28話 いたみ
お願い致します!
俺が一人学校へ着いた後、俺はただひたすらにメイド服を作っていた。
手伝いに来てくれる女子達の採寸をしてないから、無駄になる可能性はとても高いというのにメイド服を作り続けていた。
頭を休ませる暇が出来るとどうしても、あの事を考えてしまう。
其れが、どうしても嫌で気持ち悪くてムカついてしまう俺は、無心になろうと思いながらメイド服を作り手を休ませずに縫い続けた。
昨日の夜のうちに大体の作る行程を頭に入れていたおかげもあるのだろう。
昨日の始めに作った衣装とは比べものにならないほど細部にまで拘った刺繍を入れた其れが既に2着完成している。
自分で作っておいて何なのだけど、俺は一体何になろうとしているのかが不思議で仕方がないが縫い続けた。
……無心になる為に。
しかし、どう頑張っても無心にはなれず邪念ばかり入ってくる。
これ、誰も寸法が合わなかったら売ろうかなぁ...
一瞬だけ、幾らで売れそうか妄想し始めたが直ぐに頭を振って邪念を落とそうとした。
駄目だ、駄目だ。
これは、川柳の続行のだけに作った衣装なんだ。
俺の醜い欲求を入れて良いものじゃない。
何を考えてるんだ俺はっ、こんなんじゃ...森宮と一緒ではないかっ!!
そうやって自分で自分を咎めるように言い聞かせていると、無意識の中で手に込めた力が強くなっていく。
ぶちっ、と縫っていた布を小さく破ってしまい、勢いが止まらなかった針は布を抑えていた人差し指に深く突き刺さる。
『痛っ。……』
思わず目を閉じ、針を抜こうとするのだが俺は途中で抜くのを止めた。
針が刺さって取るまでの数秒間。
とても短い時間ではあったが、確かに俺は何も考えないで時間が過ごせていた。
『…………』
針が深く刺された指をぼんやりと眺める。
針の周りからは血が滲み始めている。
きっと、抜けば少なくはない血が流れるのだろう。
そして、もしかしたら抜いた痛みで何も考えられなくなるのかもしれない。
今でさえ痛いというのに抜いてしまえば更に痛いなんて事は理解しながらも、もし何も考えられないで入られたならばどれだけ楽なのだろうか...
そんな事を無意識に考えながら針を抜こうとしていると、俺に話しかけて来た奴がいた。
『弁当、忘れてたぞ。』
そのセリフと共にぽんっ、と机の上に見覚えのありすぎる弁当箱を置いて来た。
『…ああ、ごめん忘れてた。ありがとう森宮。』
『いや、いいさ。気にするなよ。其れよりも、何時もお前が食べてた弁当ってさ柳さんのお父さんが作ってたのか...俺は、てっきり柳さんが作ってたのかと思ったよ。』
『そんな訳、ある訳ないだろ...』
『ハハハ。まぁ、朝の柳さんを見てそう思ったよ。』
…一緒に通学したのか何て言葉が出そうになった俺は本当にどうかしている。
このままでは、駄目だと思い俺は話を変える事にした。
『森宮、出来るだけ早くメイドをしてくれる人達の寸法と序でに顔合わせもしたいんだけど何時なら出来る?』
『ああ、そうだな。取り敢えず今日中には、したい所だけど未だ少しこっちも買い出しがあるしな...よし、分かった。柳さんに、買い出しは頼むから放課後この教室で顔合わせをしようか。』
『柳さんに買い出しは頼むって、森宮は何をするんだ?』
『高榊の事を知らない奴が多いんだから、俺も一緒にいるよ。その方が顔合わせもしやすいだろう?』
『っ………。確かにそうだな。それじゃあそれで頼むよ。』
『ああ、それじゃ今から柳さんにその事を話してくるよ。』
『……うん、頼むよ。』
俺の言葉に背を向けながら軽く手を振る森宮は直ぐに教室から出て行った。
自分でも言っていた様に此れから柳さんの所に行くんだろう。
『…あいつも、本気でやろうとしてる。』
俺は、誰にも聞こえないぐらいの小さな声でそう呟く。
ある意味で、柳さんのデートとも言える様なシチュエーションを捨てて俺と待ち合わせるなんて事は、柳さんだけが目当てなんて人には絶対に出来ない筈だ。
今の会話だけで、悔しいけどアイツも本気で川柳を何とかしようと思ってるのだと俺は、気付いてしまった。
…負けてられないな、俺も。
出来る事をしよう。
そう自分に言い聞かせながら俺は、もう何度目かになるのかもわからない決意を新たに頑張ることにした。
そして、先ずはメイド服を人数分完成させる事だと結論づけた俺は、気合いを入れる為に両手で両の頬を叩いた瞬間。
………未だ針が指に刺さっていた事に気付いてしまったのだった。
『っっっいってたつたーーーーへ!!!!!!』
うん、思った通り一瞬だけ何も考えられなかったけど全く割に合わないわ。
あざした!
評価とかお願い致します!!