4話 酷白
お願いします!
あれから俺は会計をした後で、もう絶対に行かない!
と心に決めていたのだけども、暇な日はほぼ毎日通う様になってしまっていた。
一回行く毎に俺が落とす金は千円から三千円。
その金額は一日を簡単に過ごす事が出来てしまう為に、店に入ってから数日は殆ど絶食に近い生活を送っていた。
稼げる金額には、限界がある。
その為に使える額の何処かを削るしか無かった。
…まぁ空腹で気絶した時に見た夢の中で、死んだ親父が現れた次の日は、余り金に糸目をつけずに食べ漁ったりはしたけど大体はそうやって生活をしていた。
そして、急にバイトのシフトが無くなった今日もオシャレな喫茶店(川柳)の前に来てしまっていた。
ん?…死にそうになりながらも何で行くのかって?
そんなの、柳さんの接客を受ける為に決まってるじゃないか
俺は今日も幾ら散財するのだろうと考えていると、本気で死の危険を感じてしまう。
しかし、其れでも俺は喫茶店の扉を開けて入ろうとする。
柳さんは俺が扉の前にいる事を気付いていた様で、出迎えに来てくれていた。
其れも可愛らしい良い笑顔で...
『いらっしゃいませっ!高榊君。』
『こんにちは、柳さん。』
『何時もありがとうございます。何時ものカウンターで良いですかね?』
『うん、そこでお願い出来るかな?』
『畏まりましたっ。お父さんー、高榊君が来てくれたよー』
俺にそう言った後、柳さんは厨房の方に顔を向けて可愛らしい声でお父さんを呼ぶ。
数秒後、店長が厨房から出て来ると挨拶をしてくれた。
『何時も、来てくれてありがとうね...高榊君。』
『すいません、また来てしまいましたよー。此処のコーヒって直ぐ飲みたくなるんですよねぇ...という事でコーヒーを一つ下さい!』
ここのコーヒは確かに美味しい。
しかし、その為に来ている訳が無く。
俺はただ柳さんを近くで一目見る為にいつも来ていたのだが、そういう体裁で店に入っていたので一応答えた。
『ははは...まっ、そういう事にしといてあげるよ。
コーヒーを一杯ね。』
『...おねがいします。』
そういう体裁で店に来ていたが、どうやら店長にバレているみたいなので頰を掻きながら答える。
俺達二人のやり取りを見ていた、柳さんは不思議な顔をして話し掛けて来る。
『ここのコーヒーが美味しいから来てくれているのに、お父さんも可笑しな事を言うなぁ〜。ね?高榊君。』
『…うん、そうだね。』
…柳さんの言葉に、俺はそう言う事しか出来なかった。
その後俺は適当に値段を見ないで食べ物を注文した。
値段を見るのが怖かったわけではきっと...無い
です
そんな事より今日は、クラブハウスサンドとサラダが付いたセットを注文した。
具は定番のトマト、チーズ、レタス、ハム
味付けはマヨネーズとからしをベースとしたドレッシン
それを、自家製であろうモチモチとしたパンの表面だけをサクサクに焼いて挟まれる。
色合が良い野菜にマイルドでありながらもピリリと辛い味付け...
一度口にすればもう手が止められない様な料理だった。
流石、千円のクラブハウスサンドは違うな。
そんな、感想を抱きながら食べ進めていった。
たった十口程で二つあったそこそこと食べ応えのあるサンドとサラダを俺は食べ切った。
『はぁ..美味かった。』
『本当に、早く食べ終わりますね!』
『ああ、本当に凄い食べっぷりだねぇ。はい、サービスのアイスコーヒー』
店長が俺の前にアイスコーヒを置いてそう言った。
『すいません、何時もありがとうございます!』
何回も行く内に、何故かサービスをしてくれる間柄になっていた俺は一度お礼を言い一口含んだ。
アイス特有なコーヒーのスンッと、鼻を通って行く香りを感じる。
アイスコーヒをチビチビと飲みながら、胃に感じる嫌じゃ無い満腹感を楽しみながらカウンター裏に置いてあるコーヒ豆を眺めた。
...次に、この満腹感を得る事が出来るのは何時なんだろうなぁ
俺は後悔に近くて遠い感傷に浸っていると、店長が話しかけて来た。
『いやあ、本当に何時も来てくれてありがとうね。...良い思い出が出来たよ。 娘の友達が美味しそうに食べてくれたってね。』
『?、は、はぁ...』
店長の言葉を理解出来ずにいたので、曖昧にしか答える事が出来なかった。
俺が理解して無い事に店長は気づき、声色を低くして説明を始めた。
『実は此の店をね、締めようと思ってるんだ。』
『えっ!?』
『ここ数年、かなり売り上げが落ちてねぇ...
此の店は死んだ父さんが初めて営業した一号店だからモソモソとやって来たんだけど。他の店もあるから其っちに力を入れろって母さんに言われちゃってねぇ...娘は此の店にかなり強い思い入れが在るから手伝ってくれてたんだけど、あんまり変わらなくて...』
『…そうなんですか、悲しいです。』
店長の話を聞いた俺は、本気でそう思った。
優しい店長に、優しい柳さん。
美味しい料理に、美味しそうな柳さん。
見たくなるカウンターの前に置いてあるコーヒ豆と、化粧なんてしてないのに其処らへんのアイドルなんかよりずっと見ていたくなる柳さん。
そんな、色々の柳さ..いや思い出が詰まった此の店が無くなるのは辛く哀しく感じてしまっていた。
今日はもう居座る気が無くなった俺は立ち上がると会計をしようとする。
『...すいません、会計をお願いします。』
『もう、帰るのかい?もう少し娘と話しても良いんだよ?』
『ちょっと今日は...そう言う気分になれなくて。何とか又来ますね。』
『ああ、そうしてくれると助かるよ。 ...ごめんね、こんな空気にしてしまって、今日は全部俺が奢るよ。』
そう言った、店内に俺は一瞬ピクリと動いてしまう。
やった、無料だ!!これで明日も食事が出来る!
そんな事を一瞬だけ考えいたが、そんな事をすれば売り上げが落ちる。
売り上げが落ちればもっと早く店が無くなるかも知れないという、良く分からない思いに駆られて。
身を切る思いで多めに払った。
『...じゃあ、帰りますね。』
『ちょっと、高榊君お釣りは!?』
俺が店の外に出た時に丁度そんな声が聞こえて来た。
俺は振り返って、店長に答える。
『...もし、売り上げが伸びたら続けられるんですよね?なら少ないですけど俺の気持ちです。』
『…高榊 君』
店長が、俺の名前を呟いて居るのが聞こえる。
でもそれ以降、俺は返事をする事はなく帰路を辿った。
『何時もよりは早く出たけど、もう暗いなぁ。』
日が沈みかけている空を見てそう呟く。
...何と無く、格好付けてあんな事言ってしまったけど
本当にどうしよう
多めに渡しちゃったから数日は確実に食えない....
又、夢で親父と会うのかなぁ...そう考えながら歩いていると何時倒れても可笑しくない程のボロさを誇る自分の家が見えて来た。
あまりのボロさに住民は俺以外全員居らず。
建物周辺は、野草が生い茂っているのが嫌に目へ入っしまう。
『…….最悪、此れを食べるか。』
そう思いながら、俺が家に入ろうとしている丁度其の時
可愛らしい声が聞こえて来た。
『高榊君っ!』
『ハイッ!!...って柳さんっ!どうしたの!?』
思わず反射的に後ろへ振り返る。
其処には頰を染めながら息切れを起こしている、仕事着のままの柳さんが居た。
俺は、訳が分からずテンパってしまう。
若しかしたら、もう潰れるのは決まってるんだからとお釣りを返しに来たのかも知れない...などと俺は考えていた。
しかし、柳さんが此処に来た理由はそんなのでは無かった。
『高榊君っ!、お願いがありますっ。』
『おねがい?』
頰が赤く染まっている柳さんにそんな事を言われたら、嫌でもやましい事を考えてしまう。
何?もしかしたら、告白っ!?
そんな事を考えながら俺は、ドキドキしながら続きの言葉を待つ。
……ホント、頭から思えば頰が染まってるのも走ったからだって言うのに、モテない男の性だった。
うん、仕方が無いね。
そんな事はさて置き
柳さんはゆっくりと口を開き可愛らしくも芯のある声で俺に叫んだ。
…そして、俺はもうこんな沈む夕日をバックに叫ばれるシチュエーションはもう告白しかないと勘違いをして居たが為に、返事などは一つしか存在しなかった。
『わ、私と、一緒にっ...川柳を立て直して下さーいっ!!!』
『はいっ!!』
次は明日の0時に出します。
登録とか何かお願いしますっ!
見てくれてあざした!