12話 陽だまりの少女
1章 少女との契約 上
第一部 神代特区
「いよいよ私の神代特区の生活が始まるのかー! もうワクワクが止まらないよ!」
時刻は午前十時ごろ、さんさんと太陽が輝きまさに絶好のお出かけ日和。ここは海岸沿いにある緑豊かな広場である。いい天気とあって人々が散歩だったり、ベンチに座ってのんびりしていたり、ピクニックに来ていたりなどにぎわっている。そして陣たちがいるのは広場の奥。心地よい潮風がほおをなでる、海に面した道沿い。少女は海側の手すりから身を乗り出し、キラキラ輝く海面を眺めながらはしゃいでいた。
陣はというと手すりに背中からもたれかかり、そんな少女の話し相手になっているところである。
少女の名前は水無瀬灯里。年は陣と同じらしい。彼女は太陽のようにまぶしく、天真爛漫といった言葉がよく似合う少女。そのきらびやかな赤い髪と、誰とでも仲よくなれそうな人懐っこい雰囲気がよりそういう印象を抱かせた。
彼女とはさっき偶然道をたずねられ、知り合った関係。なんでも彼女は今朝早くに、この人工島にたどり着いたとのこと。今はここで会ったのもなにかの縁ということで灯里に捕まり、おしゃべりに花を咲かせている状況であった。
「ノリノリのところわるいが、ここってそんなにも胸がはずむ場所なのか?」
「もう、陣くん、なにを言いますか! 神代特区といえば星葬機構の堅い縛りがなく、魔法をある程度自由に学び、研究できる場所! 今も昔も学生なら誰もが夢み、憧れるという大人気スポットなんだから!」
神代特区。ここは日本列島から太平洋側に少し離れたところに設立された、巨大な人工島の集まりのこと。今や全世界を秩序の名のもとに支配する星葬機構の手が、完全に届いていない場所。ゆえに本来魔法は自衛しか認められていないが、神代特区内だと特別。学び研究することが許されているのだ。
それもこれも神代が管理する大財閥クロノスが、ここの全利権を持ち拠点としているため。魔法や星詠みといった魔道を求道する神代だからこそ、それらを容認し根づかしているのである
星葬機構としては自分たちの秩序を無視したこの場所を今すぐにでも沈めたいが、相手は世界を回すあまりにも強大な勢力。戦争を仕掛けるのは簡単だが、今後の世界の影響や各国の政府が認めているとあって非常に手が出しにくいのであった。
「まあ、表向きはそうだよな。ここは魔道を求める者にとって、星葬機構の手が届かないまさに楽園。学生なら神代特区内の職について、制限を受けず自由に生きたいとかよく耳にするっけ」
(だけど裏では星魔教や、神代の非合法な施設がうじゃうじゃしてる魔境だがな)
そう、この神代特区は表側だと上代が取り仕切るクロノスの本社や子会社、研究所や工場施設などで有名。だが裏では星詠みを信仰する星魔教の根城や、神代の人体実験、兵器開発といったヤバいものが無数に潜んでいるのだ。
「それで灯里も魔法目当てで、この神代特区に?」
「あはは、まっさかー! 私魔法とかに関しては、あまり興味ないんだー。お目当てはそう、魔法使い育成の最高峰、私立星海学園の特待生制度! 魔法の才能がある者は、破格の好待遇で迎えてくれるんだよね!」
灯里は星海学園がある方向に手を向け、目をキラキラさせる。
魔法関係を許容する神代特区だからこそ、その分教育施設も特別。私立星海学園は星葬機構の圧力を受けず、自由に魔法を学べる世界屈指の場所として名を馳せていた。この学園は神代が多額の資金を援助しているため、規模や設備が最上級。さらにより優秀な人材を集めるためにも学費は安く、特待生制度などは破格とのこと。もはや誰もが通いたがる学園であった。
「実は私、孤児院の出だからお金問題がいろいろ厳しいんだ。だから普通だと学園に通う自体大変なことなんだけど、この特待生制度だと話は別! 設備とかいたりつくせりと名高い最高クラスの星海学園で、有意義な学生ライフを堪能できちゃう! あはは、ビバ、バラ色の学園生活ってやつだね!」
灯里は胸元近くで両腕をブンブン振り、はじけんばかりのテンションでかたる。そのウキウキな反応を見るに、相当楽しみにしているようだ。
話の流れからして、彼女は星海学園の特待生制枠に選ばれた。そして四月から学園に通うため、神代特区にやって来たというところだろう。
「へえ、灯里も星海学園に。となるとオレと同じか」
「あれ、もしかして陣くんも星海学園に?」
「ああ、オレは今年中等部を卒業したから、四月からは高等部に上がるな」
裏ではいろいろやっているが、一応陣は学園に通っていた。
陣としては別にいかなくてもいいと思うのだが、奈月に付き合わされ行くはめになっているのだ。今は星海学園中等部を卒業し、奈月と共に四月から高等部の方へ進学するのである。
ちなみに今は三月後半。春休みの真っ最中であった。
「じゃあ! 私と同じ一年生! やったー! こんなにも早く同学年のお友達ができるだなんて、私ってばツイてますなー!」
ぴょんぴょんその場を飛び跳ね、バンザイする灯里。
「しかもその口ぶりだと、この神代特区にくわしいと見たね! というわけで陣くんには、島のガイドやバイト探しの手伝いをお願いしようかな!」
そして灯里は陣に詰めより、手を合わせてかわいらしくお願いしてきた。
「ははは、めんどいからほかを当たってくれ。オレはガキのお守りをするほどヒマじゃないんだ」
「えー、やだよー。私は陣くんに案内してもらいたいー。だからほら! ここで会ったのもなにかの縁ということでさー。だめー?」
灯里は陣の腕を揺さぶりながら、小さな子供のようにねだってきた。
「いや、なんでオレなんだ? ほかのやつでもいいだろ。ははは、まさか一目ぼれとか言うんじゃないよな」
「あはは、ばれちゃった? 実はその通りなんだ」
適当に言った冗談であった。しかし灯里は髪をいじりながら、はにかんだ笑みを浮かべてくる。そしてなにやら告白めいたことを口に。
「――おいおい、言っててなんだが、マジなのかよ……」
普段からあまり動じない陣も、これには少し面を食らってしまった。
「陣くんとはいい関係を築ける予感がするんだよね。気兼ねなく接することができるというか……、うん、なんだか熱い友情関係を結べそう! きっとキミといれば、退屈しない楽しい日々が過ごせるはず! いやー、ここまで灯里さんに気に入られるとは、陣くんてばやりますなー、あっはっは!」
さっきまでの恋する乙女のような反応は、どこにいったのやら。灯里は陣の背中をバシバシたたきながら、豪快に笑いだした。
「――って、ようするにラブじゃなく、ライクの方ってわけか」
「あっれれー、陣くん、なにを勘違いしてたのかなー。私は初めからそっちの話しか、してないんだけどなー」
灯里はニヤニヤと小悪魔的な笑みを浮かべながら、のぞき込んでくる。
どうやら一本取られてしまったらしい。
「フッ、オレに一泡吹かせるとはなかなかやるな。いいだろう、気に入った」
「おぉ! じゃあ、引き受けてくれるの!」
「ほれ、これをくれてやろう」
折れてくれたと期待する灯里に、ポケットからとある紙を渡す。
「なにこれ? 名刺?」
「実はちょっとしたなんでも屋を経営しててな。灯里の言った通りこれもなにかの縁だ。依頼を受ける時は、灯里とのよしみで安くしてやるよ。困ったことがあったら頼ってくればいいぜ」
灯里の肩にぽんっと手を置き、すがすがしい笑顔を向けてやった。
「ちょっ!? もしかして陣くん、貧乏人の私から金をとると!?」
「あー、金がないなら残念だ。オレとしては気に入った灯里の力に、なりたかったんだがなー。まあ、これもビジネスだから仕方ない。そういうことでさらばだ、灯里よ」
口に両手を当て目を丸くする灯里に、陣はしらじらしく残念がる。
陣はやられたらやり返す性質。なのでさっきの借りを早々に返してやったのであった。
あと、そろそろお開きにすることも考えてだ。彼女と話すのはなかなか楽しいが、陣も忙しい身。昨日奈月がまた仕事があるといっていたため、そろそろ事務所の方に行かなければ。
「うわーん、そりゃないよー、陣くーん!」
立ち去る陣の後ろ姿に手を伸ばし、涙目で呼び止めてくる灯里なのであった。
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