15話 感じる違和感
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柳さんの近くに居られる
そんな煩悩だけで俺は働いていた。
だけど、何気ないあの日の会話から俺は煩悩じゃ無く、もっと崇高な何かの為に働くようになっていた。
俺が働くようになって早、2週間。
毎朝、川柳に訪れた俺は、多くても10人ほどの軽食を店長と二人で大体10分ぐらいの短時間で作った後。
いつもの大容量が入る黒い弁当箱を手渡される。
『はい、此れお弁当。』
『ありがとうございます。』
こんな少ない会話だけでも、俺は日々の生活を生きる心の糧となっていた。
渡された弁当は、まだほんの少し暖かい。
それだけでほっこりとしてしまう。
『おはようございますお父さん、高榊君!!』
朝が弱い、柳さんは何時も登校時間ぎりぎりの八時ごろに下に降りてくる。
きっと、女の子だから色々準備があるのだろう。
俺はそう思っていたのだが、店長は違ったらしい。
店長は俺より二回りぐらい小さい女の子らしい桃色の弁当を柳さんに手渡しながら顔を顰めていた。
『高榊君が何時も7時ごろには料理を手伝ってくれるんだよ?今更お前も手伝えなんて言う気はないけど、彼を見習って少し早く起きる努力をだねぇ..』
『分かったから!頑張るから!!遅刻しそうなのっ許して!』
店長の苦言が長くなりそうだと理解したのか柳さんは言葉を制し、弁当を奪うように勢いよく引っ張った。
通学用の手提げカバンに奪った弁当箱を投げ入れた柳さんは、慌てた様に俺を見た
『!!高榊君早く行きましょうか、遅刻してしまいます!!』
そう言うと俺の背を押し扉へせかす。
厚手の制服でも分かる、柳さんが触る手の感覚。
何に使っているのか分からない、柑橘系の香りがふわりと鼻奥に通る。
もっとこの香りをかぎたくなって鼻息は小さく、それでいて吸引量は大量にをモットーに吸い続けてしまう。
はっと意識を取り戻した時に、何してるんだろうと冷静に考えてしまうが、それも仕方が無いのだと思いたかった。
『じゃあ、お父さん!言って来まーす。』
『す、すいません...お先に失礼します。』
『ああ、行ってらっしゃい。』
川柳から出た俺達は走り出す。
まぁ、走り出すと言っても柳さんのペースに合わせているだけなので、其処まで疲れは来なかった。
反対に隣を走る柳さんを見ると、少し苦しそうに走っているので、少し手伝ってあげようと考えた。
『柳さん、鞄も持とうか?重いでしょ。』
『えっ?、いや、でも悪いんで大丈夫で
『良いから、此の儘じゃ遅刻するかもよ?』
とは言うが其処まで遅刻しそうな時間では無かった。
あのまま歩いて登校したとしても五分ぐらいは余裕がある。
だけど、柳さんは何時も同じ様に焦りながら走っていたので核心を突かれた様な声を出してしまった。
『ゔっ.....なら、お願いしますっ!!』
少し考えた後、俺に鞄を半分投げる様な形で渡した。
『あいよ。』
鞄の取っ手の部分が未だほんのり暖かい。
....此れが柳さんの体温か、何故だか興奮するぜ
そんなアホな事を半ば本気で考えながら、学校を目指した。
校舎が見え始めた所で俺たちは速度をゆっくりに落とす。
校門の付近に建てられている時計を見ると八分程余裕があった。
やっぱり、俺達が走る必要は無かったようだ。
『はい、かばん。』
『はあ、はあ、......ありがとうございます。』
肩で息をする、柳さん。
少しだけ、息が整ってきたので渡したが未だ苦しそうに見えた。
本当は止まっても良いのだけど、何に刈られてかは分からないが止まろうとはせず、足を前へ運んだ。
あれから柳さんと登校し始めて二週間。
そろそろ、柳さんと登校している事の違和感が薄れていっても良いと思っていたのだがそう上手くはいかなかった。
まぁ、特に何かをされる訳でも無くて、ただ登校中に集まる俺への目線が前よりキツイものになっている様な気がするぐらいだった。
森宮に逆らった次の日に例の【最近のジャOニーズの法則】で力を持っていると勘違いした奴等による恐れていた制裁もなかった。
だけどやっぱりその日の放課後も同じ様に森宮に捕まってしまった。
俺はまた長い話が始まるんだと嫌気が指していたのだけど、会話はたった一つだけだった。
「そんなに俺に邪魔されたく無いって言うんなら何もしないよ。けど無理だったらすぐに言え。格好付けたって無理なモノは無理なんだよ。其れで柳さんを悲しませるな。』
そう告げた後、直ぐに俺は解放された。
森宮は当然の事を俺に言って来た、其の事で俺が何か文句を言おうなんて思ってはいない。
当たり前だ。
川柳は俺にとっても失いたくない場所である、俺のチンケなプライド如きで守れるのなら幾らでも捨ててやれる。
確かに俺はそう思っていた....なのに、森宮の言葉を聞いて当然だと返事をする事が出来なかった。
何故だかは何と無く分かっている。
だけど其れを認めたくなくて今も未だ、あの時に返す筈だった答えが出なかった。
モヤモヤとした感覚は一週間経っても消えない。
其れが俺の中にある違和感だった。
…ダメだ思い出す度に、嫌な気分になってくる。
俺は頭を振り考えない様にしていると何時もと同じ様に後ろから挑発される。
『おいっ、お前みたいなブサイクが未だそんな美少女と一緒に通ってるのか!!』
声を聞くだけで誰か理解してしまい。
俺は足を止めると後ろへ振り向く。
『…...女っ気が無いからって嫉妬は醜いぞ、晃』
『ばっ、馬鹿言え。絶対に叶わない希望を抱いてるお前に現実を見せてやってるだけだ!!ぜ、絶対に羨ましいとかって思ってないんだからね!』
『おう...そうだな。』
必死に否定する晃を見て可哀想になって来てしまう。
俺はこれ以上話を膨らませずに終わらせようとするのだが、未だ毎日行っている恒例のアレが残っていた。
『うるさいっ!最近いい事ばっか起きてる、高榊めっ!!不幸になりやがれぇえええ!!!』
晃はそう言うと拳を握りしめ、襲い掛かってくる。
『ふざけんなっ!!こっちは、生きててあんまり良い事なかったんだ!!そう簡単になってたまるかっ!!!』
襲う為に近付いてくる晃に対する様に両の拳を怒りの力で硬く握り締めて前へ一歩力強く踏み出し。
現れた衝撃を拳に載せる様に突き出そうとする。
晃も俺と同じ様に、力強く踏み出して拳を前に出しているのが目に入った。
避けようと思えば避けられる。
だけど、そんな野暮な事はしない。
先に相手に拳をぶつける
そんな暗黙のルールが気づかない内に出来ていた俺達に出来ることは如何に速度を乗せた拳を出せるかだけにあった。
この瞬間だけは不思議と俺のモヤモヤしていた気持ちなどは無かった。
もしかすれば嫌な事があった時は、強い感情を抱いて何かするのが良い発散法なのかもしれない。
俺は此の時、晃の顔を変形させてやる勢いで拳を振り切った。
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