22話 次こそ...は。
お願いいたします!
『川柳を...助けてください。』
俺の言葉を聞いた森宮は、ゆっくりと口を開いた。
『..駄目よ。』
『『え?』』
森宮が言葉を発しようとした瞬間、奴とは全く違う人間がそう言って遮った。
一瞬訳が分からなかった、森宮と俺は二人して同じ言葉を呟いてしまう。
それから少しの間、固まっていた俺より先に硬直状態から抜け出した森宮が後ろを振り向いた。
『...って、何で勝手に答えてるんだよ、風香。』
『だって、真...こいつが言っている、川柳に目当ての女の子がいるんでしょ?そんなの却下に決まってる!!』
『なんで、お前が勝手に決めるんだよ...』
『...私が、真の事が好きだから』
...なにこれ?(怒り)
教室中の生徒達全てが見ている中で、森宮に告白した金髪ギャル。
俺が悩みに悩んで苦悩した結果、此処まで来たと言うのに当の相手は急に告白されている。
...此れはキレてもいいんじゃないだろうか(切実)
目の前の光景を前にして沸々と怒りがこみ上げて来るが、森宮を怒らせてはいけないと意識してグッと堪えていた。
『...この前も言った筈だよな?お前の気持ちは嬉しいけど、答える事は出来ない。』
『...柳って言う女?』
『うん。
『...なんでっ!』
『前も言ってただろう。真には好きな女が居るんだよ』
金髪ギャルを制するように、俺と森宮ではないまた別の男の声がハッキリと聞こえる。
さっきと同じ様に森宮の背後から声が聞こえて来たので身体の向きを変えて覗き見しようとする..
…が、其れをしなくても声の主は分かった。
片耳にピアスを付けている、怖い男が正体だった。
『……ああ、竜司の言った通り、そうなんだ。だから、ゴメンな。』
『まこと...の馬鹿ぁああー!!』
森宮に改めて振られたらしい金髪ギャルは、泣き叫びながら教室を走り出て行った。
『……で、俺に助けて欲しいって事で良いんだよな?』
金髪ギャルが走り去る足音が完全に聞こえなくなった辺りの事。
俺が頭を下げた後から話が全く進んで居ない事に気付いた森宮は、こう言って再び話し切り出した。
『…ああ。』
『…意外と早かったな。もっと、粘ると思ってたよ。』
『...悔しいけど、俺じゃっ、何も変わらなかった。其れに、もう時間が無いんだ迷ってる暇があったら動かないと....』
『まあ、素人なんだから...仕方がないよ。其れより俺は、お前が一人で暴走しなかった事を評価するよ...良くスッパリと自分の【エゴ】を捨てられたな。』
『初めは、確かに俺一人でって思ってた。だけど其れじゃ駄目なんだよ...何やってたんだろう..な。』
『普通の人間は、一人じゃ何もできないさ。だから助け合って生きているんだ。其の事を早くに気づけたんだ。高榊、別にお前は無駄な事をした訳じゃないさ。』
『……』
『だからこそ、俺に任せろ。皆の力を借りればきっと何とかなるさ。困った事があれば皆んなが助けてくれるから。』
森宮がそう言うと、別に意図して言わせた訳ではないと言うのに、周りに居た生徒達が真剣な顔で返事をした。
『当たり前だ。』
『森宮な為だしな。』
『ああ!。そうだなっ!!』
初めは緊張感や暗い空気から余り意識していなかったのだけど、ふと周りを見れば大勢の生徒達が森宮を囲んでいた。
『………。』
凄いな、森宮は...皆んなが助けたいって思える人間で____俺とは正反対だな。
そう考えた時、異常に居づらく感じてしまう。
無意識に足はこの場を離れようとして、気付けば俺は教室から出ていた。
なんだか、身体が重い。
俺はゆっくりとした足取りでユラユラと自室を目指している時、思わず心から言葉が出ていた。
『エゴ...か、何も言い返せなかったな。』
【エゴ】…此の言葉を聞いた俺の心に重く響いた。
森宮に言われ此の場でもう一度呟いた時、俺は改めて一人相撲をして居たのだという事に気付かされてしまう。
…結局俺は邪な考えしか持たずに、自分の醜い欲望の為に働いてたのかと思うと情けなく感じる。
人として最低な事をしていたのだと理解した。
此の事に気付けてから俺の心はヤケに軽かった。
緊張の糸が切れた後、へらへらと笑いが出て来る。
『へへ、へへへへ....…………頑張ろう。』
笑い続けていると、途中でふと何で笑ってるんだろうと冷静になってしまう。
その瞬間頭が真っ白になった。
急に軽くなった頭で俺は、取り敢えず森宮を手伝っておけば良いかと結論づける。
そして俺は、今度こそは絶対に邪な想いを持たないで川柳の為に身を粉にしようと誓う
が…此れも、エゴなのかも知れないなぁ。
そう考えた時に身体が固まってしまうので俺は頭を振って考えない様にして教室へ戻った。
…放課後になった。
今日は、晃やグラ男に喧嘩をふっかけられる事は無かったので、すんなりと一日の学校生活を無事に終え、川柳へ向かった。
道中も特に何もなく、17時前には到着した俺店内に入る事なく止まっていた。
何故入らないのかだって?
其れは川柳の扉の前で一人の男が立ち止まっていたからだ。
『何してるんだ、森宮?サッサと入れよう。』
『っ!?...急に入って、川柳を手伝いに来ましたなんて言ったら何言ってるんだコイツ...って、なるだろう?高榊が来るまで待ってたんだよ。』
『ああ...そう言う事。じゃあ入ろうか。』
『ああっ! 高榊、此れから宜しくな』
『うん.….頑張ろう。』
あざした!