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18話 気まずい...

お願いいたします!

皆さん、五点着地という技を知っているでしょうか。


五点着地と体をを回転させながらも つま先、すねの外側、ももの外側、背中、肩の5点を着地時に順序良く地に当てる事で衝撃を分散させる技です。


此の技は中々と凄いんです 、かなり高い位置から飛び降りても結構ピンピンしていられる凄い技なのです。





はい、という事で推定二十メートル程ある高さの崖から飛び降りてしまっていた俺は一応頑張って砂利道の上で五点着地をして見ました。


『うわあ^_^ぁぁぃぁああああっ!!』


衝撃が思ってたより異常に凄かったので、何回転もゴロゴロと五点着地をしながら転がり続け、丁度二十回目になって漸く勢いが落ち着いた。


空をうつ伏せの状態で見上げるとどれくらい高い所から飛び降りたのかが分かる。


大半の衝撃は吸収したとはいえ手足が痛みで痺れながらも数秒間、俺は生を感じていた。


『……生きれた、か。』


言葉にしてしまうと、たった5文字にしかならない此の言葉が妙に重く心に響く。


死による緊張から、解放された俺はもう全てがどうでも良くなって来てしまう。


もう此の侭寝てやろうかとも思い始めて来ていた。


荒かった呼吸も正常な物に戻って来ている事を感じながらも意識を手放そうとする



『……………あ、そう言えば川柳に行かないと。』


大事な事さえも忘れそうになっていた俺は自身の体にカツを入れる事で起き上がり、川柳へ向かった。




フラフラとまるで亡霊の様に歩き続けた俺は、川柳についた。


『こんにちはーっす!。』


川柳に入り挨拶する。


店長はカウンターの裏側でコップを拭きながらお客さんの相手をしているので、軽く相槌を打ち厨房へ入っていった。


すると直ぐに店長が俺を追い掛けて必死な形相で厨房に顔を出してきた。


『高榊君っ!それどうしたんだいっ!?』


『え、どうしたって...?』


『制服を見てごらんよ!』


俺は言われた通り顔を下へ向ける。


『ええー......うわぁ..』



思わず、そう溢してしまう。


…何となく見なくても分かる様な気がして怖かったけど、やっぱりそうだった。


制服で整備されていない道を、凄い勢いで転がっていた所為でズタズタになっている。


正直に言えば、次脱いだ時にどうやって着ればいいのか分からなくなる有り様だ。


何度も何度も、晃と殺し合いをしていた所為で元から酷い状態の制服を俺の裁縫捌きで誤魔化していただけだったのでガタが来ているように見えた。



此れはヤバイな 。

ちょっと一からそれっぽい布で作り直すか...


バレて仕舞えば、校則的にどうなのかと思いながらも俺は廃棄決定の学ラン2代目を適当にその辺に投げた。




『よしっ!今日も頑張るぞっ!!』


べ、別にっ生地が地味に高い事を知っているから酷い有様の制服を視界に入れたくなくて意気込んだ訳ではないんだけどね!


有難い事に何かを察した店長もこれ以上話を掘り下げ様とはしないでくれていた。



『ははは…君が入ってくれる様になってから、売り上げはかなり上がっているからね。此の調子で頼むよ。』


『はい!。』


嬉しい事を言ってくれた店長の言葉で俺は通常の3割増しぐらいで通常業務に入ろうとした。


丁度その時、二階から着替え終えた柳さんが降りて来た。


『お疲れ様ですっ!高榊君!!』


『お疲れ、柳さん...って言っても今来たばっかなんだけどね。』


『そうなんですか?じゃあ、今日も頑張りましょう!』


『うん!』


俺は何時も通り、注文が出るまで取り敢えず厨房で皿洗い。


柳さんは、表に出て接客。


お互い完全に作業が分担されているので、此処で一旦別れている。


水道の蛇口前に立ち袖を腕捲りして、タライに張られている水の中にある皿を一枚取り出そうとすると何故か腕を掴まれた。


『高榊君!両手共血だらけじゃないですか!!』


『え?...ああ、ホントだ。ずっと地味に痛かったからどうしたんだと思ってたんだけど此のせいか。』



手首から肘の間を凄い勢いで擦り続けていた為に、皮膚がズタズタに裂けてかなりの血が流れている。


...って言う事は、やっぱりポロシャツにもついてる。


血って変色して気持ちの悪い色になるんだよなぁ...洗濯しただけで取れるかなぁ。



『何が此のせいか、ですかっ!どうやったらこんな傷が出来るんですっ!?』


『...ちょっと高い所から飛び降りたらこんな事になってました。』


『高い所!? 良いですか高榊君!!人は当たり所が悪かったら一メートルぐらいでも死んじゃうんですよ!!何があったかは知らないですけど気を付けないと!!』


『はい...すいませんでした。』


『...一体どれ位の高さからこんな傷ができるんです?』


何故か、見た事が無いぐらいに柳さんはおこっている。


...此処は出来るだけ低い高さを言った方が良いな。


『…6メートルぐらい?』


『6っ!?何やってるんですか!!』


『……なんか、御免なさい。』


『それしか言わないじゃ無いですかっ!...取り敢えず、止血しますよ。』



柳さんはそう言うと、両腕を蛇口の前に力づくでもっていき血を洗い流し始めた。


ワザとなのか分からないのだが限界まで蛇口を捻っている為、水圧が強く結構痛い。


『えっ!?ちょっ...柳さんっ!痛い痛い!!』


『もう、ちょっと我慢しなさい!!!!』


柳さんは聞いた事が無いぐらいの大きな声で怒られた。


迫力に押された俺は、首を縦に振る事しか出来なかった。


『……はい。』





タラタラと流れる血液を最低限流した後、カウンターの椅子にまで俺を引っ張り座らせ様とする。


『座って下さい。』


『はいっ。』


今の柳さんはとても不機嫌に見える。


そして、その原因は多分俺にある。


此れ以上、柳さんを怒らせて仕舞えば此の店に居づらくなる事は分かっていたので言われた通りにした。


柳さんは片手に持っていた、救急箱を机に置くと俺の方を見る様に座った。


『...手を。』


『はいっ!!』


救急箱から、傷バンと消毒液、数枚のティッシュペーパーを取り出すと大量の消毒液を傷口にかけた。


『!!!!』


柳さんに言われた通り、俺は頑張って声に出さなかったぜ。


しかし、そのリアクションが気に入らなかったのか可愛く睨みつけて来る。


『……..我慢してって言っただけで、痛がるなって言っている訳では無いんですよ。』


『あ...いや、その...はい。』



俺の良く分からない返事を聞いた柳さんは黙って、止血を続けていた。


『『………』』


嫌に空気が重いんだけど...誰か助けてっ!!


此の想いが届いたのか、俺と柳さんを遠くから見ていた店主が陽気に話し掛けてきた。


『いやぁ...懐かしいねぇ。俺も若い頃はヤンチャしてたら良く妻がそんな風に治療してくれてたよ』


『お母さんがっ!?』


『ああ、今の遥みたいに、無茶してって怒りながらな?』


『へー、店長も若い頃はヤンチャしてたんですねぇ。』


『…ああ、してたよ。其れなりに、ね。』


『ヤンチャのお父さんかぁ...なんか考えられないや。』


俺と柳さんは、基本的に物静かで優しい店長を見て今の話が信じられなかった。


『まあ、俺もあの時は尖ってたからね。...喧嘩とかした後は何時も怒りながら治療してくれてたよ。昔は、鬱陶しいだけだったのに...まさか結婚するとは思っても見なかったよ。』


『お母さんも...私と同じ事をしてたんだ。』



店長の話を聞いた柳さんは嬉しそうに呟いく。



...今更だが柳さんのお母さんはこの世にもういない。


柳さんを産んで直ぐに亡くなったらしく、店長が偶にお母さんの思い出話をすると嬉しそうに聞いていた。


『………』


柳さんも俺と同じ...なのか。


俺は何とも言えない感情を抱きながら、柳さんを見つめていた。



『だからね、若しかしたら遥と...高榊君も結婚するかも知らないよ?』









店長の爆弾発言で数秒、時間が止まった様な気がした。


『何言ってるの!お父さん!!』


『…そそそ、そうですよっ店長!!』



店長の言葉を必死に否定する様に柳さんが言い寄る。


俺は柳さんの言葉を聞くまでは、何それ素敵!!と狂喜していたが、否定されてしまった後は哀しくしかならなかった。



『ははは!!、どうだい?高榊君。お義父さんと呼んで見ないかい?』


『.....俺なんかが、其れは恐れ多いですよ。 後、柳さんにも悪いし。』




言葉では否定しながらも内心嬉しかった。


たとえ冗談だったのだとしても、一瞬本気でそう思った。


でも、どうしても店長の事を父親と言う事が出来なかった。


…店長の冗談を冗談で返せない俺は、かなり憔悴してるのかもしれないなあ。


人ごとの様に俺はそう思っていた。






『...じゃあ、遥と高榊君。二人で仲良く店番頼むよ。今日は帰って来ないから時間になったら閉めてね。』


話を変える様に店長がそう言うと店から出て行こうとする。


気付かない間にスーツへ着替えていた店長に柳さんが尋ねた。


『帰らないってお父さん、何処に行くの?』


『ちょっと、本社に呼ばれててね。今月の売り上げ報告を兼ねて母さんに顔を見せて来るよ。』


『...おばぁちゃんに、会いに行くんですか。』


『うん、言って来るよ。今月の売り上げは先月の二倍以上にまで跳ね上がったから多分、良い返事が貰えると思うよ。じゃっ、行ってくるね。』



そう言うと店長は急ぐ様に店から出て行った。




『『………』』


店長が爆弾発言をして消えた後、俺と柳さんは黙り込んでいた。


柳さんは、中断させていた俺の傷を治療する。


俺はそんな柳さんと自分の傷を俯瞰して眺めていた。



ふと、柳さんが顔を上げ俺と目があった。


次の瞬間、お互いにサッと顔を背けてしまう。



「「気まずい...」」


きっと、柳さんも俺と同じ事を考えているだろうなぁと思いながら、目を合わさない様に治療されている傷を眺めた。


ありがとうございました!、

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