26話恋心
お願いいたします!
あれから少しだけ、メイド喫茶についての話をした結果。
渋々と言った形で柳さんはメイドをやる事になった。
メイド服を作るのは当然俺。
メイド喫茶の内装は、店長と森宮が担当する事になって。
今日はもう、お客さんが一人も居なかったので早くに閉店させて貰う事にして其々が作業に取り掛かった。
早速俺は一人で商店街にある布屋で衣装を作る為の布を買った。
其れと同時進行で他の三人は店内は改装をしていた。
改装の間は散らかるので、メイド服作りに支障が出るかもしれないと言う事で俺だけは先に家へ帰る事になっていた。
衣装代は川柳が負担する事になっていたので俺は、帰る前に布屋で切って貰った領収書を渡そうと川柳へ戻った。
ユックリ店の入り口を開けると三人は忙しそうに片付けをしていた。
『お父さんっ!この少し日落ちしたカーテンはどうするの?』
『店長、椅子と机は此れだけですか?出来るだけお客さんが入れる様に増やしたいんですけど、どうですかね?』
『え、えーと、カーテンは高榊君に聞いて作れないんだったら、買い直そうか。森宮君の方は裏にある倉庫に入ってると思うから、使えそうな奴を出してみてくれないかな。』
『分かった。じゃあ、取り逢えず変える言葉を決まったも同然だから外すね?』
『分かりました。なら行ってきます。』
『うん、頼むよ。』
店長の言葉通りに二人は動き出す。
二人が動いたのを見て俺は店長に領収書を手渡した。
『店長…領収書です。』
店長は、受けとった領収書を見て近くの机に置いた。
『ん?ああ、ありがとう高榊君、別に明日でも良かったんだよ?』
『布屋が結構近かったんで。今渡そうかなって思って持って来ました。』
『ああ…そう言えば近くにあったね。其れで野暮なことを聞くけど作れそうかい?』
『任せてくださいよ!店長。明日の朝には作って持って来ますんで。…其れより、柳さん以外後何着作るんです?』
『森宮君が言うには、頑張って明日には取り逢えず6人ぐらい連れて来るそうだよ。』
『そうですか、なら森宮に寸法まではやっといてくれって言っててください。』
『ん?...君が作るのに、自分で測らないのかい?』
俺の言葉を聞いた店長は同然の疑問を浮かべている。
確かに普通は、衣装を作る人間が測ったりするのだろうが今回はそうはいかなかった...
何故かって?
そんな事は簡単だよ。
話を聞く限り、綺麗な女の子達を引っ張って来るらしいのに、俺が指一本でも触れたら社会的にも物理的にも殺されてしまうからだ。
柳さんと会って俺はちゃんと理解したのさ。
今迄、柳さん然り、森宮然り、ああいう華のある人間と一緒に居たり話したりするだけで睨まれたり、体育祭裏にまで連れていかれたんだ。
其れより更に一歩上に行って、華のある人間に自分から触れるなんて、危険しか感じられない。
と言う事で命の危険性を感じた俺は其れっぽい事を言って誤魔化すことにした。
『顔合わせを一人一人するのも面倒なんで、そうしたいんですよ。』
『…ああ、まあそうだね。』
あまり納得はいってない様だったけど、取り逢えずそう言うことになった。
『店長ーっ!ありましたよー!』
ふと、店長から視線を外し散らかっている床を眺めていると、厨房の奥。
もっと言えば更に奥から森宮の声がした。
店長は俺に「ちょっとごめんね...と詫びを入れた後、外にいる森宮に聞こえるように叫んだ。
『あったかいっ!?…森宮君っ!!なら、厨房にあるフキンで埃とか撮ってくれないか?』
『分りましたー!!』.
外から返事が聞こえた後、森宮は再黙々と作業を始めたみたいで、声が聞こえない。
森宮もやってふなぁ...そう思うと、俺も頑張らないといけないと感じ始める。
早く帰って、作らないとな。
俺は店長に声を掛けてさっさと帰る事にした。
『じゃあ、店長...帰りますね。お疲れ様です!』
『ああ、お疲れ...今日もありがとうね。』
『はい。』
何時もなら、此処で柳さんに挨拶もするのだけど。
今日は忙しそうにして、窓際の席のカーテンを取っ払った後、何処かに消えていた。
一度出て行った後、柳さんはあれがまた戻って来ている事に気が付いてなかったみたいだから、此の儘帰る事にした。
店の扉に付いている鈴を鳴らさない様に気を付けて、扉を開ける。
外に出た後も、慎重に締める為にと身体の向きを変えてゆっくりとした動作で扉を動かしていると、店長と顔があった。
一応、俺が帰ると言う事で外まで一緒に付いて送り迎えはする気は気持ち悪いかなかったのだろうが、気持ちだけでもと言う感じで見ていてくれたのだろう。
俺は一応、感謝と帰宅の意を込めて頭を一度下げた。
『……さようなら、っと。』
きっと聞こえてはないだろうが、一応小さく呟いた。
さて、そろそろ本当に川柳から離れる為、足を動かし始めていると、何故か後ろから店長の声が聞こえた。
『ちょっと待ってくれ……高榊君。』
何故だか俺を止める店長の声は弱々しかった。
だと言うのに、俺はその声に何時もより強い感情を感じた。
少し...聞き覚えのある声だなぁ、そう考えていると直ぐに分かった。
店長の声は、今朝俺に弱音を吐いて来た時の声にとても似ていた。
この事に気付いた俺は…店長が此れから何を話すかの等は一切分からないが嫌な予感しかしなかった。
だから正直聞きたくなかった。
その為さっさと逃げて仕舞おうかという想いに駆られていた……が
身体は無意識に店長の顔を見る為に振り向いていた。
目が合ってしまった俺にはもう、逃げるなんて選択肢は存在しなかった。
『……どうしました店長?俺、忘れ物でもしましたか。』
そんな風に一応惚けては見た。
…無駄な事は分かっていたのだけども。
『いや...忘れ物はして無いよ。ちょっと、聞きたい..事が合って……』
店長は言いづらそうに口を開く。
本当に、何を言われるのかと怖くなりながらもこう言うしかなかった。
『何ですか?』
『 』
何故だか店長は、口をパクパクさせるだけで話をしようとしなかった。
本気で何を言うつもりなのかと、怖くなってくる。
俺は首を捻る事しか出来なかった。
『………』
10秒...いや、5秒くらいかな、周りから見れば短い時間なのだろうけど。
今の俺にはとても長く感じる数秒間、待ち続けた俺は一言かけて帰る事にした。
『店長、何も無いんだったら帰りますね。もし思い出したりでもしたら明日また教えて下さい。』
其れだけ伝えた俺は脱兎の如く、この場から逃げようと一歩目を蹴り出そうとした丁度その時、弱々しい声が聞こえた。
『……本当に、君は 彼を連れて来て よかったのかい?』
『っ……』
この言葉を聞きた俺は、走る気だった足は止まり。
心臓は掴まれた様な気がした。
血液を体に巡らせる心臓の拍動が無理矢理止められて、身体の芯が冷たくなった。
…しかし、其れだけだ。
店長の質問の答えなんて初めから決まっていた。
俺は笑顔で正解を答えた。
『当たり前じゃないですかー店長。俺一人が手伝おうとしたって、所詮限界は見えてますよ〜』
『そうか....』
俺の笑顔を目にした店長は、一瞬だけ目を背けた。
可笑しいな...俺の笑顔がブサイク過ぎたのか?
そう思った後は、何時もなら本気で哀しくなってたりしてたのだろうけど、今回は特に何も感じなかった。
俺も、大人になったのかなぁ...なんて思いながら店長を見ているともう一度、 俺と目線を合わせて口を開いていた。
『なら...もう一つだけ、聞いても良いかい?』
『なんですか?』
『遥に……こ いや、何でも無いよ。』
店長は途中で言葉を止めてそう言った。
少し気になる単語を言っていた様な気はするが、話す事は無さそうなので良い加減帰る事にした。
『そうですか、じゃあ帰りますね。』
『うん……帰るのを止めてゴメンね。』
『大丈夫ですよ!お疲れ様です。』
そう言った後、俺は何があろうと振り向来たくなかったので、不自然では無いぐらいの早足でこの場を後にした。
家までの帰路を歩いている間。
あの時店長が何を言おうとしていたのかを考えていた
…いや、ちょっと違うか。
俺はあの時店長が言おうとしていた質問になんて答え様かと考えていた。
多分、店長は
「遥に恋心を抱いているんじゃ無いのか?」
みたいなニュアンスのを言おうとしていたんだと思う。
森宮と柳さんの二人が見つめ合っていた時に、さり気無く俺の方を見て来たり、偶にそんな風な事を言ったりもしていたから、間違い無い。
…違ったら、少し恥ずかしいけど
まあ、そんな恥ずかしさ何て置いといて俺の答えは決まっていた。
答えは、NO だ。
此れは俺の覚悟だった。
朝に言われた店長の言葉を否定出来なかった、俺への罰でもある。
だから、俺は決めていた。
柳さんや川柳で貰った様々な想いを全部捨てて....
川柳の復興だけに全力を注ぐ事を。
ありがとうございました!
明日、明後日は課題が不味いんで出せないと思います。