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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第一章 撤退支援戦闘(ウィズドロワル・サポート・バトル)
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◇03 連隊長 (コマンダー)

 【国境・共和国側平原】


 「どうなっているのでしょうか」


 連隊情報幕僚が馬を並べてくる。

 通常幕僚は、連隊長から馬体で半身をおいて馬を並べる筈だったが、この男は臆面もなく、馬を横に並べてきた。


 情報はお前の職分だろうが。

 そう思うが口には出さない。


 丘の稜線の向こうで行われている戦場音楽が静かなものになった。

 伝令もこない。

 状況が見えない。


 勇躍した栄光ある共和国の兵達が、丘の稜線を越えて突撃してから随分たつ。


 「きっと追撃に忙しいのでしょう」


 黙って立っていても鼻息が荒い連隊情報幕僚が笑う。

 気休めに答える気にはならない。


 先ほど逃げてくる兵達の背中を射られたのが見えていないのか。

 それにしても嫌な予感がする。


 「連隊長あれを」


 連隊情報幕僚が指さす方向に望遠鏡を向けた。

 敵の弓兵が斜面を下り、倒れる味方の剣を取り上げた。

 

 「あれは……」


 倒れた体をひっくり返してまさぐっている。


 「盗賊のまねごとをしているのか?」


 連隊情報幕僚がつぶやく。


 「死んだわが兵の名誉を穢すのか!」


 思わず出た言葉に馬が驚く。

 周りの兵達が動揺している。


 武器を奪われた味方の遺体が再び斜面に捨てられ、転がり落ちる。

 糸の切れた人形のように転がり、止まった。

 他に目をやれば、斜面の遺体は全てまさぐられていた。


 「連隊はここで待て! 連隊本部幕僚、ついてこい!」


 騎乗する連隊幕僚群と随伴する騎馬小隊が馬を丘に向かって走らせた。


 「連隊長。危険です。狙撃されます」


 駆ける馬を並べた主席幕僚が警告を発する。


 「お前も兵を見ただろ」

 「このままでは兵たちは戦わない」

 「指揮官が慈愛を見せないと進撃はここで止まるぞ!」


 逃げ帰る兵がいない。

 勝っているのか? 負けているのか……。

 盗賊まがいの敵兵の余裕を見ていると、最悪の結果しか想定できなかった。

 圧倒的少数を囲み、勝利を疑わず、自信に満ち溢れていた兵。

 それをこの一戦で打ち砕いてしまった。

 

 どこの部隊だ?

 我が祖国に侵入した王国軍はただの一会戦で崩壊したというのに。


 うつぶせに倒れ伏している兵の両脇に腕を通して抱き上げると、腹からどろりとした塊が落ちる。

 整列したままの共和国連隊は、指揮官達が自分の死んだ仲間を馬に載せる姿を見ていた。


 「連隊長。自分の馬に載せます」


 まだ体とつながっている臓物も一緒に持って帰るか考えていると、連隊首席幕僚の声が聞こえる。


 「任せた」


 遺体を抱き上げたまま振り向くと、作戦幕僚は丘を見上げて固まっていた。


 「連隊長!」


 連隊情報幕僚が警告の叫びをあげる。

 わかっている。馬鹿者め。


 丘の稜線に敵兵が並んでいる。

 第3大隊は本当に全滅したのか?

 剣の柄を握り身を固くする。


 稜線に並んだ敵兵が動き出すと、次々と死体が斜面を転がり落ちてきた。


 薄汚れた共和国陸軍服ユニフォーム

 栄光ある青白の軍服ユニフォームが血と土にまみれて無数に転がり落ちてくる。


 10の死体が100になり、300、500、800。

 とめどなく死体が転がり落ちてくる。


 【元】共和国兵の土砂崩れ。


 そして老騎士が降りてくると、斜面に旗竿を突き立てた。

 もはや風に靡かない(なびかない)、破れた共和国旗。

 

 手で斜面に転がる無数の遺体を手で示すと、何も言わず丘を上がっていった。


 「…………やはり」

 「3大隊は……」

 「…………全滅したのか……」


 丘の斜面を埋める共和国陸軍兵……だったもの。


 「連隊長!!」


 主席幕僚が馬を走らせてくる。

 丘を登る老騎士の背中から目を離せなかった。

 あの貴族が指揮官なのか?


 「奴隷どもを呼べ」

 

 「は?」


 「遺体を回収するぞ」

 「あの旗の手前ならいいという事だろう」


 「は!」


 主席幕僚が元の陣に駆け戻っていく。


 「貴族共めが!」

 視線であの黒い鎧を溶かせられればと願う。


   ※


 【国境・王国側丘】


 岬 統也。


 この名前しか思い出せない。

 しかもその名前は今呼ばれている名前と違う。

 今目の前に広がる景色は夢か?


 どう見ても厳しい現実だ。

 だとしたら素直にあの老騎士シュラーに聞くか?

 俺の事を1から教えてくれって。


 気が狂ったと思われたら?

 あの老騎士シュラーに見捨てられたら俺は確実に死ぬだろう。


 この部隊は老騎士シュラーが俺に従っているから、動くんだ。

 だとしたら、味方も味方ではなく、全員敵?


 わかっているのは、この指揮を執り、負けない限り生き残るチャンスはある。


 「ご主人様マイロード

 「これでよかったでしょうか」


 老騎士シュラーが斜面を戻ってくる。


 「おかえりなさい」


 老騎士シュラーが俺をまじまじと見る。

 老騎士シュラーが知っている俺と、今の俺は違うのだろうか。


 それでもこの老騎士シュラーは最初に味方に引き込まないと。

 情報が欲しい。


 俺とこの戦場の。


 「貴族的なふるまいだっただろうか」


 「敵はそうは思わないでしょう」


 「盗賊まがいの行いをしたからな」

 「いずれにしても混乱してくれるのは願ったりだな」


 「味方の遺体は?」


 「埋めました」


 「掘り起こして馬車に載せろ。一緒に帰るんだ」


 「はい」


 老騎士シュラーが部下に命令を出す。


 丘の下では青白服とは違う格好の兵が斜面を登り始めていた。


 「あの見慣れない連中は?」


 斜面で共和国兵の回収を始める兵を指さした。


 「共和国の奴隷兵です」

 「同じ陸軍でも、正規兵から背中を槍で突き立てられて、突撃する兵士です」


 「奴隷……」


 「亜人間デミヒューマンです」


 「亜人間デミヒューマン……」


 老騎士シュラーがわざわざこんな事を聞くのか? そういう顔をしている。


 「しかし共和国兵でも数は多いのに、まだ増えるのか」


 「共和国の兵は民を根こそぎ徴募にしますから、無尽蔵に湧いてきます」

 「王国も似たようなところはありますが、少なくとも我々のように職業武人ではないから、烏合の衆とも言えますが、それでも我々は負けました」


 もう俺に一般常識を求める事をやめたのか、丁寧に答える。


 「この戦闘の前も、我々王国軍は奴隷兵と戦い、そして体力的に疲弊したところを共和国正規兵に襲われて後退です」


 「ありがとう」


 「いえ、ご主人様マイロード


 奴隷……。か。


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 次回 把握 そして


 2016年05月10日7:00公開予定


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