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創星のレクイエム  作者: 有永 ナギサ
3章 第2部 学園生活の始まり

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94話 朝の登校風景

 青くみ切った空の下。陣とリルはマンションを出て、奈月と待ち合わせをしている緑豊かな広場前へと来ていた。

 見渡せば学生たちが友達とおしゃべりしたり、スマホをいじったりしながら、各々登校している。もはや見慣れた登校時間の風景だ。


「ナツキちゃん、もう来てるね」

「相変わらず目立ってるな」


 そんな中、広場の前へ先に着いていた神代かみしろ奈月を見つける。彼女は一人、文庫本を優雅ゆうがに読んでいた。その姿に登校中の学生たちは、次々に目を奪われていく。それもそのはず奈月は顔が非常に整っているため、誰もが美人と認めるほどの美少女であり、そこへりんとした雰囲気をまとっているのだ。そんな少女がそよ風できれいな長い黒髪をなびかせ、粛然しゅくぜんと文庫本を読んでいる。もはやあまりに絵になりすぎているというしかない。


「よう、奈月」

「おはようなんだよ、ナツキちゃん」

「陣、リル、おはよう、すがすがしい朝ね」


 奈月は読んでいた文庫本をパタンと閉じ、髪をかき分けながら優雅にあいさつしてくる。


「くす、とりあえず陣が来てくれてなによりだわ」

「だってバックレたら怒るだろ」

「あら、機嫌が悪くなるだけじゃすまないわよ。たとえどこに逃げようと神代の情報網を使って見つけ出し、無理やり引っ張ってでも登校させるわ」

「こ、怖えー、そこまでするのかよ」

「陣がいないと、アタシの有意義な学園生活に支障が出るじゃない。そんなの我慢ならないわ。くす、だから逃がさない」


 陣の上着をぎゅっとつかみ、圧をふくんだかわいらしい笑みを向けてくる奈月。


「わがままだな」

「アタシは姉さん以上に強欲だもの! というかクロノスの大令嬢である神代奈月に、ここまで言わせるなんて光栄なことだと思いなさい。自分で言うのもなんだけど、陣の立場になりたいと思ってる男子たちはきっといっぱいいるはずよ」

「それは数えきれないぐらいいるぞ。オレがこれまでどれだけ嫉妬のまなざしを受けてきたことか。とくにもう一大勢力まで膨れ上がった奈月のファンクラブの連中からは、どれだけ目のかたきにされてることか」


 奈月の不敵な笑みを浮かべての力説に対し、肩を落しながらツッコミを。


「なにそれ? そんな集団がいるの?」

「奈月は高嶺たかねの華の中の華だからな。その容姿に、あふれ出るカリスマ力、おまけに文武両道で、誰に対しても礼儀正しくやさしい。人気が出ないはずがない。もう、女神として崇拝すうはいされてるレベルなんだぞ」

「ふーん、酔狂な人たちが大勢いるのね。まあ、アタシは陣さえいればそれだけでいいんだけどね♪」


 奈月はさぞ興味なさそうにして、首をかしげる。そして陣のうでを取り、意味ありげにウィンクしてほほえんできた。

 もし彼女のファンが近くで見ていたら、発狂ものだろう。


「その発言、学園で絶対しないでくれよ。殺害予告とか山ほど来て、めんどくさそうだから」

「陣くーん、リル、奈月ー!」


 そこへ灯里あかりが大きく手を振りながら、ダッシュで陣たちのところへ。


「――はぁ……、はぁ……、よかったー、おいてかれなくて」

「アカリ、その慌てよう。朝よゆうをもって起きれなかったのかな?」


 肩で息をし安堵あんどする灯里へ、リルがジト目でたずねる。


「聞いてよリルー! 二度寝しまくってたら、もうこの場に間に合うかのギリギリの時間でさー。朝食をとらず、速攻で身だしなみを整えて走ってきたのー!」


 灯里はリルへ抱き着き、泣きつきだす。


「――もう、アカリってば……」

「――うぅ……、リルがいてくれたら、こんなことにならなかったのにー。こうなったら陣くんの部屋の隣にでも引っ越そうかな。そうすればリルにお世話してもらえるよね!」

「オレの住んでるマンション、家賃結構高いぞ」

「貧乏学生に、それはきつすぎるよー。そうだ! じゃあ、わたしが陣くんのところに転がり込めばいいんだ! そしたら家賃も浮くよね!」

「却下だ、却下。リルだけじゃなく灯里まで来たら、オレのプライベート空間がどれだけ侵害されることになるやら」


 ナイスアイディアと目をかがやかせる灯里の主張を、切り捨てる。


「えー、かわいい女の子と同じ屋根の下で暮らせるチャンスを、みすみすのがすのー? ラッキースケベな展開も盛りだくさんかもしれないよー」


 すると灯里が上目遣いで、ニヤニヤしてくる。


「一般的な思春期男子なら夢のようなシチュエーションかもしれんが、オレは魔道の求道とかクロノスがらみの仕事でいろいろ忙しいからさ。まったく心引かれないというとウソになるが、優先順位としては低いな。だからほかを当たってくれ」

「ぐぬぬ……、まさか灯里さんとの同居生活に、目もくれないなんて。なんて手ごわいんだ、陣くん……」


 こぶしを震わせ、あとずさる灯里。


「しかたない。いったんこの件は対策をねるとして。とりあえず、陣くん、食べ損ねた朝ごはんを、学園の購買でおごってよ!」

「なんでオレが」

「こうなったのも陣くんがリルをとったせいだし!」

「あー、わかった、わかった」


 確かにリルを取ってしまったのは事実ゆえ、しかたなく彼女の駄々(だだ)を受け入れることに。


「やった! はっ!? そうだった! ところで陣くん、どう? どう?」


 灯里が陣の目の前でくるりと一回転し、かわいらしくポーズをしだす。


「どうって、なにがだよ?」

「もー、見ればわかるでしょ! わたしの制服姿だよ!」

「――うん? 制服姿がどうしたんだ?」

「どうしたんだじゃなーい! もっと感動とか、絶賛の言葉とかないの? せっかくの灯里さんの制服姿、初お披露目ひろめなのにー!」


 灯里が胸元むなもと近くで両腕をブンブンしながら、必死にうったえてくる。


「いや、実際、ただの制服姿だし、とくに思うことは」


 星海ほしみ学園に通っている以上、女子の制服はもはや見飽きているといっていい。なのでとくに思うことはなかったという。


「灯里、陣にそういうの期待するのはやめときなさい。いつもこうだから。まったく女心を理解してくれないのよね」


 奈月が肩をすくめ、あきれたように首を横に振ってきた。


「そんなことはないと思うが」

「じゃあ、アタシの制服姿を見てどう思う? この制服姿はまだ初お披露目だったわよね」


 奈月は陣の目の前に来て、スカートのすそを軽く持ち上げ制服姿をアピールしてくる。


「高等部になって、少しデザインが変わったな」

「ほらね。中等部での制服デビューでも、ぜんぜん気の利いたこと言わなかったわよね。結局、無理やり言わせたまであるし」

「陣くーん、それじゃあ、全然ダメダメだよー」


 奈月と灯里がジト目でダメ出しを。


「そうなのか?」

「ううん、わたし、いきなり出鼻をくじかれてしまったけど、気落ちしてる場合じゃないよね! なんたってこれからあの設備が整い、充実した学園生活が約束されてると有名な星海学園に入学するんだから! その記念すべき青春の一ページ目、テンション上げていかないと!」


 灯里は星海学園がある方向へ手を向け、目をキラキラさせる。


「ああ、この先、いったいどんなステキな日々が待ってるのか! 想像するだけで胸がはずんでくるよ! ビバ! バラ色の学園生活ってね!」

「ははは、灯里は朝から元気だな」

「陣くーん、なに人ごとみたいなこと言ってるの? 陣くんも一緒に学園を謳歌おうかするんだから!」


 灯里は陣の腕をつかみ、まぶしい満面の笑顔を向けてきた。


「オレも?」

「前にも言ったでしょ。スキあらば陣くんを、陽だまりの道へと引きずり込んであげるって! だから一緒にいっぱい楽しもう!」

「――えっと……」

「ちょっと陣、ノリが悪いわよ」

「いや、奈月はこっち側じゃなかったのかよ!?」

「あら、ざんねん。アタシは灯里と同じ、学園生活を楽しみたい側だもの。この先大人になったら神代の人間として責務を果たさないといけなくなるのよ。それはそれは魔道にどっぷりつかった、イカれたレールを走らされることになる」


 奈月は胸に手を当て、憂鬱ゆううつそうに目をふせる。


「だから楽しめるうちに、できるだけ楽しんでおきたいのよ。その絶好の機会である学園生活は、もちろん外せないわ。存分に謳歌しつくさないと! 学生時代の思い出は人生のかてになるっていうしね!」


 そして彼女はまだ見ぬ学園生活へ、期待に胸を膨らませた。 


「そういうわけだから灯里、あてにしてるわね!」

「――うぅ……、そんな泣ける話されたら、期待に答えないわけにはいかないよ! 陣くん、奈月のためにも一緒にがんばろうね!」

「わかった、わかった。灯里や奈月から逃げれそうにないみたいだし、どうせならとことんつきあってやるよ」


 二人の思いに触れ、彼女たちの気持ちを汲んであげることに。

 陣からしてみてもこれはこれで悪くないと、思ってしまっていたという。


「あはは、さすが陣くん! そうこなくっちゃね! さあ、二人とも行こう! わたしたちの輝ける学園生活が待ってるよ!」


 灯里は陣と奈月の腕をつかみ、楽しげに引っ張っていくのであった。



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