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21話 ありがとう。

お願いします!


日にち一個間違えてました!

2週目の、初日。


新聞配達を終えた俺は、いつも通り朝早くから喫茶店川柳に訪れる。


『おはようございます!』

『・・おはよう』


元気よく話しかけた俺に対して店長は、どこか疲れた顔をしていた。


理由はなんとなくわかっている。

店長も俺と同じ様に今の売り上げに悩んでいたのだ。


良く見ると、目の下にうっすらと隈ができている。

俺は、店長の顔が何故か見えなかった


『・・・・』


取りあえず、皿でも洗うか。


俺は水が張られた容器内の皿を洗剤を吸収したスポンジで磨き始めた。


全ての食器をスポンジで擦り、さて付けた泡を洗い落そうとしていると、二階から柳さんが降りてくる音が聞こえた。


朝一番に柳さんのお顔を合法的に拝見させて貰おうと考えた俺は、洗い流す速度を高速なモノにシフトチェンジさせた。



蛇口から流れる水圧、水量を計算し、其処からどの角度が一番効果的に広範囲の面積を洗い流せるのかを見極める。


これが出来切るようになれば柳さんと厨房で顔を合わせる事が可能となるので、俺は何食わぬ顔をして柳さんの到着を待つ事が出来た。



『おはようございます…高榊君。』


『おはよう柳さん!』



まだ眠そうに柳さんは出てくる。


二日前から、柳さんも朝の手伝いをするようになっていた。


きっと...柳さんも、此の儘では不味い事を危惧しているのだろう。



『高榊君。軽食セット2つ入ったよー。』


『うぃっーす。』


軽食セットは、コーヒーと二種類のクラブサンド、更にサイドメニューにサラダとカットした果物を添えたメニューである。


基本、朝は此のメニューと他二種類しか売れないので予め俺と店長が前の日の夜にサンドの具を作っている。


なのでコーヒーはカウンターで店長が抽出し、俺と柳さんの二人でサンドするパンを焼いたり、小皿にサラダと果物を添えてパンが焼けるのを待つ。


数分後、表面が黄金色になったのを確認し、熱いうちにマーガリンを塗り、前日に用意した具を載せて味付けした後でもう一枚のパンを上に載せた。


具が不自然に外に出ていないかを見た後で、正方形の形をした其れを対角線上に切り、崩れない様に串で刺して一種類目が完成。


二種類目も具を変えただけで、後は同じ要領で作った。


此の儘出せば、食パン4枚を食べる事になる。


朝に訪れるお客さんは御老人が多いので対角線上で半分に切ったサンドを片方ずつ取って皿に載せる為、一度で二人前が作れた。


此処までで2分40秒掛けて2人前のセットを用意した。


『店長ー。出きましたよ。』


『...何時見ても、本当に早いね。クラブサンドを見ても全然、崩れてないっていうのに。はい、コーヒー。』


『そりゃあ、三週間も同じ事してれば早くなりますよ....じゃあ、出してきますね。』


『私が行きますっ!……早起きしてるっていうのに、全然役に立ってないんで.....』


低い声で呟きながら柳さんは、俺が持っているお盆を奪う様に取るとお客さんへ料理を出した後、お客さんに話し掛けられていた。



洗い物もしたし、料理も作り終えたので暇になってしまう。


完全にする事が無くなった俺は、厨房裏からお客さんと話している柳さんを眺めていた。


『…….』


『出来ると...思うかい?』


『えっ?』


店長が急に声を掛けてきた。


『だから売り上げを5倍にするなんて...出来ると思うかい?』


『....出来、ます。』


『そう、か....』


俺だって馬鹿では無い。


口ではそう言ったが、現実的には不可能に近い事は分かっている。


だからこそ、出来ると思わないと起こるべく奇跡さえも起こらないと考えての答えだった。


そんな俺の想いを理解していたのかもしれない。


店長が弱気な話を始めた。


『…もし..もだよ? もし、何とか ならなくても...自分を責めちゃダメだよ。此んな無茶な条件を飲んだ俺が悪いんだからね。…俺なんかより、料理の腕も良かったんだ。』


『…まだ...後、三週間もあるじゃ無いですか〜!何で、こんな早くから諦めてるんですか〜!』


『だからだよ。…だから、今言うんだ。俺も、遥も、そして君も未だ、心に余裕がある今にね。』


『遥って..柳さんにも、此の話を...?』


『…二日前の夜にね。』


『一体何で!?』


『遥は、偶に突拍子も無い事をする時があるからね。君に川柳を手伝わせた時みたいに。もう、誰かに迷惑を掛けたく無いんだよ。』


もう、誰かに迷惑を掛けたく無い...


此の言葉の中に俺が入っている事を理解した俺は、食って掛からないと気がすまなかった。


『俺はっ!迷惑何て、思った事.


『知ってるよ...君が遥と一緒に居たいっていう恋心で手伝立ってくれてる事は。』


『っ!? そんな事はっ!……』



無いです……俺はそう答える事が出来なかった。


川柳を守りたい。


何度も言うが此の気持ちは強くある。


でも、どうしても....それだけじゃ無かった。


何か言い返そうとするが、店長の言葉通り俺は柳さん目当てに働いていた節が沢山ある。


今日だけでも、皿洗いの時、店長に話し掛けられる前の時、ほんの10分しか働いていないというのにこんな状態だった。



『………』


何も言い返せない。


俺は、口を開けたまま店長を見る事しか出来なかった。


店長は、そんな俺を見て、やっぱり自分の考えは正しかったのかと理解したのだろう。


一度目を瞑った後、重そうに口を開いた。



『俺はね?別に其れが悪い事なんて思ってはいなから気にしないで良い。だけど、そんな君に迷惑を掛けてる事が心苦しくてね。いつか言わないといけないって思ってたんだけど、此れからもっと切羽詰まって来たら、他の事に頭を取られて言えなくなりそうだから今、言わせて貰ったよ。』


『……』



店長の言葉を聞いた俺は黙る事しか出来なかった。


違うっ!其れだけじゃ無いんだっ!!


俺はそう叫びたかったが、結局此処で働き続けていた間ずっと邪な想いが消える事が無かった事を再度理解してしまって、声が出なかった。


そんな俺を前にして店長は笑顔でこう言った。


『ありがとう。遥もそう言っていたよ。』











其れから、朝の手伝いを終わらせた俺と柳さんは何時もの様に学校へ行った。


俺は一人、自分のクラスでは無い教室に足を運んでいた。


目的の教室の前に着いた俺はガラガラっと、大きな音を上げながら扉を開ける。


教室に居た生徒達は、此の時に立てた音に驚いて、誰がやったのかと疑問に想い教室の外にいる俺を見て来た。


教室中の生徒達の視線が集まると、当然目的の人間も俺の事を見て居た。


俺は、そいつの所迄行くと、深く頭を下げた。


『……川柳を助けて 下、さい。』


ありがとうございました!

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