第三話 初級魔法
非常に重大な問題に俺達は直面している。
俺達はかれこれ数十分悩みに悩んでいる。
初クエストで稼いだお金で晩御飯を食べようと俺達は酒場に来た。
お互いゲームが大好きで、異世界に来たらやっぱり酒場に行くだろう
という話になり来てみたのは良いが料金を見てビックリ。
日本で見知った料理名が無く、何を頼んで良いか分からないし何より
予想の値段よりどれも割高で、今後の事を考えると一品で空腹が
満たされる物しか頼めない。
そんなこんなで俺達は酒場のメニューを長い時間眺めてるという訳だ。
「おい、いい加減何か頼もうと思うんだが決めたか?」
舞はもうメニューに顔を引っ付ける勢いで考えている。
「私はね~このバーニングチキンカレーを頼むわ。あと麦酒」
お、酒を飲むのか。
飲み物は飲みたいし、命の危険があった訳だし飲まなきゃやってられない
というのが本音だ。
「じゃ俺は爆走牛のサクサク揚げにしよう。あと俺も麦酒」
店員と思わしきメイドに注文をし緊張交じりで待機する。
今日見たモンスターを見ると料理に使われる食べ物に不安しかないが・・・。
「お待たせしました~バーニングチキンカレーと爆走牛のサクサク揚げです。後
麦酒お二つです」
「お~緊張して待ってたけど牛カツとカレーじゃないか、しかも見た目からして
美味そうだな!」
運ばれてきてから唾液が止まらない、肉厚の牛が茶色くキメ細やかな衣に
包まれて、何かもう美味そうだ。
「ねぇちょっとお願いがあるんだけど啓太さん」
いきなり下手にきて気持ち悪いな。
「なんだよ、俺はこのサクサク揚げを口に運び麦酒で胃に流し込む作業で
忙しいのだが」
「その最高に美味しそうなサクサク揚げを一切れ欲しいんですけど」
あ~、カツカレーにしたいのか。
「良いけどその代わりカレーもちょっとくれよ?」
舞にサクサク揚げを渡し、俺も赤くスパイスの効いたカレーにサクサク揚げを。
口に入れた時は良かった、サクサク揚げがカレーと合わさり噛むたびに
肉汁とカレーが口の中でとろける。
だがその美味さの数秒後、口の中が針で刺されたように痛くなってきた。
「イタ、イタタタタタ、イッテ!!!!なんだこれ!?!?!?」
俺が口を押えて痛がってる姿を見て舞がポカンとしている。
「なに?啓太辛いのダメなの?ったく子供ねぇ。カレーは最高に辛くないと
カレーって言わないのよ、そのダメな脳みそに刻みなさいよね」
この馬鹿の、俺に対する中傷は一先ず置いといて辛さが尋常じゃない。
口の中のあらゆる部分を針で刺されてるようだ、もはや感覚が無くなってきた。
俺はキンキンに冷えた麦酒を飲み干し、もう一杯注文した。
疲れた身体に先ほどまで染み渡っていた麦酒も口の中が痛すぎて味も何も
感じないのが残念だ。
何とか痛みが無くなって喋れるようになった俺は今後の事を舞と話し合う事
にした。
命の危険があったがそんな事はこの世界ではむしろ当たり前で、毎日
何かしらクエストをこなさないとお金が無い。
「明日もクエストに行こうと思うんだが明日は俺が選ぶからな、今日みたいな
探索じゃなくもっとお手軽にこなせてお金になるクエストを受けるぞ」
激辛カレーをペロリと平らげて満足顔で麦酒を飲んでいる舞はいきなり
泣き出した。
「わ、私だってね・・・こんな事になると思ってなかったし・・・わあぁぁぁ」
こ、コイツ酔っぱらってやがる、もはや会話にならない。
俺は勘定を済ませて舞をおんぶし仕事初日を終えた。
朝目が覚めると横で二日酔いで死にかけてる舞を部屋に残し俺は街に出た。
何か目的がある訳では無いけど、こっちに来てから街をゆっくり見れていなかった
から観光みたいな感じだ。
流石に王都というだけあって市場なんかはすごい賑わっていた。
トマトやジャガイモという野菜は普通だが、魚が妙に気持ち悪い。
角が生えてる小魚や俺より身長の大きい翼の生えた鯛みたいな魚なんかもいる。
こんなの売れるのかよ、いやこの世界では俺の想像してる魚の方が異常なのか。
市場を抜けてぼーっと歩いていると城の近くまで来てしまった。
城は近くで見るとより一層大きく見える、城の門を見ると門番の兵士が
朝早くから真面目な顔で門番をしている。
「おはようございます、朝早くから大変ですね」
物珍しさから話しかけてしまった。
「うむ、おはよう。見ない顔だな、名を何と言うのだ?」
「啓太と言います。こんな朝早くから門番をする必要あるんですか?この街は
結構平和な気がしますけど」
俺がそう言うと門番の兵士はガハハハッと大きく笑って見せた。
「確かに平和だ。魔王も滅び、平和になってから人々は気持ちが豊かになり
犯罪率も低くなった。だが俺が門番をしない理由にはならない、俺がここにこう
して門番として居る事が重要なのだ」
確かにそうかもしれない、真面目に仕事をしている姿を見せると城に何かしようと
考える馬鹿も少なくなるだろう。
「何年か前に門番の仕事をサボって朝から酒を飲む不届き者が居てな、門の中に
侵入されてしまってな」
「大変じゃないですか、その侵入した奴はどうなったんですか?」
「何てことは無い。侵入者は子供だったのだ、子供も悪気は無かったみたいだし
お咎めは無かった。だが門番の兵士達の気が緩むのは俺の責任だ、だから俺が
こうして皆の模範となり気を引き締める事にしたのだ」
何という門番の鏡のような人だ、市民の事だけでなく部下の事まで
気遣える尊敬しかできない。
「かっこいいですね、俺も見習います」
心の中で、朝から二日酔いで喚いていたあいつに爪の垢でも飲ませたいと
思いながら俺は真剣な顔で敬礼した。
「うむ、精進したまえ」
門番の兵士と別れ俺は自分の家に戻る事にした。
舞の奴いい加減起きてるかな、市場で何か食べれそうな物を買って帰ってやろう。
朝ごはんはパン派の俺は市場の屋台で買ったジャンピングピッグの生ハムサンドを
二つ購入して家に戻ってきた。
「啓太遅いわねどこほっつき歩いてたのよ、早く用意してギルドに行くわよ」
つい数時間前まで頭を押さえて死んでいた奴とは思えないな、さっきの
門番さんとチェンジしてほしい。
「お前の為に朝ごはん買ってきてやったんだよ、しかし何でそんなにギルドに
行きたがってんだ?昨日はもうクエスト行きたくないって言ってたろ」
サンドイッチを渡すと朝はご飯派なのよねと抜かしているがそれは無視しよう。
「さっきアンネが来てね今日はインストラクターが来てくれるらしいのよ」
あぁ、魔法を早く教えてほしいから元気になってたのか。
どんな人が来るんだろう、テレビで見る某元スポーツ選手みたいな熱血系は
勘弁してほしいのだが。
ぶつぶつ文句を言いながらもあっという間にサンドイッチを食べた舞と
一緒にギルドに向かった。
「私が魔法を使えるようになったらクエストでバンバン活躍してあげるわ」
「お前みたいな馬鹿が覚えれる程度の魔法なら俺も使えるよ」
うるさいわねと俺の背中にパンチしてくる馬鹿を無視していたらギルドに着いた。
ギルドの前に着くと茶色いローブに身を包んだ人が俺達を見つけておどおどと喋り
かけてきた。
「あ、あの・・・あなた達が新しい冒険者の方々ですか?」
うつむいていて顔が見えないが透き通るような、心に染みわたる綺麗な声だ。
「そうですけど、もしかして俺達に戦い方を教えてくれる方ですか?」
「はい。ギルドに依頼された来たティアナです」
そういうと彼女はゆっくりとローブを脱いだ。
やっと見せた素顔は目がパッチリと大きく宝石のように綺麗な瞳をしていて
鼻は高く筋が通っていて口は大きくも無く小さくも無く潤っていて、もう
女性として完璧な顔立ちで髪は艶がありサラサラの黒髪ロング。
「結婚してください」
気付くと俺はそんな事を唐突に告げていた。
後は返事を待つだけというのに舞がずっと俺の名前を呼んでいる。
悪い舞、俺はこの美しい女性と結婚するんだ。
「啓太ちょっと啓太アンタ何言っちゃってんの?頭おかしくなったの?」
「なんだお前空気読めよ、俺は今お前なんかに構ってあげる余裕も時間も無い」
ったく、今頃俺の事が好きになったのか遅すぎたな・・・もうこの恋は
止まらないんだ。
「話聞きなさいよ啓太、この人この国のお姫様よ。アンタみたいなクソニートと
結婚してくれる訳ないじゃない現実見なさいよ」
ん・・・?確かにこの美しい女性どこかで見たような。
「もしかして昨日の冒険者講習で紹介されてたお姫様のティアナ様???」
「はいそうです、講習で紹介されたかは存じ上げませんが。なので婚約の申し出は
一度お城に戻ってお父様にご相談しないと・・・」
やめてくれ、いきなり姫にプロポーズしたと耳に入ればどうなる事やら。
運が悪ければ殺されるんじゃないのか?
「もし宜しければ婚約を辞退さしてください」
俺がそう言うとティアナ様はいきなり笑いだして
「冗談ですよ、さっきの言葉は聞かなった事にいたします。そんな事より
さっそくですが訓練をしましょうか」
俺のプロポーズが失敗したのを見て腹を抱えて大笑いしている舞と一緒に
街の外の草原に移動した。
「それではまず初級魔法からやってみましょうか、見ててくださいね」
ティアナ様は右手を前に出して大きく叫んだ。
「トイフレア」
すると右手からライター程度の火が火花を上げて飛び出した。
俺はバケツで落ちた火を消火する。
「すごい、すごいわ!!どうやるの?ねぇどうやるか教えなさいよ!」
仮にもお姫様だというのにいつもと変わらない態度を取るなんて
コイツ本当にすごいな。
さすがの優しいティアナ様も苦笑いだ。
「まず私と同じように右手を前に出してください、そして身体に流れる血液が
燃え上がり熱くなるのをイメージして・・・」
舞も言われた通りに右手を前に出して珍しく集中している。
「そしてそのイメージを右手に集中させて呪文を叫んでください」
「トイフレア!!!!!」
手が赤く光、一気に火が飛び出た・・・後ろで真似してた俺の手から。
「ねえぇぇぇぇ何でアンタに出来て私に出来ないのよぉぉぉぉぉ!?」
そう叫びながら舞は俺の足に蹴りを入れてくる。
「どうやら俺の方が魔法の才能があるみたいだな」
舞は相当の負けず嫌いなようで俺に先を越されたのが余程悔しいらしい。
「見てなさいよ、今日は私が魔法出来るまで帰らないからね!!」
「分かったよ、付き合ってやるから晩飯までに終わらしてくれよ?」
そんなにかからないわよと張り切る舞を見守りながら、俺達の初めての訓練は
深夜まで続いた。
続きは日曜日に投稿する予定です。