第六話 男は女性の過去を聞きたがる
最近色々ありお金に少しばかり余裕が出来て、朝からコーヒーなんて
飲めちゃう生活が出来ている。
冒険者なんていう形だけの、言わば日雇いの労働者の身なのだがコーヒー
位の贅沢は許してほしい。
「ねぇねぇ」
そして朝のパンは俺に生きる活力を与えてくれる源だ、このパンと
コーヒーを組み合わせる事によって
「ちょっと聞いてるの??」
今日も一日頑張ろうという気になれるというも
「啓太ってば!!人の話聞きなさいよ!!!」
「うるせぇぇぇぇぇ!俺は貴重な朝の時間を優雅に楽しんでるんだから
ほっといてくれよ!!」
まったく本当に空気の読めないやつだな。
「何よ、貴族は貴族でも落ちぶれた独身貴族にしか見えないわよ」
もはや俺はこんな事では怒らないところまで寛大になっている。
「そんな事より啓太、最近何か歩いてる時違和感を感じない?」
「お前ってば最近流行りの自信過剰ってやつじゃないのか?」
「違うわよ!私の第六感が何かを訴えかけてくるのよ、舞ちゃんあなたが
美しいのは分かるけど何かが迫ってるわって」
第六感という名の気のせいってやつだろ。
コイツじゃない他の誰かが忠告してくれたら気をつけようってなるのだが、なぜか
どうもコイツに言われると腹立つ。
「じゃ今日はクエストに出かけるからとりあえずお互い何か感じたら
報告するって事で良いんじゃないか?」
「分かったわ、啓太なんかが気付くとは思えないけど何かあったらいち早く
報告してよね!!」
俺はコイツの中でどんな扱いなんだろうか。
「後お前クエスト途中で使いこなせもしない魔法使って気絶すんのは止めてくれ
よな、はっきり言って迷惑だから」
舞は目が覚めてから降りようとしないベッドの上で喚きだした。
「分かってるわよ、大体あんな撃っただけで疲れる魔法使いたくないわ。私が
覚えるべき魔法はもっとスタイリッシュな魔法よ」
スタイリッシュな魔法とは一体・・・。
俺としては魔法が使えることを自慢してこなくて有り難いのだが。
そもそもよく考えたら普段昼過ぎまでベッドから降りない、ご飯は
男以上に食べる、ワガママ、そして鬱陶しい舞があんな見るからに攻撃力の高い
魔法が使えるなんて何かおかしいよな。
舞は俺と同じ元ニートだけど実はすごい奴じゃないのか?
「お前ってニートになる前って何してたんだ?」
「何よ啓太私の過去が気になるの?男は皆女性の過去を聞きたがるのね」
舞はベッドから降りてコップに入れた水を人差し指でクルクルかき混ぜだした。
「じゃ私の神々しい出生の秘密から話しましょうか」
「いや、なるべく手短に高校生くらいからでお願いします」
コイツが産まれた時から話すと本当に日が暮れてしまう。
「高校生の頃は皆と一緒で部活に明け暮れてたわね」
部活か~俺は入ってなかったが。
「何部だったんだよ」
「掛け持ちしてて一つは空手部よ」
どうりでこの前次々と悪さする奴を捕まえれた訳だ。
「空手部の方では全国大会に出場したりして活躍してたのよ、どう?
すごいでしょ?」
「すごいな、その空手をモンスターに使えればもっと褒めてやるとこだけどな」
「何よ、今ここで披露してあげても良いのよ?」
「ご遠慮願います、もう一つは何だったんだよ」
舞は急に椅子の上に立ち上がった。
何かとても嫌な予感がする。
「よくぞ聞いてくれたわね、実は空手部というのは仮の姿、私が心から
情熱を注いでいたのが魔法少女研究会よ!!」
うわぁ、俺が同級生なら間違いなく関わりたくない研究会だ。
「それどんな事するんだよ、というかよく先生が許したな」
「自分たちがどんな魔法少女になりたいかや魔法を使用するにあたってのポーズ
の研究だったり、でも一番の活動内容はアニメ鑑賞よ」
それお前がニートの頃に毎日していた事じゃないのか。
「そんな活動内容の研究会どうやって先生を説得したんだよ」
「私、生徒会長もやってたから説得なんて容易い事だったわ」
なぜその行動力を違う方へ向けられなかったんだ。
「とりあえず着替えてギルドに行こうな」
「なに?何で涙ぐんでるのよ?ねぇちょっと啓太?」
俺はコイツを真っ当な人間にしようと心に誓った。
春が過ぎてこっちにも夏と思わせる季節がやってきた。
夏と言っても日本より気温は低くかなり過ごしやすい気温だ。
そう生活をするにあたっては問題ないのだが、舞が言った通りどうも
誰かに見られてる気がする。
舞の部活の話を聞いて家を出た時は誰も着いて来てなかったと思うのだが、これは
もしかしてファンというやつじゃないのか?
そうか・・・俺のもとうとうファンが出来ちまったか、いやまぁ最近冒険者っぽく
なってきたと言えばなってきたし。
だとしたら憧れの対象である俺から探して話しかけるというのは野暮というもの。
「舞・・・俺人気者になってしまったよ」
「何言っちゃってんの?頭大丈夫?」
ふっ・・・後から慌てても遅いぞ舞、おっとギルドに着いてしまった。
じゃまずはクエストでも吟味するとしようか。
「今日のクエストは・・・何かロクなのが無い気がするんだが」
クエスト掲示板にはペットの捜索や長期留守にするので留守にする前に家の掃除を
手伝って欲しいとか雑用ばかり。
「私こんなクエストやりたくないんですけど」
俺もやりたくない、こんなクエストじゃ俺のファンに良い所が見せられない
じゃないか。
俺達がクエストに愚痴を言っているとアンネさんが申し訳なさそうに話
掛けてきた。
「すいません、実は啓太さん達が先日クエストを完了してから通常なら発生しない
モンスターが大量に発生してまして。ギルド側で今お城の騎士団に応援を頼んで
処理してる最中なんです」
つまり駆け出しの俺達じゃクエスト中に死んでしまうレベルのモンスターしか
いないからこんな内容のクエストしかないという訳か。
「でも何とかならないですかね?この内容のクエストじゃうちの暴君が暴れ
ちゃいますよ」
この世界に来て何日か経つが、うちの暴君の名前をだすとなぜか割と何とかして
くれるのだ。
「あるにはあるんですが・・・」
ほら何とかなった。
「この王都から少し離れたところに街があるんですけど、その街まで届けてほしい
物があるんです」
「届ける物ってなんですか?怪しい物なら嫌ですよ?」
聞かれちゃマズイ物なのか自然とアンネさんの声が小さくなる。
「それがドラゴンの卵です」
「食用ですか?」
「違います、今国王様の命令によりドラゴンを戦いに利用できるよう育てようと
いう事になってまして。このドラゴンを隣街の調教師のとこまで運ぶのが
クエストの内容です」
「それだけ聞くとただのお使いに聞こえるんですけど、何か問題があるん
ですか?」
俺が住んでる王都は割と大きいからまだ他の街に行ったことがない、むしろ
楽しみ感じるんだけども。
「実はドラゴンの兵器化は極秘事項だったんですけど情報がどこかから漏れまして
、なんて言うかドラゴンの卵に懸賞金がかかってるんです。持ってると狙われ
ちゃうんですよね」
「お断りします」
無理だ俺達の手に余る、狙われるとかそんな怖いのはこの世界に求めていない。
「じゃ分かりました、ドラゴンの卵は運ばなくて良いので隣町までドラゴンの
卵を運ぶ兵士を尾行してください」
尾行という中二っぽい響きにそれまで何の興味も示さなかった舞が食いついた。
「やるわ、このスパイマスターと言われた私にかかれば朝飯前よ!」
舞に火が点いてしまった以上断れない雰囲気になってしまった。
「報酬はどのくらいになりますかね?うちのスパイマスターがやる気みたいなんで
報酬しだいで引き受けます」
内心俺も尾行という響きにときめいたのは内緒だ。
「二十万レイズでどうでしょうか?」
「よし僕達に全て任せてください、完璧にクエストをこなしてみせます」
二十万レイズなんて大金、やらない訳がない。
それだけの大金があれば働かなくて済む。
「それでは明日の午前十時にギルドで作戦会議をしますので、また明日ギルドまで
お越しください」
「了解しました」
こうして俺達の尾行という名の金儲けが始まった。