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僕が竜人の彼女といちゃいちゃするのに必要なこと  作者: 蒼衣翼


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エピソード4 【古の詩】 その四

 学園特区は循環モデル区画であるのだけど、そもそもこの場所が手付かずで自然の景観を残していた理由として、元々ここが王城の城郭だったからということがある。


 激化する周辺の戦闘的な民族との抗争から自らの種族を守るべく、巻角の王が選んだのは多民族合議制国家の樹立だった。

 一種族だけでは弱くとも、平和的な生活を望む種族が同じ場所に寄り集まって一つの国を成せば、強きものたちに対抗できると考えたのだ。

 そのために、王は自らの国を解体した。

 政権の再編は平和裏に行われ、この「幸なる国」は他種族に対抗出来ない弱きものたちの楽園を目指して樹立されることとなった。

 王は至高の座を下りて庶民となり、城は国に提供され記念碑とされた。

 そして後に子どもたちを教育する最高機関が城があった場所に誕生する。


 そもそも巻角の王は牙なきものたちの中にあって強者であったという。

 かの竜人達が無邪気に戦いを挑んでくるほどの力があったと言うのだからかなりのものだったのだろう。

 その力には謎が多いが、どうやら幻想種族でもないのに魔法が使えたらしい。

 書物の中には巻角の王を指して、魔術師とか賢者とか呼ぶものもある。


 話が逸れたが、そんな巻角の王の居城は、自然の山野の中に建てられていた。

 岩場が多く、高低差の激しい場所で、外敵が容易に侵入できない天然の要塞だったらしい。

 現在は幾分か削られてしまっているけれど、循環を妨げないために、自然な丘や谷、水の流れなどを建造物と調和させるように配置していた。


「ふむ、ここだな」


 部長が古地図をデータ化したものを参照しながら沢から少し上がったところにある斜面を示した。

 その部長について行っている僕達はと言えば、半分ぐらいはかなりへばっていた。

 時間的にはまだ夕方前で、日差しはあるのだけど、道のない丘を登ったり降ったり、沢伝いに川を遡ったりという強行軍で、日頃トレーニングをしている僕達でもけっこうキツい道のりだったのである。

 空を飛べるマサ先輩と美空先輩、そして竜人であるディアナは疲れた風ではなかったけれど、現代っ子であるエイジ先輩と、力仕事は得意でも持久力に欠けるカイ、それと、椅子に座っていることの多い部長はかなり体力的にこたえているっぽい。

 正直僕も少し疲れた。


 部長が地図を見ながら示した場所には小さな穴があった。

 正確に言うなら僕が入るなら少し窮屈な程度の大きさで、カイはかがまないと入れないだろう大きさの、動物の巣穴のような場所である。

 野草に覆われた飾り気もなにもない穴だ。

 だけど、それを見た僕はゾッと背筋に寒気が走るのを感じた。

 思わず一歩ほど後ろに下がっていたほどだ。

 場所が斜面なのでうっかり転ぶところだった。


「なんかそれ、気持ち悪い」


 現実主義者で迷信とかあまり信じない美空先輩が、自分の感じた違和感を口に出す。


「近づきたくねえな」


 カイが鼻の上にシワを寄せて警戒するように言った。

 うまく言い表せないが、不吉な雰囲気の漂う場所なのだ。

 部長も穴を眺めて「うーむ」と唸っている。


 と、突然リュックから抜け出したハルが穴の入り口に突っ込んだ。


「あ、ハル! 危ないよ!」


 妖魔であるハルにとって、何が危なくて何が平気なのかよくわからない部分はあるにせよ、自分が嫌な気分のする場所に、大切な家族を突っ込ませたい人間はいないだろう。

 僕は慌ててハルを引き留めようとしたのだけど、ハルはするりと僕の手を躱して、穴に到達した。

 そして大口を開けるとゴウという空気を吸い込む音を響かせる。

 文字通り空気を吸い込んでいるのだ。


「ハル!」


 すると不思議なことに、その穴に対する嫌悪感がだんだん薄らいで行くのを感じた。

 体感的には氷を押し付けられているような鳥肌立つ冷気が、春の日差しに変わったような、そんな風に雰囲気が変化したのだ。


「どういうこと?」

「その場所に瘴気が溜まっていたみたい。瘴気というのは変質した魔力でもあるの。妖魔は魔力を好むから、多分……」


 ディアナは少し言いよどむようにして、小さく続けた。


「ハルがその瘴気を食べちゃったんじゃないかと」

「えっ? それって大丈夫なの? お腹壊さない?」


 ディアナの話に仰天した僕はハルを確保するとお腹をさすったり口の中を覗いたりしてみる。

 そんなことをしたところでどうにか出来るものではなさそうだけど。


「どんな状態でも魔力は魔力だし、妖魔は魔力の申し子だから大丈夫だと思う」

「そっかよかった」


 ハルを抱きしめてホッと息を吐いていると、部長が興味深げにハルと洞窟を見比べる。


「そうか、さっきまで感じていたのは瘴気だったか。人間は長年に渡る本能に背を向ける生活でそういうものを感じる能力は衰えたかと思っていたが、案外と危険を感じる本能は生きているものだな」

「部長、瘴気ってなんですか?」


 エイジ先輩が質問をした。


「瘴気というのは悪意を持った魔力と言うべきものだよ。普通の人間が下手に触れるとおかしくなることもあるらしい」

「うへえ」

「でもなんでそんなものがあったのかな?」


 今はなんともなくなった穴を覗き込みながら僕は誰に言うともなくそう口にした。


「おそらく無関係な者が入り込まないようにではないかな?」


 部長の言葉になるほどと納得する。

 思えば、このときに考えを巡らせるべきだったのだろう。

 人避けに瘴気を設置してあるということは、この穴を作った相手はこの中に他人を入れたくないのだということに気づくべきだったのだ。

 しかし、気持ちの悪さが消えた穴に、僕達は当初の予定通り、入り込んだ。


 先頭は地図を持つ部長。

(ただしリングからデータを開けば全員が地図を見れる)

 次がエイジ先輩でその後がマサ先輩、美空先輩が続いて、その後に僕、ディアナ、しんがりがカイだ。


「しかし随分と狭いな。タタラくんには窮屈だろう。すまないな」

「いえっ! 大丈夫っす!」


 部長の気遣いに、カイが飛び跳ねるように返事をして、その勢いで頭を天井にぶつけてうめいていた。

 痛そうだ。


 灯りとしては、両手を自由にしておけるのでヘッドライトを使っている。

 洞窟探検では定番の装備だ。

 とは言え、今回は洞窟のつもりではなく、人工的な抜け道の予定だったのだけど、準備は万端だ。

 洞窟に入ってしばらくすると普通に行き止まりになっていた。

 部長、本当にここで間違いないのかな?


「部長、本当にここでいいのか?」


 僕と同じ思いだったのか、マサ先輩がそう聞いた。

 マサ先輩や美空先輩のような翼人は、空が見えない場所が苦手って言われているけれど本当かな?

 でもそんなことを言ってたら、建物にも入れないよね。


「ああ、間違いない」


 行き止まりの場所は入り口からの通路よりは少し広くなっていて、いかにもケモノの巣穴っぽかった。

 今は使われていない巣穴って感じだ。


「ここに変な魔力がある」


 ディアナが壁の一画にふと触れた。

 と、ゴッという鈍い音と共に、その場所の地面が消える。


「ディアナ!」


 慌てて駆け寄ると、地面には穴が開いていて、穴の中は真っ暗だった。

 いや、小さな灯りが一つ見える。


「大丈夫、私は飛べるから」


 返事があったことに胸を撫で下ろし、僕達は穴を詳しく調べた。

 よく見ると、穴には木の枝のようなものが掛かっていて、それがずっと奥まで続いている。

 ディアナはその隙間から下に落ちたらしい。


「これは注意が必要だな」


 部長が妙に落ち着いた声で告げた。


「今回はたまたま飛べるディアナくんだったから良かったが、これが僕や逸水くんだったら死んでいたかもしれないぞ」


 部長はポケットから取り出した指向性の高いライトで穴の中を照らす。

 そのライトの先にはかなり下のほうにある地面が照らし出されていた。


「これが罠ってことですか?」

「この穴の開き方を見てみたまえ。知っているものならこの壁際のスペースに立てば安全だが、知らなければこんな不自然な場所に立とうとは思わないだろう。知らずに入って、ここに触れた者を落とすつもりがあったと考えるべきだろう」


 すごく、嫌な予感をひしひしと感じる。

 今回は単に図書館の謎を探求して、あわよくば依頼の「古の詩(バラッド)」を見つけ出すという予定だったのだけど、悪意ある罠がある場所の探索となれば話が変わってくる。

 僕達、無事に戻ってこれるよね?

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