第二十七話 ・・・帰ろっか
階段を降りながら壁をよく見ると、昔の人が描いたのかもしれない文字だったり
壁画だったりがびっちりと描かれてた。
魔王軍との戦争について描かれているのか、はたまた魔剣をここに持って来た人達
が好奇心でやったのか・・・何にせよ長く見ていると妙に不安感を煽ってくるが、
ダンジョンっぽくて正直ワクワクする。
だがこういった古代遺跡のような場所には強いモンスターがボスとして待ち構えて
そうなものだ。
「舞さん、何かあったら頼みますよ?」
「何かって何があるって言うのよ、ここまで来たら後は魔剣を頂いて帰るだけの簡
単なお仕事じゃない」
そうかなあ、そうだと良いんだが、何かあったら舞にお願いしよう。
帰りが心配になる程の階段を降りると、これまた階段に描かれていた壁画と同じ様
な絵が描かれた石の扉が。
「雰囲気のある扉ね・・・でもここまで来たんだから怖気づいてられないわ」
俺が異議を唱える暇も無く舞は石製のドアを蹴破った。
もうちょっとパーティーのリーダーである俺の意見を汲み取って欲しいと、俺は
声を大にして言ってやりたい。
俺の意志とは全くそぐわない形で開けられた扉の先には、コロッセオを思わせる様
な大きな闘技場が広がっていた。
もしここに冒険者が大人数居れば冒険者最強トーナメントでも開催されそうな感じ
だ。
まあ冒険者が俺達意外に居ればの話だが。
「私コロッセオなんて行った事無いけど、どうにもウィザードの血が騒いで一勝負
とでも言いたくなるわね」
舞はそう言いながら拳をごきごきと鳴らす。
「だからお前のウィザードとしての職業像どうなってんの?」
「もちろんウィザードたるもの文武両道を極めようかと思ってるわ、これでも毎日
色々勉強してるのよ?」
何の勉強したらそうなるんだよ、もしかしてバーサーカーの勉強してるのか?
「いやだから文は良いけど武はいらんだろ、魔法詠唱をしながらグーで殴り掛かっ
てくる魔女っ子なんていないだろう」
決闘が行われるであろう中央の空間を歩きながら、コイツが勉強する時に読んでる
本を家に帰ったら確認しようと心に誓った時。
「ふはははは!!強大なる力を求めるは貴様らか?」
決闘の際に決闘士が出て来るであろう通用口から、重そうな鎧に身を固め、俺達の
身長を優に超える大剣を携えた男が俺達の高笑いを上げながら歩いて来た。
見るからに強そうなその男は背中の剣を抜いて地面に突き刺し、左手は顔に当て右
手は左脇腹に当てるという、何とも中二臭いポーズを決めながら。
「我はこの決闘場の支配人にして決闘場最強の剣士バルス!」
バルスとか名前を呼ぶ度に滅んじゃいそうな名前だ、もういっそ今呼んでみたく
なっちゃうな。
「我との闘い勝利すればこの世の誰もが抗えないような最強にして最悪の力を貴様
ら与えよう・・・ふはふはははは!!!」
かっこいい・・・ボスを務める者としてこれ以上なく、闘いを開始させるには申し
分ない台詞だ。
その中二病全開ポーズが無ければな・・・。
「この私を差し置いて最強を名乗るなんて良い度胸ね、良いわ。このビスマス最強
かもと言われてる舞さんが相手になるわよ!」
「いや、最強って言われてないだろ?何で嘘吐いたの?」
そんな当然の疑問を無視して舞は俺の方をジッと見つめて顎で何かを指図する。
俺もジッと目を見て一瞬で何を求めてるのかを理解する。
もう長い付き合いだもんな、未だに理解出来ない部分が多いがお前の言いたい事理
解したぜ!
俺はハイタッチが出来るように右手を静かに上げ、かなり渋めの声を出しながら。
「俺はお前が勝利する姿がもう目に見えてるぜっ!」
決まった。
俺的には仲間を送り出す時に言われたい台詞第三位くらいの決め台詞だ、さすがの
舞も俺の決め台詞に痺れただろ。
「いや何言ってんの?そうゆうのいいから早く剣貸しなさいよ」
「あ、はい、すいません」
何だよそっちかよ。
思わず理解してるつもりでカッコつけながら決め台詞吐いてた自分を殴り飛ばした
くなったわ、そういえばコイツ今日杖持って来てなかったな。
待てよ、この自称ウィザードが杖を持って魔法使ってるとこ俺見た事無い気がする
のは気のせいだろうか・・・。
舞は俺の剣を両手でしっかり握り。
「さあ、どこからでも掛かってきなさい!ビスマス一のウィザードの剣術見せて上
げるわ!」
「掛かってこいってお前が言う事じゃくて、あのバルスが言う言葉だからな」
バルスに申し訳無いと思いつつバルスって言えたと心で満足しながら決闘の様子を
伺う。
「その意気込みは褒めてやろう、だが我の剣術の前に何分持つかな?」
バルスは気にする様子もなく重い鎧と大剣からは考えられない速さで舞に斬りかか
る。
自慢じゃないが俺の剣は最近手入れをしていないから折れないか心配だが、そんな
心配をよそに舞はバルスの薙ぎ払うような斬撃を弾き返す。
「甘いわね、その程度では私は倒せないわよ!」
舞はそう言うとバルスの懐に飛び込み兜に向けて剣を突こうとするが、大剣の柄の
部分でそれを受け止める。
「やるじゃないか!だが次はどうかな?」
バルスはこれならどうだと剣を振り上げる、だが舞は剣の動きを予測したかのよう
に頭上で大きな刀身を受け止めるが俺の予想通り。
(―ピッキン)
「あああああ!!予想してたけど俺の相棒があああ!!」
俺が涙を堪えながら剣を名残惜しそうに見るが、舞は俺の相棒が折れるやいなや、
大きな風切り音を鳴らす剣を寸前で避け、そして折れた方の刀を野球ボールでも
投げるかのように鎧と兜の間の首元の部分に。
「そおい!!」
バルスは舞の動きが予測できなかったみたいで全く反応できず。
「それはずるううううう!!!!!」
刃を綺麗に首元に突き立てたままバルスは膝をつき、そして兜が地面に落ちる。
舞の勝利だが、俺は若干引き気味で。
「ちょ、お前首を斬り落とすなんてやり過ぎだろ・・・あれ?」
バルスに近寄ると、鎧は空で中から紫色の煙が立ちあげていた。
「ふっ、よもやこの我がこんな小娘に負けるとわ。良かろう、約束通り魔剣は
貴様らの物だ・・・この世を生かす・・・も殺す・・・も貴様らしだ・・・い」
そう言い切るとバルスの鎧は主を亡くし地面に散らばり落ちた。
「私に勝とうと考えたのがそもそもの敗因だったわね、出直して来な痛い!」
大きく胸を張り、満面に笑みで勝ち誇っている舞の頭を折れた剣の柄で殴る。
「ちょっと!何で華麗に相手を倒した私が、端っこで指をくわえて応援しかしてな
い啓太に殴られないといけないの!?」
「これだよ!これ!俺の剣を折りやがって、剣って意外に高いんだぞ!?」
舞は殴られた後頭部を両手で押さえながら。
「そんな事より次に進むわよ、きっと魔剣はもう目の前な気がするの」
俺は剣の柄部分をポケットに突っ込み、折れた刀身部分には両手を合わせてお別れ
を告げた。
さよなら俺の相棒・・・最近手入れしてなかったけど。
「帰ったら弁償しろよなって、おい、耳を塞ぐな」
ツカツカと足音を鳴らしながら俺達は長い廊下を歩き、ついに恐らく最後になるで
あろう扉の前に立った。
長い廊下を歩いてるときは、こんな所に魔剣隠した奴を三時間程説教したい気持ち
でいっぱいだったが、扉の隙間から感じる魔力の前にはそんな疲れも忘れていた。
「ここまで長かったな・・・舞、ここは俺に扉を開けさせてくれないか?」
俺はやっと成し遂げたという喜びに満ちた顔で舞を見ると。
「疲れたし何でもいいから早く開けちゃってちょうだい、私もう歩くのも嫌になっ
てきてるのよ」
「お前もっと達成感とか、魔剣を前にしての高揚感とかないのかよ・・・」
まあ良いか、俺はこれまた大きい扉をありったけの力で押すと、長い間誰も開けて
ないのか砂埃を撒き散らしながらゆっくり開く。
そしてその扉の隙間から部屋の中が少し見えた所で俺はソッと扉を閉めた。
あれれ?おっかしいぞお?俺の見間違いか?
舞が俺の顔をコイツ何してんの?という目で見ているが気にしない。
啓太冷静になるんだ、ちょっと深呼吸しよう!そうだ深呼吸しちゃおう!
深呼吸ってこういった状況を理解出来ない時にするものなんだな理解する。
「ちょっと啓太、何で扉閉めちゃうの?もしかして無かったの?」
舞が俺の右肩を掴んで強く揺さぶってくるが、俺は構わず深呼吸を続ける。
よし、さっき見えたのは幻覚か何かだ。
昔見たアニメに自分の知ってる事が世界の全てではないって言ってたじゃないか。
俺は自分にそう言い聞かせながらまたさっきのように力強く扉を押し開ける。
舞も次こそはと俺の後ろで中の様子を見ようと飛び跳ねる。
そしてここまで苦難を乗り越えてきた俺達の目に扉の向こうの現実が飛び込む。
「・・・随分大きいわね」
「ああ、大きいな」
夕日が差し込み綺麗な茜色に染まったその部屋に魔剣はあった。
だが一つ大きいな問題があった。
その魔剣が俺の想像していた、いわゆる一般的な大きさの剣ではない。
「私こんな太くて大きいの見た事無いわ・・・」
舞が無駄にもじもじしながら吐息交じりでそう呟く。
「御幣を招く言い方は止めろよな、てか本当にこれが魔剣ガーディアンなのか?
俺最初見た時小さいビルかと思ったぞ」
魔剣ガーディアンは俺達が使いこなせるような大きさではなく、というか使いこな
すどころか持つことも出来ない程大きかった。
マジでここまでの苦労とは一体。
「どうする?魔剣ガーディアン持って帰る?と言っても抜き方も運び方も分からな
いけど」
舞はどうしよっかと俺の表情を伺いながら魔剣をぺしぺしを触っている。
そんな舞に俺は一呼吸置いて。
「・・・帰ろっか」
「・・・そうしましょうか」
無言のまま、何も問題なく炭鉱を後にすると外では複数のテントが張られ、兵士
と思わしき人達が焚火を囲んでいた。
その兵士と思わしき人達の方から。
「あ、啓太さんじゃないですか!」
声の方を見ると皮の鎧に身を包んだティアナ様が。
「ティアナ様が何でこんな場所に居るんですか?お姫様なのに」
話を聞くと、どうやら定期的に行われる兵士達の野営訓練に参加しているらしい。
「普段はこういった訓練には参加しないんですが、どうも最近地味な作業・・・公
務が続いていたので」
「今確実に王室の仕事を地味な作業って言いましたよね?」
「言ってません。ところで啓太さんはこんな所で何をしていたんですか?」
魔剣を探しに来て見つけたんですよとは言いにくいよな、大騒ぎになりそうだし。
ここは適当に誤魔化すのが良いのかもしれない。
「実はピクニックに来た」
「魔剣を探しに来たのよ!」
ああコイツ言いやがった!
「あ!魔剣ガーディアンを探しに来たんですね!」
「何でその事を知ってるんですか!?」
ティアナ様は逆に何で知らないんですか?と言いたげな表情で俺達に。
「え、一応ビスマスの観光名所になってるんですけどご存じなかったですか?この
時期はリザードフロッグの卵が孵化するので危険ですが、春には魔剣ガーディアン
を探せ!っていう謎解きイベントとか催してるんですよ」
俺は足音を立てないように逃げようとしていた舞を捕まえ、ティアナ様に声が
聞こえないように。
「おい、お前が持ってる地図を俺に見せてみろ」
舞から地図を取り上げて地図の裏面を見てみると、端っこの方に小さく去年の四月
の日付が。
そういえばエルマの金庫には慰安旅行で撮ったであろう集合写真が入っていたが、
この日付を見るにつまりはそうゆう事か。
地図もきっとエルマが謎解きイベントに参加した時のものだろう。
俺はティアナ様に満面の誤魔化しスマイルで。
「俺達が観光名所だって知らない訳ないじゃないですかあはは、じゃ俺達はこれで
帰りますね。訓練頑張ってください!でわ」
「け、啓太、実はもう一枚地図を持ってるんだけど!妖刀ムササビ丸って書いてる
の、興味無いかしら?」
「帰ったら反省会だからな」