表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創星のレクイエム  作者: 有永 ナギサ
2章 第4部 手に入れた力

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/114

80話 契約

「クッ!?」


 あまりの力と力のぶつかり合いに、吹き飛ばされてしまった。

 陣はダメージを受けた身体を無理矢理動かし、立ち上がる。すでにアンドレーとの激しい戦闘で、身体はボロボロ。ふらついている始末であり、正直厳しいといっていい。

 戦況はなんとかくいついているものの、劣勢。さっきからアンドレーの圧倒的破壊の力を紙一重(かみひとえ)で受け流し、隙を突こうと攻めているが出力不足できめ切れない。結果、じり貧となってしまい、こちらのダメージが蓄積するばかり。一応陣も彼と同じ破壊という概念を凝縮したような黒いオーラで、戦っている。しかしいくら同じ星を使っているといっても、練度(れんど)が明らかに違う。やはり初心者創星使いと、本場の創星術師では埋められない差があるみたいだ。


「――はぁ……、――はぁ……、わかっていたが、少しきついな」


 息を切らしながら、敵の方に視線を移す。

 すると肩で息をし、必死に耐えているアンドレーの姿が。


「まあ、向こうも向こうで、相当厳しそうだけどな……」


 戦闘の押され具合からして陣が不利に見えるが、案外そうでもなさそうなのだ。

 というのもアンドレーの状況は、暴走して自我を失う一歩手前。そんなギリギリの状態で、いつまでも力を行使し続けられるわけがない。もはや彼は陣以上に(がけ)っぷちといってよく、このまま時間を稼げれば勝てるかもしれなかった。


「このまま一気にたたみかけられれば……、――ッ!?」


 サイファス・フォルトナーの疑似恒星に力を込めようとした瞬間、意識を飲まれそうな感覚が襲う。


「――こっちも時間切れ間近かよ……。さすがに星詠ほしよみを使いすぎたか。これ以上やれば、歯止めが効かなくなって最悪暴走しちまうかもな……」


 どうやら陣も限界が近いようだ。(たび)(かさ)なる星詠みの反動が、陣の精神力をゴリゴリ(けず)っているらしい。このままでは力への衝動を抑えきれなくなり、暴走レベルまで同調してしまう恐れが。そうなればもはや魔道の求道どころの話ではなくなり、四条陣の人生がおわる最悪の事態に発展しかねなかった。


「陣くん! よかった! まだ無事みたいだね!」


 危機感にさいなまれていると、聞き慣れた声が。

 振り向くと、灯里が全速力で駆けつけてくれる。


「灯里!? なんでこんなところに!?」

「――はぁ……、はぁ……、あはは、陣くんにどうしても渡したいものがあったからね! だからクレハと奈月を放って、先に来ちゃった!」


 灯里は息を切らしながら、意味ありげにウィンクしてくる。


「渡したいものだって?」

「うん! はい、これ! 陣くんにリルの疑似恒星をあげるよ! 大事に使ってあげてね!」


 そして灯里はリル・フォルトナーの疑似恒星である、ロケット式のペンダントを差し出してくれた。


「いや、待て、オレにはこのサイファス・フォルトナーの疑似恒星があるんだが……」

「陣くんも、うすうす気づいてるんじゃないかな? その疑似恒星は不完全だってことを」

「――それは……」


 彼女の指摘には心当たりがあった。

 実を言うとこのサイファス・フォルトナーの疑似恒星、彼の星の形。使っていてわかったのだが、なんとも言えない違和感があるという。それは恒星があまりに強すぎるせいで、制御機構が完全に追いついていないのだ。これでは歯止めが気かず、アンドレーのように暴走するしかないといっていい。もはや本当にサイファス・フォルトナーはこの星を使いこなせていたのかと、疑問に思うほどであった。


「だから陣くんが先へ進むには、最後のピース。このリル・フォルトナーの疑似恒星が必要なの。でないとあの人のように暴走する未来しかない。だからどうか受けとってほしい」


 灯里はまっすぐに陣を見つめ、切実にうったえてくる。


「だけどそれは灯里から、リルを奪うことになってしまうだろ。そんなことできるわけ……」


 そんな懸命(けんめい)な説得だが、断るしかなかった。

 すでにリルの事は、灯里に任せると決めているのだ。もしここで受け取ってしまえば、リルを救うため頑張ってきた彼女の努力が無駄になってしまう。それに本当の姉妹のように仲がいい二人を引き離すのは、非常に心苦しい。灯里の陽だまりの道を応援したい陣にとって、その提案を受け入れるわけにはいかないのだ。


「ねえ、陣くん。私ね、この選択を選ぶときすごく迷ったんだ。リルとこのまま一緒にいるか、それとも陣くんを助けるために手放すのか。もし陣くんを完全に救えるなら迷わず後者を選ぶけど、その場合はただ破滅(はめつ)の道を遅らせるだけだからね。いづれ二人は魔道の深淵(しんえん)を突き進み、いなくなってしまうはず。そうなったら結局リルまで失うはめになってしまう。なら初めからリルを選んだほうがいいよね。でも私にはどうしてもキミを見捨てることができなくて、もう、どうしたらいいか……」


 首を縦に振らない陣に対し、灯里は胸をぎゅっと押さえ自身の心境を辛そうにかたっていく。

 そう、灯里からして見れば、もう陣を完全に救うことはできないのだ。リルを渡したとしても、いづれ破滅の道に突き進んでしまう。しかもその場合、リルも陣の道連れにされてしまう最悪な展開に。ゆえに助けたくても、灯里は陣を救うべきではなかった。たとえどれだけそれを渇望(かつぼう)しても。


「だけど気づいたの! そんな悲観的な考え、私らしくないってね! そもそも失う未来しかないなら、自分で作ればいいだけの話! だから水無瀬灯里は、陣くんもリルも手放さずどっちもとってみせるよ!」


 しかしそれもつかの間、灯里は陣の手を取りまぶしい笑顔で宣言を。

 どうやら考え抜いた結果、納得できる答えを見つけたらしい。答えをかたる彼女には、一切の迷いが感じられなかった。


「そんなのどうやって?」

「ふっふっふっ! 簡単なことなのだよ! 私が二人の進む道について行って、見守ってあげる! そうすれば堕ちすぎて取り返しのつかなくなったとき、すぐ助けられるでしょ! どう? これなら二人を失わずに済まないかな?」


 灯里はにぎっている陣の手にぎゅっと力込め、不敵にほほえみながらウィンクしてくる。

 彼女の選択。それは陣とリルが進む魔道の道に、自分もついていくというもの。どうやら彼女は陣たちが正気でいられるよう、つなぎ止める役を買ってくれるようだ。確かに灯里がそばにいてくれれば、魔道に百パーセント執着するといったことは難しそうだ。たぶんいつものように振り回され、それどころではないはず。しかも彼女は陣の抱える問題を、同類ゆえ誰よりも理解してくれている。その点もあり、つなぎ止め役としてこれほどあった人材はいないだろう。


「――アカリ……、キミって子は……」


 気が付くと、さっきまでいなかったリルが姿をみせていた。

 リルも陣と同じく呆気にとられているようだ。陽だまりの道を求める彼女が、まさか魔道の道へついてくることを選ぶとは。予想外にもほどがあった。


「だから陣くんもリルも、大船に乗ったつもりでいればいいよ! もしもの時は私が引っぱたたいてでも、連れ戻してみせるから! そういうわけで陣くんは、なにも気にせず受け取ってね!」


 灯里は陽だまりのような笑顔を向け、再びリル・フォルトナーの疑似恒星を差し出してくる。

 その姿は陣が抱く不安をすべて吹き飛ばしてしまうほどの、力強さがあったといっていい。灯里ならその不可能じみたことであろうと、可能にしてくれると。気づけば彼女のまぶしくも温かいオーラに、心を動かされていた。


「――灯里……。リルのほうはいいのか?」

「もちろんなんだよ。正式なマスターができるのは、わたしにとって喜ばしいことだもん。それにわたしもジンくんを助けてあげたいしね。だからどうか受け取ってほしいんだよ」


 リルはいのるように手を組み、慈愛に満ちたほほえみを向けてくる。

 灯里だけでなく、リルのほうも陣に付き合ってくれるようだ。


「――わかった。ありがたく受け取らせてもらうぞ、二人とも」


 となれば陣の取るべき選択は一つ。彼女たちの想いをありがたく受け入れ、力を貸してもらうしかない。陣は灯里からリル・フォルトナーの疑似恒星である、ロケット式のペンダントを受け取った。


「はい、どうぞ! あはは、よかったね! 陣くん! これで二人のかわいい女の子が、ついてくることになったよ! この幸せ者めー!」

「灯里、本気でついてくる気なんだな?」


 ニヤニヤと茶化してくる灯里に、改めて覚悟を問う。


「もっちろん! 二人は私の大切な人だもん! 一緒にいるためなら、いくらでも一肌脱()いであげるよ! あと、ただついていくだけじゃないから、覚悟しといてね! 隙あらば陣くんをさとして、陽だまりの道へと引きずり込んであげるから!」


 胸をどんっとたたき、力強くほほえんでくる灯里。そして陣の胸板に人差し指を当て、かわいらしくウィンクを。

 さすがは灯里。ただ受けに回るだけでなく、攻める機会もうかがっているようだ。陣の思い描く魔道の道を、灯里の思い描く陽だまりの道に塗り替えようと。もしかすると最大の敵は、身内にいるのかもしれない。


「ははは、それは足元をすくわれないように、気をつけないといけないな。じゃあ、行ってくる。灯里はここで待っといてくれ」

「うん、行ってらっしゃい!」


 灯里に見送られ、陣はアンドレーの前へと再び向かう。


「――はぁ……、――はぁ……、まだこりねーのかよ? お前さんじゃ、オレ様に勝てねーっていうのに」


 アンドレーは今だあふれ出る力を押さえ、必死に耐えていた。


「ははは、確かに、練度(れんど)の差がある以上、オレに勝ち目はないかもな。だったら仲間の力を借りるまでだ!」

「なんだと?」

「アンドレー、冥土(めいど)土産(みやげ)に面白いものを見せてやるよ! これはあんたが求めていた、さらなる高みの景色! 最果てに通じる、輝きだ!」


 陣はサイファス・フォルトナーの疑似恒星と、リル・フォルトナーの疑似恒星を手にアンドレーへ声高らかに告げた。


「やるぞ、リル!」

「うん、いつでもいいんだよ」


 陣のかけ声を合図に、リルは消え疑似恒星の中へと戻っていく。

 それを確認し、陣は二つの疑似恒星を一つに。リル・フォルトナーの疑似恒星はロケット式のペンダント。ゆえに中になにかを収納することが可能なのだ。そしてはめ込むのはもちろんサイファス・フォルトナーの疑似恒星である、禍々(まがまが)しい深紅の宝石。なんとこの宝石はロケット式のペンダントに、ぴったり収まる大きさだったのだ。まるで始めから二つが、一セットで作られていたかのように。


「なに!? 二つの疑似恒星を一つにだと!?」

「これがサイファス・フォルトナーの疑似恒星の真の姿だ!」


 一つにした疑似恒星から、連鎖(れんさ)反応するかのように虹色の輝きがあふれ出てくる。そのほとばしる余波は、これまで見たことのないほど圧巻で美しい。思わず行使することを忘れ、見惚(みほ)れてしまいそうになるぐらいだ。

 そして輝きは次第に大きくなっていき、陣を包んでいくほどに。それと同時に陣の意識も薄れていって。





(――誰だ? そこにいるのは?)


 気づけば見知らぬ光景が目に飛び込んでくる。

 しかし視界はノイズがひどく、周りの景色まで識別できない。ただ二つの人影が視線の先にいるのだけはわかった。


「さあ、来たまえ、少年! そして我らに見せてくれ! 新たなる可能性の輝きを!」


 そんな中、謎の男が陣に手を差し出し、声高らかに告げてくる。


「ふふっ、わたしたちは待ってるんだよ。この最果さいはてで……」


 さらに男の手前にいたリルの面影がある銀色の髪の少女も、意味ありげに伝えてきた。いとおしげにほほえみながら。


「――ああ、待っていろ。オレは必ずたどり着いて、そして……」


 消えゆく意識の中、陣は彼らに手を伸ばしながらも宣言を。

 自身のやるべきことを、この一瞬のときだけ理解して。





「ジンくん、大丈夫? 使いこなせそうかな?」


 リルの声を聞いて目を開けると、そこは先ほどまでいた景色。

 なにやら一瞬夢のようなものを見ていた気がするが、内容は思いだせない。しかし心がこれまでにないほど、高揚こうようしているのはわかった。まるで求めて止まないものを、垣間見(かいまみ)れたかのように。


「ああ、いけそうだ。リル、サポートは頼んだぞ。」


 すぐ後ろに声をかける。

 というのも彼女が陣のすぐ後ろで、ただよっているような感じがしたのだ。まるで幽霊に取り憑かれている状態というべきか。視線を移すと、うっすらとだがリルが(ちゅう)を浮きただよっているのがわかる。おそらくほかの人間には見えないだろうが、同調している陣にはなんとなくそこにいるのがわかった。


「うん、任せてなんだよ。じゃあ、ジンく、ううん……」


 リルは快く引き受け応えようとするが、陣の名前のところでいいとどまる。

 そして彼女は後ろから抱きつく感じに、陣の首元へ両腕を回し。


「――さあ、マスター……。わたしたちの星を(かな)でよう。この世界に(きざ)鎮魂歌(レクイエム)を……」


 さぞいとおしげに、万感の思いを込めて告げてきた。


「ああ、奏でてやるさ。この創造の星の輝きでな!」


 陣は一つとなった疑似恒星を天高くかかげ、マナを込めながら宣言を。

 そして創造の星を解き放つのであった。


次回 創造の星

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ