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第二十四話 これが金持ちの気分なんだね!

気絶したエルマをロープで縛って入口に放置し、俺達はキャサリンの

二階にあるエルマの事務所で調味料に関する証拠を探っていた。

ミケさんの店の帳簿で見た通り、エルマが犯人なのは間違いない。

だがもっと確実な証拠を求めて探そうという事になったのだ。

「それにしても結構散らかってるわね、もっと片付けたらどうなのかしら」

普段、部屋の中に酒瓶を大量に転がしてるお前が言うのか。

確かに汚いけども、後なんか臭い。

慈善活動を率先して行ってるあのキャサリンの事務所とは思えないな。

もしかして慈善活動全般は従業員が個人的にやってるのかもしれない。

ん・・・これは・・・。

「なあ舞、これって金庫だよな?机の下にあったんだけど」

どうやって開けるか、店の従業員の金庫だったら申し訳ないし。

「これは金の予感がするわね!さっそくピッキングしましょう!」

そう言って腰の方から細い金属で出来た針を取り出す舞。

「待て待て!ピッキングって犯罪だろ?俺まだ捕まりたくないんだが」

「何言ってるの、これは中身を確認するだけよ!それにもしこの中に帳簿とかあっ

たらどうするのよ」

それもそうだが、どうにも人の金庫を開けるのは申し訳無い気持ちになる。

日記とかを隠れて見るようなあの感覚だ。

「てかお前何でそんな簡単に開けれるんだ?もしかしてお前ピッキングとかの経験

とかあるんじゃないんだろうな?」

そんな俺の心配を無視して金庫の中身を漁る舞が。

「そんな事より啓太も一緒に中身の確認してよ、無駄な話ばっかりしてないで」

無駄な話とはなんだ!とツッコミたいがコイツが一人で捕まる分には良いか、俺は

関係ないという事で。

気になる金庫の中は従業員の電話番号や、慰安旅行に行った時のであろう写真。

そして細かい分量なんかが掛かれた料理のレシピ本が出てきた。

「証拠ってこれじゃないか?塩とかなんとか書かれてるし、これをマリさんに渡せ

ば今回の仕事は終わりだ!ってお前今服の中に何か隠しただろ」

それが何かはよく見えなかったが、俺の問いかけを聞いて身体をビクッとさせたの

が有無を言わさない一番の証拠だ。

あと、舞は隠し事をする時妙に口先を尖らせる癖がある。

「何を隠したか早くお兄ちゃんに言いなさい、正直に言えばお兄ちゃん怒らない

から正直に言うんだ」

「誰がお兄ちゃんよ、そおゆうプレイはレイラとだけにしてくれるかしら?

それと何も隠して無いわよ」

そんな白々しい嘘を平気で吐く舞に俺わ。

「本当に隠して無いって言うんだな?本当の事を言うなら今の内だぞ」

お前がその気ならこっちにも考えがある。

温厚の啓太さんで有名だが本気を見せてやろう。

「そんな脅しが私に通用するとでも思ってるの?まあ良いわ!かかってきなさい」

えらい強気だが俺には関係ない。

俺はもしもの時に使おうと思っていた魔道具を舞に軽く投げた。

「きゃ!何よこれ動けないんですけど!早く解いてほしいんですけど!!」

舞に投げたのはバインドほいほいというモンスター捕獲用の魔道具だ。

一件短いロープにしか見えないが、魔力を軽く込めて投げると瞬時に相手を

捕まえる丁度いい長さのロープに変わり、相手に巻き付いて動けなくなるのだ。

「解く訳無いだろし、俺はちゃんと忠告したからな?では遠慮なく」

詳しくは言わないが俺は服の中に隠した物を探す為に頑張ったのだ。

犯罪を行おうとした仲間の為だ仕方ない、俺は正義を成したのだ。

そんな事をしていると事務所の方に向かって来る足音が聞こえる。

「うっうっ、わ、私は汚されてしまったわ・・・」

泣きながら意味の分からない事を言う舞に。

「人聞きの悪い事を言うな、というか静かにしろ、気付かれるだろ」

静かな廊下にコツコツを言う足音が響く、そしてドアを開ける音が聞こえた。

俺は唾を飲み込み机の陰から敵の姿を覗き見る。

暗くて顔までは見えなかったが、入り口には俺には見覚えのあるローブを着た女性

が立っていた。

「なんだティアナ様じゃないですか!脅かさないでくださいよ」

反射的に危うく飛び掛かる所だった。

もし暗い部屋で女の子に飛び掛かったなんて事になれば冗談では済まされない。

「それはこちらの台詞ですよ、夜中にベヒーモスが暴れているという報告を

受けて来てみれば、外で小さい男とベヒーモスがすでに倒れてますし、店の人に

話を聞こうと来てみたんですが」

そういえば肝心の犯人を放置したままだった。

きっと大きな物音を聞いた近所の人達が倒れたベヒーモスを見て通報したのだろ

う。

「すいません何も報告もせず勝手して、でも犯人も確保したし証拠も見つけたので

もう全部解決です!」

俺の立派な報告を聞いて何故か下衆な人間を見るような目つきになるティアナ様。

あれ?もしかして勝手にやった事を怒ってるのか?

でもこれは俺個人が引き受けた仕事だし、別にギルドに話を通さなくても問題は

無い筈だが・・・。

そうか、ティアナ様を仲間外れにした事を怒ってるんだな。

「ところで、啓太さんの後ろで縛られて胸を押さえながら泣いている舞さんの説明

はいつしてくれるんですか?」

そういえばそんな人も居ましたね。

「これは・・・その・・・俺は無実だあああ!!!」

「婦女暴行を働いた犯罪者が逃げたぞ!!捕まえろ!!」

俺は無実なんだあああ!!!

この後俺は外に待機していた警備兵に捕まり、朝まで留置場で過ごす羽目と

なった。


「ただいま」

朝一で保釈された俺は真っすぐ帰宅した。

留置場に入れられてすぐは、帰りに買い物して帰ろうなんて余裕もあった。

だが留置場という場所は思いの外居心地が悪く、無事に朝日を迎えた俺にそんな余

裕は無かった。

初の留置場でお泊りは一睡も出来なかった・・・。

風呂入りたい、というか早くベッドで寝たい。

もし俺が王様にでもなろう物なら留置場の床は石レンガじゃなく、もっとフワフワ

して暖かみのある素材に変えてやる。

「あら、犯罪者さんが何の御用かしら?」

俺と目が合った途端、そんな辛辣な言葉を浴びせる舞。

お勤めを終えた人間に何て言い草だ。

「何が犯罪者だ、あれぐらいの事で騒ぐなんてどうかしてるぞ、というかお前が

無駄に騒がなかったら俺は留置場に行かなくて良かったんだからな?」

いつ買ってきたのか分からないソファに腰を下ろしながら舞は何か文句を言って

いるが、俺はとりあえず適当に返しながらコーヒーを飲む。

「ところでエルマはどうなったんだ?アイツがどうなったか俺知らないんだけど」

「あの人なら今頃は船で何とかって言う極悪人を収容する島に移送されてるん

じゃないかしら、あの料理女はまだ留置場の地下にいるらしいけどね」

そんな島もあるのか、この世界は俺が知らない事がまだまだあるんだな。

今度フルオライトに行って、この世界の世界地図でも買いに行こうかな。

「ところで犯罪者さん」

「おい、俺の事を犯罪者と呼ぶのは止めろ」

「私に何か渡す物無いかしら?今回の私ってそれなりに活躍したと思うんですけど

、何なら一ヶ月は褒め讃えてくれても罰は当たらないと思うんですけど」

そう言えばご褒美がどうとか言ってたな・・・。

「何が欲しいんだよ、言っとくが俺はプレゼントセンス無いから欲しい物が

あるなら今の内に言っといてくれよ?」

「そんなの自分で考えなさいよ!じゃないと意味が無いじゃない」

どうゆう意味だよ面倒くさいな。

「じゃ午後から買い物行く予定だからその時に買って来てやるよ」

「午後じゃなく早く買って来て!今すぐ行って来て!!」


急かされるまま家を出たのは良いが市場で色々見ても全く思いつかず。

「結局ここに来てしまった」

こことは勿論ミケさんの経営する魔道具店である。

ここで何かしらアイツの魔法使い魂をくすぐる物を買って渡せば良いだろうという

、とても安易な考えで来てしまったのだ。

戦闘で使える魔道具だけは品揃え豊富だからなここって・・・ん?

誰も客が来ないから年中無休なんだよって前に言ってた筈だが、このクローズって

札が掛かってるのは一体何かあったのか?

まあ俺は顔馴染みだしこんな札なんか気にせず店に入るけども。

「邪魔するぞミ・・・ケ・・・さん?」

「あははははは!これが金持ちの気分なんだね!あはははは!!」

「何やってんだミケさん・・・」

店に入ると、自分の顔を札束で叩きながらミケさんは店の真ん中で寝そべって

いた。

「あ!良く来てくれたよ啓太君!見てくれよ、初めて僕の店の商品が全部

完売したんだ!」

あの今にも潰れそうな店で有名な魔道具店サタンの商品が完売だと!

そう言われてみれば店の商品が一つも無い。

「それは本当に良かったけど何があったんだ?昨日まで何も売れない事で

有名だったじゃないか」

ミケさんは余程嬉しいのか、札束で涙を拭きながら。

「この前捕まった料理人が料理に使ったゴーレム印の岩塩を自分も使いたい、これ

を使えば意中の人を思いのままで出来るんだろ?って人が押し寄せてね」

その情報どこから聞いたんだよってのは置いといても、この街の人は犯罪者が

使っていた調味料に手を出すほど恋に必死なのか。

「でもそれだけで他の商品も売れるもんなのか?戦闘用の魔道具なんていくら

何でも塩のついでに買わないだろう」

もしついでに買うならフライパンとかなもんだろうが。

「僕もそう思ってお客様に聞いたら、何でも昨夜街の中にベヒーモスが出たらしい

んだよ!それで世の中何があるか分からないからモンスター対策をしたいって理由

で魔道具を買いに来たって訳さ。やっと僕の店の時代が来たんだよ!」

それざっくり言うと俺達のせいなんだとは口が裂けても言えない。

でも結果的俺がミケさんの店を救った事になるんじゃないか?

塩が関係してるって暴いたのも俺達だし、ベヒーモスが出現する事になったのも

俺達のお陰だし。

「じゃ店が好評で良かったなって事で、例の報酬の事なんだけど」

「何言ってるんだい啓太君、これは僕の地道な努力が実を結んだ結果で君は

何もしてないじゃないか、もしかして君がゴーレム印の岩塩の知名度を上げて、

尚且つベヒーモスを街中に放ったって言うのかい?」

「そうは言わないが、活躍したとは言っておく」

「そんな事言って本当は何もしてなかったんだろう!悪いけど報酬を渡す事

は出来ない、それと僕はこの後事業拡大の為に打ち合わせがあるから痛てててて!

止めろ!僕のお金ちゃん達を奪いおうとするな!!!」

「何も貰えないならせめて金だけでも奪い取ってやる!」

俺の苦労を身をもって分からしてやる。

「そ、それはそうと啓太君はどうしてタキシードなんて着てるんだい?」

その言葉で俺は我に返った。

そうだ俺はこんな所で油を売ってる場合ではないんだ。

「まあ今回はタダって事で見逃してやるよ、でも覚えてろよな!!」

「君といい舞さんといい、僕より君達の方が悪魔みたいだよね」


大通りの中心に位置する、この大剣を振り上げたおじさんの銅像が目を引く噴水。

ここが俺達の愛の待ち合わせ場所なのだ。

そして俺は待ち合わせより一時間早く着いてしまった。

いや、一時間早く来たのだ。

今日はマリさんとの約束のデートなのだ。

俺はこの日の為に生きてきたと言っても過言ではない。

もちろんデートに対する予習も完璧にこなしてきた。

まずデートを行う場合、男は一時間前に集合するのが基本。

そして昔ゲーマー仲間に聞いた話だが、デートでタキシード着ると好感度が上がる

らしいのだ。

何故かは知らないが、頑なにタキシードは良いと言っていたから間違いない。

その事を思い出して服屋の店主に俺自らデザインして作ってもらったのだ。

最初は何言ってんだコイツという顔で見られたが、完成した時は俺の最高傑作

だぜと太鼓判を押していたから大丈夫だろう。

「何あのお兄ちゃん変な格好クスクス」

「コラ!見ちゃダメ!目が汚れるわ」

通りすがりの親子連れが俺にそんな言葉を投げかける。

この服装の格好良さも分からんとわ・・・愚民共め。

今回のデートが成功すればこの服を売り出してタキシードの素晴らしさを分からし

てやる!

そんな事を考えていると愛しのマリさんが息を切らしながら。

「お、お待たせしました啓太様」

マリさんは留置場で働いている時の制服のままだが、やはり大人っぽくて良い。

「いえ、僕も今来たとこなのでそんなに待ってませんよ」

決まった、完璧に決まった。

「突然ですが謝らないといけない事がありまして・・・」

俺に謝る?何のことだろうか。

もしかして今日の俺が決まり過ぎていて、私なんかがデートして申し訳無いという

事を謝りたいのだろうか。

だとすればそんな事を気にする必要はないのだが、男としてここは黙って話を

聞こうではないか。

「すいません!今日のデートは無かった事にしてください!」

あれえ?耳がよく聞こえなかったなあ。

「え、今なんて・・・?俺の事かっこいいって言いましたか?」

「いえ言ってません」

それは即答なのかよ。

「私これから引っ越さないといけなくて、もうデートも会う事も出来ません」

「突然何でなんですか?理由を教えてください!!」

マリさんは俺の言葉を聞いて、突然葬式の時の様な表情に変わり。

「それはですね、保管していた事件に関する調書を私紛失してしまいまして、そ

れで責任を取って田舎に帰らないといけなくて・・・」

俺は脳をフル回転して最近の記憶を思い出した。

誰かが調書を持っていた気がするからだ。

そしてすぐに思い出した、舞がどこから持ってきたか分からない調書を鞄から

出していた、あれマリさんから盗んだのか!

「でわ、私はこれでもう帰りますね・・・本当に今日はすいませんでした、私の事

はもう忘れてください、もう会う事もないと思うので。最後に変わった格好してま

すね」

そう言い残しマリさんは帰って行った。

「クッソがあああああああ!!!!!!」

俺はタキシードの上着を脱いで、力強く地面に叩きつける。

こうして俺の人生で初めてのデートは噴水の前から動く事なく終わった。

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