第十七話 本性を現したロリコン
「私は啓太様に感謝をしなければなりません」
俺を玄関まで見送っている途中、アルゼウスさんは唐突にそんな事告げてきた。
散々城内を逃げ回った挙句、服を破いてあられもない姿にした俺だ。
「文句を言われる覚えはあっても感謝されるような事は何もしてないんです
けど・・・俺何かしましたか?」
俺の言葉に苦笑しながらもアルゼウスさんは穏やかな声で話を続ける。
「最近のティアナ様は本当によく笑う様になりました、クエストに出かける
前日なんてとても楽しみなのか夜遅くまで準備をして。そんなティアナ様の
姿が見れる日が来るなんて、どれほどお礼を申して良いいのか」
どうしよう、ティアナ様の服を破いて動揺してる間に逃げるという。
逃げれるしラッキースケベだしという一石二鳥作戦を考えてましたとか、もう
この状況では口が裂けても言えない。
「いえ、僕は本当に皆さんに迷惑をかけただけですので」
俺の前を歩いていたアルゼウスさんが振り返り俺の肩を強く掴む。
「貴方という人は・・・虐げられている幼い少女を助け、そして我らがティアナ様
の事も変えたというのに、その事実に奢らずそんな謙遜を。貴方という人は・・・
このアルゼウス涙が止まりません」
俺はそんなつもりで言ったんじゃないんです!
本当に俺あなたが思ってるような人間じゃないんです!
むしろレイラがお姫様だと聞いた時、この子と結婚すれば俺王様じゃんとか考え
たし。
何なら幼い少女の頼みで一緒にお風呂入ろうとしてたんです。
「ティアナ様からは何も仰せつかっていませんが、これは私の気持ちです!どうか
懐にお納めください!!」
そう言うと漫画家なんかでよく見たお金の入って袋を取り出し。
「いや、ほんと俺そんなつもりじゃないんです!ほら俺ただのそこら辺によく
いる冒険者ですし、こんなお金貰っては不味いですよ!」
俺の言葉をどう汲み取っているのか分からないアルゼウスさんは益々泣き出した。
「何を仰っているんですか!今の時代冒険者はこのビスマスには貴方様お一人」
そう言えばそうだった。
こうなってはもう何を言っても無駄なのかもしれない。
「これは本当に私の微々たる気持ちです。む、私はお食事をお運びする義務が
ありますので。これにて失礼いたします」
俺の弁解を聞く暇も与えずアルゼウスさんはどこかへ消えたしまった。
俺は正直なところ良い人と思われる事に抵抗がある。
一度良い人と思われてしまえば何かやらかした時にすごく悪く見られてしまうし、
何より周囲に期待というのは重荷でしかない。
俺はこの平和な世界で英雄になりたい訳でも、ましてや有名人になりたい訳では
ないのだ。
そこそこのお金になるクエストを無難にこなして安定した生活を送れれば良い。
「えらい辛気臭い顔してるなあ兄ちゃん!」
自然といつもの酒場に足を運んでいると聞き覚えしか無い関西弁が聞こえる。
舞の友達のビオラさんだ。
「辛気臭いとは失礼な、そりゃ元気は無いけど辛気は臭く無いつもりですよ」
確かにこの世界に来て久しぶりに一人だ、少し辛気臭かったかもしれない。
「それなら良いけど、そや!辛気臭くないならちょっと仕事手伝ってくれへん?
今から仕事で使う物とか受け取りに行くねんけど多分荷物多くなるからお願い」
「え、俺に荷物持ちに来いって事ですか?これから酒でも飲んで帰ろうとしてた
んだけど」
今は仕事とかする気分じゃない、というか早く帰りたい。
「え~、仕事が終わったらこの可愛いお姉さんが飲みに行くの手伝ってあげるから
!なあ?良いやろ?」
そう言って俺の腕にしがみつくビオラさんの胸が俺の心を惑わせる。
「し、仕方ないですね早く終わらしてくださいね?あと面倒くさい事は止めてく
ださい」
「ありがとう兄ちゃん!恩に着るわ!!」
最近自分でも気付き始めてるが俺ってもしかしてちょろくないかな・・・。
ティアナ様はといいレイラといい。
舞に対しては辛辣というスタンスを断固として保っていくつもりだが。
「そうと決まれば早く行くで、お店の方を待たせる訳にはいかへんねん」
そう言いながらビオラさんは不敵な笑みを浮かべる。
「どんな荷物受け取りに行くんですか?変な粉じゃないでしょうね」
「変な粉の何がアカンのか分からへんけど粉では無いで、まあ魔道具みたいな
物やわ。詳しくは実物をお楽しみにという事で」
なかなか勿体ぶるな、まあ安全な魔道具みたいだし大人しく着いて行くか。
「そや、忘れててんけど一つ注意事項があんねん。店に入っても大きい声は出した
らアカンで?」
「俺を何歳だと思ってるんですか、もう良い大人ですし店で騒ぐような事しません
よ」
俺の言葉を聞いて安心したような顔をするビオラさん。
「その言葉を信じるわ、前に友達連れて行った時失神して倒れたからな」
失神するような商品だったのかな、ここは一応俺も心の準備くらいはしておこう。
大通りからだいぶ外れた、典型的路地裏に店はあった。
店の名前は『魔道具サタン』。
「ビオラさんみたいな言い回しで言うとけったいな名前ですね」
「なんやうちを馬鹿にしてんのか?言っとくけどこの話し方に自信持ってるで」
そう言いながら俺の脇腹を肘で小突くビオラさんを無視する。
魔道具店はフルオライト以来だから内心どんな商品が置いてあるかとか楽しみだ。
「ミケさーん、例のアレもう出来てるって聞いたから取りに来たで」
ドアを完全に開ける前から大きい声で挨拶をするビオラさんに続いて入店すると、
店内はバーのような薄暗くオシャレな間接照明が置かれた味のある造りだった。
当然俺はこう言った無駄にオシャレな場所に慣れてはいないから落ち着かない。
外で待っておけば良かったと少し後悔する。
「そ、そんな大きい声出さないでくださいよ。て!ええ!?その人誰ですか?」
奥から出てきたのは身長が小さく髪が長い、一言で表すと病弱と言う言葉が似合う
少年だった。
そして俺を見て挙動不審に陥っている。
「何や今日はその姿なんか、まあええわ。この好青年が服着て歩いてるみたいな
兄ちゃんは啓太って言うねん、一応冒険者やから仲良くしてあげてな」
よく意味の分からない説明を聞いてさらにパニックになる店主。
「そうじゃなくてですね、何で僕が人見知りって知ってるのに軽々と知らない
人を連れて来ちゃうんですか!?」
ビオラさんは頭を掻きながらやれやれとい顔をしている、性格から察するに細かい
事を気にする人ではないだろう。
「そんな細かい事いちいち言うなや面倒くさい」
ほらやっぱり言うと思った。
「め、面倒臭いですと!?」
俺は掴み合いをする二人を何とか引き剥がす。
内心これだけ文句を言い返せる人が人見知りな訳ではないだろうとツッコミたいが
、これだけ目の前で言われればこのまま店内に居座るのはさすがに申し訳ない。
「すいません、なんかお邪魔なようなので外で待ってますね」
こんなよく分からない口喧嘩に巻き込まれるのはごめんだ。
「ちょ待って!僕もそんなつもりじゃないんです。普段アザゼ・・・ビオラさん
くらいしかこの店に来てくれないので少し動揺しただけです、すいません」
そう言って店主は深々と頭を下げてくれた。
どうやら人見知りが落ち着いたようで安心した。
それより今ビオラさんの名前を言い間違えなかったか?
「いえいえ頭を上げてください、人見知りは誰でもするものですから気にしないで
ください」
俺が気分を害してないのを見て安心したみたいだ。
そんな事で怒るような俺ではないが人見知りのいわゆるコミュ障には少しの事で
怒ってると勘違いされても仕方ない。
「まあお互い落ち着いた様やし紹介するわ、この今にも干からびそうな細い人
はこの魔道具店の店主でミケさんや。初対面の人が苦手でやから勘違いされやすい
けど、怒ると怖いから気をつけてな」
どうやら説明の仕方が気に食わなかったのかビオラさんに掴みかかるミケさん。
たしか優しい人程怒ると何をやらかすか分からないってよく聞く。
店の名前もサタンって書いてあるし念の為気をつけよう。
「ビオラが言った事は気にしないでね、あと敬語もいいし僕友達少ないからどうか
仲良くしてね」
そう言って俺の満面の笑みを見せるミケさん、ビオラさんの説明は半信半疑で
頭に入れておこう。
「そうゆう事ならよろしく。俺の事は啓太って呼んでくれ、聞いての通り冒険者
だからまた今度良い魔道具があったら買いに来るよ」
「おい、うちを放置して仲良くなるの止めてくれるか?あとミケさん例のやつ
届いてるんやろ、早く頂戴」
さっきから言ってる例の物ってなんだ?
っていうか何で俺は得体の知れない物を運ぶ手伝いをしてるんだろうと今になって
疑問を感じる。
「もう、色々とガサツなんだから。はい、これが自白用のポーション三箱とミスリ
ル銀で出来たロープと」
「おいおい待て、それらを何に使うんだよ。俺そんな物騒な性癖も無いからビオラ
さんが趣味を楽しむ為の玩具を運んで俺もそんな趣味とか思われるの嫌なんだけ
ど」
趣味を否定されたからか何なのか分からないが焦りながら必死に弁明するビオラ
さん。
「趣味ちゃうわ!これはあんまり人には言いたくないんやけど、うちが次の
仕事で使う道具や」
何それ、ミケさんよりビオラさんの方が本当は怖い人じゃないだろうな。
「後これがビオラさんが一番待ち望んでいた鞭です。因みにこれ仕入れるのかなり
苦労したんで代金は弾んでくださいね」
自白剤とロープと鞭ってもういよいよ言い訳が出来ない雰囲気になってきた。
俺の不信に満ちた視線に気づいたビオラさんは必死に弁明をするが俺は人の性癖を
とやかく言うほど野暮な男ではない。
今回の事は出来る限り舞には言わないでおこうと心に誓った。
「もうええわ、ここまで誤解されたなら仕方ない」
え、とっても嫌な予感するんですけど。
「仕事は明日からにして今日は飲むで!!ミケさんも啓太も今日は朝まで帰さへん
から覚悟せえよ」
「僕は商品を渡しただけで何も言ってないじゃいか!」
「問答無用、この場に居ただけで共犯者も同じや」
俺はこの後理不尽に朝まで付き合わされ、文字通り暴虐武人を尽くされた。
目が覚めると完璧に潰れたミケさんと俺だけで、俺達を潰したビオラさんは
ごめん仕事があるからっという置手紙を残して消えていた。
「啓太様どうされたのですかその顔わ!!もしやレイラさんが心配で朝まで寝れず
に泣いていたんですね。いや、何も言わなくても大丈夫です、このアルゼウスは
心お優しい啓太様をお部屋のお通しするのみです」
「あ、どうも、こんな朝からお邪魔してすいません」
久しぶりの二日酔いで頭が痛いから弁明するのも面倒臭い。
よくよく考えたらこのビスマスを統治するお城の執事に良い印象を与えておくのは
、もしかしたら今後何かの役に立つかもしれない。
俺も良い大人だからな、コネの一つくらいは持っておこう。
俺は意図しないラッキースケベを起こさないようにドアをノックする。
するとドアの向こうからはティアナ様の今にも死にそうな声でどうぞと聞こえる。
「何で三人共そんな疲れてるの?そして何でベッドじゃなく床で潰れた様に
寝てるの?」
レイラは足を抱えて寝転がり、舞はいつも通り酒瓶を抱きかかえて寝ていた。
紅龍という名前から味が気になるが酒が抜けきったないから今は我慢しよう。
「レイラさんがこちらに居住する許可を得てきましたよ」
俺は恐らく今年で一番の速さでティアナ様の方へ振り返った。
「それどおゆう事ですか?いまいち頭が働いてないんですけどレイラはビスマスに
住めるってどうやって」
ティアナ様は寝ぼけ眼でティーカップにコーヒー注ぎながら昨日俺が帰った後の事
を説明してくれた。
「昨日テレポートでアジュライトにレイラさんと舞さんと三人で出向いて王様に
会ってきました。そして舞さんが城内で暴れまして」
王様相手にうちのウィザードちゃんはクレイジー過ぎるだろ。
「それ国際問題になりませんよね?もしあれなら舞を牢獄に送っても大丈夫です
よ?」
「そんな事言うものじゃありませんよ、舞さんが王様にレイラももう大人だから好
き勝手にさせなさい。これ以上レイラを連れ戻そうとするならビオラさん?とい
う方に言いつけるぞと」
何でそこにビオラさんが出て来るんだ?
昨日自白剤とか買ってた辺り、やっぱりあの人危ない人なのかも。
「その名前を聞いて王様の顔色が変わってこちらに居住する事許可してもらえたん
です。それで話は簡単に終わったんですが、祝杯だと言い出した舞さんが王様に
飲むのに付き合えとか言い出して先ほどまで飲み明かし今さっき帰って来たという
訳です」
本当にうちの子がすいませんとしか言いようがない。
「話し合いが上手くいって良かったですが、それに何で俺が同行したらダメだった
んですか?俺が居たら国際問題すれすれになるような事はなかったですし」
「私もそう思ったんですがレイラさんが、啓太にずっと守られてばっかりだから
今夜くらいは一人で頑張ると言うので。王様と謁見した際は舞さんが何かするん
じゃないかと私も生きた心地がしませんでした」
そう言うと徹夜明けには刺激的な朝の日差しをティアナ様は今にも消えそうな
雰囲気で見つめていた。
俺はレイラと一緒に暮らし始めてからずっと子ども扱いしてきたけど、いつの間に
か大人になってたんだな。
「じゃ迷惑かけた訳ですしレイラと舞は連れて帰りますね。レイラ起きな・・・」
俺がレイラを起こそうと手を伸ばすとティアナ様が俺の手を掴み静止させる。
「レイラさんは話し合いの結果、このお城で一緒に暮らし、昼間はギルドの受付
として働く流れになってますので。どうか舞さんだけ連れて帰ってください。
因みにレイラさんの了解はすでに得ています」
「おっと、いくらお姫様でも許しませんよ。俺はレイラと一緒に暮らす為に
頑張ってきたんです、この可愛い獣耳生やした少女を手放すとでも?代わりに
舞をこのお城に置いていきますよ」
「「・・・・・・・」」
「とうとう本性を現しましたね、このロリコン冒険者め!!」
「なにおう!!レイラは渡さん、くらえアイスチェイン!!」
俺の華麗なアイスチェインは一瞬にして消滅され、ティアナ様は両手に電気を
纏わせる。
「甘いです!あなたにはしばらく眠ってもらいます。ライトスパーク」
身体に電流が走り、意識が遠くなっていく中ティアナ様が俺に。
「ロリコンは大人しくお眠りなさい」
お姫様の言う台詞じゃないだろう!!




