84話 三すくみ
「奈月!?」
振り返るとそこには奈月の姿が。
「できればアタシも関わりたくないんだけど、陣がからんでるなら仕方ないわね。それに神代特区内でこれ以上好きにさせたら、神代の面目問題にもつながるしさすがに介入しないと」
奈月は肩をすくめうんざりしながらも、陣たちの前に出てくれる。
「こら、そこの二人。陣をどうこうっていってるけど、こいつはアタシのものなの。だからよけいなちょっかい、かけないでくれるかしら?」
そして奈月は陣へ腕をからめてきて、さぞ迷惑そうに告げた。
「フフフ、なんて行幸。ついでに目障りな邪魔者まで、潰せるなんてね!」
「あれ? もしかしてお姉さん、神代の人間? あはは、それならぜひレンたちと遊ぼうよ!」
すると絶好の好機だと不敵に笑うクレハと、遊び相手が増えたことを純粋に喜ぶレン。結果、ここに神代、レイヴァース、レーヴェンガルトの三すくみの状況が。
だがそんな緊迫した雰囲気も、次第に雲行きがおかしなほうへと。
「あと陣はあんたのものじゃない。このワタシが小さいころからずっと、目をつけていたんだから!」
クレハは陣に指を突き付け、聞き捨てならないと抗議を。
「むー、神代のお姉さんも、レンと陣お兄さんの仲を邪魔をするんだ。それは許されない事案だねー」
レンはほおをぷくーと膨らませ、敵意を込めたまなざしを奈月に向ける。
なにが起こったかというと、奈月が言った陣はアタシのモノだという発言に二人がくいつき始めたのだ。なので周りから見ると、陣の奪い合うための戦いに見えてきてしまうのであった。
「うわー、陣くん、すごいねー! こんな場面でもモテモテー!」
「ふふっ、しかも好かれてるのは、大物ばかりなんだよ」
「これは逆タマ不可避だね! いいなー、陣くん、将来安泰すぎて!」
灯里とリルは修羅場を目の当たりにし、ニヤニヤと茶化してくる。
「ははは、そこ、少しだまってような。あとお前ら三人、まじめにやれ」
陣としてはこの空気をなんとかしたいため、すぐさま抗議を。
そのかいあって、事態は再び緊迫した状況へと。
「ふん、言われなくても。――さあ、おしゃべりはここまでよ! 覚悟して! レーヴェンガルトに神代! レイヴァースの星よ!」
「うん、盛り上がってきたもんね! レーヴェンガルトの星を見せてあげるよ!」
クレハとレンは宣言と同時に、みずからの星を解き放つ。
しかしその輝きは尋常ではなく、あたりの空気はその重圧によって震え上がっていく。やはり当主クラスとなると、星詠みのレベルもケタ違いのようだ。下手すればアンドレーの輝きが、かわいく見えるほどに。
「ちょっと、なんて化け物じみた星の輝きなの!? クッ、これが当主レベルか……。陣、あんたも加勢して! さすがにあんな化け物たち、アタシ一人で手におえないわ!」
このレベルはさすがの奈月も予想外だったようで、あわてて陣に応援を。
確かにこの化け物クラスになると、いくら奈月の星詠みでも分がわるい。よって陣も加勢せねば。
「もうボロボロだが、やるしかないよな」
「いくわよ!」
「おう!」
奈月と共に、星詠みで対抗しようと前へ。
だがそれも乱入者によって止められてしまう。
「はい、はい、みんなそこまでー! これ以上のけんかは、お姉さんが許さないよー」
「神楽姉さん!?」
「神楽さん!?」
手をパンパンたたいて言い聞かせてくるのは神代家次期当主、神代神楽。
しかも彼女のすぐ後ろには星海学園学園長の春風栞と、カーティス神父の姿が。さらにおまけにその後ろにはセナとルシアの姿も。
「奈月ちゃん、よくがんばったね! あとはお姉ちゃんに任せて、下がっておくといいよ」
神楽はねぎらいの言葉をかけながらも、悠々(ゆうゆう)と陣たちの前へ。
「あんたはまさか神代の」
「ええ、わたしは神代家次期当主、神代神楽。よろしくお願いするね。レイヴァース当主に、レーヴェンガルト当主」
神楽はスカートの裾を持ち上げ、優雅にお辞儀しあいさつを。
そして彼女は優しげにほほえみながら、頼みを口に。
「じゃあ、盛り上がってるところわるいけど、ここでお開きにしてもらえるかな? 暴走しかけていた創星術師の件は片付いたみたいだし、こっちはこれからあと処理を頑張らないといけないからね」
「ふん、レーヴェンガルト当主を、このまま見過ごすなんてできるはずないでしょ。ちゃちゃ、入れてくるなら次期当主様も一緒にしとめてあげるけど?」
「レン、まだまだ遊び足りないから、お開きはやだなー。もっと楽しみたいー」
だがそんなお願いもクレハとレンには届かなかったようだ。二人は、みずからの星を起動したまま言い返す。
「――はぁ……、どうやら言葉の意味が、分かっていないようだね。お姉さんはこう言ってるんだよ? 見逃してあげるから、消し炭にされる前にとっとと失せろって、ね! うふふふ」
神楽は冷酷な笑みを浮かべながら宣言し、自身の星を解き放つ。
すると二人に劣らないほどの星詠みが。しかもその出力はさらに増大していき、クレハとレンの放つ星の余波を押しのけていく。もはや神楽は完全に本気。その言葉に偽りなく、このまま続けるなら二人を消す気でいるらしい。
「なに!? この女の星!? 尋常じゃない!?」
「わぁー、次期当主のお姉さんすごいね! ここまでくると、本当に消されちゃいそう!」
これにはさすがの二人も圧倒されるしかない様子。
クレハは一歩下がり、動揺を。レンはまだ余裕の笑みを浮かべているが、確かな脅威だとみさだめているみたいだ。
そんな二人が少しおとなしくなったところで、さっきまで後ろで待機していた栞とカーティス神父が動きだす。
「クレハちゃん、ここは退きましょう。このままここで星を使い続ければ、福音島にどんな影響がでてしまうかわかりません」
「――くっ……、一理あるか……。わかったよ。栞さん」
「レンさん、そろそろおいたがすぎますよ。事態も収束したことですし、お戯れもそこまでにして」
「はーい、おもしろいものいっぱい見れたし、もうおとなしく帰るよ、カーティス神父」
クレハとレンは栞とカーティス神父の言葉を聞き入れ、引き下がることを選択。二人ともしぶしぶ星をおさめてくれた。
「ふう、やっとみんな聞き分けてくれたよ。陣くんもよくがんばったね! あとの事後処理はもちろん、その疑似恒星を所有する件についてもわたしがなんとかしておくから、ゆっくり休むといいよ!」
神楽はやれやれと肩をすくめ、くるりと陣たちの方へ振り返ってくる。そして頼もしげにほほえみ、ウィンクを。
「ははは、さすが神楽さん。お言葉に甘えさせてもらいます」
この様子だと、陣が危惧していた創造の疑似恒星の所有権のことも大丈夫かもしれない。神楽の手腕なら、うまいこと丸く収めてくれそうだ。
「うふふふ、お姉さんに任せなさい! さーてと、これで一見落着だね! はい、はい、みんな撤収するよー」
胸をどんっとたたき、得意げに笑う神楽。そして手をパンパン打ち合わせながら、みなを引率していく。
こうしてサイファス・フォルトナーの疑似恒星をめぐる一件は、無事幕を下ろすのであった。




