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23話 やるぞ。

お願いいたします!

森宮が勢い良く扉を開けて中に入るのを見て俺も背後に着いて行く形で中へ入る。


扉に付けている鈴が揺られる事によりコロン..と涼しい音がする。


鈴の音につられる様に客が来たのだと勘違い?した店長が時間差で出迎えた。



『いらっしゃいませ。高榊君、友達でも呼んでくれたのかい...ありがとう。』


『い、いや...ちょっと違いまして。』


『? 違うって…此処に友達を連れて来てくれているの...何が違うんだい?』


『高榊に頼まれたんです! 此処の喫茶店を助けてくれって。』


『へぇ。』


森宮の言葉に、店長は一瞬だけ顔を何時もの朗らかな其れとは全く別の物に変えて俺を睨んだ。


…睨んだ、と言うよりは俺が睨まれたと勘違いしたのかもしれないが、店長の雰囲気から其の様に感じてしまった。


何方にせよ俺は店長の視線から逃げる様に森宮の背後に隠れる。


そうなると自然に森宮と店長は目が合い、会話が再開した。


『高榊君に頼まれたのかい? ええと...』


『挨拶が遅れてすいません、森宮 真です。』


『森宮って...あの?』


『多分そうです。父の方が【森の宮】をやってます。』


『へぇ...出来の良い息子が居るって聞いてたけど君がそうなのか。』


『…出来が良いかって言われれば、微妙ですけど...多分そうです。』


『昔、お父さんと仲良くさせて貰ってたよ。お父さんは、元気かい?』


『はい。何時も馬鹿真面目に料理を作ってます。』


『そうかあ..懐かしいな。』



店長が昔を懐かしんで居る様で会話が止まる。


此れじゃ話が終わらないと考えた森宮は話を進めた。



『人と話をする事も好きなんで接客も出来ると思いますし...父の下で料理を学んで居るので、厨房も手伝えます!精一杯頑張りますんでお願いします!!』


『う、うん。…宜しくね、森宮君。』


『はいっ! で、取り敢えず俺は何をすれば良いですか?』


『...正直な所、厨房は高榊君が居るから間に合ってるから、接客とかをお願いしようかな。』


『高榊が、料理を作るんですか?』


『そうだよ。偶に、変な所が目立だったりするけど何だかんだ俺よりも料理が上手いから、任せているんだ。』


『料理が一番うまいから、高榊に任せているんですか?』


『うん。』


『其れならもし、高榊より上手かったら俺が厨房になるんです?』



俺が料理を作ると言う話を聞くと、森宮が食ってかかった。


多分、料亭で料理を学んでいたプライドがあるのだろう。


古本屋で買った超安い100円本を読んで料理を習得した俺と森宮とでは、料理に掛けた熱意も質も絶対に違う。


森宮が料理を作れば、俺よりもお客さんに喜ばれてお客さんが増えるのならと喜んで交代させてもらおう。


俺はそう思いながら二人の話を聞いていると、店長が思いもよらない事を口にした。



『そうなるのかも知れないけど...高榊君の侭だと思うよ。』


『え?』


訳がわからなかった。


其れは森宮と同じだった様だ。



『…どう言う事ですか?』


『?言葉通りの意味だけど。』


『俺…が素人の高榊に負けてると?』


『……まあ、そう思うか。なら確かめてみよう。森宮君と高榊君、今から俺が言う料理を作ってみてくれない?』


『分かりました。』


『あっ、はい...』


自信ありげに答えた森宮と対する様に俺は弱々しく返事をする。


俺は厨房に行きながら、店長の言葉を思い出して気持ちが暗くなる。


何故店長は俺に料理を任せる何て言ったのだろう...


森宮に任せた方がいい筈なのに、店長がそんな事を言った所為で二人で同じ料理を作らないといけなくなった。


どう考えても、俺が勝てるわけがないんだ…


絶対に森宮の凄さを引き立てる役にしか立たない。


そう思うと足取りも重くなってしまっていた。





『じゃあ、今からオムレツを作って貰おうか。此の卵10個使ってね。』


店長は、大きな冷蔵庫の中から、卵20個を惜しみなく机の上に置く。



『オムレツって、俺が初めに作らされたのと同じじゃないですか。』


『うん、そうだよ火の扱いがどれだけ上手いのかを見ようと思ってね。』


なんだよ、此れなら前に褒められた事あるし、何とかなりそうだ。


少し気が楽になった俺に対して、何故か森宮は隣で難しそうな顔をしていた。



『卵10個って。一気に…使うんですか?』


『そうだよ。』


『……特注のフライパンを使ってるとかは?』


『ないよ。』


『そうですか...』



話をしていくと、更に森宮は顔をしかめた。


若しかすれば料亭で料理を習っていた所為で和食しか使った事が無いのかもしれない。


その所為で俺と同じ様にオムレツがどんな料理かを知らない可能性があると見えた。


...此れは勝てるかも知れない。


一瞬悪い笑みが浮かんで来るが良く話を思い出すと勝負みたいな事を店長は言っていた。


ならばハンデは無しで互いにイーブンで闘わないといけない…と思い直した俺は、手本を見せてやる為に先手を取る事にした。



『森宮が行かないんなら俺が先にしようか。』


『え。』


何故か、森宮が間抜けな顔をする。


悔しいかな..間抜けな顔だと言うのに、イケメンはイケメンだった。


一瞬殺意が湧いた俺はやっぱり作るの止めようかなと思いながらも、フライパンに手を出した。


ガスコンロの上にフライパンを置き火を掛けた後、卵を10個割りボウルに入れる。


ボウルに塩と砂糖を入れて軽く味をつけながら掻き混ぜて、其れらがダマにならない程度まで溶かした。


その頃にはもう完全にフライパンが熱されていたので、一欠片と言って良いのか分からないぐらいの塊を落とす。


バターが固体から液体なるのを眺め、均等に溶かした其れをフライパンに伸ばした後で……


卵を投入した。


フライパンと直接接触した卵達が沸騰し、ジュウッ!と音を立てるのを聞きながら、掻き混ぜ続ける。


大体、目算で600グラム前後なので中々、固まらないが気を抜いたら、何処かが焦げてしまう。



焦げる……と言う事は基本的にある物質の水分を奪いながら、有機物中に含まれている炭素が焼ける事で起きる現象である。


ならば、其の炭素を焼かずに要らない量の水分を完全に吹き飛ばす事が出来れば理論上は焦げる事が無い。



『……』


だから俺はフライパンの中の卵を注視して、理論的に均等に熱が卵へ行く様に、計算して卵の位置を変える。


…ある程度全体が固まって来たと感じた所で表面を焼く工程に入る。


此処ではもう掻き混ぜ事が出来ないので、荒技としてフライパンを縦に振り崩さない様に異常なまでの注意をしながら宙へ浮かせる。


此の時にフライパンより冷たい空気に充てられながら中に溜まった余熱で卵達が固まり、表面は熱を放出し焦げを防止する。


初めはふにゃふにゃであった卵達は数回、十数回と、空を舞わせる事で、表面はある程度固り、中はフワッとする完全なオムレツが完成した。



『ほら、作り方は分かっただろう?今みたいに作れば出来るから森宮の.


『分かった。店長、厨房以外の所で頑張らせて貰います。』


「森宮の番だぞ」と、言おうとしていたのだが何故か其の前に言葉を被せて来た。



『え?作らないの。』


『悔しいけど…俺には出来ない。厨房は任せた。店長なら、俺は知り合いとか多いんで接客とか客引きとかをしますね。』


『うん、手伝って貰えるならそっちを...頼みたいかな。』


森宮は俺の肩を軽く叩くと、自分の仕事場は此処じゃないと言うかの様に颯爽と厨房から出ていった。


店長も森宮と仕事の話をする為に厨房から離れた為に、俺一人となった。



『……』



"悔しいけど…俺には出来ない。厨房は任せた"


俺は少し前に森宮から掛けられた此の言葉を何度も、何度も脳裏で思い出していた。


森宮に出来ない事がある。


其れは、俺がまだ此の川柳で戦力になる事が出来ると言う事だ。


別に戦力外を言い渡されて川柳にいる事が出来なくななる訳ではない。


しかし、其の可能性が微々たる物でも存在していた。


森宮の言葉を聞いた俺は大切だと思っていた場所の為に戦力として働く事が出来るのだと安堵し、覚悟を決めて呟いた。



『…やるぞ。』


多分、此れから森宮に引っ張られて沢山の人間が川柳を助けてくれるのだろう。


多分其の中には料理が上手い人間もきっといる。


其れでも俺は、絶対厨房から外されないように頑張ろうと決めた。




…厨房から外されれば俺は、何も役に立たないかもしれない。


俺は、そんな恐怖に駆られていたのであった。


彼の何かやる時の理論は独自の物です。


皆さん、ファンタジーだと思って楽しんで下さい。





後、最近ずっとシリアスっぽい物になってたので、次ぐらいでは少し違う物にしようと思います。


ありがとうございました!



未だにブックマーク、一人なので誰か… お願します。

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