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第十六話 幼気な少女を誘拐した気分だ


ヤバイ・・・非常にヤバイ・・・。

額から右頬に垂れる汗で自分が緊張しているのが分かる。

先程まで俺達に優しく真摯な笑顔を見せてくれたこのアルゼウスさんは

ティアナ様の命令により今は俺達の事を敵と見なしている。

そして部屋から出さないよう木製の剣を携えて行く手を阻んでいる。

「話し合いで済ませる訳にはいきませんか?」

自分の実力は分かっている、この人に勝てる気がしない。

はったりで俺はギルドから支給されたそこそこ良い剣をアルゼウスさんに

向けているが、実際のとこ実力から見れば俺が公園に落ちてる枝、アルゼウスさん

は聖剣エクスカリバーで勝負するようなものだ。

二秒で瞬殺される意味の分からない自信まで沸いて来たぞ。

「話し合いはもう終わったんです、そして意見が食い違ってはこうなっても

仕方ないでしょう。啓太さん抵抗せず私の言う通りにしてください」

確かに意見は食い違ったがこうなるとは予想してなかった。

俺の予想では納得したティアナ様がアジュライト国王に取り次いで、レイラは

もうビスマスを去った事にしてもらう筈だったのだが。

「啓太・・・三秒数えたら目を閉じて、私に考えがある」

俺はその言葉に頷く、正直打開策を思いつかない以上恥ずかしながらレイラに

頼るほかない。

「啓太様、あなたとはこのような戦いたくありませんでしたが・・・これも執事

としてのお役目なのでどうかご容赦を」

土下座で許してもらえるなら今すぐするところだ。

「俺もアルゼウスさんとは紅茶でも飲みながらゆっくりお話ししたかったですよ」

俺は手でレイラに合図する、これ以上会話で気を逸らすのは限界だ。

「三・・・二・・・一・・・、フラッシュアイ!」

レイラは目を閉じてる俺の手を引っ張り俺達は部屋からなんとか逃げ出した。

「レイラ今何したんだ?二人とも追ってこないけど」

「今のは私が旅の途中で覚えた魔法で、ハーフビーストしか使えないんだけど

目から強い光を放って目くらましをさせるの」

なるほど、だからフラッシュアイね。

舞が聞いたら何としても覚えたがって、挙句私は魔法少女の前にハーフビーストに

なるわと言い出しそうだ。

「これからどうする?このままじゃあのお爺さんに捕まってしまうよ、それに私の

動物的勘があの人は危険と訴えかけてくるの」

「昔俺も夜行性動物だった俺の勘も危ないと告げているよ、とりあえず今は城から

出る方法を探さないと」

どうやら他の兵士達にはまだ俺達の確保は命令されてないようだが、ティアナ様

無しで城内を歩き回るのは目立つし変身魔法なんて便利な魔法は覚えてないし。

本当にどうしたものか・・・こんな時はスパイゲームで培った能力を発揮するべき

なのか?

「啓太!何か大きい音がこっちに迫って来てない?」

言われてみればなんか猛獣が走ってくるような、そんな足音が。

「見つけましたぞ啓太様!!敵を目の前にして逃げるとは、この老いぼれが

相手では満足出来ないと申すのですか!?」

さっきまでの冷静で物事を判断する知的な紳士の影はない。

もはや執事じゃなく獲物を見つけた肉食騎士だ。

「満足とかじゃなく俺がアルゼウスさんのような百戦錬磨の騎士に勝てる訳

無いでしょう、俺の事は忘れて執事の仕事に戻ってください!!」

「今は啓太様との決闘に勝利しティアナ様の元へ連れて行くのが私の使命でござい

ます、さあ!さあ!!」

なんでこんなに圧がすごいんだよ、もはやギャップとかのレベルじゃねえ。

頭を働かせろ俺、だてに今まで冒険者をやっていたわけでは無いんだ。

この状況を華麗に脱出する方法を考えろ。

「よし!分かりました戦いましょう、俺も冒険者の端くれだ」

観念して俺は剣を向ける、覚悟は決めるしかない。

「ではアルゼウス参る!」

俺は自慢の愛刀で初撃を何とか受け止める。

アルゼウスさんの放つ一振りだけで俺の身体が軋み、次の一撃で俺が負けるのは

誰の目から見ても明白だろう。

だがこのままで終わる俺では無いのだ。

「アルゼウスさん・・・その剣は見ての通り木製ですよね?」

アルゼウスさんは何を今更という顔で答える。

「もちろんでございますよ、いくら捕まえろと命令を出されたとしても啓太様達

は大事なティアナ様の御友人。怪我をさせたとあってはこのアルゼウス、死んでも

死に切れません」

「貴方が真面目なお方で良かったです、トイフレア!」

俺は木で造られた剣に火を点ける、木というだけあって良い感じに燃え上がった。

「なんという不意打ち!ですがまだ甘いですぞ!!」

熱い、燃えている剣が熱いのかこの人が熱いのか分からなくなってきた。

まあ、これしきで引き下がる人じゃない事は分かっている。

これはただの小細工、気を逸らして少しの時間稼ぎが出来れば良い。

「そおい!レイラこっちだ俺に掴まれ!!アイスチェイン」

俺の行動が理解出来ず、アルゼウスさんがうろたえている間にレンガ造りの床

の隙間に剣を突き立てる。

その剣にアイスチェインを巻き付けて俺はレイラを抱きかかえ窓ガラスを

突き破り外に飛び降りた。

「すいませんアルゼウスさん!また今度戦いの続きとお詫びに伺いますの」

 (―ピキン)

今剣が折れたと思わしき音がしなかッ

「あああああ!!!!!」


俺は見誤っていた、ここまで城内の守りが固いとは思わなかった。

アルゼウスさんから一時的に逃げれたのは良いが、戦ってる間に俺達を捕らえろと

いう命令が城中の兵士に行き渡り。

普段訓練しか行えず、非常事態というものに縁が無かった兵士達がやっと来た出動

命令を聞いて血眼で俺達を探している。

平和なのは良いなと思っていたが兵士達がこうも血気盛んになっているとは

思いもしなかった。

そして逃亡者の俺達といえば、今は使われてないと思わしき牢屋に隠れていた。

この街は戦いが無くなってから城での拷問などの施設は一切廃止にし、街の端に

立派な留置場が建てられたという話を聞いたのを思い出して逃げ込んだのは

良いが。

絵面が完璧に幼気な少女を誘拐した犯罪者のそれだ。

「啓太私もうダメ・・・我慢出来ない」

この状況でその台詞は本当に多方面からクレームが来そうなので勘弁してほしい

はずなのに、なんだろう男として何か心に来るものがあるのは最早否定しない。

「何が我慢できないんだ?後こんな時にどこで覚えたか分からないような色っぽい

声を出すのは止めてくれ」

「ごめん、でもこんなジメジメした湿気の多い所は私の動物的部分が拒否反応を

示してるの」

確かに使われてないだけあって蜘蛛の巣だらけだし、何より湿気がすごい。

「そう言っても今地上に出たら確実に捕まるし、運が悪かったらここに入れられる

可能性だってあるぞ?」

レイラは耳を前のめりにさせうんざりした顔を見せる。

そういえば前にも暗い場所苦手とか言ってた奴居たな。

「そこに誰かいるんですか?もしかして啓太さんですか?」

この声ティアナ様か、どうしよう。

兵士なら容赦無くアイスチェインで捕らえるなり叩くなり、レイラのフラッシュ

アイで目くらましをして逃げる事も出来るが。

さっき部屋で使ってしまった以上ティアナ様にはもう効かないだろう。

仲間を自慢する訳じゃないがこの人は頭の良い人だ。

一度見た攻撃は通用しないだろう。

「レイラはフラッシュアイ以外に使える魔法あるか?このままじゃあっさりと

捕まってしまう」

「他には聴力を上げる魔法か嗅覚を上げる魔法と・・・爪の切れ味を上げる魔法

くらいかな、何か使えそう?」

爪の切れ味を上げると聞いて俺はある作戦を思いついた。

「一つ作戦を思いついたんだけど、この作戦には一つ問題がある」

「どんな問題があるの?」

「ティアナ様に嫌われる可能性がある、これは俺にとって非常にリスクだ」

ティアナ様に嫌われると魔法も教えてもらえないし、クエストに向かう時のあの

心から楽しいんだろうなという笑顔が見れないのは俺にとって問題だ。

女性の知り合いが居ない俺にとってティアナ様という綺麗な女性との繋がりが

なくなるのはとても惜しい。

「私以外を啓太は他の女の人を見ちゃダメ!」

「いやそうは言ってもだなティアナ様は大事な仲間だし」

レイラはまた俺に抱き着き小悪魔的上目遣いで。

「私の事嫌いなの?」

頭と心の中の理性が弾け飛んだ、というか元々そんなものは無かったが。

「よし分かった、俺が合図したらその爪の切れ味を上げる魔法を使って、言いにく

いが、ティアナ様の服を切り裂くんだ」

俺の渾身の作戦を聞いたレイラが俺の方を不審に満ちた目で見ている気がするが

そんな事を時ではない。

「それは啓太の趣味とかじゃないよね?あのお姫様の下着が見たいとかじゃない

よね?」

「お兄ちゃんを信じろ、俺がそんな事を考えない奴なのはレイラが一番分かって

るだろ?何度も言うがこのお兄ちゃんを信じろ」

見たいとは思ってないが見えてしまっては仕方ないとは思っている。

「怪しい感じがするけどこのままじゃ捕まるし・・・分かった私に任せて」

「よし!頼んだぞ、レイラだけが頼みの綱なんだ」

牢屋の扉の陰に隠れ、前方から来るティアナ様を待つ。

ティアナ様の足音がコツコツと近づいてくる度に胸が痛くなる、これが恋では

ない事はいくら鈍感な俺でも分かっているつもりだ。

この事件が終わったらしっかり謝りに行こう。

許してもらえるか分からないが。

「準備は良いか?行くぞ」

レイラは俺の方を見てゆっくり頷き、そして・・・。

「ブーストクロ―!!」

「む、啓太様こんなとこああああああ!!!!」

俺が期待したティアナ様の服が破けてあられもない姿に!

という期待をしていたが、そんな姿になったのは護衛に就いていたアルゼウスさん

だった。

破けた服からは見たくもない立派な腹筋がこちらにこんにちはと告げている。

「俺が考えた作戦通りではないが良くやった!逃げるぞ!!」

「待って啓太、まだ誰かいるみたい」

レイラの忠告を最後まで聞く前に俺は腕を掴また状態で床に倒れこんでいた。

というか倒された。

「もお啓太ったらティアナに迷惑かけちゃダメじゃないの、というかこんな初老の

執事の服を破いて、そっちの趣味なの?」

「お前どっから沸いて出たんだよ!!!」

俺を投げ飛ばしたのは今日一日暇をしていた舞だった。


「俺達をどうするつもりだ!言っておくが俺は権力になんて屈しない男だぞ!!」

クソ、こんなにあっさり捕まるなんて。

全く身動きが取れない。

そしてちょこちょこ街で食い逃げ犯とかを捕まえてる舞が城に来ているなんて

誤算だった、何でコイツ魔法使えないくせ無駄に戦闘力高いんだよ。

「私達が悪者みたいな言い方止めてください、話を戻しますが本当にレイラさん

をアジュライトに帰す気はないんですか?」

いくら女神のような微笑みを俺に見せてもダメだ、俺は屈しない。

「何度聞かれても帰す気はありません!」

ティアナ様は俺達が最初に来た時と同じ様にいかにも高級そうな椅子に腰かけて

紅茶を嗜んでいる。

その横には普段酒か水しか飲んでないような舞も紅茶を飲みながら王妃を

演じている。

「アルゼウスこの紅茶美味しいわね、この紅茶を仕入れた者を褒めたいのだけど

呼んできてくれるかしら」

「その者は昨日街で下着を盗みまして、今は留置場でございます」

「そうでしたか、それではその者を打ち首にしましょう」

「それは私の一存では致しかねます」

何のコントをしてるんだこいつらわ。

舞は話を聞かなかったかのように振る舞い、また紅茶を飲みだした。

「啓太さんは仲間ですし出来るだけ私も力になりたいんですが・・・」

「ティアナ様の立場は十分理解してるつもりですが何とかなりませんか?」

「ではこうしましょう、レイラさんは今夜お城に泊まってください」

ティアナ様が私に任せてくれと言わんばかりに俺に向かってウインクをする。

お泊りがどう関係あるか分からないが・・・俺は任せる事にした。

「あ、それなら私も泊まりたいわ。今夜は夜を徹して紅茶パーティを致しま

しょう」

「お前何時までその気持ち悪い話し方してるんだ?ティアナ様はそう言ってるけど

レイラはそれで良いのか?」

迷うことなくレイラは俺に向かって頷いた。

散々逃げたがこの状況では応じるほか無い。

そして今俺は初めて娘をお泊りに向かわせる親の気持ちだ。

「では今日の所はお引き取りください、また明日向かいを出しますので」

アルゼウスさんが俺を縛っていた縄を解いてくれた。

「分かりました、ではまた明日来ますのでレイラと舞をよろしくお願いします」

アルゼウスさんに連れられて俺は部屋をを後にした。


次話でこのレイラちゃん編は終わりです。

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