第二十二話 なかなかの鬼畜だね
投稿するのちょっと遅くなりました、すいません。
俺は舞に指示されて普段の軽装ではなく、モンスター討伐のクエストで
装備するような重めの鎧を装備させられていた。
その意図を説明してもらおうにも名探偵の真似を続けて何も答えようとしない。
そして俺達はミケさんの経営する魔道具店の近くに来ている。
店のドアに掛けられたランプに灯りが点いている所を見ると営業している
らしいが、小さいランプでしか営業が判断出来ないのが何とも悲しいとこだ。
「なあ、いい加減この装備の意味を教えてくれないと俺怒るぞ?お前はいつも
ローブだから分からないと思うが鎧って結構重たいんだからな」
舞は生えても無い髭を優しく触る真似をしながら小言を言い出す。
「啓太さっきからうるさいわよ、今は私の助手なんだから私の言う事を大人しく
聞いてなさい」
意味が全く分からないし聞き捨てならない事を言い出す舞に俺わ。
「何で俺がお前の助手なんだよ!お前は俺が頼まれた事件を手伝ってるんだから
お前が助手だろ、早く事件を解決してくれよな助手君」
何故だかこんな暴虐武人な奴に助手呼ばわりされるのは腹立つ。
そしてそんな言葉を聞いて何故か俺を呆れた顔で見下す舞が。
「今この時点で何も理解出来てない無能な啓太が私より立場が上な訳無いじゃ
ない、もしかして啓太も意味の分からない料理を食べて頭が馬鹿になったの
かしら?あははウケル!」
おっと、コイツは俺に喧嘩を売ってるらしいな。
でもそんな喧嘩を今は買ってる場合ではない、一刻も早く事件を解決して俺は
お出かけ用の服だったりを買いに行かなければ。
年頃の男の子というものは出かける準備に時間を掛けるものだ、ここは俺が大人に
なるしかない。
「もうどっちが何でも良いから、こんなとこでコソコソせず店に行くなら早く
行かないか?いい加減この中腰姿勢も疲れてきた」
俺ももう歳かもしれない、一日仕事をすると腰が痛くなる。
この前も剣を振り上げた時に腰が鳴ってはいけない音を鳴らしてクエストを緊急
離脱する羽目になった。
「啓太はもう立派なおじいちゃんね、じゃあ行くわよ、用意は良い?」
そう言って何故か陸上選手並みのスタート準備をする舞。
「お前何しようとしてんの?そうやってお前が理解できない行動をする時って
嫌な事しか起きないんだけど」
そんな俺の心配の言葉を無視して舞は高らかに。
「突撃!突撃!!わあああ!!」
「待て待て!そんな急いで店に入ったらまたミケさんが怖がるだろ」
必死の静止も聞かずにドアを思いっきり蹴り開けるなんちゃって名探偵。
俺も急いで店に入ろうとしたが鎧が重くて早くは走れない。
やっとの思いで店の前まで来るとミケさんの叫び声が聞こえてくる。
「何ですか、何なんですかいきなり!初めて会った時から貴方の事が理解出来ませ
んでしたが、まさかここまで頭のぶっ飛んだ人とは思いませんでしたよ!」
ミケさんを押し倒し、腕を取って動けないようにする舞。
そして何とかそれを振り解こうとするミケさん。
確かに一人で店を掃除してる時にいきなり女が叫びながら入店してきたらパニック
にもなる、その上押し倒されたらもう俺なら泣くしか思いつかない。
「さあ逃がさないわよ、私の推理によればコイツが調味料を仕入れてた売人よ、悪
魔とか名乗った時から怪しいとは思ってたのよね!観念しなさい」
俺が考えてた事とは全く違う事を言う舞。
てっきり俺はミケさんの店に塩を買いに来た人は誰かと聞くのが目的だと思って
いたのだが、どうやらそうでは無かったらしい。
俺は幼気な青年に馬乗りになってる悪魔としか思えない女の頭を叩き。
「ごめんなミケさんいきなり、コイツの言ったことは忘れてくれ」
何故叩かれたのか理由が分からず狭い店内で騒ぐ舞を俺は無視する。
まだミケさんは怯えてる様だが俺は事の経緯を話した。
「そうゆう事だったのか、それなら普通に店に入って僕に聞いてくれたら良かった
のに何で突入してきたのか理解できないよ」
それに関しては俺も同意見だと頷くしかない、というかもっと言ってやれ。
「人生一度は機動隊みたいに犯人の隠れ家に突入とかしてみたいじゃない、この
ロマンも理解できないなんて男としてどうなのかしら」
「もしかしてその為に俺にこんな重装備をさせたのか?」
「当たり前じゃない、というかそれ以外何があるっていうのよ」
コイツの言ってることを理解したくない俺はとりあえず鎧を脱いでミケさんと
話を進める。
「これが店の帳簿だよ、あとこれが大量に商品を買って行った人の名簿」
そう言いながら持ってきた分厚い帳簿はほんの一ページしか書かれてなかった。
まあ見る前からあんまり商品が売れてない事は分かっていたが、帳簿でリアルな
数字を見るとなんとも心が痛い。
ミケさんも何か思うとこがあるのか若干顔が引きつっている。
俺はミケさんの方を見ないように帳簿に目を向けると。
「この半年くらいで何回も塩を買ってる人が居るけど、この人の事覚えてたり
する?この名前がエルマっていう人」
明らかに思い出せないという顔をしているミケさんに舞が。
「何よ、普段店に人来ないんだから来た人くらい覚えてなさいよね、そんなんだか
ら客が増えないのよ」
何とも辛辣な意見だが売れてない以上言われても仕方ない、言葉は選ぶべきだとは
思うが。
「君の言う事は最もだけど女の子なんだからデリカシーとか覚えなよ、もっとも
覚えたところで男なんて寄ってこないと思うけどね」
そんな言葉を聞いて俺は喧嘩になるかと思ったが、舞の方を見ると何とも思って
ないようだった。
いつもなら何か言い返して相手を怒らすというのが定番で今回もそうなると思っ
たのだが、もしかしてコイツも大人になったという事なのか。
そうだとしてら正直調子が狂う。
「あの、いつもの舞さんなら今の言葉を聞いて怒ると思ったんですけど」
そう言葉を投げかけると舞はサディスティックな女王様みたいに高圧的な態度で。
「啓太達は知らないでしょうけど私結構モテるのよ?この前もプロポーズされた
わ、もちろん断ったけど」
「さ、ミケさん出来るだけで良いから何か思い出してくれ。容姿とか身長とか」
「そうだなあ、男性っていうのは分かるんだけど」
何も聞こえなかったと言わんばかりに無視を続ける俺に蹴りを入れて怒り出す舞。
「アンタ同居人がプロポーズされたとか聞いたんだからちょっとは何か言いなさい
よ!どんな相手か聞くとか焦るとかしなさいよ!!」
何を意味の分からない事で怒ってるんだ。
さっぱり理解出来ない。
「何で俺がお前の妄想の中の話に焦らなきゃならないんだ」
舞は俺の言葉を聞いて何故か納得した言わんばかりに。
「ははん、啓太さては私がモテるという現実が受け止められないのね、でも大丈夫
よ、まだ私は誰の物にもならないから安心しなさい」
俺の分かる言葉で話をしてほしいものだが彼女はきっと現実と妄想の区別がつかな
い悲しい女の子。
ここは敢えて話を合わせて黙っといてもらおう。
「そっか!良かったよ、それより喉が渇いただろ?お金上げるから飲み物でも買っ
っておいで」
妄想に生きる少女は喜びながら店を出て行った。
「あ!思い出した!そのエルマって男、キャサリンを経営してるとか言ってた」
「ミケさん今キャサリンって言った!?な、キャサリンって言ったのか?」
キャサリン。
それはこの周辺国々の中で魔法力に秀でた王都ビスマス国内唯一の、国中の男性が
もっとも通っているであろう店だ。
その店がどんな店かと言えばはっきり言うとキャバクラである。
と言っても昼間はただの飲食店で、恵まれなかったり親に捨てられた子供に無償で
ご飯を食べさして上げている良心的な店なのだ。
ただ一つ難点を上げるとしたら夜になると料金が高額になる部分である。
「あの店に行くのは俺の財布では無理そうだな、ミケさんも金ないよな?」
ある訳ないだろうと言い落ち込むミケさん。
大体近隣住民からも評判が良い筈のキャサリンの経営者が犯罪に手を染めるだろう
か、これはまた聞き込みをしないと。
「俺これから金欠になるのを覚悟でキャサリンに行くけどミケさんもどうだ?」
「すでに金欠の僕を誘うって啓太君はなかなかの鬼畜だね」
ここがキャサリンか、店の場所は知ってたがお金の関係で来れなかったんだよな。
二階建ての豪邸の様な造りの店の前に客引きと思わしき男が立っている、取り敢え
ず話しかけてみるか。
この店が初めてだと言うと軽く財布の心配をされたが何とか店に入れてもらえた。
「でもお兄さん運が良いですよ、今日新人の子が入りまして、安くしときますよ」
俺は愛想笑いで誤魔化す、新人の子なら詳しい話は聞けないにしてもエルマの容姿
くらいは聞けそうだ。
それにキャサリンに長く働いてるお姉さんは綺麗な人が多くて緊張する。
「先にお飲み物の注文をお願いします」
先に頼むシステムか、え、ビール一本五千レイズ・・・。
他は・・・。
「このブルートルマリンって言うのをお願いします」
俺の注文を聞いて困惑の表情に変わる店員。
え、なに、俺なんかマズイ事言ったかな?
「そちらは水でございますが・・・よろしいでしょうか?」
水だったのか、こういった店に来たことないのが裏目に出た。
確かに酒を飲むとこでさっそく水を頼む奴なんて聞いた事無いよな。
「じゃあこのエンジェルウィンクってのを」
「そちらも水でございますが」
クソっまた水か、次こそわ。
「じゃこっちのデビルシャドウっていうの」
「そちらも・・・」
何で水だけで三種類もあるんだよ!!
クソ、まだ何も飲んでないに顔が熱くなってきた、照れてるわけじゃないけど。
俺は大人しくビールを注文してから女の子が来るまでメニューを見る。
値段を見るに俺はいつもの酒場がどれだけ良心的なのかを再確認して心の中で
感謝する、ツケも大丈夫だし俺はあの店に常連で良かった。
するとボーイが女の子を連れてきた。
「こちらが今日入店したばかりの」
「マインです、新人ですがよろしくお願いします」
「チェンジ!!チェンジでお願いします!!!!」
そこには化粧をして綺麗なドレスを纏った舞が、さも俺と初めて会いましたという
顔で俺の隣に座ろうとしていた。
「でもお客様、新人以外となりますと指名料金が発生しますので」
「ちゃんと払うからコイツ以外にしてぐはあ!」
音速の速さでチェンジを要求する俺の脇腹を殴る新人キャバ嬢。
俺は予想外に強い力で殴れらた為声が出ない。
「あらら、お客様飲み過ぎたのかしら。あ!あそこのテーブル呼んでますよ」
俺は脇腹を押さえながら助けを求めたが無駄に終わり、ボーイの人は急いで他の
テーブルに行ってしまった。
そんな俺に向かって舞が俺の耳元で小さく。
「ちょっと啓太!上手く潜入出来たのに何で来てんのよ、私の作戦の邪魔しない
でよ!それともまさかお忍びで来たの?」
そんな馬鹿な事を言う舞、さては俺とミケさんの話を立ち聞きして先回りしたな。
毎回思うがその行動力をもっとクエストとかそっち方面に回してほしいものだ。
「お忍びな訳ないだろう、というかお前どんな作戦を立ててここに来たんだよ」
運ばれてきたビールを本当のキャバ嬢の様な慣れた手つきでコップに注ぐ舞。
「話を聞くとエルマは閉店後にその日の売り上げ金を取りに来るの、そこでエルマ
を取り押さえて尋問するつもりよ」
俺は何も分からないまま軽い気持ちで来たのにコイツそんな見事な作戦立ててたの
かよ、それなら俺来る必要無かったんじゃないのか。
まあ来たからには閉店まで飲んでるか、高いビールも頼んじゃったし。
てかいつになったら舞は俺のコップにビール注いでくれるんだって。
「お前何で俺が頼んだビールを全部飲んでんだよ!!それ一本で三日分の食費
が掛かってんだぞ!?」
空の瓶を右手に持ち悪びれる様子もなく。
「アンタ客なんだから私に酒を飲ませるのが役目でしょ?なのに何で怒るのよ!」
「それどんな店だよ!お前が俺に酒を注いで楽しい思いをさせるのが普通だろう
が!それを勝手に酒飲み干しやがって!」
「嫌よ何で私がそんな面倒くさい事をしないといけないのよ!啓太が私を楽しませ
てよ、もっと私にお酒を飲ませてよ!!」
この酒豪かまってちゃんが!!
こうなったら俺にも考えがある。
「すいませんビールじゃんじゃん持って来てください!今日という日は決着を
つけてやる!」
「啓太が私に飲み勝負で勝てると思ってるの?馬鹿ね、私の方こそ今日という日は
目にもの見せてやるわよ!ちょっとそこのおじさんスタートって言って!」
「わ、分かったよ、用意スタート!」
男の負けられない戦いが始まった。