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僕が竜人の彼女といちゃいちゃするのに必要なこと  作者: 蒼衣翼


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エピソード6 【魔王の宴】その七

「先輩は軍を避けているみたいだったので、……移民の人はいろいろ事情があるって聞きますし。それよりハク先輩、さっきはありがとうございました」

「……なぜ礼を言う」

「なぜって、助力していただいたでしょう。魔法って、すごいですね」


 あの痛いトゲのツタのときとさっきの誘拐犯のとき、どちらも白先輩が魔法で助けてくれた。

 中等部のときには学校で魔法を使うようなことはなかったのだけど、あの頃白先輩を探し回っていた上級生のそれぞれの派閥の人たちが、全く白先輩を探し当てることが出来ずにことごとく空振りに終わっていたのは、もしかするとさっきの誘拐犯と同じように、白先輩も一瞬で移動出来るからだったのかもしれない。


「お前に助力した訳ではない。私には私の理由がある。お前はどうもよけいなことに首をつっこむ癖があるようだから先に言っておくが、私の問題に首をつっこむな。お前自身もお前の大事な相手も危険に巻き込むことになる。これは中等部時代の陣取りゲームのようなお遊びではないぞ」

「さっきの連中のことですね。確かに遊びにしてはたちが悪いようでした」

「私はもうここには来ない。だからもう今回のようなことは起きないだろう。だから安心して学生生活を満喫することだ」


 白先輩はそう言うと、羽を広げてふわりと飛び上がった。


「先輩! それは学校を辞めるってことですか? あいつらのせいで? そんなのおかしいでしょう!」

「結局普通ではないものが普通に暮らそうとするのが間違いなんだ。何も気にする必要はない」

「は? 先輩は普通の学生ですよ、魔法を使えるからって選ばれた人間とか思ってないでしょう? それはただの種族特性なんですから、あ、先輩!」


 白先輩はこっちの話の途中ですいっと飛び去ってしまった。

 相変わらずコマ落ちのような移動の速さだ。

 あれってもしかして飛びながら魔法を使っているのだろうか?

 ともかく、先輩の言い草は納得できない。

 普通じゃないってどういう意味だ? 魔人だから? それなら並び称される竜人も普通じゃないってこと? 冗談じゃないぞ。

 ディアナは確かにとても強いけど、お菓子作りや可愛いものが大好きな普通の女の子だ。

 白先輩だって、中等部時代、みんなが楽しそうにしているのを少し離れて見ているときに、自分も楽しそうにしていたじゃないか。

 みんなと関わらないようにしていながら、絶対にみんなが見えないような場所には行かなかった。

 先生にも聞いたけど、授業を欠席した日はないんでしょう?

 白先輩は学校が好きなんだなと、僕は思っていましたよ。


 考えているとなんとなく腹が立ってきたので、深呼吸してハルをなでてみた。

 急になでられたハルは、しかしびっくりすることもなく、ゴロゴロと喉を鳴らして身を捩る。

 いいな、お前、いつも幸せそうで。

 うん、気持ちが落ち着いてきた。

 そうして落ち着くと、ものを考える余裕が出来る。


「あ、今回の事件についてなにか発表があるかな?」


 あれから犯人は捕縛されて、事件はかたがついたけど、生徒たちの気持ち的に授業どころではないからと、全ての授業は取りやめになって一旦帰宅するようにとの校内放送があった。

 まぁもう時間が時間だから、がんばって授業を行っても一回授業が出来るかどうかだし、そんな無理をするよりは生徒を落ち着かせるほうがいいと判断したんだろう。

 ともあれ、追加の情報を求めて開いたリングの個別連絡には、明日の高等部の学校全てが臨時休校となるとの通達が来ていた。

 保安の強化について会議か何かやるのかもしれない。


 そしてもう一つ、ディアナからも連絡が来ていた。

 なぜか「ごめんなさい」という謝罪の言葉と、落ち込んだファンシーなドラゴンのイラストが添えられている。

 おお、さっそく流行りの機能を使いこなしているとは、リングの使い方はまだたどたどしいのにすっかり僕よりも都会の若者らしくなっちゃったな。

 僕は「こっちこそゴメン。楽しんで来て」と返信して、デフォルトの笑顔の表情イラストを添付しておいた。


 さて、リングのプライベート機能のチェックを終えて、次にニュースをポップアップしてみる。

 ニュースでは学園特区で襲撃事件が起きたことと、迅速な対応で死者を出さずに解決したことが表現を変えてさまざまなメディアで報じられていた。

 うん、まぁさっき終わったばかりだし、詳しいことが載る訳ないよね。

 学生用のチャットはまだ混乱が続いている。

 事件中は犯人や事件の様子、友達の無事を尋ねる言葉などが飛び交っていたけど、今は自分たちが体験したことをてんでに言い合ったり、犯人の目的について議論が始まったりしていた。


「ん?」


 その混乱したチャットのなかに気になる文字が見えた。


『俺、やつらに捕まってたんだけど、そいつらからなんか白い魔人種の男子生徒を知らないかって聞かれたんだよ。誰だよそれってこっちが聞きてえよ』


「これ、ハク先輩のことか」


 意外ではない。

 先輩は奴らが自分の敵だとはっきりと言ったし、学校を辞めると言ったのだって今回の件が自分のせいだと思ったからだろう。

 でも、おかしくないか?

 一人の学生を探すのにこんな派手なことをする必要はない。

 先輩のことは確かに探してたのかもしれないけど、それだけが目的ってことはないはずだ。

 連中は攫った学生を最終的にどうするつもりだったんだろう。

 先輩の行方を聞いて終わりとなるはずがない。


 すっきりしない。

 やっぱり白先輩ときっちり話をしよう。

 僕が首をつっこむのを嫌がるってことは、それって結局先輩は困っていて一人でどうしようもないから僕が手を出すだろうって考えているってことだよね。

 今回の件の強行ぶりからしてみても、逃げ続けていればいいって相手じゃなさそうだし。

 そもそも先輩はどうして治安部隊も避けたんだ?

 自分だけで考えても答えの出ない疑問を山ほど抱えたまま、僕は、なでている内に腕にしがみついたまま寝入ってしまったハルを、目立つキャラクターグッズのようにひっつけて家路についたのだった。

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