52話 陣の問い
「灯里のやつ、いったいどこに……」
陣は灯里を探し、夜の街を走り回っていた。追われているとなれば、人目に付く場所は避けるだろう。そして彼女はこの神代特区に来たばかりで、まだ土地勘がないはず。よって潜伏に適した場所に身をひそめている可能性は低く、あるとすれば誰もが真っ先に思いつきそうな路地裏辺りが怪しい気が。なので灯里と一緒に行動していたルートの路地裏をメインに、捜索していた。
「はっ、あれは!?」
そして不気味な雰囲気を漂わせる、暗い闇に染まった路地裏をひた走っていると前方に少女の人影が。
「はぁ、はぁ、やっと見つけたぞ、灯里」
息を切らしながら近づくと、壁にもたれかかりたたずむ灯里の姿があった。こんなにも早く見つけられたのはもはや偶然。勘を頼りに手当たり次第探し、この場所にたどり着いたのだ。
「――あれ、陣くん……? どうしてここに?」
「ははは、決まってるだろ。オレを見捨てていったやつに、文句の一つでも言いに来たんだよ」
目を丸くする灯里へ、冗談交じりに笑いながら歩み寄る。
「あはは、あれはお寝坊さんの陣くんがわるいでしょ! これでもだいぶ起こそうとがんばったんだよ! こう、ほおをぺチぺチたたいてね!」
すると灯里はいたずらっぽく笑い、手ではたくジェスチャーを。
「たたいてとは、ずいぶんアグレッシブな起こし方だな」
「なになに、陣くん的には、もっと優しく起こしてほしかったのかなー? 耳もとでドキドキすることをささやいたり、はたまた一気にレベルを上げてお姫様のキスとか!」
ニヤニヤと陣の顔をのぞきこみながら、首をかしげてからかってくる灯里。
「そうだな、次は綺麗なお姉さんでも連れて、そうしてくれ」
「ムムム、灯里さんでは物足りないと? こんな花も恥じらう乙女なのに、ひどいなー」
灯里は大げさに肩をすくめ、不服そうにうったえてくる。
「ははは、それはそうと元気そうでなによりだ。指名手配されてるって聞いて、少し心配したぞ」
いつも通りの明るい灯里に、ほっと一息つく。
見た感じケガもなさそうであり、追われていることにもとくに意気消沈していないようだ。
「ふっふっふっ、こう見えてかくれんぼは得意なんだー! 私にかかればちょっとやそっとの追手なんて、どうってことないのだよ!」
胸に手を当て、ふふんとドヤ顔をしてくる灯里。
「へえ、そのわりには、速攻でオレに見つかってるけどな」
「ななな、なんですと! さすがは女の子を追うのが得意な陣くん! プロのストーカーさんだー、恐るべし……」
陣の鋭いツッコミに、灯里は後ずさりしながら大げさにうろたえだす。そして口元を両手で押さえ、失礼きわまりない畏怖の念を向けてきた。
「おい」
「あはは、冗談だってばー! うんうん、これもきっと陣くんと私の絆の力かも! さすがは我が親友! 心の友よ!」
灯里は陣の背中をバシバシたたきながら、豪快に笑いだした。
「あー、そうかい。ほら、行くぞ」
そんな彼女を放っておいて、とりあえず場所を移すことに。
今だ星葬機構の追手がいる中、あまりゆっくりとはしていられない。まずは安全な場所に姿を隠すのが先決だ。
「はーい!」
「――ふむ……」
だが陣はふと足を止め、素直についてくる灯里を見つめた。というのもある気がかりが浮かんだめに。
「およ? どったの? 陣くん。そんなに見つめて?」
「いや、あまりに素直についてきて、少し心配になっただけだ。灯里、今自分が置かれてる状況をわかってるのか? その持ってる擬似恒星はあまりに特別すぎる。星葬機構や星魔教、あのクロノスだって喉から手が出るほど欲しい代物といっていい。だからオレが狙おうとしてても、なんら不思議じゃないんだぞ? 少しぐらい警戒心をだな」
ほおに指を当て首をかしげてくる灯里に、あきれながらもたしなめる。
彼女は自分の立場をあまりに理解していない。リル・フォルトナーの擬似恒星は彼女が思っている以上に、価値がある代物。それを手に入れるために、今後どれだけの人間が彼女に近づいてくるかわかったものじゃないのだ。そのためなんの疑いもなく、ホイホイついて行くのは軽率というもの。陣とてまだ上代のエージェントといっていい、立ち位置なのだから。
「あはは、陣くんが相手でしょ! そんなの必要ないよ!」
だが灯里はにっこりほほえみ、陣ならば大丈夫というなんの根拠もない主張を。
そのまっすぐな瞳から、どれだけ陣のことを信頼しているかがわかってしまう。
「なんでそうなる?」
「陣くんのこと、信頼してるからに決まってるよ! キミが私を裏切るはずないってね!」
「どうしてそこまで信頼できるんだ? オレたちは数日前に会ったばかりで、特に深い関係を築く出来事もなかった。なのに灯里は、初めからオレに対して……」
自信たっぷりにかたる灯里に、疑問を浮かべるしかない。
「――だって陣くんと私は……」
そしてその問いに、灯里は意味ありげな口調で答えようとする。
「もー、みなまで言わさないでよー! そこは察するところ! 本当は陣くんもわかってるくせにー!」
だがその言葉の先が、紡がれることはなかった。
彼女は途中で気恥ずかしくなったのか、陣の腕をポカポカたたきながらうったえてくる。
「――いや、だってオレの予想が当たってたら……」
もし陣の思っていることが当たっていたなら、水無瀬灯里は普通の女の子ではなくなってしまうのだ。しかしそこに確証はなく、ただ会った時から予感がするというだけ。もし事実か確認するなら、この場で。
「当たってたら?」
灯里は陣の上着の袖をぎゅっとつかみながら、意味ありげな視線で問うてくる。
今や見つめあう二人の間には、緊迫した空気が。
「――ドキドキ……」
しかし幸か不幸か、乱入者によって場の空気がかき消されてしまった。
視線を感じ確認すると、そこにはリルの姿が。なにやらすぐ近くで、意味ありげに見守っていたのだ。
「――はぁ……、おい、リル、のぞき見とは趣味がわるいぞ」
「えー、見回りから戻って来たら、ジンくんとアカリがいい感じの雰囲気だったんだもん。だから声をかけづらかっただけで、そこからは、うん、思わず見入って……」
リルは手をもじもじさせ、バツがわるそうな表情を。
「それをのぞき見というんだよ、まったく。それで追手はいなかったのか?」
責めるよりも、まずは周りの安全を確かめるのが大事。なのであきれながらも報告をうながす。
「うん、近くに人影は見当たらなかったんだよ」
「そうか。とはいっても、いつまでも安全じゃないのは確か。まずは安全な場所に移動するか。一端奈月に連絡するから、二人とも待っとけ」
奈月に隠れられる場所を手配してもらうため、連絡をとることに。
次回 陣と灯里の逃亡生活?




