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第十九話 午後からアクアニードルでも降るのか


俺の目の前に居るこの悪魔は、話通りの俺みたいな人間なんて小指で

潰せそうな姿をしていた。

ただ一つ難点を上げるとするなら。

「何で身体は細いままなんですか?すごいアンバランスですけど」

「全部悪魔の姿になると元に戻るのに時間がかかるんだよね」

ミケさんはそう言うと指をパチンと鳴らし、元の優しそうな顔に戻る。

これは顔を変える魔法か何かなのか。

「その今のって魔法か何かなのか?すごい魔力を感じたけど、というか

元の顔とのギャップがあり過ぎて何からツッコミを入れていいのか」

ミケさんは咳払いしながら紅茶を入れてくれた。

出してくれた紅茶のティーカップに魔道具サタンと自分の店の名前がプリント

されてるとこを見ると、どうやら店の名前が気に入ってるらしい。

この先店の名前を批判するのは止めておこう。

「信じてもらえるか分からないけど僕は悪魔なんだ、ついでに言えばビオラさん

もね」

にわかに信じ難い事実を告白するが、真剣な顔つきを見てここで話の腰を折っては

いけないと黙って話を聞くことにした。

「僕はこの街ではミケと言う名前でこの店の店主をしてるけど、魔族の界隈では

サタンと呼ばれる悪魔なんだ。でも、あれだからね?サタンと言う名前は称号

みたいな物ものだからね」

何故か恥ずかしそうに話すミケさんは右頬を掻きながら照れている。

この人は自分の称号みたいな物を店の名前にしたのか、相当気に入ってるんだな。

「確保!!啓太やったわよ、私隠れていた魔王の残党を捕まえたわ、これを

ギルドに突き出したらきっと良いお金になるわよ」

会話をぶち壊しておいて悪びれもせずにミケさんを羽交い絞めにする舞。

どうやらコイツはミケさんが金になると思い込んでるらしい。

でも確かに舞の言う通り魔族と魔王は関係ないのだろうか。

どっちも字で書くと魔って文字があるし、やっぱり捕まえた方が良いのかも

しれない。

「待って!ねえ待ってよ!僕は魔族だけど今は魔王の手先とかじゃないんだ、だか

らどうか啓太君!仲間の人が魔法の詠唱をしてるから止めてくれないかな?」

女性に羽交い絞めにされて、もはや半泣き状態のミケさん。

「ダメよ啓太!犯人はね決まって自分を正当化するものなのよ、きっとコイツは

良い金づる、じゃなくてこの街に害を成す悪人なのよ」

最近知り合って詳しい素性も分かってない人だけど、どうも悪い人に思えない。

いや、人じゃなくて悪魔なんだけど。

「舞さん、悪いんだけど放してやってくれないか、俺はミケさんがお前の言う街に

害を成す悪人だとは思えないんだ」

舞は渋々手を離すと店内を見るのは飽きたと言って外に出て行った。

「ありがとう啓太君、もう少しで魔界ではそこそこ有名なサタンが滅ぼされて

しまうとこだったよ」

自分でそこそこと言っちゃうのはどうかと思うが。

「ところで啓太君は冒険者なんだよね?あのギルドに所属している」

いきなり鋭い眼光で俺の方を凝視するミケさん。

俺は話の入り方から直感でもうこの後何て言われるか大体把握した。

ギルドに所属したから今日まで、冒険者なんだよねとか聞いてくる人は決まって

俺に何か依頼がある人が大半だった。

因みに依頼では無い人は収入を聞いてくる近所のおばさんだったが。

「啓太君、実は折り入って相談したい事があるんだ」

ほら、やっぱりそう言うと思った。

正直言ってしまうともうこの段階で適当な理由を付けて断りたい。

悪魔からの仕事とかロクな仕事じゃないと俺の危険予知センサーが鳴っている。

「断る前提で聞くけども、どんな仕事なんだ?命の危険があるのはごめんだぞ」

職業サタンであるミケさんはゆっくりと今の時代の悪魔事情を話だした。

「今は関係ないとは言え、昔はそれなりに魔王さんから仕事を貰って生活もそれ

なりに安定していたんだ。でも魔王さんが倒されちゃってから自分で生計を

立てなきゃならなくなって頑張ってはいるんだけど、この店を見ての通り

お客さんも来なくて、このままじゃ僕は実家に強制送還されちゃうんですよ」

「良いじゃん強制送還、実家暮らしもなかなか捨てたものじゃないと思うぞ。

俺も前まで実家で暮らしてたけどご飯出て来るし遊び放題だし楽ってもんだ」

俺のそんな楽観的な発言に顔を真っ青にするミケさん。

「もう実家に帰るのは嫌なんだ・・・あの家に帰ったら・・・僕は、僕は!!」

床に倒れ込み頭を抱えながら唸り声を上げるミケさん。

手伝ってあげたい気持ちはあるのだが、話を聞いて俺はこの店の売り上げを上げる

方法が全く思いつかない。

それに依頼を受けたとしても、この店にはいくつか問題がある。

まず前から思っていたけど店の立地が悪い、大通りから離れ過ぎて最早店がある事

自体街の人は知らないだろう。

そして二つ目、これが一番の問題だが、魔道具を買おうなんて人がそもそも居ない

のだ。

ミケさんの店で売っている魔道具は回復ポーションや罠など、モンスターとの戦闘

でしか使えないと思わしき物しか売っていない。

その他諸々と、仕事を受ける前から無理な要素が多過ぎるのだ。

ここは何も聞かなかった事にして静かに帰ろう。

「じゃ、ミケさん俺はそろそろ用事があるから帰るわ、店の売り上げが上がるよう

に陰ながら応援してるぞ。じゃ」

「待ってくださいよおお!!陰ながらじゃなくてもっと大々的に応援してよ!

啓太君の喜びそうな報酬を用意してあるから、ね?お願いいい!!」

そう言って店のドアに手を掛ける俺の服を引っ張るミケさん。

腕が細いくせになんて力だ。

「放せ!どんな報酬か知らんが俺には毎日可愛い妹の仕事を手伝うという役目が

あるんだ、悪いけどミケさんの店の事情は知らん!!」

「まあ聞いてよ!この街ではエッチな本とかの販売が禁止されてるけど、実は魔界

では売ってるんだよエッチな本。啓太君はそうゆうの興味ないかな?」

俺はミケさんの手を取り。

「では仕事の話をしましょうか」

ミケさんも手を握り返し。

「啓太君とは良い仕事が出来そうだよ」

俺は固く握手をして仕事を受ける事にした。


仕事の内容と称した話し合いをしながらミケさんと深夜まで酒を飲み明かした

俺は、いつの間にか家のベッドで寝ていたようだ。

頭が痛いがいつまでもゴロゴロしている場合じゃない。

俺には店を再建するという役目があるんだ。

決して報酬が目当てではない、あくまでもミケさんの為だ。

そんな事を考えながらリビングに下りると、舞が珍しく服を着替えて朝ご飯を

用意していた。

「おい、今日は午後からアクアニードルでも降るのか?」

フライパンを軽々と操り、バーニングチキンの卵で目玉焼きを作ってみせる舞が。

「そんな天気がある訳ないじゃない頭大丈夫?気分が向いたのと、お腹空いたのに

啓太が何時になっても起きないからこうして作ったのよ、感謝してよね」

なんだその典型的ツンデレ発言わ。

「感謝はするけど味とか大丈夫なんだろうな、目玉焼きだから失敗のしようが

無いとは思うが、普段料理をしない奴が作った物は味が大変な迷子になっていると

相場は決まってるんだ」

「先に言っておくけど、日本に居た頃は少なからず料理とかしてたんだからね、だ

からそんな失敗作にはなってないはずよ。不味かったら残していいから覚悟して

食べなさい」

舞はそう言いなが俺より先に目玉焼きを食べて美味いという顔をしている。

だが俺はそんな事では安心はしない。

なぜなら昔コイツが酒場で頼んだ料理を一口貰って食べたら、辛すぎて俺の頼んだ

料理の味が分からないという被害を受けたのだ。

俺は先にコップに水を注ぎ、覚悟を決めて目玉焼きを口に運ぶ。

「なんだこの目玉焼きは・・・美味すぎる。え、何でただの卵を焼いただけの料理

なのにこんなに美味いんだ?」

舞は得意げにホットミルクを飲みながら。

「美味しいでしょう!特別に教えてあげるけど味の正体は昨日ミケの店で買った

ゴーレム印の岩塩よ、これを振りかけるとサラダから肉料理まで味がまろやかで

丁度良い塩味になるんだから」

ゴーレム印の岩塩とはゴーレムから取れる岩塩なのだが、この街の人はモンスター

から取れる意味の分からない粉という認識でしかなく。

一般家庭に使われる事は滅多にないと言われる調味料だ。

「あの店そんな物も売ってたのか、というかお前よくこれを買おうと思ったな、俺

は特に抵抗はないがお前は食べた事無いのにチャレンジャー過ぎるだろ」

「え、食べた事あるわよ。前にフルオライトに行った時にご飯食べた店に置いて

あったわ、使ってみたらかなり美味しかったから覚えてたのよね」

食べた事あったのか、普段酒のつまみくらいしか食べないのに。

というかコイツは普段人が見てないとこだったり、気にしないようなとこまで見て

るな。

その観察力をもっと他の場所に使えたら頭のおかしい人とか言われる事は無いの

だろうが。

いや待てよ。

「絶妙な塩加減を醸し出してくれるゴーレム印の岩塩はこの街で使う人が居ないん

だよな、舞はなぜだか知ってるか?」

舞は食後にいつも読む、幼児でも分かる魔導書を読みながら。

「よく聞く得体の知れない粉だからっていう理由以外なら、その塩を全く知らな

いって人が大半だと思うわよ。そもそもミケの店でしかこんな調味料見た事ない

もの」

という事は、もしかしたらゴーレム印の岩塩を料理に使って食べてもらえたら多少

なりとも売れるんじゃないのか。

問題はどうやって食べて貰えるかだ、変な粉という認識が少なからずあるなら、

塩の正体を話して簡単には食べて貰えないだろう。

これは今日もミケさんと話し合う必要があるな。

「悪いけど今日もクエスト行けないから何か適当の一日過ごしてくれ、あ、レイラ

の邪魔しに行ったら怒るからな」

「邪魔なんてしないわよ、丁度ビオラと予定があったから別に良いわよ。ただもう

そろそろ貯金が無くなって来てるから明日はクエスト行くからね」

そう言えば最近クエストに行って無かったから金が無いんだった。


店に入るとミケさんの姿が見当たらなかった。

「ミケさんどこに居るんだ?出かけてるのか?仕事の打ち合わせに来たんだけど」

少し大きめの声でミケさんを呼ぶと、レジの後ろの階段から。

「下に居るから下りてきてくれないかな、今ちょっと店の方に行けないんだ」

言われるがまま階段を降りると下はミケさんの居住スペースだった。

一人で住むには丁度良いが、二人なら少し狭く感じそうな部屋のベッドにミケさん

は寝込んでいた。

「この生活感を見るにミケさんに女の影は無さそうだな」

「風邪で寝込んでいる人を目の前にして君は失礼な人だね、まあ君の言う通り

彼女と呼べる人は居ないけど、それは君もだろう?」

「それだけ俺の傷口を刺激する元気があるなら大した事は無さそうだな」

話を聞くとミケさんは昨日俺と酒を飲んだ後酔っ払いながら風呂に入り、気が付く

と全裸のまま床で寝ていたらしい。

「昔っから身体は強くないんだけど、それとは関係なく全裸で寝てれば誰でも風邪

を引くよね。それはそうと今日はどうしたの?」

渇いた笑い声を上げながら咳を繰り返すミケさんに俺は今朝思いついた事を話

した。

「ゴーレム印の岩塩をどうにかして食べて貰えれば売り上げの向上に繋がると

思うんだ、ただその食べて貰うのが難点なんだけど何か良い考えないかな」

ミケさんはベッドから顔を半分だけ出しながら。

「あれが売れれば確かに利益になると思うけど、あれってかなりの量を売らない

と利益にならないんだよね」

「そう言えばあれの値段を聞いてなかったけど、どのくらいの値段で売ってるん

だ?舞が小さい瓶を三つくらい買ってたみたいだけど」

「あれは一瓶で十レイズだよ」

「それ利益にならないじゃん!!」


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