第十四話 実は友達居たんですね
「啓太啓太~どっか連れて行ってよ、私と遊んでほしいな」
「ごめんね、お兄ちゃんこれからクエストに行かなきゃならないから
お留守番しててね?すぐ帰るからね?」
「う~ん、分かった・・・帰ったら遊んでね?」
「お兄ちゃん三秒でクエスト終わらして帰ってくるから!!!」
俺の前に居るこのハーフビーストの女の子であるレイラが俺達の家に住み始めて
もう一週間になる。
初めて出会った時に結婚してほしいと言われて何事かと思ったが、俺は
もうすっかりレイラを可愛い妹と思うまでになっていた。
茶髪のサラサラショートカット、年齢は十歳の可愛い美少女でまだ子供なのに
変に大人っぽい所もあって。
俺の後ろで気だるそうに欠伸しながら頭痛を訴える二日酔いウィザードに
見習ってほしいものだ。
俺は舞に二日酔いに効くポーションを渡すと。
「ねぇ啓太ってレイラに甘すぎないかしら、それにあの子しっかりし過ぎてるし
何か落ち着きすぎてて何か怖いんですけど」
舞は初対面の印象が悪く未だにレイラに好かれていないのだ。
しかし俺の前でレイラ批判とはいい度胸だ。
「甘いも何もレイラはご飯を作るのも掃除も洗濯も手伝ってくれるし、お前の
飲み散らかした酒瓶を片付けてるのもあの子だ、少しくらい甘くても問題ない
だろう」
自分の部屋を片付けてくれてると知って何も言えなくなった舞は少し拗ねたようの
黙ってしまった。
「お前もちょっとはレイラの真似をして真面目になっても罰は当たらないぞ?」
「ちょっと?それ以上言うと私のも考えがあるわよ、それに啓太がレイラと一緒に
寝よって言えずに悶々してるの知ってるんだからね?」
「おい、俺もそれ以上言うなら考えがあるぞ?今日のクエスト中背後に気を付けろ
よな!それよりもうギルドに行くぞ」
舞は家を出ても俺に突っかかってくる。
余程俺とレイラの中が良いのが気に食わないみたいだ。
「そもそも私が手伝うと啓太は文句を言って褒めてくれないじゃない」
「食材を切らせれば指を切る、調理をさせれば料理を焦がしてダメにする、食器を
洗えばほぼ全部割る、どこを見て褒めろって言うんだよ!」
「手伝ったという事実が大事なの!そこをまず褒めないのが間違ってるのよ!」
「屁理屈ばっか言いやがってこの干物独身ダメ女がっ!!」
「啓太こそこの引き篭りロリコン冒険者!!」
「ついに言いやがったな!表出ろ!!」
「もう表なんですけど!!」
ギルドの前に着いても喧嘩している俺達の声が大きかったのかギルドの中に
いたティアナ様が俺達に割って入る。
「外で誰かが喧嘩してると思えばお二人でしたか、朝から何してるんですか?」
俺はティアナ様にレイラという女の子との出会いとレイラと今一緒に住んでる事を
説明すると、ティアナ様は呆れたように。
「ほんと最近見かけないと思ったら何やってるんですか!?その子の親を探したり
とか何でしてないんですか!?」
「こ、これからしようとしてたんですよ当たり前じゃないですか、あは、あはは」
よく考えなくてもレイラが可愛くて忘れていた。
だがそんな事をティアナ様に言ったら何て怒られるか分からない。
「今日のクエストが終わったら家に行きますのでそのレイラちゃんに会わせて
ください、話を聞く限り誰かに追われてるようですし家に帰ろうとしないのも
気になるので」
「分かりました、と、とりあえず今はどのクエストを受注するか決めましょう」
何だろう、このお母さんに孫を会わせるような感覚、いや結婚も子供まだだが。
「ところで今日はどんなクエストを受けるの?私まだ旅行の疲れが残ってるから
簡単なクエストが良いんですけど」
「疲れも何ももう何日も経ってるだろ、まぁ今日受注するクエストはリトルゴブリ
ンの捕獲にするからそこまで疲れないけど」
門の周辺をリトルゴブリンが住処にしようとしているらしい。
そしてギルドの方にリトルゴブリンが捕獲されたら城壁の改修工事に働かせたい
との話がきているのだ。
全くいつ考えてもモンスターを働かせるという話に違和感を感じるが。
「なんだ、それなら私今日は夜に予定があるから早く終わらるわよ」
舞が予定とか言うと誰かに迷惑かけないか不安でしかないが俺も早く家に
帰ってレイラに癒されたい。
「二人ともリトルゴブリンだって武器を持ってるんですから油断しないでください
よ?特に舞さんは気を付けてください」
「ちょっと?何で特に私なの?」
門の外に出ると肌寒くなったにも関わらず草原は青々として枯れる様子が無い。
「この世界の季節感ってどうなってんだ、この感じだと街の人とか雪なんて見た事
ないんだろうなぁ」
俺がそんな独り言を言うとティアナ様が不思議そうに。
「雪なら降りますよ?」
「え、降るんですか?冬とか来なさそうな感じですけど?」
この気温から雪が降るまでの気温に下がると風邪引きそうだ。
「一年のうちに数週間だけ雪鯨と呼ばれるモンスターがこのビスマスの上空に
停滞するんです」
なんだその危険なのかよく分からないモンスターわ。
そんな俺の不安をよそに舞がモンスターと聞いて興味を持ったようだ。
「その雪鯨が来ると何で雪が降るのよ、それって汚い何かじゃないでしょうね」
「違いますよ!伝承では雪鯨は空気を餌として吸い込み、それを体内に蓄積させて
背中から灰色に輝く綺麗な雲を大量に出すんです、その雲から雪が降るんですけど
その雪はとても甘いんですよ」
「その話を聞いてしまうと雪鯨がとても待ち遠しいわね、早く雪鯨に会いたいわ」
まさか食うつもりなのか・・・俺は雪鯨が来ても雪を食べるのは遠慮したい。
リトルゴブリンの住処は門を出て城壁沿いに歩いてるとすぐに見つける事が
できた。
リトルゴブリンの数も四体程で、魔法も剣術もある程度学んで数か月が経った俺達
なら簡単だ。
ただ不安なのは舞が何か余計な事をしないかという事だけだったのだが。
「ぐっはあぁ!!」
今回のクエストで油断をし、見事下級モンスターであるリトルゴブリンに気絶させ
られたのは舞ではなく俺だった。
リトルゴブリンの身長の低さからレイラを思い出し、寂しくしてないかな?
何て考え事をしていたらリトルゴブリンの持っていた木のハンマーでやられて
しまった。
「ちょっと啓太?大変!ティアナ早く来て!啓太が!!」
「え!!だから油断しないようにってあれ程・・・」
目を覚ますと半笑いの舞とかなり怒った様子のティアナ様が俺の顔を見ていた。
怒ってるのは無理はない、あれだけ油断するなと言われていたのに・・・。
あんな下級モンスターにやられるなんて正直恥ずかしい俺の事は見ないで欲しい。
「何て言うかごめんなさい、あとそんな顔で見ないで」
俺がそう言うとティアナ様がゴミでも見るかのように。
「リトルゴブリンはギルドに引き渡しましたので今日は帰りましょう」
言われてみれば住処はもう取り壊されて跡形も無くなっていた。
どうしようかなり怖い、課金し過ぎた時の親を思い出す怖さだ。
「啓太はこれに懲りて私を馬鹿にするのは止めなさいよね」
「それは無理です」
何でと叫びながら俺の首を絞めようとしてくる舞を交わしながらティアナ様の
表情を見るともうかなり怒ってる様だ。
「あの、ティアナ様?本当にすいませんでした、次からはこんな事が無いように
しますので機嫌を直してください」
「私は本当に心配したんですよ?もし起きなかったらどうしようとか色々考えたん
です、もう本当に本当にこんな事は無いようにしてください!!」
「ごめんなさい、もうこういった事は無いようにします」
レイラが来てから俺はどうやら腑抜けてしまったようだ。
目の前の仲間にこんなに心配させて、いや、一名俺の事を未だに馬鹿にするような
目で見てくる奴もいるが。
「私は一足先に帰ります、それではまた」
「今日はありがとうございました」
ティアナ様は俺達に法を振り返る事は無く帰って行った。
「どうすんのよ啓太!ティアナったらかなり怒ってるわよ、私も手伝ってあげる
から明日謝りに行くわよ」
普段誰にでも優しく、お姫様の中のお姫様であるティアナ様の本気で怒った姿を
見てさすがの舞もどこか焦ってる。
「あの子が怒っちゃたら魔法を教えてくれる子が居なくなるじゃない!!」
「お前最低だな」
俺達はギルドで決して多くない報酬を受け取り家に帰ろうとしたとき。
「私これから友達とご飯食べに行くから先に帰ってて」
友達と言ったのか?日本で俺と同じ引き篭りオタクの舞に友達だと!?
「お、お前友達なんていつの間に!?」
舞は何がおかしいのと言いたげな表情で。
「この世界に来て何日経ってると思ってんの?友達くらい出来て当然よ、それより
待ち合わせの時間が迫ってるから私もう行くわ」
待ち合わせの時間を守るなら色々守る事あるだろうというツッコミをさせる
暇もなく舞は走って行った。
女の子って友達作るの何で上手いんだよ俺まだ友達とか居ないのに。
いや、ティアナ様は友達だけど・・・あ、そうか・・・俺は友達を怒らせたんだ。
俺は今日の事を反省しながらトボトボと家に帰り。
「ただいま~」
俺の帰りを待ちわびていたレイラが出迎えてくれた。
「おかえりなさい啓太って元気ないけどどうしたの?」
心配そうに俺に問いかけるレイラに俺は今日の出来事を説明しようとして止めた。
レイラの事を考えてて怪我をしたなんて口が裂けても言えない。
「何もないよ疲れただけだ、それより俺先に風呂入るよって何で止めるの?」
そのまま風呂に行こうとする俺の服をレイラが引っ張る。
「きょ、今日は一緒にお風呂入りたい・・・な」
「よし入ろう!!」
ダメだとか女の子だからとか雰囲気を壊すような事を言う俺ではない。
俺はこう見えても紳士なのだ、いくら子供と言っても女の子の勇気を出して言った
お風呂入ろうを無下にするなんて以ての外だ。
決して、決してこの前言われた結婚しようを間の受けた訳ではない。
そんな俺の興奮を打ち消すかのように家の中にノックの音が響き渡る。
この忙しい時に誰なんだよ。
「ごめん俺ちょっと誰が来たか見て来るよ、レイラは良い子にして待っててくれ」
俺はいつもより五割り増し良い声でレイラにそう告げドアを開けた。
「夕食時に申し訳ありません、少し気になる事がありまして伺いました」
ドアを開けるとさっき怒って帰ってしまったティアナ様はだった。
「ど、どうしましたか?あ、ここではアレなので中に入ってください」
こうは言ったが正直気まずい、俺に文句を言い足りなかったのだろうか。
俺はお茶を出し、どんな風に怒られても良いように心の準備をする。
「ありがとうございます、実は今騎士団長から妙な事を聞いて来たんですけど
レイラさんは今はこちらに居ますか?」
そういえばレイラに話を聞きに行くとさっき言ってたな。
「もちろん居ますよ、レイラこっちに来てくれ」
「どうしたの啓太、私待ってたんだけどって誰この女?」
レイラはなぜか敵でも見るかの様にティアナ様を睨みつける。
だがそんなレイラを見てティアナ様が驚きの表情を浮かべ立ち上がり持っていた
コップを落とした。
「何やってるんですかコップは木で出来てますけど落としたら傷つくんですよ?」
ティアナ様は我に返ると同時に頭を抱えて椅子に倒れこむように座る。
「啓太さんやってくれましたね、この子は大規模に捜索願いが出されている
アジュライト国の国王の六女、レイラ様です」
俺はその言葉を聞いてレイラと初めて出会った時の事を思い出した。
「という事は俺はレイラと結婚して国王になるんですね」
「何言ってるんですか!!!」
「痛っい!!」
俺は初めて女性にグーで殴られた。
「ティアナ様グーはダメでしょう」
俺は右の頬をさすりながらレイラに頭を撫でてもらう。
女性に殴られると心と頬へのダメージが大きいのか。
「すいません理性が抑えられませんでした・・・それよりどうしてレイラ様が
ビスマスに一人でいるんですか?」
「言いたくないというか今は言えない」
俺は今にも泣きだしそうなレイラを台所に行くように告げた。
表情を見たら女心が分からない俺でも今は言いたくないというのは分かる。
「ティアナ様今日の所はこれくらいにしてまた明日にしましょう、今日は俺も
疲れちゃってもう眠いんですよ」
「そうですね分かりました、明日は是非お二人でお城にいらしてください」
「すいません。それではまた明日、おやすみなさい」
「はい、こんな時間にすいませんでした。また明日」
ティアナ様を見送り、元気のないレイラの頭を撫でる。
俺は何があってもレイラの見方だしどんな事情があっても守ってみせる。
だが今はとりあえず・・・。
「レイラ、お風呂の前にご飯食べに行こうか」
「うん!!」