1話
お願いしまーす。
何時も通り新聞配達のバイトを終えた俺は、そのまま学校へ行った。
朝早い中、俺は学校へ着いた。
教室に入るが、まだ誰もいなかった。
俺は殺伐とした教室に少し寂しさを感じながらも荷物を置いた後、進路希望表を持って担任のいる教室の扉を叩いた。
『高榊です、失礼しまーす。』
そう言って扉を開けると奥に先生らしからない渋谷とかにいそう派手な格好をした栗色の髪の女性がちょこんと椅子に座って、俺の方を見て尋ねて来た。
『あ、高榊君 おはよう、どうしたの?』
『おはようございます栗林先生、進路希望表持って来ました。』
『あ、そうなんだ じゃあ受け取っておくね!』
俺は先生に紙を渡した後、さっさと帰ろうとするのだが先生に止められてしまう。
『ちょっと待って、 高榊君...この、進路希望...何?』
『俺の将来の希望ですが...何か?』
『私、言ったよね?ちゃんとしたのを書いて来てって』
『...だから、書いて来ましたけど あ。』
先生が起こっている事は理解しながらも俺はそう答えると、先生の額に血管が浮き上がっているのが目に入った。
先生は、身体をプルプル震えさせて叫んだ。
『何回っ!!同じ事を書けば済むのよっ!!!今日という今日はまともに書くまで指導室に監禁してやるっ!!』
其れだけ言うと先生が物理の授業で使うオシロスコープを手に持ち俺の方に走ってやって来るので俺は部屋を出るとその場から逃げた。
『 さ、さようならっ!!』
『待ちなさいっ!! あっ!!』
先生が何か気付いた様な声を出すが俺は後ろを振り返らずに走り去った。
…後ろから聞こえて来る、何かが壊れた様な音は聞こえ無かった事にして逃げた。
『壊しちゃっ たぁぁぁぁ〜〜!!また叱られる〜〜』
そんな声を耳にしながらも俺は逃げた。
教室に着くとクラスメイトが何人か部屋におり、その中の一人の眼鏡を掛けた地味目な黒髮の男が話しかけて来た。
『よう、高榊!何かさっき、美咲ちゃんの叫び声が聞こえて来たけどまたなんかやったのか?』
『おはよ、晃。唯、進路希望を出しただけだよ。』
『…また、あの専業主婦って書いてる奴を出したのか?』
『当たり前だよ、先生に提出する様な物に嘘なんか、書けるかって。』
『……美咲ちゃんが可哀想だな。』
『何だと?何が問題だと言うん
『全部だよ。』
『『…………』』
数秒間、俺と晃は睨みあった。
何時もこうだ。
晃は何気に人気のある栗林先生の事になると何時も突っ掛かって来る。
話を聞くと晃は先生に惚れているらしく、迷惑を掛ける事は許さないだとか言ってくる。
その事で俺は何時もアホらしいと思っていた。
先生を恋愛対象にするなんて、アホらしいにも程がある。
まず、人の事を言え無いが地味な晃に、若くてピチピチでオシャレで潤いのある美人教師が捕まるとは到底思え無い。
それに、生徒とそんな関係になれる訳がない。
バレたら即クビになる事が分かっている、教師がしかも理系の先生が、そんなデメリットしかない事をする訳が無い。
はい、論破!
此処までのセリフを一度晃に言ってみた事があった
結果は、机を武器にしての殺し合いが広がり流血事件になった事があったので、少しだけイラッときたが俺は此の事を言ってもう一度馬鹿にしてやろうとは思って無かった。
・・・晃がいらない事を言うまでは
『馬鹿じゃねえの?お前みたいな奴に専業主婦なんざなれる訳がないだろう。顔も普通だしそんな人捕まられねえよ。』
此の言葉で、俺の怒りは振り切れた。
『おいおい、普通の顔なんて言うが、お前もそうじゃないか。そんなんで先生を捕まえられる訳ないじ...あ、ごめんごめん!気にしてたんだよね、そう言えば..可哀想に、そうだっ!!!先生を呼んで来てあげるねぇー』
ワザとらしく、何か良く分からないキャラを作って教室を出ようとすると、肩を掴まれた。
掴んだ相手は分かっている、晃だ。
『おい、今なんて言った?』
『可哀想な晃君では 絶対に!...……先生を落とせる訳が無いだろう?』
俺の此の挑発により、第三十九次流血戦争が繰り広げられる事になった。
『死ねっ!!』
『お前がなぁっ!!!』
数分後、辺り一面綺麗な紅に染められた床が出来上がった。
俺と晃は立ち上がるとそれぞれが決めたルールにのっとって後始末を始めた。
晃はズタズタに破れ上着を俺に投げると、カバンに入れていた雑巾を数枚出すと念入りに床掃除をする。
晃が念入りに床掃除をする理由は、栗林先生が他の教師に怒られ無い様にする為なんだけど、泣けるね。
好きな人を思って行動するなんて感動させられるよ。
まあ、なら初めからそんな事するなって話なんだけどね(笑)
晃が掃除し始めたのをみて俺は血で汚れてない床にまで移動すると、裁縫セットを取り出した。
何をするかって?
簡単な話だ。
ズタズタに破れてしまった制服を縫う為にだ
カチャッと蓋を外す音を鳴らしながら細い針を一本抜き取ると一瞬で針穴に糸を通す。
本来は制服みたいな硬い素材には太い針を使うらしいが俺には関係無かった。
俺は一度目をとじて、針を刺していくルートを計算し始めた。
余り縫い目が目立たない尚且つ、迅速に作業を終了させる為のルートを俺は一瞬で算出した後、【崇高で緻密な絶技】を繰り出した。
【崇高で緻密な絶技】とは、俺が此れから生きる為に必要な技術を48個程習得した総称である。
俺はハイクオリティそうに見えるレベル迄頑張ろうと特訓していたのだが、全ての技術において何故か一般人が見れば驚く様な技術になっていたので、中二時代にそんな名前をつけてしまっていた。
高校生になってから遅い厨二が抜けた後で何故こんな名前を付けたのかと後悔しその名前を無かった事にしようと思っていたのだが、何と無く今も使い続けてい
た。
こんな事を考えいるうちに、俺と晃の制服は綺麗に治った。
『いつ見ても凄いな、お前。』
『余所見なんかしてると先生が来る前に終わらないぞ?』
『残念でしたー、もう終わったぜ!』
晃はドヤ顔で告げて来る。
こいつも数十回も掃除し続けて来た結果 、血痕だけは一瞬で消滅させる事が出来る様になっていたための物であった。
俺はそのドヤ顔に、苛立ちを覚えながらも治した制服を晃に投げた。
『ほらよ』
『サンキュ。』
服を投げた後、俺は上着を来て時計を見るともう担任が来る時間だった。
ガラガラと扉が開い開く音を鳴らせながら、テンションの高そうな女性の声が聞こえて来た。
『おはようございまーすっ!!ハイッ、皆んな席に座ってー』
はーい。と席に座って無かったクラスメイト達が席に座り始めたので、俺も同じ様に席に座る事にした。
全員が座った事を確認した先生が話し始めた。
『はいっ、みんな!何時もの出席確認する前に言う事がありまーす!!この中に昨日迄の進路希望を再再再再再再再提出になった人がいまーす、心当たりがある人は手をあげてね』
『『………』』
元気良く生徒達に質問するが手をあげる人間は誰もいなかった。
俺も少しは心当たりがあったが先生が話ている人間では無かったので手をあげる事はしなかった。
一体誰なんだよ、と俺は思いながらもボーっと待っていた。
その後、数分待っても手を上げようとしない生徒に対して栗林先生はブチギレてしまう。
『高榊君っ!!君だよ君っ!!なんでそんな誰だよみたいな顔してんのよっ!!君以外にそんな事する人いないでしょうがっ!!』
『何言ってるんですか先生。再が二つ足りないですよ?』
『そこなの!!?そこじゃ無いでしょっ!!もういい加減にしてっ、豪園先生にまた怒られたじゃないの!!』
『…それは、さっき先生がオシロスコープを壊したからじゃないんですか?』
『っ!!もう、我慢出来無いっ!!今日はちゃんとした物を出す迄は帰らさ無いからね!!!放課後、生徒指導室に来なさいっ!!』
『えー、本当の事しか言って無いのに、何でココまで書き直さ無いといけ無いんで
『いいからっ!!来なさいっ!』
『…はい。』
有無を言わせない栗林先生の弾丸トーク?により、俺の週一だけしか無い休みの日の放課後の使い道が決まった瞬間であった。
あざした!