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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第一章 撤退支援戦闘(ウィズドロワル・サポート・バトル)
8/212

◇05 把握 護衛隊 (ガーズ)

 【国境・共和国側平原】


 自分の体より大きなものを運ぶのは大変だ。

 背負った者の足が地面を引きずって、重みが増す。


 自分の肩から飛び出る頭が時々頬ずりしてくるのは本当に嫌だ。

 背負った背中はぬるぬるしていて気持ち悪い。


 羽の根元まで濡れている。


 黙って先頭を歩く者についていく。

 どれだけ歩いただろうか。


 足のつめは割れてしまっていてとても痛い。

 人間の足と違って足幅が細いから、地面に潜り込んでいく。


 やっと前の者が止まった。

 そして背負った人間の遺体を放っている。

 自分の番だ。


 穴の手前まで来ると、中にはたくさんの人間が折り重なっていた。

 自分も向き替えると、背負っていた重荷から手を放した。


 急に体が解放されて楽になる。


 「んんん~~~」


 強張っていた羽がほぐれ、パラパラと赤い破片が落ちる。

 まだまだ羽の芯が湿っていて気持ち悪い。


 おなか減ったな……。

 

 「どけ」


 私の後ろに並んでいた猛禽類が私を押しのける。


 なによ!


 そう言いかけたがやめた。

 ここでトラブルを起こせば監督兵に殺される。


 目立たなければ生き残る事が出来る。

 あいつらは本当に簡単な理由で私たちを殺す。

 

 軽く詫びる声を出して道を開けた。

 猛禽類は片手で軽々とあいつらの遺体を持っていて、無造作に放り投げた。


 生まれてからずっと、そういう世界だった。

 それ以外の世界を知らなかった。


 でも、私ももうすぐ死ぬんだな……。


 あの穴の中にいる人間みたいに……。

 あの丘の上にいた、こいつらとはまた違う人間たちに殺される。


 監督兵が集合を告げていた。


 「お腹減ったな……」


   ※


 【国境・王国側丘】


 「聞きにいってどうするのですか?」

 「意味ある行動とは思えませんが」


 老騎士が俺の目を覗き込む。


 「逃げるつもりはない」

 「得られる支援は全て得たい」


 このすっぽり抜けた記憶を埋めたい。

 それは口に出さないでおいた。


 「いつまでここで戦えばいいのか。いつ撤退すればいいのか」

 「これだけの敵を相手にするんだ。まだまだ敵は後ろにいるだろう」


 「負け戦なら尚更、些細な事で崩れる」


 …………。

 …………。

 …………。

 …………。


 老騎士が俺から視線を外すとため息をつく。


 「わかりました」

 「それでここの指揮はどうするのです?」


 「誰か適任者はいないか?」


 「いませんな」


 「んぐ……」


 断言された。

 指揮官の代わりがいないほど、烏合の衆なのか。


 「元々中隊で参謀を置くような所帯ではありませんからね」


 「そうか」

 「すまないが、俺が帰るまでここの指揮を頼む」


 「おっしゃられると思いました」

 「わかりました」

 「護衛隊ガーズ!」

 

 老騎士の後ろに5人の騎士が集まる。


 みんな髪まで血で濡らして元の色がわからない。


 「ご主人様マイロードのためだけの護衛です」

 「全員ノイシェーハウ家に属しています」


 5人の顔を見る。

 みんな俺より頭1つ大きい。

 俺はそんなに重要人物だったのか。


 「リンヴェッカー」


 老騎士に呼ばれた1人が一歩前に出た。


 「私の孫です」


 呼ばれた若者は目鼻立ちがはっきりして、透き通る緑色の瞳をしていた。

 髪の毛が血に濡れていても、その笑顔は周りを安心させるに十分な輝きを持っていた。


 俺に紹介すると護衛隊へ向き直った。

 どうして改めて俺に紹介する?


 この老騎士に対する疑念がもたげる。


 「わしはここに残って指揮をする事になった」

 「お前たちは、アクティム様についていけ」

 「そして、何があっても必ず守りきれ」


 リンヴェッカーを始め、5人の騎士がうなずく。


 「アクティム様は記憶をなくされている」


 俺は老騎士の背中を凝視した。

 その老騎士が笑みを浮かべて振り返る。


 「何を驚いているのですか。剣を教えたのは私ですぞ」」

 「砲弾に倒されてからの行動はおかしい」

 「まるでこの世の常識すら抜け落ちたような感じです」

 「自分が何者なのか早くつかんでください」

 

 俺は言葉を返せなかった。

 全てを見透かされていたのか。


 「わかった」

 「ここは貴方に賭けるしかないようだ」


 「シュラー・オスターヴィーカーです。ご主人様マイロード


 老騎士が改めて頭を下げる。

 孫とは違い白髪だが、昔は金色の髪をしていたのだろうか。


 「リンヴェッカー・オスターヴィーカー」


 先ほどの好青年が手甲を胸の鎧に当てて頭を下げる。


 「シュール・エルヴァーローデ」


 血の赤なのか元の髪が赤いのか、短髪に口ひげを生やした若者が優雅に頭を下げる。


 「ツム・ドアーレン」


 護衛隊ガーズの中でもひときわ横に大きい体を持つ男が進み出た。

 俺の胴体ほどもある太い腕を胸当てに充てる。

 縮れた長髪に胸元まである髭。まるで大きな熊のようだった。


 「ヴェーク・シュティンメッケ」


 無表情に名前を告げた男は、口ひげもなく血に染めた頭にも頭髪はなく、左ほほに縦についた傷が目立った。


 「クライナー・シュタイン」


 長髪を結い上げた髪を馬の尾の様に揺らして頭を下げる若者。


 全員が自己紹介する。

 

 「ここでアクティム様が死ねば、我々も死ぬことになります」

 「ノイシェーハウ家の当主は我々護衛騎士ガーズを許さないでしょう」

 「ですから信用して何でも申し付けください」


 改めて引き締めた表情でシュラーが俺に告げた。


 「宜しく頼む」


 頭を下げると、5人とも右腕を胸に当てた。

 全員の顔を改めて見て決めた。

 俺に選択肢はない。


 「シュラー。命令を変更する」

 「リンヴェッカー。俺が戻るまでここの指揮を執れ」


 シュラーの孫だからという訳ではない。

 一番最初に俺に挨拶したという事は、この中で2番目の地位にいる男なのだろう。

 さっきの戦いは見ていなかったが、生きて今ここにいる。

 ならここを任せても大丈夫だ。

 俺には老練なシュラーが必要だ。


 太陽を見上げた。

 まだ東天にある。まだ朝だったのか……。


 「太陽が南天にかかるまでには戻る。兵を休ませておけ」


 「早い昼食を取らせておきます」


 こいつと言っていいのだろうか。年上にも見えるし年下にも見える。

 リンヴェッカーは要領がよさそうだ。


 「俺が戻るまでに敵の攻撃が予想されたら後退しろ」

 「俺と合流して迎え撃つ」


 「はいご主人様マイロード


 リンヴェッカーに、自分より優秀な匂いを嗅いで老騎士に振り返る。


 「シュラー。俺のことを義子と言ったな」

 「一族はこの戦場に来ているのか?」


 「叔父が本体を率いていますが、先に後退して部隊を再編しています」

 「追い付くのは難しいかと」


 「なるほど。俺は死んでもいい存在か」


 「いえ、むしろ期待されての配置だと考えますが」

 「記憶を失う前のアクティム様を……ですが」


 シュラーが笑みを浮かべると直ぐに消した。

 戸惑っているのは俺だけじゃないわけだ。

 その気持ちは良くわかる。


 「ありがとう。包み隠さないのはありがたい」


 「シュラー。4人を率いて俺についてこい」

 「総裁に増援を求める」


 「馬をひけ」


 シュラーが素早く命令を出す。


 みんな跳ねたように動き出す。

 俺の部下にならずとも一旗あげられそうな程の有能さを匂わせる。


 自分はどうなんだ……。

 記憶だけではなく、自分の実力もわからない……。

 胸をチラリと炎が焼いた。


 …………。

 …………。

 …………。

 …………。


 ところで……。




 俺は馬に乗れるのか?




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 次回 把握 命令


 2016年05月17日7:00公開予定


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