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創星のレクイエム  作者: 有永 ナギサ
2章 第1部 水無瀬灯里

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57話 水無瀬灯里

「こういうこと!」

「なっ!?」


 突如、(あか)()は右腕を横に振りかざす。その瞬間、陣目掛けて、大気を圧縮した風の砲弾が放たれた。

 地面を(えぐ)りながら、またたく間に陣へ襲い掛かる風の咆哮(ほうこう。もはや直撃すれば、コンクリートの壁すら砕くほどの衝撃波といっていい。


「風よ、穿(うが)て」


 そんな窮地(きゅうち)に陣は即座に対応。魔法の核を形成し、マナを注ぎ込む。

 繰り出すは今灯里が使った風の魔法。陣ほどの才をもってすれば、一瞬で相手と同じ魔法を放つことも可能なのだ。

 結果、陣にたどり着く前に、灯里の風の砲弾は陣の風の砲弾と衝突し相殺された。


(それにしても、なんて形成スピードだ!? 灯里の奴、手を振りかざすあの刹那で繰り出しやがった!?)


 いきなり攻撃したこともそうだが、それ以上に驚くことが。それは灯里が風の魔法を行使するまでの時間。今の一撃はマナの流れを見るに、話しの中で放つ準備をしていない。叫んだと同時に魔法の核を形成し、マナを注ぎ込んでいた。常人ならばこれほどの威力を出すのに、早くても十秒はかかる代物をだ。その魔法さばきはまるで陣のように。


「陣くん! やるー! じゃあ、次はどう!」

「なにっ!?」


 続いて灯里が左手を振りかざした瞬間、燃え(さか)る炎の波が押し()せる。

 その炎の魔法が放たれたのは、灯里が先程の風の魔法を撃ってすぐのこと。流れるがごとく、連撃といっていい。


「ッ!? 炎よ、踊れ」


 せまりくる炎の波を防ぐため、陣もなんとか灯里と同じ魔法を。結果、炎同士は互いを食いつぶし合い相殺へと。

 両者放った中級クラスの一撃は、どちらも常人なら早くても十秒はかかるレベル。もし同じ時間で行使しようとしたら、炎の小球が精一杯であろう。


「あはは、まだだ!」


 まだ陣が炎の魔法を相殺しているというのにも関わらず、灯里はさらなる一手を。彼女が右手を振り下ろした瞬間、今度は巨大な氷の氷柱(つらら)が計六本。陣を串刺しようといわんばかりに降り(そそ)いだ。


「三連続行使かよ!? チッ、氷よ、貫け!」


 大気を斬り裂き閃光のように飛翔(ひしょう)してくる氷抗(ひょうこう)を、後方に跳躍(ちょうやく)しながら同じ手で打ち返す。

 それにより六本の氷杭同士が互いにぶつかり、けたましい音を立てながら崩れ去っていった。 


「――魔法をここまで……。まさか灯里は……」


 もはや感心など通りこして、驚愕(きょうがく)しかない。

 そう、灯里は陣と同レベルに魔法を繰り出せるのだ。今まで陣以外でこの芸当ができる人間など聞いたことがなかったため、驚きを隠せなかった。


「これが答えよ! 陣くん! なにを隠そう、私もそうなの! だから初めて会った時、確信できた! この人は私と同じだ。この狂おしいほどの(かわ)きに翻弄(ほんろう)される同類なんだって!」

「――オレと灯里が同類だと……」 


 灯里の行使する魔法の数々や、これまで彼女を特別視していたこと。それらの要因から、もはや灯里の言っていることは正しと納得する。


「そうよ。じゃあ、ここでとある女の子の話をしてあげるね。――あるところに孤児院に預けられた、小さな女の子がいました。その子は明るい普通の女の子です。ですがその子には、周りの子供たちと明らかに違うところが一つ。なんとその女の子は小さいながらも、すでに魔法という力を完全に掌握(しょうあく)していたのです。一度見れば何でも再現でき、アレンジなんて造作(ぞうさ)もない。もはや神童などはるかに通り越した、異質な存在でした……」


 灯里は遠い目をしながら、ある少女の物語をかたっていく。


「女の子は思います。簡単すぎてつまらない。もっと面白いものがほしいと。その欲望は日に日に増していき、狂おしいほどの渇きとなって心を(むしば)む。そして女の子は衝動に突き動かされるままに、魔道の深淵(しんえん)へと足を踏み入れてしまうのです。始めは禁忌の星詠(ほしよ)みに。しかしそこらの輝きでは渇きは(うるお)せないと、さらなる真理に手を伸ばし続ける。まだ先が、こんなものではないはずと、ただひたすらに……」


 狂気に満ちた瞳で果てしない空を見上げ、 なにかをつかもうとするように天高く手を伸ばす灯里。

 その生きざまはまったくもって陣と同じ。誰もが見ている世界以上のものが見えてしまっているがために、その通常をいくら極めても満足できないと。だからさらなる未知の世界、その深淵(しんえん)を求めずにはいられないのだ。


「――それが水無瀬(みなせ)(あか)()の物語……」

「――うん、悲しくも、力への渇きに取りつかれてしまった女の子の物語……」


 灯里は胸をぎゅっと押さえ、悲しげにみずからの過去を(つむ)ぐ。


「ね、陣くんと同じでしょ? キミも同じように生きてきたはず。その力への渇きに苦悩しながら、今までね……」

「――ここまで同じ境遇(きょうぐう)の人間がいたなんて……」

「あはは、でもまるっきし同じというわけじゃないよ! この女の子の話には続きがある

の! 境遇が同じでも、たどり着いた答えは違うんだから!」


 陣と同じだとシンパシーを感じていると、灯里が驚くべき事実を。


「答えが違う? どういうことだ?」

「――私はね……、こんな力欲しくなかったということよ!」


 灯里は怒りをあらわにさけぶ。

 そして彼女が右手を突きだした瞬間、雷撃の波が繰り出された。目がくらむほどの光を放ちて高電流の衝撃波が、陣を強襲する。


「クッ!? 地よ、壁となれ」


 陣は地面に手を置き魔法を行使。前方の地面を隆起(りゅうき)させ壁を。

 地の防壁は電撃の波をすべて受け切り、砕け散った。


「はぁぁぁ!」

「チッ!? 灯里のやつまじかよ!?」


 灯里のやろうとしていることをすぐさま察知し、悪態をつく。

 そして起こるのは凍える暴風の嵐。なんとブリザードが陣の周囲に荒れ狂ったのだ。今灯里が使ったのは風の魔法と氷の魔法を合わせた重撃。同時に別の魔法を繰り出すのは非常に難易度が高いというのに、灯里はいとも簡単にやって見せたのだ。

 このままではヤバイと炎の魔法を行使し、吹き飛ばそうとするが。


「あはは、寒いよね! じゃあ、温めてあげる!」

「ハッ、ヤバイ!?」


 灯里のいたずらっぽい笑みと、彼女が形成する魔法の核を見ていち早く危険を察知。すぐさまこちらも魔法の核を形成した。

 続けて放つ灯里の一撃は、ブリザードを飲み込むほどの業火。今度は炎の渦が一帯を支配する。


「水よ、飲み込め」


 しかしそれもつかの()灼熱の業火は、内部からあふれ出る水の奔流(ほんりゅう)に飲み込まれかき消された。

 事前に察知していたため、炎の被害を受ける前に見事沈火できたのであった。


「灯里、いい加減にしやがれ!」


 またもや魔法を撃ちそうな灯里に、陣は身体強化の魔法による疾走を。水によって生まれた蒸気を突き破り、放たれた弾丸のごとく突っ込んだ。


「風よ、()れ!」


 接近しながらも、今度はこちらから魔法を仕掛ける。

 くり出したのは計八本の大気を圧縮した矢。直撃すれば強い衝撃で、相手の意識を奪うほどの代物である。そんな風の矢は閃光となって、標的へと。


「おっと!」


 だが灯里は先程の陣のように、相手と同じ魔法を。

 鏡合わせのように風の矢が掃射(そうしゃ)。互いを打ちおとし、相殺に。


「陣くん、私たちの才能ってほんとすごいよね! こんなにも魔法を自由自在に扱えるなんて、常識では考えつかないことでしょ? あはは、もう神様みたいな存在が、特別授さずけてくれた恩恵といってもいいのかも!」


 灯里はさぞおかしそうに、自分たちの才能についてかたる。しかしその間にも彼女の両手には、燃え盛る炎が圧縮されていた。


「たぶん私たちなら、誰もたどり着けなかった場所にまで行けるかもしれない! 魔道の深淵(しんえん)、その最果てへとね!」


 そして灯里は業火(ごうか)で形成した巨大な剣で、前方(ぜんぽう)ぎ払った。

 大気を()がしながら、獲物目掛けてひた走る一閃。もはやその炎の圧縮量から、いくら防壁を築こうと焼き斬られてしまうだろう。


「――ッ!? 防ぎ切れないか!?」


 ゆえに陣は身体強化の魔法を行使し、天高く後ろへ跳躍(ちょうやく)。炎の斬撃をやり過ごす。

 なんとか回避したが、後方へ下がったことでまたもや距離が。


「――でもね、陣くん……、その最果てにたどり着いたとして、一体何があるの? 確かにすべてを超越した力が、手に入れられるかもしれない。でもそれに意味なんて、ないんじゃないかな? 力はしょせん、ただの力よ。むなしいだけで、誰も幸せになんてできないと思うの……」


 灯里は胸にバッと手を当て、悲痛げにうったえかけてくる。

 魔道を求めた先に満足いく結末があると信じる陣とは、真逆の答えを。


「あの子はその果てに絶望を。キミはその果てに希望を……」


 ふとリルの言っていたことを思い出す。


「つまり灯里は魔道の果てに、絶望を抱いたというわけか……」

「うん、陣くんはその果てに希望を抱いた。けど私には魔道を求めるうちに、どうしても意味があるものとは思えなくなってしまったんだ……。――ね? 境遇は同じでも、答えはまったく違うでしょ?」


 同じ境遇でも、四条陣と水無瀬灯里がたどり着いた答えは違った。一方は希望を。もう一方は絶望を。まさしく鏡合わせといっていいほどに。


「魔道を求道する人間にとって、私たちの境遇はうらやましくて仕方ないんだろうね。でも普通に生きたい人間にとって、こんなにも邪魔なものはないの! だって否定した今でも、私の魂は魔道を求めてる! この渇きは理性なんて関係ない! 狂ったかのように恋い焦がれ、突き動かす!」


 灯里は腕を横に振りかざし、心の底から拒絶の意を口に。まるで泣き叫ぶかのようにだ。

 彼女の言いたいことは同じ境遇であるがゆえに、痛いほどわかってしまう。このみずからを(むしば)む渇きは、決して消えないのだ。いくら(こば)もうと、魂という絶対の存在がそれを許さない。たとえどれだけ陽だまりの日々を求めたとしても。


「だからそれをごまかすためにも、精一杯(せいいっぱい)陽だまりの世界を生きるの! 私が求めるのはなんの変哲(へんてつ)もない日常でいい! リルや陣くん、ほかのみんなと楽しく過ごす、ただそれだけでよかった!」


 灯里は無造作(むぞうさ)に形成した魔法、マナの特大の塊を陣とはまったく別の方向へと放ち爆発させる。こんな力いらないと、投げ捨てるかのように。陽だまり以外なにもいらないと、切実に自身の願いを叫びながら。


「――灯里……」

 





次回 灯里の意地







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