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第二十九話 頭の悪そうなギルドマスターよ!

新しいギルドの外観を見て改めて思うが、やっぱりあの頃の今にも潰れそうな

ボロさが親近感というか落ち着きを感じて良かったのになあ。

今の外観は金持ちのギャングとかが住んでそうな感じがして悪趣味に思う。

この街にギャングなんて住んでないけども。

取り合えずボス、じゃなくて社長に挨拶しておくか。

「社長おはようございます、今日って何人くらい面接に来るんですか?」

アンネさんはコーヒーを飲みながら、俺にはよく分からない書類に目を通してい

る。

俺に気付いてるのに俺の方を見ないのは、目を通しているのが重要な書類なのか

なんなのか・・・昔のアンネさんはもう居ない。

「すいませんちょっと今立て込んでで、面接は二階のレストランスペースで行いま

す。面接人数はざっと二十人位ですね」

二十人か・・・二十人と聞くと少し多い気もするが、まだ見ぬ可愛いパーティーメ

ンバーを発掘するには我慢するしかない。

俺はアンネさんから受け取った面接の手順という薄い本見ながら思わず笑みを

溢す。

「張り切るのは良いですが、ちゃんと履歴書をよく見て判断してくださいね。うち

は有望な冒険者にしかお金は出せませんので、雑魚を温かい目で見守る余裕はあり

ません」

社長の辛辣な口ぶりに身体が硬直する。

俺は蛇に睨まれた蛙かよ、まだ何もしてないのに謝りたくなったわ。

「人を見る目はあるつもりなので頑張ります」

一応俺人見知りだしな。

「一人目の面接者は後十分もすれば来ますので、下で待機していてください」

待機とは言っているが、要するにあっち行けって事だよな。

そう言われて俺はまだオープン前のレストランスペースで置いてあった机を移動し

、椅子と飲み水を用意する。

可愛い女の子をパーティーメンバーにしたいという目的だけでここまできたが、少

し緊張してきた。

思えば人間の底辺として生きてきた俺だ、そんな俺が誰かの人生を左右するかもし

れない立場になるなんて思いもしなかったなあ。

むしろ緊張感は持っていなければならないのか、それとも軽快な会話術を心掛けた

方が良いのか。

「す、すいません、面接に来たんですけど」

もう来たのか!まだ心の準備が出来てないのに。

声の方を見ると、階段を上って面接に一番乗りして来たのは、年端も行かない少年

だった。

髪はボサボサで服も継ぎ接ぎが目立つ、きっと恵まれない子供なんだな。

これは真摯に向き合わなければ。

「ようこそ冒険者面接会に、こっちの椅子に座ってくれ」

俺は緊張で目を涙ぐませている少年を手招きし椅子に座らせる。

「ではまず簡単な自己紹介をお願い出来るかな?」

「はい!僕はジローと言います、歳は九つになったばかりです」

元気よく返事をしてたどたどしく名前と年齢を言うジロー君。

ジローか、日本に居そうな名前なだけに少しだけ親近感を感じるな。

「ジローさんね、冒険者を志した理由を聞いても良いかな?」

この質問は面接ではよく聞かれる質問内容だが、冒険者という職業になるうえで

割と重要な質問だ。

なりたい理由が弱いと、いざモンスターと対峙した時に恐怖や緊張で、最悪の

場合命を落とす危険性もある。

逆に信念が強いと、どんなモンスターに遭遇したとしても気持ちで負ける事はなく

冷静な判断が下せる。

「理由はお母さんとお父さんに楽をさせてあげるためです、僕の服装を見てお気づ

きと思いますが家が貧乏で、少しでもお母さんとお父さんに美味しい物を食べさせ

てあげる為に冒険者になってお金を稼いぎたいんです!」

健気だ・・・、今すぐに採用と言いたいレベルで健気だ、だがちょっとまだ気にな

る部分がある。

「では最後の質問だけど、どんな冒険者になりたいですか?」

そんな俺の質問に目を輝かせるジローが。

「凶悪なモンスターを倒して皆を安心させれる、そんな英雄の様な冒険者になり

たいです!!」

冒険者を志した理由も、どんな冒険者になりたいかも模範的な答えだ。

俺や舞の様な異世界に来たんだし、お金も住むとこも無いし冒険者やっとくか!

みたいな適当な理由ではなく、家族の為や市民を守る為と。

素晴らし過ぎて泣けるぜ・・・だが・・・。

「すまないが君は不合格だ、今日はもう帰って冒険者じゃない他の仕事を探してく

れ」

不合格という結果を聞いて涙を隠し切れないジローが声も出せずにこちらを何故

という顔で見ている。

そうだよなショックだよな、俺も採用してあげたい気持ちでいっぱいなんだ、だか

らそんなウルウルの目でこっちを見ないでくれ。

「君には酷な話かもしれないが君の為に言っておく、この世界は君が思ってる程危

険なモンスターなんてもう生息していないんだ。いや、危ないモンスターは居るに

は居るんだが商店街のおじさんが本気で戦えばきっと倒せる程度のモンスターなん

だ。他に冒険者の主な仕事の犯罪者を捕まえたりする仕事もあるが、ジローの年齢

ではそっちの方は役に立てない、すまないが冒険者は諦めてくれ」

知りたくも無い現実を知って青ざめた表情を見せるジロー、きっとドラゴンを倒し

たりお姫様を救出したりと夢を見た事だろう。

分かるぞ!俺も見たからな。

ジローは服の裾で涙を拭き、俺に笑顔を向けて。

「分かりました、今日はありがとうございました、これから市場に行って自分でも

働けそうなお店を探してみます」

「ああ、そうしてくれ、ホントごめんな」

ジローを入り口まで見送ってから堪らず机に突っ伏す俺。

面接の一発目がこれとは精神が持たないぞ。

「面接に来たサラでーす、さっそく面接お願いしまーす」

・・・もう二人目来たのか。


「ちゃんと上手くやってるか様子見に来てあげたわよって、面接するだけで何で

そんなに疲れてるの?」

俺がどれだけ精神をすり減らしたかも知らずに能天気な奴め。

いや、今は舞のこの能天気ささえも癒しになってるかもしれない。

「そりゃ疲れるさ、この街の人達が冒険者という職業に夢を見過ぎていて、現実

をいちいち説明しないといけないのが辛い」

何人に不合格を伝えたのか、もう記憶も微かだ。

「それはさすがの私でもお疲れ様と言いたくなるわね、そういえばギルドに入る時

強そうな人がこの世の終わりみたいな顔で降りてきたけど、あの人はどんな理由

だったの?」

「きっと騎士団を辞めて来たヘインズさんだな。毎日訓練と街の見回りで飽き飽き

していたんだと、そして冒険者募集の張り紙と給料もそこそこ良いから奥さんを必

死に説得して、やっとの思いで許しを得たらしい」

「そんな人をなんで採用にしなかったのよ!?元騎士団ならモンスター狩りの

クエストとか率先してこなしてくれそうじゃない!」

確かに舞の言う通りだ、騎士団に入団出来るのだから剣の腕前は相当なものだ

ろう。

その剣術をもってすれば街周辺の畑に害をなすモンスターなんて瞬殺だ、だが。

「ヘインズさんの奥さんは今お腹の中に子供がいるんだ、そんなお父さんになる

人が安定しない給料の冒険者になってどうする。確かにモンスター狩りで剣術は

披露出来るだろうが、この時期の一回のモンスター狩りのクエスト報酬千レイズ

だぞ?」

「それは元気に産まれてくるであろう子供が心配になるわね、断った啓太の

勇気ある決断を尊重するわ」

「普段横暴なお前でも、今日はそう言ってくれると思っていたよ」

「ちょっと待って、今私の耳に聞き捨てならない言葉が飛び込んできた気がするん

だけど?ねえ、ちょっと何で無視するの!?」

そう文句を言いながら俺の首元を締めに掛かる舞を引き剥がしていると、階段を

登ってくる足音が。

「ほら次の面接者が来たんだから早く離れろ!冒険者面接会場へようこそ」

舞を引き剥がし階段を上がって来るであろう面接者の方を見ると、誰も来ない。

あれ?俺の聞き間違いだったか?確かにコツンコツンって聞こえたんだが。

「大丈夫かい?麗しいお姫様、男に乱暴されていたようだけど」

片手で舞の手を握り、もう片方の手で舞の頬を優しく撫でる金髪エルフの男性。

「センスの欠片も無い店だから入るのを一瞬躊躇ったんだが、まさかこんな所に

美しい薔薇が咲いていたなんて・・・これはまさに運命の赤い糸が結ばれた瞬間

というやつだね」

何言ってんだコイツ気持ち悪いレベル百だな。

気道悪いエルフの餌食になった舞はここからでも分かる程に鳥肌が立っている。

「あの面接に来たんですよね?席に座ってもらえますか?」

「そうだった、僕は面接に来たんだった!待っててね子猫ちゃん、すぐに終わらせ

てくるからね」

薔薇なのか子猫ちゃんなのか設定をはっきりさせろよ。

あまりの気持ち悪さに舞は固まってしまってる、今日はもう使い物にならないだろ

う。

「ではまずお名前と年齢をお願いします」

まあ大体の事はシルフィさんから聞いているんだけども。

膝を組みなおし、どこから出したんだか興味も無い花の香を嗅ぎながら。

「僕の名はシルファだ、イケてない君には分からないだろうが二百五歳だ、だがそ

んな数字に意味は無い。僕は女の子を過ごした分だけ成長するんだ」

「二百歳越えてるんですね、結構お爺さんじゃないですか、あと女の子と過ごし

らどうとか言ってましたけどご病気なんですか?」

「病気ではない、言ってしまえば愛・・・かな」

それは愛と書いて病気と読む、新種の病気じゃないだろうか。

俺の疑問は尽きないが気にしてると日が暮れる。

「では冒険者を志した訳をお話ください」

「よくぞ聞いてくれた頭の悪そうなギルドマスターよ!」

椅子の上に立って演技を交えて話だすシルファさん。

何のミュージカルだよとツッコミたくなるが、話が長くなりそうなので無視する。

そうだ机の木目の線でも数えよう、木目が一本・・・木目が二本・・・。

「僕は今までの人生を女の子の為に生きてきた、女の子に優しくし温かい目で

見守り最後はお近づきになり口説く。その人生は素晴らしいものだったのだが

ふと最近気づいたのだ、女の子に優しくするだけではダメだ、男たるもの守る

存在でなければならないと」

木目にも色々あるんだなあ、この五十本目の木目の色気ったら尋常ではない。

「そしてこの街の女の子を守る為に自主的に巡回していた時だ、冒険者なるものを

募集してると紙に書いてあったのでな、僕が行けば無条件で合格なのは間違いない

のだが、形式的でも面接は受けるべきだと思いこうして来たのだ」

やっと演説が終わったか、危うく七十二本目の木目さんと恋に落ちる所だった。

「そうですか、シルファさんでしたっけ?不採用です、気をつけてお帰りくださ

いね」

いきなりの不採用に驚きを隠せないシルファさん、俺からしたら合格になると思っ

ていた考えに驚きを隠せないのだが。

「どうしてだ!?僕がかっこよすぎるからか?それとも僕がかっこよすぎるから

か?」

何でその二つしか選択肢がないんだよ、その選択肢しかないならどっちを答えても

不正解にしかならないじゃねえか。

「だってシルファさん魔力皆無でしょ?」

「な、なぜそれを!?」

さっき気づいたが、何を隠そうこの人魔力が皆無なのだ、魔力が高く攻撃魔法が得

意なエルフなのに。

シルフィさんはエルフの中でも高い魔力を保持しているらしい。

もしかしたら姉が優秀だから劣等感を感じて無職になってしまったのかも。

そんなどうでも良い事は置いといて。

「俺はギルドマスターですよ?魔力の感知ぐらい産まれてからずっと使えますよ」

全くの嘘だ、本当にここ最近使えるようになった。

魔法の扱いが一定を越えると魔力の強さを感じ取れるらしいのだが、俺もそろそろ

使えるとの事なので、何に役立つか分からないがティアナ様に教えてもらった

のだ。

まさか面接でこの能力が役立つとわ。

「ふふふ、気づかれてしまったのなら仕方ない。今日は大人しく帰ろうじゃない

か、だがまた俺はこのギルドに戻って来るぞ!ファッションセンスの欠片も無い

ギルドマスターよ、む、窓の外に子犬みたいに目を潤ませた少女が!僕はもう

行かなくてはならない!!」

戻って来るのかよ、もう来なくていいよ、面倒くさいよ。

シルファさんは高らかに笑い声を上げてギルドを飛び出していった。

外の方から女の子の悲鳴とビンタに似た音が聞こえたが、きっと気のせいだろう。

今度来たらシルファと呼び捨てにしてこき使ってやる。

「すまない、ここで冒険者の面接を行ってると聞いて来たんだが、ここで合ってる

だろうか?」

「ここで合ったますよ、そこの席に座って・・・くだ・・・さ・・・い」

最後の面接者が来たようだが、俺は目を見た瞬間絶句した。


「厳しく審査しろと言ったのは私ですが、合格者が一人って厳し過ぎたんじゃない

ですか?それに合格者が五十歳を越える男性って、大丈夫なんですか?クエスト

受けれるんですか?」

今回面接に来たのは二十人、その内の十九人は不合格にせざる終えなかった。。

「大丈夫なんてもんじゃないですよ、その人と目を合わした時あまりの魔力の強大

さに気絶しかけたんですから。理由は何でも最近ビスマスに引っ越してきたばっか

りで仕事も無いという理由でしたが、俺はちゃんとクエストも問題なくこなせると

思います」

最後に来た白髪交じりのおじさん、名はラーシュ・ライネルという名前で凄まじい

魔力もさることながら、細身なのに身体も引き締まっており俺はこの人に勝てない

と直感で分かる程の男性だった。

「ライネルという名前・・・どこかで聞いたような。まあ良いです、啓太さんがそ

こまで太鼓判を押すなら構いませんが、もし使えない雑魚ならすぐにクビにします

からね」

「分かりました、ラーシュさんにも伝えておきます。では今日はこれで帰ります」

もしかしたら使えなくてクビにされるのは俺かもしれない。

頑張って剣の稽古をしようと心に決めた。

ギルドの外に出ると舞が太い木の棒に釘を打ち込んだお手製の釘バットを持った舞

が。

「あれ?もう面接終わったの?じゃあ私に付き合いなさい!あのセクハラ金髪クソ

エルフを探すわよ、軽々しく私に触れるなんて・・・血祭りにあげてやるわ!!」

目を血走らせて、相当頭に来てるんだな。

俺は舞の肩を軽く叩き。

「シルフィさんって人の家に居ると思うぜ!」

その後暴漢に襲われたと言うシルファが警備兵に助けを求めたのは言うまでもな

い。

もし宜しければ評価の程よろしくお願い申し上げます。

寒くなりましたね。

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