66話 旧市街
2章 第3部 陣の選択
陣たちはジオフロントからの通路を使い、ゴーストタウンと化した旧市街へとたどり着く。神代特区はもともと巨大な一つの人工島であり、三つのエリアが存在した。一つは中心区。ここはクロノス本部や企業、財閥の支社、星海学園、軍の施設といった主要な建物が密集する場所。二つ目は研究区。その名の通りクロノスやよその研究所が密集し、魔法工学や兵器開発など様々な分野の開発がすすめられている場所。そして最後に人々の居住スペースが密集する市街区である。
しかし現状市街区の半分。旧市街と呼ばれる一帯は創星術師の暴走により、ロストポイントになってしまっているのだ。この旧市街に接するところはどこもバリケードで封鎖されており、星葬機構が管理しているという。中に入るには警備の隙をつくか、クロノスや星魔教の隠し通路から行かねばならなかった。
ちなみに現在の市街区は残った半分だけではない。それではさすがに少なすぎるため、急きょそばに新たな人工島を創設。残った場所と合わせて、新たな市街区としたのである。この市街区用の人工島はたびたび増設を加えられ、今ではかなりの規模になっていた。
「ようやく旧市街に到着ですね」
先ほどまで晴れていた空であったが、今では黒い雲が覆い始め次第に雨が降りそうな天気に。そして目の前には、廃墟と化した街並みが。ここら一帯、立ち並ぶ建物はどこも窓が割れ、壁のいたるところに穴が開いている。ひどいところは半壊している始末。道も街灯がへし折れていたり、地面にクレーターができていたりなど、激しい戦闘が行われた跡が広がっている。もはや人が住めないほど廃れきった、ゴーストタウンのようになっていた。そしてなによりひどいのは、この場の空気。なにやら得体のしれない重々しい空気が立ち込めており、常人だとその場にいるだけで発狂してしまいそうになるといっていい。いくら魔道に慣れ親しんでいる者でも、長いするのは危険な場所なのである。この現象はロストポイントの汚染レベルが高いほど、ひどくなっていくのであった。
「ははは、やっぱり旧市街に来るとテンションが上がるな。この禍々(まがまが)しさあふれる歪みっぷりときたらさ」
「うふふ、その気持ちわかりますよ。魔道の求道者が集う神代特区ゆえ、この旧市街に訪れる創星術師の数はほかのロストポイントをはるかに超える。そんな彼らによって刻まれていった星詠みのせいで、もともと汚染度の高かった旧市街の歪みは、さらに増すことに。結果、今では福音島の次に最大規模のロストポイントになってしまった。もはや創星術師にとって、これほど相性のいい場所はないほどですものね」
ルシアとこのどこか不気味な空気に、胸をはずませる。
星詠みはみずからの星の輝き、概念で世界そのものを塗り潰す秘術。ゆえに星詠み同士の激しいぶつかり合いや、暴走した創星術師の猛威の影響で歪みが応じ、一帯を異質な空間にしてしまうのだ。それこそロストポイントと呼ばれる場所で、今や世界中に無数に存在していた。
その中でもこの神代特区旧市街のロストポイントの規模は、今やトップクラス。もともと規模がでかかったのもあるが、魔道を求道するにあたり最適な神代特区ゆえ多くの人間が訪れることに。結果、幾度となく星詠みが行使され、歪みがさらに加速。もはや手に負えないほど、空間がねじ曲がってしまったのだ。
「もう、創星術師の聖地レベルだもんな。ここで求道すれば、星の輝きを飛躍できること間違いなしってタレ込みでさ」
星詠みはロストポイントのように空間が歪んでいるほど、その効力を発揮しやすい。なので神代特区旧市街のように規模がでかいロストポイントだと、きわめる効率が格段に上がるそうだ。それゆえ創星術師はより強大なロストポイントに拠点をかまえ、求道のため通い詰めるのであった。
「ええ、しかもクロノスにより星葬機構の影響は薄く、サポートしてくれる星魔教信者が多い。おかげで旧市街に遠征にくる創星術師の数は、日に日に増加してるそうですよ。もう歩いていたら、ほかの創星術師と会うなんて日常茶飯事ぐらいに」
この旧市街の管理はクロノス側が持っており、星葬機構は戦力を最小限しか送れないのである。そのためほかの同規模のロストポイントより、警備が手薄。比較的安全に魔道の求道ができるといっていい。
しかも神代特区は今や星魔教の巣窟。よって申請すればすぐにでもサポートしてくれる信者が付き、円滑に事が進められる。おまけにロストポイントの規模はトップクラスときたものだ。もはやこれほどまでに創星術師にとって、完璧なロストポイントはないほど。世界中の求道者が遠征に来るのも、うなずけた。
「そしてバトル勃発で、大乱闘か」
「うふふ、闘争は創星術師にとって、もっとも飛躍をうながせるファクターですからね。星との同調より、戦うために訪れる方も多いとか」
創星術師がみずからの星を強化するのに効果的なのは、実際に星詠みを行使しての戦闘。死力をつくすことで限界を超え、星をさらなる高みへと進化させることが可能なのだ。よってロストポイントで創星術師同士の戦闘が起こるのは、珍しいことではない。創星術師の多くは自身の命より、魔道の求道を優先するがために。この神代特区旧市街は、高位クラスの創星術師が集まる場所。そのためより強者との戦闘を求め、他より乗り込んでくる者も多いとのこと。
ちなみにロストポインと周辺は、騒音対策で風の魔法を利用した防音装置が設置されており、戦闘音が周辺の市街地に響かないようにされていた。
「ははは、物騒すぎる話だ。ほんと、世も末だよな」
これには肩をすくめながら、笑うしかない。
「ところで陣さん。神代特区建設時から、今の旧市街をロストポイントにする予定だったといううわさは、本当なんですか?」
ふとルシアが首をかしげ、興味津々といったふうにたずねてくる。
「マジらしいぞ。もともとこの特区は、神代が自分たちの魔道の求道を円滑に行うために作った場所だ。だからロストポイントは欠かせないということで、発生させるシナリオが全部書かれていたらしい」
神代特区は星葬機構の圧力から逃れ、上代の魔道の求道を円滑にするために創設された場所。ゆえに福音島という最大の鍵となる場所の近くに作り、求道や研究に必要なすべての資材、施設を用意したのである。
しかしここまでは簡単だったのだが、一つ問題が。神代の魔道の求道のためには、福音島以外のロストポイントが必要であった。本来ならばロストポイントが発生している所に作ればよかったのだが、福音島の関係上難しい。となれば新たに発生させればいいと判断し、裏で計画を進めていたそうだ。
「全部ですか」
「ああ、暴走した創星術師の鎮圧までの流れや、発生するであろうロストポイントの範囲。さらにはその後の星葬機構を言いくるめる説得材料までな」
あたかも自然に起こったように暴走した創星術師を放つ。そしてすぐに鎮圧せずある程度傍観し、ロストポイントが発生するレベルの被害が応じたところで戦力を。そのシナリオは綿密に立てられていたとか。
こうなると当然介入しようとしてくる星葬機構。彼らからしてみれば、ただでさえ厄介な神代特区にロストポイントができたのだ。これ以上クロノス側の好きにはさせないと、乗り込んでくるのは明白。だがそれもずっと昔から用意していた対策プランでだまらせ、クロノス側が責任を持って管理する方向までもっていったとのこと。ちなみに新たな市街地区の人工島の件も、事前に話を進めていたらしい。
「人為的にロストポイントを発生させようだなんて、よく考えつくものですね」
腕を組みながら感心したようにほほえむルシア。
「ははは、神代は魔道関連に関して、もはや正気の沙汰じゃないからな。自分たちの悲願のためならなんだってやるのさ」
「うふふ、神代の方々に、畏怖の念を覚えずにはいられませんね!」
そんな物騒な話しで盛り上がっていると、先へ進んでいたレンが手を大きく振り催促してきた。
「陣お兄さん! ルシアー! 早く早くー!」
「なあ、ルシア。本当にこんなところにレンを連れてきて、よかったのか?」
改めて先程から心配していたことを問う。
なぜここにレンがいるのか。それは彼女が入口付近で突如現れ、ついていくと主張しだしたから。ロストポイントはかなりの危険地帯。レンみたいな小さな女の子を連れていけるわけがない。それゆえ説得しようとしたところ、ルシアがあっさりオッケーを出してしまったのであった。
「陣さんの言いたいことはわかりますが、ここはどうか彼女の自主性を尊重してあげてくれませんか? 先ほどもいった通り、レンさんの面倒はワタシがみますので」
ルシアは胸に手を当て、頭を下げてくる。
「だがな」
星魔教側にとっては、レンにもこの道を進んで欲しいはず。いい刺激になると、連れていきたいのだろう。
「――まあ、ぶっちゃけるとレンさんなら一人でも……」
本当にいいのかと頭を悩ませていると、ルシアがぽつりと意味ありげにつぶやく。
「うん? 今なんて言ったんだ?」
「うふふ、いえ、なんでもありません。これもワタシたちが協力する条件として、納得をお願いします」
聞き取りにくかったのでたずねてみると、ルシアはさぞ何事もなかったように笑ってごまかす。そして決定打を口に。
そう言われてしまうと、なにも口をはさめなくなってしまう。
「――はぁ……、仕方ない。レンがケガしないように、気を配るしかないか」
「くすくす、大丈夫! 陣お兄さんが危なくなったら、レンが助けるから!」
陣の心配も知らず、レンは得意げにウィンクしながら元気いっぱいに告げてくる。
そのあまりの無邪気さに、思わずほおが緩んでしまうほどだ。
「ははは、レンは守られる側だろ。危ないから、オレたちから離れるなよ」
「はーい!」
そんなレンの頭をなでながら言い聞かせ、陣たちはアンドレーを探しに向かうのだった。
次回 同調




