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創星のレクイエム  作者: 有永 ナギサ
1章 第4部 契約内容

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47話 ストーカー?

「リル、ターゲットの気配は?」

「うーん、まだ、なにも感じないんだよ」


 陣の問いに、リルは残念そうに首を横にふる。

 視線の先にいるのは、クレハ・レイヴァース。彼女は人々で賑わう街中を一人で歩き、フリーを満喫(まんきつ)しているところであった。そして陣たち三人はというと、そんな彼女を建物や電信柱の物陰に隠れながらこそこそと尾行(びこう)していた。


「そうか。じゃあ、引き続き後を追うぞ。ターゲットがクレハを狙ってるなら、いずれこの近くに姿を現すはず。そこをリルに見つけてもらって、仕掛けに行くぞ」


 これこそもう一つの心当たり。例の創星術師がクレハを狙っている可能性があるなら、彼女の前に姿を現す可能性が高いと。ゆえにこうやってクレハを尾行し、近づいてきたターゲットを捕捉(ほそく)する作戦なのだ。


「ねー、陣くん、もう飽きてきたんだけどー」


 物陰から尾行していると、後ろから気の抜けた灯里の声が。

 どうやらなにも進展がなく、ただじっとしていることに耐えられなくなったらしい。


「おいおい、もうギブアップかよ。始めはアンパンと牛乳まで用意して、やる気満々だっただろ?」

「だって、つまんないんだもん! かっこいいアクションがあるわけじゃなく、ただクレハのあとをついて行くだけなんてー! もういっそのことクレハと合流しようよー! そしたら一緒に遊びながら、ターゲットを釣れるでしょー?」


 灯里は両腕を上げながら、もう耐えられないとねだってくる。


「複数だと向こうも手が出しにくいだろ? だからここはクレハ一人で、エサになってもらうべきだ」

「えー、じゃあ、なにか面白い話して盛り上げてよー」


 ぶーぶーとすねながら、陣の腕を揺さぶってくる灯里。


「あのな、オレたちは尾行中なんだぞ? そんなことしてたらクレハに見つかるだろうが。ここは耐えろ。こういった裏方の仕事も完璧にこなせて初めて、一流のエージェントって言えるんだぞ」


 緊張感がない灯里に、陣は教官っぽく言い聞かせようと。

 すると彼女はジト目で、聞き捨てならないことを口にしてきた。


「別に私、エージェントじゃないしー。というか陣くん、なんかかっこいいこと言ってるけど、これってストーカー行為にみえなくもないよね?」

「ふふっ、警察沙汰(ざた)だね。そういえばわたしの時もつけまわしてたし、ジンくんはストカーのプロなのかな?」


 リルの方もいたずらっぽく笑って、ちょこんと小首をかしげてくる。


「あはは、陣くん、女の敵ー!」


 さらに陣の方を指さしながら、ケラケラと笑ってくる灯里。


「ははは、お前ら少しだまろうな? でないとエージェントとして鍛え上げた荒業(あらわざ)を、お見舞いすることになるぞ?」

「「キャー!」」


 (こぶし)を鳴らし怒りをあらわにする陣に、二人は楽しそうに手を取り合いわざとらしい悲鳴(ひめい)を。

 なんだかんだノリノリなリルの様子を見るに、彼女も少し退屈していたようだ。灯里と一緒に状況を忘れて盛り上がっていた。


「――たく、ほら、さっさとクレハの尾行に戻るぞ。これで見失いでもしたら……」

「見失いでもしたらどうなるの? ストーカーさん?」


 あきれながら灯里たちに言い聞かせていると、後ろの方で聞き慣れた声が。


「あい、まだ言うか。これはれっきとした……」

「れっきとしたなによ?」


 声の(ぬし)に文句を投げ掛けようとするが、聞き返してきた言葉に一瞬固まってしまう。というのもその声が、灯里たちでないことに気付いてしまったがために。


「げっ、クレハ!? いつの間に!? バカな。オレの完璧な尾行術が敗れたとでも」


 なんとそこには腕を組みながら、ジト目でにらみつけてくるクレハの姿が。


「あのね、あれだけはしゃいでたら誰でも気づくでしょ? それでどういう了見でワタシをつけてたわけ? 返答によっては、今すぐ牢屋(ろうや)にぶち込むから覚悟なさい」


 クレハはグイッと陣に詰め寄り、不機嫌そうに問いただしてきた。


(――クッ!? 例の創星術師を追ってるのがばれたら、絶対ややこしいことになるよな。なにかいい言いわけは……)


 尾行していた理由を話せば、危険だと昨日のように止められてしまうだろう。

 ただでさえクレハは陣に創星術師になって欲しくないのだ。魔道に近づこうとする陣を必ず止めるはず。よってここはなんとしてでも誤魔化さなければ。


(灯里! なにか助け船を!)


 いい案が思いつかないので、灯里に目配せして助けを求める。


「――あはは、陣くん! ファイト!」


 すると灯里はリルを連れて距離を置き、小声で応援してきた。

 彼女のいたずらっぽい笑みから、この状況を楽しんでいるのがすぐにわかった。


「――灯里のやろう……」

「陣ー?」


 (うら)み事をつぶやいていると、クレハが陣の腕をがっしりつかみせまってきた。

 このままだまっているわけにもいかないため、とっさに思いついた言いわけを口に。


「――ごほん、そんなのクレハが心配だからに決まってるだろ?」

「え?」

「ほら、昨日の相手はクレハを狙ってる可能性がある。そう考えたら、いてもたってもいられなくてな」


 とりあえず、クレハの身を案じているような口調で伝えてみた。

 クレハは腐れ縁の幼馴染。ゆえに心配に思う気持ちも少しはある。なので実際問題、百パーセント嘘ではないといっていい。


「―わ、ワタシのため!?」


 そんな陣の答えを聞いて、あわあわしだすクレハ。

 なにやら押し切れそうな雰囲気ゆえ、この路線で攻めることに。


「まあ、オレにとってクレハは大切な幼馴染だし、危険な目にあってほしくないんだよ。だからこうやって、陰ながら護衛(ごえい)をだな」

「――そ、そうなんだ……、ふーん」


 クレハは髪をいじりながら、あまり感心がなさそうな態度を見せる。だが内心まんざらでもないのか、どことなくうれしそうであった。


「そういうわけでオレの気が済むまで、護衛をさせてくれないか? 頼む!」


 彼女の両肩をつかみ、まっすぐに告げた。


「――す、好きにすれば!? 別に護衛なんていらないけど、陣がそこまで言うなら特別許してあげないことも……。ええ、ほ、本当は迷惑だけどね!」


 するとクレハは顔を真っ赤にし、そっぽを向きながら言い放つ。仕方なくなんだからという言葉を強調してだ。


「ふぅ、助かった……」


 なんとか納得してくれたため、危機は回避できたらしい。しかし話がまとまったことに安堵(あんど)していると、逆にこの展開に不満を覚える者の声が。


「あーあ、うまくまとまっちゃった。クレハちょろすぎー! 灯里さん的にはもっと、バイオレンスな展開を期待してたのにー!」


 今までことの成り行きを見守っていた灯里が、肩をすくめながらダメ出しを。


「ちょろいって、灯里、なにを言って……」


 クレハはその意味を怪訝けげんそうに問う。


「ははは、クレハ、なんでもないぞ。おーら、灯里、さっきはよくも見捨てやがったな。お前のせいでこっちはらしくないことを、言わされるはめになったんだぞ」


 すぐさま余計なことを言う灯里の首に腕を回し、軽く()めてやった。

 口を封じるのと、さっきのお返しをするためだ。もちろん本気ではなく、遊び感覚なのでゆるくだが。


「陣くん!? ギブ、ギブッ!?」


 すると首を絞める陣の腕をぽんぽんたたきながら、降参をアピールしてくる灯里。

 だがおおきゅうをすえるため、まだ解除はしないつもりだ。


「まあ、いいけど。それじゃあ、もうすぐ星葬機構関連の会談があるから、護衛よろしくね」

「ははは、任せとけ」


 こうしてなんとかクレハを誤魔化し、とりあえずは作戦を続行できることに。


「陣くん、ギブだってばー!? ごめんなさーい!?」


 そんな中、灯里の謝罪の声がこだまするのであった。





次回 リルの気がかり

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