第十三話 それは綺麗な右フック
何となくですがここまでを第一章として、最後にエピローグを投稿して次から第二章としたいと思います。理由は本当になんとなくです。
「昔師匠が特に大事にしている書庫に忍び・・・入れてもらった時に」
「今何か言いかけましたよね、今忍びこんだって言いかけたように感じた・・・」
ティアナ様は俺に目も合わせずに話を続けた。
「両手をで円を作りその中心に自分の魔力を圧縮し、そしてその
圧縮した魔力に硬化魔法を付加すると人口魔法物質が出来るんです」
「話だけ聞くと簡単そうに聞こえますけど難しいんですか?」
「そうよ啓太の言う通りよ、何なら私でも出来そうな気がする!」
確かにそうだが毎回毎回コイツの自信はどこから来るんだ。
「確かに話だけならそう思うかもしれません、でもクォーツ並みの大きさを
作るには何年も修業しないといけないと聞きますし魔力を圧縮するのも技術が
いるんです、一概に簡単とは言えませんよ」
あんな丸い球を作るのにそんな修業がいるのか、はっきり言って面倒くさい。
「私なんかに出来るか分かりませんが・・・やってみます」
そういってから早一時間が経ったが未だに圧縮された魔力は野球ボール程度の
大きさにしかなっていない。
ティアナ様にもだんだん疲れが見えてとれる。
その姿を見て舞が不安げに俺に話しかけてきた。
「やっぱり私がやった方が良いんじゃないかしら?私ってなんか隠れたスゴイ魔力
とか秘めてるっぽいし」
確かにアクアニードルの件といいコイツには強力な魔力があるのかもしれないが
何もティアナ様に聞こえるであろう大きい声で言うのは止めて欲しい。
ティアナ様こっち見ないけどこめかみの部分がピクピクしてる気がする。
「いや、お前にはスゴイ魔力とか隠されてるかもしれないがそれを使ってもお前倒
れるだろ?ここはティアナ様に任せようじゃないか」
「え~でももしティアナが失敗して街が滅んだらごめんなさいしても許されない
だけど?本当に大丈夫?あのお師匠さんも言ってたけどティアナって本当はダメな
子っぽいし不安なのよ」
舞の俺の右肩を揺さぶってくる手を振りほどく。
「何でお前はそう無神経なんだ?今まさにティアナ様が頑張ってんだから素直
に応援してやればいい話だろ!確かにダメな子かもしれないけど頑張ってる
ダメな子応援するって仲間として当たり前の事じゃないか、もし失敗しても優しく
してしてあげるくらいの気持ちで見守ってやれなくてどうする!」
俺は応援しようという気持ちで言ったのだが俺のそんな言葉がティアナ様に
とどめを刺したらしい。
ティアナ様の周囲に魔力のオーラが見える、きっとお怒りになったのだろう。
「なんですか・・・二人とも私の事ダメな子だとか優しくしてあげろとか」
「いや私はそんな事言ってないわよ?啓太が全部悪いのよ、後で私が怒っておいて
あげるから!」
「いや最初に言い出したのはお前だろ、俺は限りなく無実に近い無実だ」
「何でよ!啓太だってダメな子って部分に同調したじゃない!」
「もう良いです、私の本気を見してあげますよ、うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ティアナ様はお姫様とは思えない勢いで叫びながら魔力込める、さながら某
世紀末覇者のような勢いだ。
「すごい魔力だ!もうあんなに大きくなってるぞ舞!」
「本当だわ、やれば出来る子だと思ってたは私わ!ダメじゃない啓太ダメな子とか
言っちゃ」
コイツさらっと俺のせいにしようとしてないか?
「啓太さんすいません!もう魔力が限界で硬化魔法が放てません、私の代わりに
硬化魔法をお願いします!」
「え、そう言われても俺硬化魔法使えませんよ!?主に一部分なら硬くな・・・」
俺の言葉を遮るようにティアナ様が。
「魔法名はリカラットです、啓太さんなら使えるはずなのでお願いします」
俺はそんなに信用されてたのか・・・よし・・・。
「分かりましたいきますよ、リカラット!!!」
俺はありったけの魔力を込めてそう叫んだ。
俺達は頑張って作った人工魔法物質であるクォーツをリーリヤさんの家まで
運び、これが本当に空に浮いてるクォーツと同じ効力を発揮するかどうか見てもら
うためだ。
もしこのクォーツが使い物にならなかったらお手上げなので考えないようにしたい
所だが、仕事が終わったと信じ込み鼻歌交じりでクォーツを運ぶ舞を見ていると
もう不安しかない。
「俺リーリヤさんの弟子じゃないからこれが使い物にならなくても怒られない
ですよね?罰とか無いですよね?」
「大丈夫ですよ!これは問題なく本来のクォーツとしての効力を発揮してくれます
よ、そもそも何で頑張って作った物を信じてないんですか!?」
ティアナ様が不満げに俺の方を睨んでくる。
「そうよ啓太、全部上手くいって後はこれをお師匠さんに見せたら終わる話なんだ
から余計な事言わないで!私はまだこの街で見たいお店があるんだから早く終わら
せて宿に向かうわよ」
さすがに二人から強く言われると何も言い返せないが、あの犯人達の言っていた
イケメンの事が気になる。
さっきの話だと犯人達をけしかけたのも恐らく手引きしたのもその話に聞く
イケメンなのだろう、主犯格がイケメンだと聞くからには男として黙ってる
つもりはない。
何故かイケメンという部分に腹が立つ、ここはイケメンに一発お見舞いし
て・・・。
「師匠!持ってきましたので使えるかどうか判断してください!!」
俺がまだ見ぬイケメンにどんな仕返しをしてやろうか考えてる内にリーリヤさんの
家に着いたようだ。
「やかましいな、それぐらい自分で判断しろと言いたいところだが試練と言ったの
は私だし見てやろう」
そう言うとリーリヤさんはティアナ様ご自慢のクォーツを眺める、その姿を見てい
ると少し緊張で胃が痛む。
俺はこの状況に昔親に実力テストを見せる時と同じ感情を抱いた。
「よし、まぁこんなもんだろう合格だ」
その言葉を聞いてティアナ様は緊張が解けたのか腰が抜けて尻もちをつく。
「やりましたねティアナ様!これでこの街はもう大丈夫ですよ!」
「私は最初から出来ると思ってたけどおめでとうティアナ、やったわね!」
コイツは典型的な調子の良い奴だな。
「啓太さんや舞さん達のお陰ですよ、でも何はともあれ私の第二の故郷を救う事が
出来て私・・・本当に・・・ってあぁぁぁぁ!!!!!!」
「「わあぁぁぁぁあああ!!!」」
リーリヤさんはフンっという掛け声とともにそれはそれは綺麗な右フックで
クォーツを殴り割った。
「ちょっ何やってるんですか!!それを作るのにどれだけあなたの弟子が頑張った
と思ってるんですか!この鬼!悪魔!!」
「そうよ、自分は何もせず試練とか耳の良いセリフで弟子をパシリに使うなんて
のが私そもそも気に食わなかったのよ!こんのババァあぁぁぁぁぁぁぁ」
禁句を言った舞は二回目の拘束魔法をくらい、さすがのティアナ様もリーリヤさん
に掴みかかった。
「師匠・・・あなたって人は・・・あなた人は!!!」
「待て待てお前ら何を勘違いしてるんだ?確かに試練とは言ったがお前程度の
作ったクォーツが本当に街の維持に使えるわけないだろう」
この人の人種はエルフじゃなく鬼じゃないのか。
「そもそも街に浮いてるクォーツも寿命がきてたんだ、だから丁度良いと思って
悪だくみを考えてた小娘エルフを利用して大変な試練っぽくさせてもらったという
訳だ、久しぶりに変装魔法を使ったり私的にはかなり楽しかったぞ」
じゃ何か?俺達はこの人の試練という名の暇潰しに付き合わされたのか。
ティアナ様は緊張感が消えたのとまさかの事実を聞いたので真っ白になっている。
「一つ質問しても良いですか?」
「ん~なんだ?私は私でこれから忙しいのだが」
「寿命が来てるクォーツの方はどうするんですか?もしかしてクォーツが無かった
らこの街が滅びるというのも嘘ですか?」
「それを今から作りに行くんだよ、あれが無かったらこの街が崩壊するのは
本当だ、私がやれば一瞬で出来るからお前たちはもう好きにして良いぞ」
そう言い残してリーリヤさんは魔法で飛んで行った。
「どうする舞、この街はもう崩壊しないしティアナ様はこんな状態だし宿の方へ
行くか?それともここでリーリヤさんが帰ってくるの待つか?」
リーリヤさんが飛んで行ったのと同時に拘束魔法が解かれて自由になった舞は
少し考え込み。
「私はちょっとお店巡りでもしてくるわ、一時間後くらいにこの家に戻ってくる」
そう言って舞は何事も無かったかのように軽快に走って行った。
本当に舞はこの街が気に入ったんだな。
「水を持ってきたんで飲んでください、きっと落ち着きますよ」
「本当に今回は何から何まですいませんでした、啓太さん達はただ旅行をしに来た
だけなのに師匠と私の都合に付き合わせてしまって」
ティアナ様はそう言いながら申し訳なさそうに俯く。
どちらかと言えばティアナ様も被害者な訳だし俺から責める事は無い。
「気にしないでください普段出来ない経験が出来たと思えば良いだけですし、何
よりこの街が崩壊しないなら何でもいいですよ」
そう言いながら俺も先ほど店で買ってきた水を飲む、この街の水は魔力が微量に
含まれていてとても美味しいのだ。
「今回のお詫びはお城に帰ったら必ずいたしますので」
人に深々と頭を下げられるとどう反応して良いか分からない。
ましてやお姫様ともなると尚更だ。
「ところ先ほど第二の故郷って言ってましたけど何歳くらいからこの街で修業して
たんですか?」
「五歳くらいの時からです、昔用事でお城を訪れていた師匠に声を掛けられて
私には素質があるから弟子にしてやるっといきなり言われたんです」
昔から強引な人だったのかあの人わ。
俺ならいくら美人でもあんな自由な人は御免だ。
「それでそんな小さい頃からこの街で修業してたんですね、小さいのに立派だった
んですねティアナ様わ」
ティアナ様は照れたようにニコッと笑って見せた。
「ちょっといい雰囲気のところ申し訳ないんですけど、啓太さんそろそろ宿に
向かわないと宿屋の人に怒られちゃうんですけど、私怒られるの嫌だからアンタ
が怒られてよね」
「わっ!!ビックリするからいきなり耳元で喋るな!!」
お店巡りから帰ってきた舞が何かに怒ってるかのように俺達の間に割って入って
きた。
「分かったよ、俺達は宿に泊まりますけどティアナ様どうしますか?」
「あんな人でも大好きな師匠なので私はこっちに泊まります」
いたずらな笑顔でティアナ様はそう答えた。
この後エピローグ投稿します、短いお話です。