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創星のレクイエム  作者: 有永 ナギサ
              序章 神代の依頼
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3話 運命の出会い

序章 神代の依頼

 時刻はまだみなが寝静まっている明け方。空は淡い青色が混ざり始めた、見事な夜明けの空模様が広がっている。そんな中、九歳の少年、()(じょう)(じん)は少女の呼び止める声を聞きながらも、足を進める。

 ここは陣が住んでいる大きな洋館の門前だ。本来なら陣がこの時間に出発するのは、妹と悪友の二人だけしか知らないはず。だというのに彼女はここにいた。おそらく事前に情報を得て、待ち伏せしていたのだろう。すべては陣を行かせないために。


「陣、戻って考え直して! これは命令よ! ワタシの前からいなくなるなんて、許さないんだから!」


 陣と同い年の少女は腕をバッと勢いよく振りかざし、必死に命令する。

 行くなと。少女のもとで責務を果たせと。そう、彼女はいわば姫君(ひめぎみ)。そして陣は本来彼女に付き従う立場の人間。ゆえにその命令は絶対なのだが、今の陣にその言葉はなにも意味をなさなかった。なぜなら陣は今この時をもって、四条家とは縁を切るのだ。もはやその地位にしばられる事はない。そのため彼女の命令に、したがう必要もないのである。


「わるいな、クレハ。ここではオレの願いは叶わない。だから行くよ」


 最後、幼馴染の少女に別れの言葉を告げ、陣は歩みを進めた。

 すべては自身の目的を達成するために。だからいくら幼馴染が止めたとしても、この足を止めるわけにはいかないのだ。

 こうして四条陣は振り返ることもなく、彼女と別れる道を選んだ。そう、クレハ・レイヴァースとの決別の道を。







 時刻は昼ごろ。空は晴れ晴れとしており、遠出するにはまさにもってこいの天候である。

陣がいるのはとある街はずれ。人通りは少なく、建物の方もまばらで少しさびれた印象を受ける道沿いを歩いていた。


(今や世界には魔法があふれてる。本来あり得ることのなかった、不可能を可能にする力が)


 そんな中、ふと果てしなく広がる青空を見上げ想いをはせる。

 世界には魔法という力が存在した。魔法とは簡単に説明すると、まっさらなキャンバスに好きな色を塗って絵を完成させていく行為といっていい。火や水といった属性による色、そして力の方向性を示す絵の形。よってその種類は千差万別。使用者が望む力の形を生み出すのが魔法なのだ。

 使うにはマナという、魔法の原型となる力を感じ取れるかどうかで決まる。それさえつかめれば後は簡単。マナは無色の力の塊なため、使用者が方向性を与え導くことで魔法という現象を引き起こせるのであった。ただ魔法を使うにあたり出来る範囲は、個人の素質である程度決まっており、形成スピード、適応する属性、生み出せる出力などの要因が。この中でも魔法の属性は基本偏りが激しく、どれだけ高位の魔法使いでも使える種類に限りがあるのであった。


(だけどオレにとってそれはまだまだ。つまらない、ただのありふれた力だ)


 今や世界中のすべての人間が、使えるようになってしまった魔法。たとえ極めようと一生をかけたとしても、たかが知れており完璧にマスターするのは不可能といわれているほど。もはや人々にとって過ぎた力であり、完全にもてあましているといっても過言ではない。

 そんな魔法だが、陣にとってはなんの面白みもない力であった。それもそのはず陣はすでにこの魔法を、完璧にマスターしているといっていいのだから。普通強力な魔法ほど形成が難しく、発動するまでに時間が掛かってしまうもの。だが陣にかかればどんな複雑な構造や属性の魔法でも、一目見れば完全に再現することが可能。しかもその形成速度もすさまじく、いくら複雑でも苦もなく簡単に作り上げてしまうのである。

 もはや神童などはるかに超える、異質と言わざるをえない才能。ゆえに陣にとって魔法などできて当たり前のもの。求める価値もなく、ひどくつまらない。みんなが魔法を求めることで一喜一憂する感情など、想像すらできないのであった。


(そんなオレだから、今まで目にした星詠(ほしよ)み程度では満足できないんだろうな。もっと、さらなる劇薬がほしくてたまらない)


 そんなことをしみじみと考えているうちに、目的の場所が見えてきた。

 そこはなかなか立派な教会であり、神々しいオーラを放ちながらそびえ立っている。普通のこじんまりした構造ではなく、割と多くの人々が利用できる広めの造りであった。そして教会のすぐ隣では広々とした庭つきの孤児院があり、敷地内から子供たちが遊んでいる声が聞こえてくる。ちなみにここはこの教会が運営する孤児院だとか。

 そして孤児院の前にさしかかろうとしたとき。


「あら、あなた、この孤児院の子?」


 孤児院の前に立っていた、高そうな白いワンピースを着ているいかにもお嬢様といっていい少女が声をかけてきた。

 年齢は陣と同ぐらいだろうか。長いきれいな黒髪をし、まだ小さいながらもかなりの美人という印象を受ける。孤児院の前にいた少女だが、着ている服を見るにここの住人ではないのだろう。おそらくどこかのお嬢様が見識を広めるため、親に連れられてきたとかなのかもしれない。


「いや、今からお世話になろうかと、たずねてきたところだ」

「――はぁ……、あのね、あなた正気? ここがどこだかわかってる? かつて世界に混沌こんとんをまき散らしたというレーヴェンガルトの残した組織、(せい)()(きょう)関連の場所よ。下手したらまっとうな人生を送れなくなってしまうかもしれないんだから、ここだけはやめときなさい」


 少女は頭を抱えながら、深いため息を。そして真剣なまなざしで忠告してきた。


「いや、だからこそ、ここに用があるんだ。今までの道では難しかったけど、ここでならオレの欲しいモノが見つかるかもしれない」


 彼女の言う通り、世間的に見ればここは魔境(まきょう)といっていい。かつてのレーヴェンガルトが残した爪痕の一つ、星魔教。だがここは魔道を求める者にとって、まさに絶好の場所なのである。しかも家を出たため身寄りがない陣を、喜んで迎えてくれるであろう場所でも。ゆえに陣にとっては願ったり叶ったり。家を出てここに来ることはずっと計画していたのだ。


「なに、あなた? もしかして結構ヤバイ人間? 今の日々に飽き飽きして、新たな刺激を求めてきたとか?」


 少女はいぶかしげな視線を向け、問うてくる。

 それに対しあっけからんに答えてやった。


「ははは、その通り。オレは生粋(きっすい)の魔道の求道者。だから本来あった道を外れ、新たな人生。世界の裏側に足を踏み入れるってわけだ!」

「――新たな人生ね……。ほんと(うらや)ましい限りだわ。そんな簡単に道を外れられて……」


 ほおに手を当ててため息をつき、どこか遠い目をする少女。


「なんだ? あんたもこれまでと違った生き方を、してみたい口か?」

「ええ、魔道をただひたすら求道するうちの家系のやり方には、もううんざりなのよ。すべては悲願のためと、小さいころから英才教育はもちろん、魔法や戦闘訓練のカリュキュラムがびっしり。きわめつけはなんと人体実験。それらをすべておえれば次に同じ血筋の者と争い、上の役職を奪い合う日々が続く。ほんと、この先のことを考えたら、息が詰まりそうだわ」


 少女はどんより肩をすくめ、重い口調でぼやく。

 どうやらただのお嬢様ではなく、魔道に手を染めたやばいところのお嬢様だったようだ。


「ならオレみたいになにもかも、投げ出せばいいだろ? そうすればこの先、血筋同士の争いなんかに参加せずに済むだろ?」

「バカ言わないで。うちの家系はそんなに甘くない。必要なくなれば切られて、即終了の可能性だってあるもの。だからアタシは生きるために上を目指す! 血筋という名のレールを進み、自分の居場所を作ってみせるんだから! たとえその先が魔道に堕ちる人生だったとしてもね!」


 少女は胸に手を当て、声高らかに宣言する。その瞳には確固たる意志がこもっていた。

 この歳でここまでのことを考えているとは、もはやただ者ではない。陣と同じくすでにまっとうではないのだろう。


「大変だな、あんた。でも退屈せずに済む、面白そうな人生じゃないか。とくに魔道にひたすらってのがいい。うちは制限があって好き放題できなかったから、そこはうらやましい限りだよ」


 腕を組み、うんうんとうなずく。

 陣の家はとある立場上、魔道の求道に制限をもうけられていた。そのため多少の無茶も許されず、基本その力を行使するしかない状況。首輪をつながれていたといっていい。なのでさらなる力を求めるなど、到底許されるはずがない。そんな環境で育ってきた陣にとって、少女の家は純粋に好ましく思えてしまう。


「驚いた。同情するんじゃなく、まさかうらやましいとくるとは。あなた相当の変人ね。――くす、なんだか気に入っちゃった」


 少女は口に手を当てくすくすと笑う。


「ねえ、そこまで言うならアタシと一緒に来ない? うちは魔道を探究するための知識や設備が腐るほどあるの。だからもしかするとあなたが求めるものが、見つかるかもしれないわよ」


 そして少女はウィンクしながら、手を差し出してきた。


「ほう、なかなか魅力的な提案だ。星魔教でゆったりやろうかと思ったが、あえてあんたのいる壮絶な場所へ乗り込むのも一興か。ここで会ったのもなにかの縁。よし、その誘い喜んで乗らせてもらおう」


 家を出て自由になり、今だどこにも属していない陣だ。星魔教の行く当ても、とりあえず寝床(ねどこ)の確保を最優先として来てみただけなのでとくに強いこだわりもない。よってこの誘いを受けるのに、なんの問題もないのである。

 ならばあとは面白いかどうか。快楽主義者の陣にとってはそこが重要であり、聞いた話によると退屈はしなさそう。となれば彼女の誘いを断る理由がなかった。


「くす、この狂気の道へ本当に食いつくなんて! ますます気に入ったわ! ええ、あなたみたいな変な人がそばにいてくれれば、このつまらない道も少しは楽しくなるかも!」


 陣の答えに、少女はさぞご満悦の様子ではしゃぎだす。その年相応の少女らしさは、さっきまでの彼女から想像もできないほど。心の底から笑っている感じがした。


「ただし、条件があるけどいいかしら。あなた、アタシの付き人になりなさい。どこまでも付き従って、そばで支え続けるの。約束できる?」


 少女は指を陣にビシッと突きつけ、なにやらどや顔で告げてくる。


「いいぜ。あんたが進む茨の道をフォローすればいいんだな」


 その場の気分に任せ、とくに考えもせず了承を。

 面倒を見てもらう分、少しばかりの制約は受けるべきだろう。それに陣はこの少女に、少し興味というか軽く()かれていたのだ。自分の居場所を作るため、必死に生きようとするその生きざまに。なので彼女の付き人になるのは、別に悪い気がしなかった。


「完璧な答えね。でもそこまで頑張らなくてもいいわよ。あなたはそばにいてくれるだけでいいんだから。まあ、アタシの付き人をやる分必要最低限の力は身に着けてもらわないといけないけど、そこは任せて。手の空いた時間にでも、手伝ってあげるわ。アタシ面倒見はいい方だから、大船に乗った気でいなさい!」


 少女はドンっと胸を叩き、得意げにウィンクしてくる。まるでかわいい弟分ができたように、楽しげにだ。


「そうと決まれば、さっそく名前を教えてちょうだい!」


 そして彼女は陣に顔をのぞき込みながらたずねてきた。


「四条陣だ。オレが仕える主人の名前は?」

「くす、アタシの名前は神代(かみしろ)奈月(なつき)! よろしくね、陣!」


 奈月は軽い足取りで後ろに下がりながら、クルリと一回転。そして自身の胸に手を当て、とびっきりの笑顔で告げてくる。

 これが四条陣と神代奈月の初めての出会いであった。


次回 陣と奈月

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