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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第一章 撤退支援戦闘(ウィズドロワル・サポート・バトル)
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◇04 把握 そして (アンド)

 【国境・共和国側平原】


 「遺体の収容終わりました」


 情報幕僚が報告に来る。


 「兵の目に届かない遠くに運ばせろ」


 「どこへ?」


 「どこへでもだ」


 「頭の回転の悪い幕僚は始末に負えませんな」


 主席幕僚がカップを差し出してくる。

 口を付けると甘くしたホットワインだった。


 「兵に丁度いい位だ」


 「お父上が議員ですからね」

 「兵にして死なせるわけにはいきません」


 「議員なのに子の命を差し出せないとは、革命意識に欠けるな」


 連隊本部の天幕の中に置かれた、机の上いっぱいに広がる地図を覗き込む。

 守るに易く、攻めるに難い。

 長い間、共和国と王国を分けてきた関門。


 高く険しい山の切れ目。

 切れ目といっても丘陵となり標高がある。


 そこに谷を背にして敵が陣取っている。

 狭隘な谷の正面は、横に広げた大隊が通るので精いっぱい。

 小規模の部隊を絶壁に登攀させて谷の上から突くか?


 貴族共の主力がこの谷を越えて1日。

 これ以上時間をかければ、敵は自国領で再編成を終えるだろう。

 それでも共和国軍は負けないだろうが、無用の損害を出す。


 再編成前に追撃をかけないと、本当の痛撃は与えられない。


 「目の前にいる敵は、少しは骨があるようだぞ」


 そっと後ろに控えたのが連隊幕僚である事を確認して、言葉を漏らす。


 「追い詰めたネズミですか」


 「そのネズミに第3大隊が全滅させられた」

 「文字通り一人残らずだ」

 「連隊の4分の1を失ったのだぞ」


 透き通った声に悔しさが滲む。


 「後方の師団本隊に増援を求めますか?」


 「そんな事出来るか! まだ負けたわけではない」


 「ではいずれにせよ。押しつぶすしかないですね。時間がありませんし」

 「お父上もそれを求めております」


 「わかってる!」

 「ここでは父親ではなく元帥だ」


 革命でみな平等になった筈だ。

 いまだに悪い慣習が革命軍の前線にまで蔓延している。

 私は縁故で連隊長になったのではない。

 自分の力でここまで来たのだ。


 それに、元皇后に義理立てする裏切り者が元帥だと……。

 逆族の子などになってたまるか。


 「ここで止まるわけにはいかない。共和国の正義がつぶれるからな」

 「次は準備してかかるぞ」


 「どうされるおつもりですか?」


 「文字通り押しつぶす。正攻法だ」

 「遺体を運びおわったら、奴隷兵を前へ出させろ」

 「相手の情報は奴隷どもが教えてくれる」

 「奴隷に罠を踏ませる」


 「わかりました」


 「砲撃を行え」

 「効果はなくとも貴族のおもちゃだ」

 「青銅の弾をやつらに返してやれ」


   ※


 【国境・王国側丘】


 敵はまだあきらめる気はないようだ。

 大砲が丘の斜面ギリギリまで引き出されると、散発的に火炎を放ち始めた。

 たちまち黒煙が空を汚していく。


 「反撃しますか?」


 「見張りを残して、弾の届かないところまで兵を引かせろ」

 「嫌がらせだ」


 「そうします」

 「しかし気を付けてください。先ほどご主人様マイロードは運悪く砲弾に打ち倒されました」


 「ありがとう。気を付けるよ」


 周りに重量物が落下しはじめ、土煙がまき散る。

 老騎士シュラーの命令で兵たちが後退を始めた。


 俺の記憶はその打ち倒された時から始まるのか。

 散発的に土煙が巻き上がるが、不思議と不安はない。


 もう一度打ち倒されれば、記憶が戻るかもしれない。

 そんな淡い期待もある。


 しかしそんな都合のいい事はないだろう。

 恐らく死ぬ。

 

 眼下を埋める敵。

 そして散発的な砲撃にも怯える吹けば飛ぶような数の味方。


 俺は誰なんだ?

 どうしてここにいる?

 これからどうしたらいいんだ?


 両手を広げて天を仰ぐ。

 降り注ぐ土砂が雨のように鎧を叩く。

 鎧を叩く土塊は、新鮮な雨のような音を立てた。


 この体の違和感。

 この世界の違和感。

 この空気の違和感。


 負け戦で俺はここにいる。

 そして俺は不利な状況。

 人を殺さなければ生き残れない非情な世界。


 生き残るにしてももっと増援が欲しい。

 そして逃げられるなら、どこか安全な場所に逃げたい。


 「ご主人様マイロードも後退してください」


 後ろを振り返ると老騎士シュラーが立っていた。

 壕に身を潜める兵が俺に笑顔を向けてくる。


 「俺たちに貧乏くじを引かせた責任者はどこだ?」


 「王国軍総裁の事ですか?」

 「でしたら撤退途中だと思います」


 「どれ位離れている?」


 「馬で走れば往復でも、さほどもかからないかと」


 撤退する軍の先頭に立って逃げている訳ではないってことか。


 「ならそいつの顔を拝みに行こうか。どうして俺達なんだってな」


 「命令は既に伝令で受けております」

 「必要はないかと」


 「直接聞きたい」


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 次回 護衛隊


 2016年05月13日15:00公開予定


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