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創星のレクイエム  作者: 有永 ナギサ
              1章 少女との契約 上

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15話 奈月の姉

 陣と奈月がいるのは神代(かみしろ)特区(とっく)内にあるクロノス本社の高層ビルであり、しかも最上階に位置する社長室前。そして今神代家当主がいるであろう部屋に、入ったところであった。

 中はシックな感じの広々とした部屋。奥はガラス張りで解放感があり、いかにも高級そうなソファーやテーブルなどの家具や装飾品が置かれており、床は重厚感あふれるカーペットが敷かれている。大財閥クロノスの代表が使う部屋だけあって、その重々しい雰囲気はそうとうなものであった。

 すると当主ではなく、綺麗な黒髪の若い女性がまず出迎えてくれる。


「陣くん、久しぶりだね。どう、最近の調子は?」


 若い女性はほおに指を当てながら、首をかしげてくる。

 彼女の名前は神代(かみしろ)神楽(かぐら)。奈月の姉であり上代家次期当主であらせられるお方だ。

 神楽は二十二歳で奈月以上の美貌(びぼう)、さらに妖艶(ようえん)さまでもがあふれ出る女性。しかもそこに神代家次期当主に選ばれるほどの強者の風格を放っており、ただ者でないのはすぐにわかるといっていい。


「神楽さん、どうも。おかげ様で、わりと退屈しない日々を過ごさせてもらってるよ。この調子で上代や(せい)()きょうがらみの案件を、持ってきてくれると助かる」


 神楽には事務所を用意してもらっただけでなく、依頼の方でも世話になっていた。彼女は神代家次期当主として、神代の暗部に深く関わりが。なのでわざわざ陣の気に入りそうなものを選んで、依頼として持ってきてくれるのだ。


「うんうん、さすがは陣くん! 今も昔と変わらずわたしの手伝いを進んでやってくれて、お姉さん大助かりだよ! もう、いっそのこと神代家次期当主である、神代神楽の付き人をやらない? そうすれば神代の真理をもっと見せてあげるよ? 報酬だって陣くんの望むがままに、ね」


 神楽は陣の顔をのぞき込みながら、ウィンクしてくる。そして陣の胸板むないたに手を当て、誘惑めいたまなざしを向けてきた。

 なかなか心揺さぶる魅力的な見返りだ。彼女とは奈月と同じ長い付き合い。よく奈月と共に神楽の手伝いをしていたため、かなり仲がいいといってよかった。


「もう、姉さん、陣はアタシのなんだから誘惑しないでくれる?」


 すると奈月がむっとしながら、陣のうでを抱き寄せてくる。

 それにより彼女のぬくもりと、柔らかい感触が腕に。


「まあまあ、いいじゃないか。奈月ちゃんだけ陣くんを独り占めするのはよくないよ。さあ、どうかな、陣くん。もしかすると神楽お姉ちゃんとのイチャラブルートに、発展しちゃったりするかもしれないよ! うふふふ」


 神楽は陣の上半身を指でそっとなぞってくる。上目遣いで、意味ありげにささやきながらだ。

 奈月は文句のつけようもない美少女。そんな彼女の姉である神楽もまた、妖艶さをただよわせた相当の美人。並の男なら一瞬で心を奪われてしまうといっても過言ではないほどであり、思わずうなずいてしまいそうになる。


「ふむ、魅力的な話のオンパレードだな。神楽さんならいづれ世界のすべてを掌握しょうあくしそうだし、ここは引き受けるのもわるくないか。とりあえず長いものには、巻かれとけ理論で」

「陣までなに言ってるのかしら!?」


 奈月の抱き寄せていた陣の腕に力が入る。

 結果、むにゅっとした柔らかい感触が、より押し付けられる形に。


「ははは、冗談だ。オレは一人で気ままにやるのが性に合ってるみたいだから、いくら報酬を積まれても誰かの下につくことはないさ。第一付き人に戻るのなら、奈月のところ以外ありえないし」

「――よ、よろしい。さすがは陣、わかってるわね、くす」


 神楽に取られるのではないかと不安げだった奈月だが、陣の本音に満足げな反応を。よほどうれしかったのか、口元が少し緩んでいた。


「――くっ……、二人とも見せつけてくれるね。お姉ちゃんが入る隙間(すきま)がないじゃない。()ぜろ、このバカップルめ!」


 そんな二人の絆を見せられ、神楽はぐぬぬと悔しがりだす。


「ほう、なんだか楽しそうな話をしてるじゃないか。私も陣の勧誘をさせてもらおうかな」


 陣たちが盛り上がっていると、神楽の後方。クロノストップの席に座った男も話に加わってきた。

 食えなさそうな雰囲気をもつ三十代後半の男の名前は、神代スバル。彼は神代家当主にして奈月や神楽の父親である。


「――今度は父さんまで……」

「くくく、奈月にも関係のあることだよ。陣、どうだい? この二人のどちらかと将来を共にする気はないかい? キミほどの優秀な遺伝子が神代に加わるというのなら、喜んで許可(きょか)するよ?」

「うふふふ、父さんったら、なかなか気の利いたこと言うじゃない」

「ま、まぁ、じ、陣がどうしてもというのなら……、アタシは別に……」


 スバルの唐突な提案に、神楽と奈月はほおに手を当て割とまんざらでもないといった反応を。

 そしてどこか熱のこもった視線を向けてくる二人だが、陣の答えは決まっていた


「ははは、さすがに奈月と神楽さんとなると、おっかな過ぎるので辞退させてもらいますよ。できればもう少し普通の女の子を紹介してください」

「――くす……、陣……、あとで覚えてらっしゃい」

「うふふふ、陣くんがわたしのことどう思ってるのかよくわかったよ。これは少しお仕置きが必要かもね!」


 陣の答えがよほど納得がいかなかったのだろう。二人の笑みには、殺意に似たなにかが。

 彼女たちは神代の人間の中でもとくにおっかない部類に入るため、怒らせるといろいろマズイのだ。


「――やばい!? つい本音が……」


 あわてて口をふさぐがすでに時遅し。二人はこめかみをピクピクさせながら、詰め寄ってくる。


「くくく、陣の言い分ももっともだ。うちの子たちは皆、あくが強すぎるからね。ではもっとキミ(ごの)みの者を選出しておくとしよう」


 そんな彼女たちとは逆に、スバルは笑いながら確かにその通りだと同意してくれた。

 父親のスバルでさえ、奈月と神楽に対し思うところがあるらしい。追い込まれていく陣にスバルは同情の意を示し、別の縁談の話を進めようと。


「ジー、父さん……」

「冗談だから、そうにらまないでくれ、奈月」


 だがジト目で圧をかける奈月に、スバルは怖気(おじけ)づいてしまいこの話はうち切られてしまった。

 それからスバルは一息つき、奈月を呼んだ理由を話し始める。


「――ふう、それでは本題に入ろうか。実は今星(せい)(そう)機構(きこう)と神代の(たも)ってきた均衡(きんこう)が、まさに崩れようとしているんだ」

「なにか星葬機構側に動きがあったんですか?」

「ああ、今年からレイヴァースの当主になった少女が、この神代特区に乗り込んでくる。(ほし)()学園高等部へ入学する形でね。表向きは神代特区と星海学園の運営に対する視察らしいが、非常にきな臭いんだ」


 スバルはほおづえをつきながら、緊迫した表情で告げてくる。


(レイヴァースの新しい当主ってことは、あいつが)


 七年前の家を飛び出す時、最後に呼び止めてきた少女のことを思い出す。

 スバルに続き神楽も話に入ってきた。


「どうやら彼女の護衛や、最近過激な行動ばかりとる神代へのけん制の名目で、星葬機構側の戦力がここにかき集められるらしいんだよね。このままだと神代特区そのものが、火の海になりそうなぐらいだよ」


 神代特区は神代の本拠地であり、その影響力はきわめて高い。なので星葬機構もそうそう手出しができず、今や魔法使いの楽園とも呼ばれているぐらいである。

 そんな神代特区だがちゃんと星葬機構側の施設が建てられており、なにかあった時にすぐ動けるよう戦力を配置しているのだ。神代としては自分たちの拠点内に敵が居座っている状況なので、駐留(ちゅうりゅう)を許したくはない。だが向こうには人々を守るという治安維持の名目があるため、断れないのだ。


「たとえあちらが手を出して来なかったとしても、こちらの動きに制限がかかるだろう。ただでさえ違法じみた研究に手を出している我らだ。研究施設を()ぎ回られ攻め入られれば大損害はま(のが)れないから、少しばかり自重しなければならない。本当に困ったものだよ。我々のテリトリーに敵をむざむざ招き入れることになるとはね」


 スバルは深いため息をこぼす。

 いくら神代の影響力が高く、星葬機構側が手を出しにくいといってもまったく安全ではない。もし神代が保有する裏の非合法な研究所を嗅ぎ付けられでもすれば、向こうは強引にでも攻めてくるだろう。なぜなら星葬機構には大義名分がある。星詠(ほしよ)みに手を出すこと自体悪の世の中なのゆえ、非は当然神代にあった。ならばいくら神代の影響が強かろうと関係なく、正義の名のもとに制裁(せいさい)を下せるのである。

 そのため星葬機構の人間が集まるのは監視の目や仕掛けてくる戦力的にもきつく、神代としてはこれまで以上に慎重にならないといけないのだ。


「とりあえずそっちの星葬機構側の戦力の話は基本姉さんたちに任せておいて、アタシはその学園に入学してくるレイヴァース当主に目を光らせればいいのよね」


 奈月は胸に手を当て、凛とした表情でたずねる。


「その通り! 奈月ちゃんと陣くんは四月からはれて星海学園高等部に入学するから、ちょうど都合がいいんだよね。そういうわけでレイヴァースの動向を探ってほしいの。学園には断罪者の家系も大勢通ってるし、最悪あの場所でなにかをしでかすかもしれないから」


 すると手を合わせ、申しわけなさそうに頼みこんでくる神楽。

 星葬機構側の戦力が集められているのも怖いが、そのほかにも危険視しなければならないことが。それは星海学園に通っている断罪者の家系の者たち。魔道をきわめる彼らとしても、魔法の規制が緩いこの神代特区は非常にありがたい話。なのでたとえ敵地であろうと、多くの者が通っているのだ。

 星葬機構の最大戦力であるそんな彼らが、レイヴァースの命令で反旗を(ひるがえ)せば自体は最悪な局面を迎えてもおかしくはない。ゆえにレイヴァースの当主と学園に通う断罪者の家系の者たちに、怪しい動きがないか監視して欲しいという依頼なのだろう。


「入学そうそういきなりの大仕事ね。だけど出来るだけのことはやってみせるわ。陣ももちろん手伝ってくれるわよね?」


 奈月は陣の方に振り向き、意味ありげにウィンクしてくる。

 その問いになにを今さらと、さぞ当然のように答えてやった。


「ああ、いつも通り力がいる時には駆け付けてやるよ。たとえ相手が断罪者であろうがレイヴァースだろうがな」

「くくく、助かるよ。おそらく今回の件がきっかけとなって、星葬機構と本格的にことをかまえることになるだろう。その時にこちらが万全を期すためにも被害は最小限に抑えておきたいから、二人にはぜひ頑張ってもらいたい」

「とうとう星葬機構側と、決着を付けることになるかもしれないんですね」


 もはや神代と星葬機構の衝突は時間の問題といっていいほど、膨れ上がっているといっていい。

 自分らの悲願のため過激な行動をとるようになってきた神代を、星葬機構としてはもう野放しにできないほどになってきている。神代としても動きに制限を掛けられてしまう目障(めざわ)りな星葬機構を潰し、さらなる魔道の求道に手を伸ばそうとしているのだ。

 ゆえにお互いを潰そうと目論もくろんでいるがため、なにか口実ができればそれがチャンスと戦いの火ぶたが切って落とされるはず。


「ああ、神代の輝ける未来のためにも、ここらあたりで星葬機構にはご退場してもらうよ。スポンサーの件もあったし、まさにちょうどいいころ合いだ」


 未来を見すえ、不敵に笑うスバル。


「うふふふ、各国の政府側がそろそろ星葬機構を潰してくれって、泣きついてきてるものね。もし神代が動いてくれるならいくらでも資金や人材を用意するって話だし、どれだけ必死なのってツッコミたくなるほどだよ」

「彼らの気持ちもわからないでもないよ。今や星葬機構が世界の秩序をになっているため、国家という組織にはそこまで威厳(いげん)がない状況。しかも星葬機構が保有する圧倒的力と権力によって逆らえず、おとなしくいうことを聞くしかないんだから」


 今の各国の政府は星葬機構に逆らえず、ただだまってしたがうしかない状況といっていい。

 こうなったのも星葬機構に強大な権力を持たせてしまったがため。パラダイスロスト後の魔法使いや(そう)(せい)(じゅつ)()の暴走による混乱は、専門外の政府側だと到底事態の収集をはかれるものではなった。なので当時彼らに対抗する力を持ち、これまで魔道の隠ぺいに尽力を尽くしてきた星葬機構に頼るしかなかったのだ。星葬機構ならばこの事態を収集するだけでなく、今後魔法使いや創星術師たちの広まった世界に秩序を(もう)けることができる。ゆえに様々な権限を持たせ、世界の魔道関係における治安維持活動の役目を背負わせたというのがことの経緯である。

 そして今や魔法使いや創星術師が当たり前になった世界だとその権限も合わさり、星葬機構は世界を秩序の名のもとに支配するまでにいたってしまった。なので政府側が口をはさもうとしても、彼らの必要性と保有する断罪者や魔法使いのケタ違いの戦力に強く出れないのであった。


「神代と政府側の同盟の話ですか。神代の勢力をさらに強めたという、あの」

「ああ、政府側が現状を打開するには、対抗できる力を持つ上代に星葬機構を潰させるしかない。ゆえに政府側が裏で様々な援助や隠ぺい工作をほどこし上代の勢力を拡大させ、我々は彼らの望みを力によって実現する同盟が生まれた」


 政府側としては手綱をにぎれず、世界を秩序の名のもとに支配し続ける星葬機構を、次第に邪魔に思い始めてきた。だが魔道に関して素人の政府側では、星葬機構に対抗する力はない。さらには星葬機構を倒した後に、どう魔法使いや創星術師があふれた世界をまとめていけばいいのか。その答えこそ神代だ。今や世界の頂点に立つ財閥クロノスの力。そして星葬機構にケンカを売れるほどの戦力。そう、政府側が下した結論は神代に星葬機構を倒してもらい、世界の治安維持の役目を引き継いでもらうというもの。

 星葬機構は世界を守る治安維持のことしか頭にない、お固い組織。だが神代は世界の経済を回している存在ゆえ、政府側の考えも十分理解できる。なので話も通じやすくお互いなくてはならない立場のため、よりよい関係を結べるはずと。

 これにより政府側と神代との同盟が結ばれる。政府側が裏で様々な援助を行い、勢力を拡大した神代がいづれ星葬機構を倒すという同盟が。ちなみにこの神代の勢力拡大の追い風となった同盟。実は偶然結ばれたものではない。神代側が勢力拡大のためそうなるように裏で仕向けていたとのこと。そう、初めから政府側は、神代の手のひらでいいように(おど)らされていたのであった。


「おかげで神代は星葬機構に匹敵(ひってき)するほどまでに成長でき、あとは奴らを倒すところまでこれた。そしてこの戦争に勝てば、はれて神代は世界の覇者へと昇り詰める。くくく、これで当初予定していた通りの誰にも邪魔されない上代の舞台が出来上がり、あとは神代の悲願を叶えるだけというわけだ!」


 スバルは拳をぐっとにぎりしめ、愉快げに自分たちの狙いをかたりだす。

 世界の覇権さえにぎれば、もはやどこも逆らうことができなくなる。そうなれば神代は自分たちの研究を隠すことなく、堂々とできるようになるのだ。もはや世界そのものを、神代の悲願を達成するための実験場へと。恐るべきことにこの計画はパラダイスロストが起こる前から考案され、これまで実行されようとしてきたのであった。


「まあ、父さんの場合はそれでいいかもしれないけど、次期当主であるわたしにはまず他に決着を付けないといけないことがあるんだけどね」


 だがそんなスバルをよそに、神楽は頭悩ましげにぼやいた。

 すると次の瞬間ノック音が。


「失礼します」

「ウワサをしてれば、来たみたいだね」


 そして扉が開き、入ってくる二人の人影が。





次回 神代の流儀

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