16話 不幸
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アレからお互い吹っ飛んで色々あった末に放課後となった。
今日もやっぱり、森宮から話しかけられずにすんなり下駄箱までたどりつく。
一人の時なら赤の他人から視線が集まる様なことは無いので、何処か安心しなが靴を履き替えていると近くから低音の渋い声が聞こえた。
『おい、其処のお前。…真と何を話してた?』
その声の主は、少し不機嫌にかんじられる。
なんか妙に自信に溢れている様なハキハキとした声だから体育会だろう。
話しかけられた奴は可哀想に...きっと良い事は起きないだろうなぁ。
下駄箱には俺と同じ様に靴を履き替えている生徒が沢山いる。
その為、野次馬根性が発動した俺が大雑把に周りを見渡すが誰だか分からない。
下駄箱で喧嘩でも起きるのではないのかと考えた俺は好奇心に駆られて少し離れた場所に移動することにした。
…分かってるよ、人としてどうなのかって事ぐらいはね
だけど、俺にとって知らない奴や人の不幸は蜜の味に近かった(ゲス顔)
自他共にこの日本の地で俺程に中々、ハードな生活を送っている者はあまりいないと考えている。
其れを周りの人間が言葉にすると決まって...
【不幸】等と言ってくる。
初めは俺もコイツら失礼過ぎるだろうと考えていたが否定出来ない所もあった。
だから俺は決まって適当に笑って誤魔化すのだが基本的に可哀想な視線を向けられる。
俺には、其れがどうしても気に食わなかった。
勝手に不幸だ、可哀想だと決め付けるな。
俺が過ごしたドロドロの豚骨スープ並みの濃厚な人生の本の一片を何にも知らない赤の他人が見ただけで分かった様な顔をされるのがどうしても気に食わなかった。
そういう人間は可哀想に等と簡単に言ってくるが、特に何かしてくれる訳じゃない。
食べ物を恵んでくれたらする訳でも無いんだったら、同情なんてするんじゃねぇっ!!
何時も、俺はその想いで胸が一杯だった。
なんなの?ホントに!?
頑張って生きてね!等と簡単に言うのなら
なんか奢れやっ!恵んでくれよ!
そんな風に考えていた時もあったが、一年位前に学んだのだ。
人間は自分より下の標的を作り、こいつよりはマシだと思う事で精神を安定させたりしている事を。
初めは、「ふざけんなっ!」と思っていたが江戸時代とかでも使っていた方策だと知った時なぜか俺はしょうがないなと結論づけてしまっていた。
という事で、俺より不幸な可哀想な人間を遠くから一目入れてやろうとしていた。
さっさと靴を履き替え、何処に隠れようかと周りを見渡す。
その結果、下駄箱の外にある水飲み場の背後に隠れる事を一瞬で判断する。
後で隠れて見物していた事がバレれば、俺も不幸な事になりそうなので、目にも止まらない速さで走った。
取り敢えずバレた時に言い訳出来る様にと俺は水飲み場の背後で部活をサボって本を読んでいる青少年的なスタンスを取ろうとする。
手提げカバンの中に何か本が入ってないかと覗くが、本やあまつさえ教科書も入ってなかった。
入っているのは弁当箱だけ。
俺って、本当に学生なんだろうか...
今の状況を客観的に見てしまうと、その結論しか浮かばないが今はどうでもいい。
カバンを漁っていると良くある教師が配布する誰も読んでなさそうな配布物が出て来た。
まあ此れで良いかと、本当にどうでも良い様な内容のプリントを読み更けるフリをしながら下駄箱を眺めた。
しかし数分経っても何も起きやしなかった。
『……何してんだよ、俺。』
時間が経つと冷静になり。
改めて今の現状を考えた時に馬鹿馬鹿しくなってしまう。
深い溜息を零しながら俺は二周以上は読み込んだ、不必要なプリントを適当に鞄に押し込み立ち上がる。
最後に下駄箱の方をもう一度眺めるが、俺と同時期にいた生徒がいる訳かなかった。
『帰ろ。』
そう言って、俺が水飲み場の裏から出て来た瞬間、先程違う大きな声が耳に入って来た。
『おいっ!見つけたぞ、こっちだ』
『え?』
俺は反射的に靴箱を見た。
しかし、誰が捕まりそうになっているのかは全く分からない。
靴箱にいた生徒達も今の男の言葉を聞いてガヤガヤと騒いでいるのが目に入った。
一体、誰を探していたんだろうな....
そんな事を少しだけ考えていたが、既に俺の中では未完、という形で完結していたので余りに気にならなかった。
俺は視線を戻して川柳へ向かう。
何故か早足でこの場から離れようともしていたが、離れようとしていた。
『待てよ、この野郎!!』
水飲み場で叫んでいた男の声がさっきより近くで聞こえる。
...嫌な予感がするぜ、不幸な事が起きそうだ
俺は歩く速度を更に加速して校舎を出ようとする。
『待てっつってんだろうがぁああっ!!』
うるさい奴だなぁ、一体誰に言ってるんだろうなぁ
俺は、絶対に振り向く事はせず逃げる様に地を蹴ろうとしたそんな時...
下駄箱で聞こえた重く響く声が近くでした後、誰かが俺の肩を掴んで無理矢理引っ張った。
中々に強い力で引っ張られた俺は、勢いに負けてしまい尻餅をつく形で背後に倒れた。
そのせいで仙骨辺りから、ジィンと響く嫌な痛みが走る。
ハッキリ言おう、俺は誰かに恨みを買う様な人間ではない。
....というより極小数の人間しか俺の事を知らないし、その中でも恨みを買われる様な関係性の人間は一人もいない。(晃とグラ男は論外)
だからこそ俺は、理不尽に痛みを与えて来た目の前にいる男に何か言ってやらなければ気が済まなかった。
『っ〜!......一体何なんだよ、おまっ...
顔を上げ、件の男と目があってしまった瞬間。
俺は言葉が詰まってしまった。
...目の前の男はとても、体格が良く見え、それでいて目つきがとても悪かった。
まるで目の前のゴキブリを殺そうとする、少し強気なJKといった感じだろう。
もし、女の子から虫を見る様な視線を向けられるというのなら未だ可愛げがあったのだろう....
しかし、今俺の前にいる男は茶髪のソフトモヒカンでピアスを右耳だけしている。
何処からどう勘違いしようと頑張っても、ムキムキなイカツイお兄さんにしか見えなかった。
此れは駄目だ...殺される、 よし逃げよう。
俺は這いずる様に立ち上がりその場から離れ様とする
…………のだが、力強く肩を掴まれた。
『何処へ行くんだ?』
『いや、ちょっとトイレに行きたくなりまして...もし僕に用事があるのでしたら、少し此処で待ってて貰ってもいいでしょうか?』
勿論、まるっきり嘘だ。
だけど、生理現象なんだから仕方がないと皆んなが許してくれるだろうと考えていた。
『ほー、トイレか。話が長くなるかもしれないからな。言って来い。』
『ありがとうございます!直ぐに戻って来ます、ね.....』
俺は校舎に戻る形でこの場から逃げようとするが..…何故か俺の周りを色々な人種の人間達で囲っていた。
周りを見渡すと全員が俺を睨み付けている。
『………』
こんな状況で逃げられる訳が無いと理解した俺は動きを止めていると、再び男の声が聞こえて来た。
『おい、どうした。早くトイレに行って来い。直ぐに帰って来るんだろう。俺は此処で待っててやるから安心しろよ..…………俺は、な?』
『……はい。』
こうして、俺はムキムキなイカツイお兄さんと別れて十数人の男達でトイレへ向かわざるを得なかったので向かった。
一応、息子を出して尿を出そうと思ったのだけど、背後で全員が睨み付けて来られた所為で緊張からか何も出ませんでした。
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