47話 ストーカー?
「リル、ターゲットの気配は?」
「うーん、まだ、なにも感じないんだよ」
陣の問いに、リルは残念そうに首を横にふる。
視線の先にいるのは、クレハ・レイヴァース。彼女は人々で賑わう街中を一人で歩き、フリーを満喫しているところであった。そして陣たち三人はというと、そんな彼女を建物や電信柱の物陰に隠れながらこそこそと尾行していた。
「そうか。じゃあ、引き続き後を追うぞ。ターゲットがクレハを狙ってるなら、いずれこの近くに姿を現すはず。そこをリルに見つけてもらって、仕掛けに行くぞ」
これこそもう一つの心当たり。例の創星術師がクレハを狙っている可能性があるなら、彼女の前に姿を現す可能性が高いと。ゆえにこうやってクレハを尾行し、近づいてきたターゲットを捕捉する作戦なのだ。
「ねー、陣くん、もう飽きてきたんだけどー」
物陰から尾行していると、後ろから気の抜けた灯里の声が。
どうやらなにも進展がなく、ただじっとしていることに耐えられなくなったらしい。
「おいおい、もうギブアップかよ。始めはアンパンと牛乳まで用意して、やる気満々だっただろ?」
「だって、つまんないんだもん! かっこいいアクションがあるわけじゃなく、ただクレハのあとをついて行くだけなんてー! もういっそのことクレハと合流しようよー! そしたら一緒に遊びながら、ターゲットを釣れるでしょー?」
灯里は両腕を上げながら、もう耐えられないとねだってくる。
「複数だと向こうも手が出しにくいだろ? だからここはクレハ一人で、エサになってもらうべきだ」
「えー、じゃあ、なにか面白い話して盛り上げてよー」
ぶーぶーとすねながら、陣の腕を揺さぶってくる灯里。
「あのな、オレたちは尾行中なんだぞ? そんなことしてたらクレハに見つかるだろうが。ここは耐えろ。こういった裏方の仕事も完璧にこなせて初めて、一流のエージェントって言えるんだぞ」
緊張感がない灯里に、陣は教官っぽく言い聞かせようと。
すると彼女はジト目で、聞き捨てならないことを口にしてきた。
「別に私、エージェントじゃないしー。というか陣くん、なんかかっこいいこと言ってるけど、これってストーカー行為にみえなくもないよね?」
「ふふっ、警察沙汰だね。そういえばわたしの時もつけまわしてたし、ジンくんはストカーのプロなのかな?」
リルの方もいたずらっぽく笑って、ちょこんと小首をかしげてくる。
「あはは、陣くん、女の敵ー!」
さらに陣の方を指さしながら、ケラケラと笑ってくる灯里。
「ははは、お前ら少しだまろうな? でないとエージェントとして鍛え上げた荒業を、お見舞いすることになるぞ?」
「「キャー!」」
拳を鳴らし怒りをあらわにする陣に、二人は楽しそうに手を取り合いわざとらしい悲鳴を。
なんだかんだノリノリなリルの様子を見るに、彼女も少し退屈していたようだ。灯里と一緒に状況を忘れて盛り上がっていた。
「――たく、ほら、さっさとクレハの尾行に戻るぞ。これで見失いでもしたら……」
「見失いでもしたらどうなるの? ストーカーさん?」
あきれながら灯里たちに言い聞かせていると、後ろの方で聞き慣れた声が。
「あい、まだ言うか。これはれっきとした……」
「れっきとしたなによ?」
声の主に文句を投げ掛けようとするが、聞き返してきた言葉に一瞬固まってしまう。というのもその声が、灯里たちでないことに気付いてしまったがために。
「げっ、クレハ!? いつの間に!? バカな。オレの完璧な尾行術が敗れたとでも」
なんとそこには腕を組みながら、ジト目でにらみつけてくるクレハの姿が。
「あのね、あれだけはしゃいでたら誰でも気づくでしょ? それでどういう了見でワタシをつけてたわけ? 返答によっては、今すぐ牢屋にぶち込むから覚悟なさい」
クレハはグイッと陣に詰め寄り、不機嫌そうに問いただしてきた。
(――クッ!? 例の創星術師を追ってるのがばれたら、絶対ややこしいことになるよな。なにかいい言いわけは……)
尾行していた理由を話せば、危険だと昨日のように止められてしまうだろう。
ただでさえクレハは陣に創星術師になって欲しくないのだ。魔道に近づこうとする陣を必ず止めるはず。よってここはなんとしてでも誤魔化さなければ。
(灯里! なにか助け船を!)
いい案が思いつかないので、灯里に目配せして助けを求める。
「――あはは、陣くん! ファイト!」
すると灯里はリルを連れて距離を置き、小声で応援してきた。
彼女のいたずらっぽい笑みから、この状況を楽しんでいるのがすぐにわかった。
「――灯里のやろう……」
「陣ー?」
恨み事をつぶやいていると、クレハが陣の腕をがっしりつかみせまってきた。
このままだまっているわけにもいかないため、とっさに思いついた言いわけを口に。
「――ごほん、そんなのクレハが心配だからに決まってるだろ?」
「え?」
「ほら、昨日の相手はクレハを狙ってる可能性がある。そう考えたら、いてもたってもいられなくてな」
とりあえず、クレハの身を案じているような口調で伝えてみた。
クレハは腐れ縁の幼馴染。ゆえに心配に思う気持ちも少しはある。なので実際問題、百パーセント嘘ではないといっていい。
「―わ、ワタシのため!?」
そんな陣の答えを聞いて、あわあわしだすクレハ。
なにやら押し切れそうな雰囲気ゆえ、この路線で攻めることに。
「まあ、オレにとってクレハは大切な幼馴染だし、危険な目にあってほしくないんだよ。だからこうやって、陰ながら護衛をだな」
「――そ、そうなんだ……、ふーん」
クレハは髪をいじりながら、あまり感心がなさそうな態度を見せる。だが内心まんざらでもないのか、どことなくうれしそうであった。
「そういうわけでオレの気が済むまで、護衛をさせてくれないか? 頼む!」
彼女の両肩をつかみ、まっすぐに告げた。
「――す、好きにすれば!? 別に護衛なんていらないけど、陣がそこまで言うなら特別許してあげないことも……。ええ、ほ、本当は迷惑だけどね!」
するとクレハは顔を真っ赤にし、そっぽを向きながら言い放つ。仕方なくなんだからという言葉を強調してだ。
「ふぅ、助かった……」
なんとか納得してくれたため、危機は回避できたらしい。しかし話がまとまったことに安堵していると、逆にこの展開に不満を覚える者の声が。
「あーあ、うまくまとまっちゃった。クレハちょろすぎー! 灯里さん的にはもっと、バイオレンスな展開を期待してたのにー!」
今までことの成り行きを見守っていた灯里が、肩をすくめながらダメ出しを。
「ちょろいって、灯里、なにを言って……」
クレハはその意味を怪訝そうに問う。
「ははは、クレハ、なんでもないぞ。おーら、灯里、さっきはよくも見捨てやがったな。お前のせいでこっちはらしくないことを、言わされるはめになったんだぞ」
すぐさま余計なことを言う灯里の首に腕を回し、軽く絞めてやった。
口を封じるのと、さっきのお返しをするためだ。もちろん本気ではなく、遊び感覚なのでゆるくだが。
「陣くん!? ギブ、ギブッ!?」
すると首を絞める陣の腕をぽんぽんたたきながら、降参をアピールしてくる灯里。
だがお灸をすえるため、まだ解除はしないつもりだ。
「まあ、いいけど。それじゃあ、もうすぐ星葬機構関連の会談があるから、護衛よろしくね」
「ははは、任せとけ」
こうしてなんとかクレハを誤魔化し、とりあえずは作戦を続行できることに。
「陣くん、ギブだってばー!? ごめんなさーい!?」
そんな中、灯里の謝罪の声がこだまするのであった。
次回 リルの気がかり




