魔法という言葉を聞くともう舞の心は決まっていた。
「行く、行くわ!!啓太何でもっと早くに言わないのよ、そんな場所私以外に
誰が行くっていうのよ!!!」
いや、お前以外も行く人はいると思うけど。
「そうと決まれば一秒でも早く行くわよ」
「待て待て、明日一度ギルドに行かないといけないから明後日に出発だ、だから
お前は明日一日お金渡すから旅行の準備してこい」
「分かったわ、旅行に備えて今日は大人しく飲むわよ!」
「飲むわよってお前もう何杯目なんだよ」
「何言ってるのよ、私クラスになれば十杯目までは準備運動のようなものよ」
こーゆうところが俺の財布の不安を感じさせるんだよな。
昨日飲み過ぎて二日酔いの舞を部屋に残し俺はギルドに挨拶をしに来た。
少しの間とはいえ普段お世話になっているし留守にすることは
告げておくべきだろうっと思ってきたのだが・・・。
「どーゆう事ですかアンネさん」
「見て分かりませんか?我がギルドが啓太さん達のお陰で生まれ変わったん
です!!!」
今にも潰れそうな見た目だったギルドは立派な二階建ての建物になっていた。
「俺達のお陰って特にギルドに大金の入るような仕事してないですけど」
「先日啓太さん達にお願いした尾行のお仕事で啓太さん達にお渡しした報酬は
ほんの微々たるお金で、捕まえた指名手配犯の懸賞金、お城からの特別報酬
などなど・・・それを受け取った結果がこれという訳です!!!」
なんというブラックなギルドなんだ。
最近優しかったからすっかり忘れていた、俺達はこのギルド専属の冒険者で俺達が
受け取った報酬のほとんどがこのギルドの運営費になるのだ。
「舞を連れてこなくて良かったです」
「啓太さん達にも今後メリットが無い訳ではないんですよ?」
そう言うとアンネさんは一枚のチラシを見せてきた。
「啓太さん達もお引越しが出来る事になりました~」
「おぉぉ!どんなところになるんですか?もう舞と同じ部屋は嫌なんですけど」
「それはお楽しみという事で」
お楽しみが多い、めんどくさいなこの人。
「じゃ楽しみにしておくとして、俺達何日か旅行することにしたので引越しは
帰ってきたからでお願いします」
アンネさんは旅行という言葉を聞くと小さめの袋を取り出してきて。
「お土産お願いしますね」
っとニコっと笑ってお願いしてきた。
「旅の安全がお土産ってことで、それでは行ってきます」
そう、この安全というお土産は結局のところ渡せなかった。