第二話 初めてのクエスト
クラスが決定したという事で俺達は駆け出し冒険者講習を
受けている、内容は冒険者の心得や駆け出しの俺達が受けれる
難易度のクエストの説明。
そして一番重要な、どのような流れで収入が得られるかである。
働く以上俺達は少しでも多く稼ぎたい。
「ねぇ啓太、初めてのクエストを受注するときは私に選ばして
ほしいの!」
何だコイツ俺よりやる気だな、俺はあまりやる気は無いのだが。
「別に良いけど何かやってみたいクエストでもあるのか?」
舞は満面の笑みで興奮している。
「私の魔法が活躍できるクエストにしたいの、早く・・・早く
魔法少女として活躍したいの!!」
いい加減二十三歳で魔法少女は無いんじゃないかと伝えた方が良いんだろうか。
そもそもまだ魔法は使えないだろうに。
いやでも本人のやる気をへし折ってはいけない、ここは優しく見守ろう。
「別に良いけど命の危険が限りなく無いクエストにしてくれよ?」
舞はそれはもう上機嫌に任せてと叫んだ。
しかし講習なんて面白くないんだろうなと思っていたら結構聞いてて
面白いものだ、冒険者がどのようにして職業として認識されるように
なったかとか魔王がどのように討伐されたかとか。
ゲームや漫画ではあまり触れられない事が多くて面白い、ちなみにこの
異世界には勇者と呼ばれる人物は過去には存在していない。
魔王一人に対して数万人の冒険者達で袋叩きにしたらしい、魔王と呼ばれるから
には人類にとって悪影響を与えていたのだろうが袋叩きと聞くと
少し可哀そうに思えてくる。
もし魔王が倒される直前泣いていたのなら完璧な苛めだ。
「それではこれで講習を終わります、何か質問はありますか?」
俺は気になってる事を一つ気になった事を質問した。
「魔王が滅んで平和なのは分かったんですけど、平和なこの街のクエストって
今は主にどんなのがあるんですか?」
この質問は俺達にとってとても重要なことだ。
俺達はこの世界で冒険者とウィザードになったがそれだけお金が貰える訳
ではない。
仕事であるクエストをこなして初めてお金が貰える、そして今の俺達はその
仕事を早くこなさないとお金が無い。
だからクエストがどの程度のレベルなのか把握しておくのは大事なことだ。
「今の時期は・・・リトルゴブリンの~」
なるほど討伐か。
「捕獲ですね、ケガをさせないようにとの事です」
ゴブリンなんて顔の怖いモンスターを捕まえてどうするんだ。
「なんで捕獲なんですか?ゴブリンってのは悪さをする雑魚キャラの代表的
じゃないんですか?」
「何を言ってるんですか!今の時代リトルゴブリンは捕獲して仕事を覚えさせる
っというのが世の中の常識ですよ!!」
モンスターにまで仕事をさせる・・・なんて社畜主義な世界なんだ。
まぁ無慈悲に倒すより平和的にという事なのかもしれない。
「分かってる?部屋一緒だからって変な事したら殺すわよ?」
「分かってるよ、てかお前こそ俺が可愛い寝顔してても襲うなよ」
「はぁ?ちょっと本気で言ってんの?鏡見てきなさいよ」
冒険者の手続きを終えた俺達はギルドと契約した特典として部屋が支給された。
といっても石レンガで出来た長屋みたいなところの一室で、寝るくらいのスペース
しか無く仕方なく一緒の部屋で寝泊まりすることになったという訳だ。
しかしコイツ緊張感が無くなってから一気に口が悪くなったな、いつか俺が
とても稼げるようになったら覚えてろよ。
「じゃ部屋の片付けも出来たし寝ましょうか」
「何昼間っから寝ようとしてるんだよ、早くギルド行ってクエストこなさないと
今日の晩御飯無しだぞ」
私の代わりに働いて来てよとか言う根っからのニートである舞を無理やり
部屋から引きずりだして俺達はギルドに向かった。
ギルドに着くとさっきまでスーツのような服を着ていたお姉さんが黒のワンピース
というラフな格好になっていた。
「あ、啓太さんさっそく来たんですね。改めて自己紹介がまだでしたね、私は
このギルドの支配人のアンネと申します。クエストを受ける際は一言声を
お掛けください」
「それは分かりましたけど、さっきみたいなスーツはどうしたんですか?」
「スーツが何かは分かりませんが、今日はあなた方か来る前までお城の方へ
行ってたんですよ。だから正装だったという訳です。」
色々あって注目してなかったが馬鹿デカイ城が街の真ん中にあるんだよな。
お城には当たり前だが王様が住んでるんだろうけどどんな人なんだろう。
俺みたいな人間に会う機会があるとも思えないが。
さっきから椅子に座って寝ている舞を起こしてクエストを選ばせることに
した、武器はあるのだが防具はレンタルなので壊すとお金を請求される。
あまり激しく動かないお手軽クエストが良いのだが。
「これなんてどう?モンスター掃討済み洞窟のマッピング、報酬一万レイズ」
高いのか低いにか分からないがモンスターが出ないというのは魅力的だ、手配
してくれるという特典のインストラクターに戦い方を教わってない以上これは
かなり重要なことだ。
「それにするか、アンネさんこのクエスト受注したいんですけど」
アンネさんは久しぶりにクエストが受注されたからか満面の笑みで受注の
手続きをしてくれた。
手続きと言っても受注者である俺の名前とハンコを押す簡単な流れだが。
じゃあ行くかと革製で軽装の鎧をお互い着ている時にアンネさんが何か妙な事を
言い出した。
「あの~大丈夫だとは思いますが万が一モンスターが出現した場合は気を付けて
くださいね」
「そんな不安を煽る様な事言わないでくださいよ」
軽く笑って見せたが内心俺はビビり過ぎて漏らしそうになった。
舞は私の魔法力を見せてあげるわっと自信満々のようだがコイツはまだ魔法使えないから、いざという時はこの支給されたショートブレードを振り回して逃げるし
か無いのだ。
「俺達生きて帰ろうな」
「何泣きそうになってんの?不安になるから止めて欲しいんですけど」
着いてみたら洞窟と言っても地下に潜ったりするタイプでは無く、見た目は
洞窟というよりはトンネルに近い感じだった。
さっそく俺達は洞窟に入った、二人で陣形も無いのだが俺が先頭に立って
左手にランタン右手に短剣を持ち、舞が俺の後ろを歩きながらマッピング用の
地図を持って歩くという陣形だ。
マッピングと大層に書いてはいるが実際は地図を開きながら歩くだけで勝手に
書かれていくらしい、何とも楽な仕事だ。
だが気を抜ける訳ではない、いつ何かあるか分かった物じゃない。
そう、気は抜けないのだがさっきから俺はずっと疑問に感じてる事があった。
「あの・・・舞さん?何でさっきから距離が近いんですかね、だいぶ歩きにくい
のですが」
「な、なに言ってんのよ啓太さん~。啓太が怖いと思って私としては仕方なく
寄り添って歩いてあげてるんじゃない、感謝しても良いわよ?」
「お前素直に怖いって言えよ」
結構歩いたがやはりモンスターの影すら見当たらない、危険が無いのは良い事
だがクエストというより肝試しみたいだな。
「啓太!啓太!あそこに宝箱があるわ、私が見つけたんだから私の物で良いわ
よね」
「良い訳無いだろう俺達はパーティーだぞ、パーティーってのは仲間だ、仲間は
苦労も分け前も分かち合うものだ」
舞は少し黙り込んですぐに宝箱に向かって必死の形相で走り出した。
「待てぇぇぇこの裏切り者ぉぉぉぉぉ!!!!!!」
「私が見つけたのに私の物じゃないなんておかしいわ狂ってるわ!!!!」
「とうとう本性を見せやがったな!!このゲスニートめ!!!」
「何よアンタもニートじゃないのよ、ちょっとこの世界に来て頼りがいのある
姿を見せたからって調子に乗らないでよね!!!!」
舞が宝箱に手を触れた瞬間ドスンと鈍い音が洞窟中に響き渡った、まさに
お約束のトラップの匂いがプンプンする。
「おい、お前何をしたんだ?」
明らかに宝箱に触れてから目が泳ぎ出した舞に俺は優しく質問した。
「別に何もしてないわよ、ちょっと宝箱の前の床が沈んだかもしれないけど
それ以外は何もしてないわ」
コイツ宝箱のトラップに引っ掛かりやがったのか。
洞窟内に地響きが起こりそれが収まった瞬間、洞窟の天井が開き球体のモンスター
が勢いよくこっちに向かって転がってきた。
「おい!!お前のせいなんだからお前が何とかしろよ自称魔法少女なんだろ!?」
「さっき苦労を分かち合うのが仲間って言ったじゃない!!!私の盾になって
守ってよ!!後日骨を拾ってあげるわ!」
コイツ本当に俺の事仲間と思ってやがらねぇ、絶対後日骨なんか拾わずに部屋で
寝てるつもりだろ。
死んでもこんな奴の盾になってやるもんか。
しかしピンチだ割とこのモンスター早いし石みたいだしぶつかったら粉々に
なること間違いなしだ。
何か、何か無いのか。
このまま何も案が出せない無駄に家に引きこもってた何も知識の無い
ゴミ人間だぞ。
せっかくこっちでは人間らしい生活ができるかもしれないんだ。
何か手を考えるん・・・
ん?今あのモンスターが踏んだ小石が潰れなかったように見えたがもしかして。
「よし!舞、俺がただのニートじゃない所を見してやる」
俺は舞にそう叫び床のタイルとタイルの間にショートブレードを突き刺した。
「何やってんの?何で先にお墓を作ってんのよ!」
「違うわ馬鹿、まあ見てろって」
スピードが乗りに乗ったモンスターは俺の剣にぶつかると、剣に体をめり込ませて
そして弾き返された天井にぶつかり、動きが止まった。
舞がちょっとどーゆうことなのっと聞きたそうな顔をしているが何てことは無い。
床に刺した剣が鞭のようにしなってデブをはじき返しただけだ。
「よ、よかった上手くいって。死ぬかと思ったな」
「私やっぱり働きたくないわ、部屋で寝てる方が安全よ」
俺達は残り少しのマッピングを終わらしてギルドに帰り今回の事を報告した。
「それは大変でしたね。情報の不備があったようなので報酬を多めに支払います」
そう言うとアンネさんはすいませんと謝罪をしてくれた。
「そんな、なんかすいません」
口ではこう言ったが心では当たり前だと思っているのは内緒だ。
「それでは報酬の一万レイズです」
ん・・・?俺の聞き間違いか?
「あれ?元々一万レイズのクエストですよね?増えてませんよ?」
「あ、お伝えしていませんでしたがクエストを受けると報酬からギルドの運営費
が差し引かれるんですよ。ですので一万レイズです」
アンネさんは顔は笑っているのに目が笑っていない。
俺はその笑わない目が怖くて追及出来ず、お金を受け取ってギルドを後にした。
もしかしたら俺の契約したギルドはブラックなのかもしれないと不安に思いながら
家に帰った。